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「平和・市民性教育」ユニット活動紹介

記事公開日:2020年12月28日

 

 

0.はじめにEVRIの新生「平和・市民性教育」ユニット

「平和・市民性教育」ユニットは、2020年度にリニューアルされたEVRIの研究ユニットの1つであり、ヒロシマ発の平和教育の開発的研究を推進する平和教育サブユニットと、教室空間の再政治化に挑戦する市民性教育サブユニットから構成される。

このユニットでは、EVRIのミッションとヴィジョンを実現するために、社会変革の拠点としての学校に着目し、対話と知識をとおして学校空間を民主化・政治化していく方法をデザインする研究を推進している。

 

日本の学校の教室で子どもたちはどんなふうに過ごしているだろうか。クラスメイトとの意見の対立やお互いの異なる価値観について、共に理解し合い、協力し合えるような教室空間が作れているだろうか。日本の学校の教室で、子どもたちはどれくらい民主主義について実践し、学んでいるのだろうか。

平和・市民性教育ユニットのリーダーである川口広美先生は、自身の研究の来歴を振り返りながら今日の日本の教師に見られる「対話」と「対立」を避ける傾向に強い関心を示した。「平和・市民性教育」ユニットでは、不干渉や同質性に固められてしまっている日本の学校に、他者と対話しながら教室での学びを自ら「治める」ことのできる教室空間のあり方を探究する。

 

 

1.対話にもとづく民主的で政治的な教室空間のデザインにむけて平和・市民性教育ユニットのコンセプト

 

今回、平和・市民性教育ユニット全体のコンセプトは川口広美先生に語っていただき、サブユニットの平和教育研究の解説は金鍾成先生に、市民性教育研究の紹介は川口先生にしていただいた。

 


1-1.対話が生まれる空間をどのようにしたら生成できるだろうか(クリックすると開きます)

「対話が生まれる空間をどのようにしたら生成できるだろうか」

「教室で論争することはリスクと捉えられているんですよね」。川口は、日本の学校教育には民主的な空間を生み出しにくい要因が数多く潜むことに強い問題関心を抱いてきた。

「「みんな仲よく」っていう規範においては対話が想定されているけど、対話っておしゃべりじゃないんですよね。話せばいいのではなく、自分が考えていることと相手が考えていることをキャッチボールする過程で対話は生まれてくるはずなのに、日本の学校はこのキャッチボールがなかなか成立しがたい。なんでそうなっているんだろう?っていうのが出発点ですね」。

「一緒であること」が大事にされる日本の教室空間では、互いの差異にまなざしを向けるキャッチボールの力が育ちにくい。対話が生まれる空間をどうしたら生み出すことができるのか。この点を平和・市民性教育ユニットは究明しようとしている。


1-2.民主化と政治化をセットでやらねばならない(クリックすると開きます)

「民主化と政治化をセットでやらねばならない」

「このユニットは、民主化と政治化をセットにして対話を考えるのがポイントなんですよね」。川口は、平和・市民性教育ユニットのコンセプトを説明した文面を見ながら何度もこうつぶやいた。川口は、同質性と不干渉が支配する日本の学校・教室空間を批判的に受けとめ、差異と多様性を基調とした対話の民主的関係に学校教育の可能性を見出している。それがそのまま教室空間の政治化の必要性とも重なってくる。というのも、教室の内外でおきる対立や論争に自分事として向き合い、意見が割れるときにこそ、対話の真正さは高まるからだ。「他者との対話を通して「治める」のが民主主義の原点。そこには多様な考え方を持つ「異質な他者」の存在が必須で、「みんな同じ」じゃだめだと思うんです」。


教室空間の中に「異質な他者」との対話が生まれるような民主的な空間を、そして対立や論争に向き合っていける政治的な空間をどのようにしてつくっていけばいいのだろうか。平和・市民性教育ユニットは、この問いに平和教育市民性教育の二つのサブユニットからアプローチしていく。以下、それぞれの研究を牽引する先生にお話を伺った。

 


2.他者の語りに開かれた平和教育を目指して「平和教育」サブユニットの活動

平和教育サブユニットは、「他者の語りに開かれた平和教育」の構築を目指して研究を展開している。科学研究費・若手研究「他国の語りに開かれた教育観を育成する社会科教員養成のデザインベースド・リサーチ」を通して、平和教育を、過去の悲惨な記憶の継承や特定の文化文脈に閉ざされた語りに留めるのではなく、異国・異文化間での対話を通して平和像を再構築していく場にデザインし直すことをめざしてきた金鍾成先生(以下、敬称略)にお話を伺った。


2-1.研究の出発点(クリックすると開きます)

研究の出発点

 

〇「同じ事象が国によって異なって記憶され、語られる」:歴史の授業から見えてきた課題

⾦の平和教育研究の原点は、彼が韓国の学校と東京の韓国⼈学校に勤めていた時期まで遡る。同じ社会的・歴史的事象が国によって異なる形で記憶されることに対し、金は違和感を覚えたという。

「例えば日清・日露戦争の語りを教科書レベルで比較すると、日本の教科書では「勝利の歴史」「列強入りの歴史」として語られるわけです。しかし、日清戦争・日露戦争は―韓国・朝鮮の戦争でないにもかかわらず―韓国の教科書では被害の歴史の一つとして記述されています。聞いてみると当たり前ですが、あえて振り返る機会をもたない限り気づかないことも多いのでないでしょうか。」

金はこのような語りの相違は「⽇本や韓国の間だけではなく世界中どこでも起きていて、一国のなかでも地域、階層などによって異なる記憶を有する」とし、意識的・無意識的に再生産される語りの構造に大きな問題意識を寄せる。

〇日本と韓国の子どもたちが一緒に教科書を作る

このような問題意識を受けて、⾦は韓国と⽇本の⼦どもが教科書を媒体に対話を行う機会を設けた。具体的には、韓国と日本の子どもが相対国の語りを理解・分析・批判し、さらには互いに「私たち」の教科書を作ることができる「より良い教科書プロジェクト」を開発・実践した。この実践は、教科書を語りの対⽴をめぐる紛争の種から、新たな語りを⽣み出す相互理解の場へと作り替える努力であり、なお、子どもを知識の諸費者から生産者に位置づけなおす試みでもあった。

「私が提案したのは、みんなで教科書を作りませんかということでした。日本と韓国の子どもが一緒に日清・日露戦争についての教科書を、韓国の生活と文化についての教科書を、そして竹島・独島についての教科書を、そしてヒロシマについての教科書をいっしょに作ることをしてきました。」

金は、このような日韓の子どもによる教科書づくりを通して、自国とは異なる「語り」や「記憶」を有する他者と出会い、境界(特に国境)を超えた相互理解を追求する経験の提供を目指してきた。この実践で子どもは金の予想を超えて様々な学びを得たと述べ、その成果を社会科教育の雑誌論文にまとめてきた。

「最初は子どもたちは、こんなに違うことすら分かんなかったというくらいだったのですが、だんだんその違いが分かるようになると、「なんでこんなに違うんだろう」「なんでこんなことがわからないんだろう」といった疑問や反感が生まれてきました。この過程で興味深かったのが、次第に自分ごとになっていったということです。最初は「あぁ竹島ね、領土紛争か」と発言していた子どもが、次第に相手の声を聴く中で、「何がこの領土問題を生み出しているのだろうか」「この問題に私たちはどのように発信しあえばよいのだろう、考えればよいのだろう」ということを考えるようになったんです。」

金鍾成(2017)「自己と他者の「真正な対話」に基づく日韓関係史教育―日韓の子どもを主体とした「より良い日清・日露戦争の教科書づくり」を事例に―」日本社会科教育学会編『社会科教育研究』第130巻、1-12頁 金鍾成(2018)「「対話型」国際理解教育への試み―日韓の子どもを主体とした「より良い教科書づくり」実践を事例に―」全国社会科教育学会編『社会科研究』第84巻、49-60頁

自分とは関係のない,教科書の中に記述された語りをただ他人事として受け止めるだけだった子どもが、他国の語りに耳を傾け、考えを交わすことが、「社会問題を自分事として捉えさせる効果を持つという事を発見した」と金は語る。教科書の「提案→逆提案→再提案→…」のプロセスを通して創造された国境を超える公共圏への参加は、教科書で取り上げた韓国と日本と関係する社会的・歴史的事象の主体的な理解にも役立ったという。


2-2.デザインベースド・リサーチによる平和教育研究の展開(クリックすると開きます)

デザインベースド・リサーチによる平和教育研究の展開

 

〇デザインベースド・リサーチとは

対話を通して自分たちの記憶や平和観を再構築していく授業が、日韓の関係だけに縛られたり、金だけにできる名人芸にとどまっては意味がない。この取組が有する教員養成や平和教育に対する可能性を最大限に引き出す方法論として採用したのが、「デザインベースド・リサーチ」だった。この方法論は科学研究費・若手研究「他国の語りに開かれた教育観を育成する社会科教員養成のデザインベースド・リサーチ」(19K14238)の基調ともなっている。「デザインベースド・リサーチ」の特質は、単元開発の「デザイン原則」を研究の成果として提案することにある。

「デザインベースド・リサーチというのは、色々な所に活かすことができます。例えばある授業を開発したら、普通はそれをやってくださいとなるのですが、デザインベースド・リサーチは、その一歩手前の、この授業が基盤としているデザイン原則を発信することをめざします。もちろん開発した授業をそのままパッケージとしてためしてもいいし、その背後にあるデザイン原則を活用して授業者自身で自由に展開してもらってもいい。ただ,より汎用性の高いものの提案を意識しています。」

デザインベースド・リサーチの考え方は、金が米国留学時代に交流したBeth, C. RubinとEric B. Freedmanと編纂した書籍Rubin, B. C., Freedman, E. B., & Kim, J. (Eds.). (2019). Design Research in Social Studies Education: Critical Lessons from an Emerging Field. Routledge.に結実している。

金の提案したデザイン原則には社会科学の諸理論が組み合わされている。しかし、それらを貫く核となるコンセプトは、どこまでも異なる語りを有する他者との対話を通した平和像の再構築にある。このデザイン原則は,その後,さまざまな単元の開発に発展していく。その嚆矢となったプロジェクトが、「The Last 10 Feet再デザイン」プロジェクトである。この取組を通して開発された単元は、Maguth, B. M. & Wu G. (Ed.) (2020) Inquiry-Based Global Learning in the K–12 Social Studies Classroom. Routledge.に掲載され、国際的に高い評価を得ている。

 

〇広島平和記念資料館のLast 10 Feetをデザインする

 

広島県教育委員会・学びの変革推進課が推進した「広島創生イノベーションスクール」(2015年ー2017年)の集大成「グローカルスクール in 広島」(2017年7月)のサマースクール・プログラムを草原和博がEVRIとして受託、金がコーディネーターとして参画した。広島県内の高校13校から集まった約90名の高校生が、海外4ヶ国のパートナースクールの生徒とともに「2030年のより良い未来」の実現にむけて社会的提言に取り組んだ。サマースクールでは,米国、日本、インドネシア、フィリピン、ニュージーランドの高校生がヒロシマをいかに記憶するべきかをめぐって対話し,最終的には広島平和記念資料館の「ラスト10フィート(3メートル)の再デザイン」に取り組んだ。

「展示する側と観覧する側の記憶が交差する場」という博物館の特質を生かし、「各国のヒロシマの語りを出し合う公共圏の創造」を目指した同取り組みは、先述した「より良い教科書づくりプロジェクト」とともに日本教育哲学会第62回大会シンポジウムにおいて報告され、その成果は同学会の研究紀要に掲載された。「米国といっても、ニューヨークの子もいれば、テキサスの子も、そしてハワイの子もいる。地域によって「平和」の意味が全く違うし、「ヒロシマ」の記憶が全く違う。子ども一人ひとりがそれぞれの文脈で記憶している「ヒロシマ」がある」と、金は語る。

金鍾成(2020)「他者の語りに開かれた市民を育てるー「広島平和記念資料館の『The Last 10 Feet』再デザインプロジェクトと「より良い『ヒロシマ』教科書づくり」プロジェクトを事例にー」教育哲学会編『教育哲学研究』第121号

〇「広島におけるヒロシマの教育」から「ヒロシマにおける世界の平和教育」へ

金は「広島平和記念資料館のラスト10フィートの再デザイン」プロジェクトに取り組む中で、従来の広島における平和教育の在り方に疑問を抱くようになった。日本の学校の中で原子爆弾の投下とその被害について教えるカリキュラムは「ヒロシマの教育」であり、これでは金が目指す「他者の語り」が入る余地がなくなってしまう。広島で「ヒロシマ」を教える教育を、広島で世界の「平和」を考える教育へと転換することの重要性を金は指摘する。

「広島におけるヒロシマの教育だけを主張すると、じゃあ海外の人はそこから何を学べばいいのだろうということになってしまいます。広島の平和教育と世界の平和教育をどのように繋げばいいのかということを考えるに至りました。」

現在EVRIが支援している広島県立広島叡智学園中学校・高等学校における「未来創造科Global Justice」の共同カリキュラム開発と授業実践プロジェクトは、上述のデザイン原則を活用して進められた。EVRIは、平成30年4月24日に広島県教育委員会教育長室において、広島県立広島叡智学園中学校・高等学校(以下「HiGA」)と研究協力に関する覚書を締結し、EVRIとHiGAは未来創造科(総合的な学習の時間)の一領域「Global Justice」の共同開発と共同実践に取り組んだ。

その成果の1つが、2019年度に未来創造科で実施された「より良いヒロシマ教科書」づくりプロジェクトである。本成果は、EVRI研究プロジェクト叢書No.1【平和教育研究拠点形成企画】「より良い教科書づくり」プロジェクト-広島県立広島叡智学園の未来創造科との連携-」にまとめられている。

「「広島でヒロシマを教える平和教育」の「広島で世界の平和を考える教育」への転換としてみると、「ラスト10フィート」プロジェクトと広島叡智学園のプロジェクトでは、目指すところは一貫しています」と金は語る。「Global Justice」の取組成果は、2020年10月よりオンラインセミナーで発信している。

EVRI研究プロジェクト叢書No.1「より良い教科書づくり」プロジェクト-広島県立広島叡智学園の未来創造科との連携-」 HiGAの生徒たちに、対話の成果をわたしました。

 

第51回定例オンラインセミナーの様子 第53回定例オンラインセミナーの様子

 

〇デザインベースド・リサーチから教師教育へ

デザインベースド・リサーチは、デザイン原則を理解した人であれば、誰でもそれを活用し実践できることを標榜する。科学研究費・若手研究のテーマにも示されているように、金はいまその考え方を教員養成に生かすことを目指している。「これまでにご紹介してきたような平和教育を、日韓両方の言語ができて、両方の状況を知っている私でないと実践できないということではだめだ、むしろこういったことができる教員を養成することが、もっと大事だと思うようになりました」と金は語る。

デザインベースド・リサーチを取り入れた教員養成の取組は、2021年2月27日に開催される研究拠点創成フォーラムNo. 22でその成果が報告されることとなっている。


2-3.「他者の語り」へと開かれる平和教育へ(クリックすると開きます)

「他者の語り」へと開かれる平和教育へ

 

金のこれまでの取組は、日本と韓国、日本と米国といったような他「国」に焦点を当ててきた。しかし「異なる語り」に着目した平和像の再構築は、さらなる探究の可能性に開かれている。「今は国にフォーカスしていますが、社会的・文化的な他者にも視野を広げなくてはならないと思っています。例えば一つの国の記憶といっても、沖縄における第二次世界大戦と広島における第二次世界大戦、その他の地域の戦争の記憶では違ってくるでしょう。最近取り組もうとしているのは、LGBTQをめぐる「異なる他者」の語りです。ここには本当にたくさんの異なる語りを持った他者が現れます。マジョリティとマイノリティという枠を超えて、どのような異なる語りをする主体相互の葛藤が繰り広がられるのかを明らかにしていきたいです」。

「相互理解は不可能に近い、そもそもできない」と金は語る。私があなたを完全に理解することも、あなたが私の述べたことを完全に理解することもできない。「しかし、それは相互理解を諦める根拠ではなくて、ともに語り続けあう根拠になるはずなのです。だから対話しあうことを基調とした教育が求められるのだと思います」と、金は今後の研究と実践のヴィジョンを示した。他者の語りに開かれた教育の探究は、さらに続く。

 


3.学校の教室空間の「再政治化」への挑戦「市民性教育」サブユニットの活動

市民性教育サブユニットではどのような研究を展開していくのだろうか。市民性教育は、本ユニット全体のコンセプトである「対話にもとづいて学校空間を民主化・政治化する方法をデザインする」の中核にあたる研究を展開していく。教室空間の変革に向けて、とりわけヨーロッパ諸国との比較をしながら日本の教師像の変革にアプローチしている川口広美先生(以下、敬称略)に話を伺った。同ユニットで、オーストリアの政治教育の研究を進めている草原先生にも同席していただいた。



3-1.市民性ユニットの挑戦:教室の中で論争問題を扱う(クリックすると開きます)

市民性教育ユニットの挑戦:教室の中で論争問題を扱う

 

〇市民性教育ユニットのカギとしての教師

子どもが対話する民主的な教室空間をデザインする。平和・市民性教育ユニット全体のコンセプトの実現に欠かせない存在が教師であると川口は強調する。

「(子どもがお互いの差異を認め合う対話的な関係のある教室を)実現するキーパーソンとして、私はずっと教師に着目してきました。このような環境を実現するために教師には何ができるのかを考えています…」

しかしながら、川口にとっての教師への期待は、理想的な教師の取組に由来するものではない。むしろ日本の教師の姿への疑問に由来するものであった。

 

〇「学校の先生ってなかなかしゃべってくれない・・・」日本の教師の変革から教室空間の変革を目指す

川口の研究の出発点は、院生時代の研究に遡る。英国ヨーク大学でシティズンシップ教育のカリキュラムを研究していた川口は、既成のプログラムを分析するだけではシティズンシップ教育の実態に迫れないことに気づき、教師のカリキュラムづくりへと研究対象を切り替えていった。さらにその過程で、シティズンシップ教育の実践が、その教師の生きる国や地域の社会・経済的な文脈に大きく依存していることを目の当たりにし、カリキュラムの研究から教師の研究へと軸足を移す必要性に駆られていったという。

【川口のカリキュラム分析に関わる関連業績】

学校の先生は何を考えながら教室で授業を作り、子どもと関わっているのだろう。博士論文を書き終えて、川口が日本の教師にインタビュー調査を進めていった時のことだった。教室の中での子どもが意見の対立や交流についてどのように議論し、学習をしているかについて聞いてみたところ、ほとんどの教師から返ってくるのは、したくてもできないという,受験や学習指導要領、教科書の制約を訴える声であった。

「先生にインタビューしただけではわからないことも見えてきたんですよ。結局のところ言われるのは「学習指導要領に載ってないから」とか「教科書に書いてない」からっていうことです。いや、実際は学習指導要領にも「社会問題を中心に」とか載っているし、教科書にも書いてあるんですよね。それでもできないんです。何かしらの原因で。でもそれ以上インタビューで突っ込んでも出てこないので、先生ができないと思う意識の裏側に迫りたいって思うようになりました」。

こうした経緯から、川口の中では教師の置かれた状況や構造への関心が高まった。「学校の先生を変えるとか、学習指導要領や教科書を批判するとかではなく、先生が教室の中で論争問題を扱えなくさせてしまっている理由が気になるんです」。この問いが、科学研究費・若手研究「社会科教師は論争問題をどのように捉えているか―「政治的中立性」との関係から―」に結実するに至った。

研究成果はすでに教育目標・評価学会紀要をはじめとする論文に着実に蓄積されている。現在も量的調査と質的調査を組み合わせながら、教師が教室で論争問題を扱う上での困難や克服の方途について研究を進めている。さらに、この問題意識は教員養成課程や教師教育者のあり方にも拡張され、教職観の形成の背景を問う研究にもつながっている。

【教室の中の論争問題やシティズンシップ、教師研究に関わる関連業績】


3-2.世界の教室との比較の中でーイギリスの学校、オースリアの学校ー(クリックすると開きます)

世界の教室との比較の中で―イギリスの学校、オーストリアの学校―

 

こうした日本の教室に対する問題意識の芽生えは、川口自身が見てきたヨーロッパ諸国での教室の「当たり前」があった。

「わたしは比較研究が好きでこれまで結構やってきたのですが、そうすると日本の中に埋め込まれている当たり前みたいなのが、ひっくり返される瞬間というのがいっぱいあるんです。そういう意味では社会文化的な文脈はすごく大事だなって思います。とくに、ずっと話してきているこの教室の論争問題に関わるときに、違いがとても見えてくるんですよね。」

 

〇”SAME EDUCATION for ALL” or “CELEBRATE DIVERSITY”

「一般化しすぎるのはよくないけれど」と述べつつ、特に日本とヨーロッパの教室文化の違いについて、自己の経験と研究の成果とともに川口は語る。

「日本の先生の授業を見ていると、いろんな意見が出てきたけど、みんなおんなじだよねというところに落ち着けがちだったり、みんな一生懸命考えてよかったねとか共通のプロセスを褒めて終わることが多いんです。しかし海外の場合って、見た目からして一人ひとりぜんぜん違うので、そもそも違って当たり前というか、個々のニーズに合わせることが求められています。」

川口は恒吉僚子(東京大学)先生の書籍を参照しながら、日本の教師のもつ哲学を「same education for all」と説明した。「この哲学が強いとは元々思っていたのですが、結局これが色々なところに現れてきます。これが論争問題ができないことの一因になっているのかなって思います」。

他方で川口が院生時代に留学したイギリスの教室空間では、対立や意見の相違が重視されていた。特に印象に残ったものとして、ある学校「celebrate diversity」というコンセプトを紹介する。

「私がイギリスにいたのは2008年頃です。当時イギリスには旧植民地の人ではない、新しい世代の移民が増えていました。また特別支援教育の方針転換があったりして、diversityは時にネガティブに捉えられることもありました。しかし、私が出会った学校の先生は「celebrating diversityにしたいんだ、子どもたちはみんな言葉も違うし、バックグランドも違うし、宗教も違うのだから、子どもに共通の決まったナショナルアイデンティティーイギリス人らしさ―を教えるよりも、もっと大事なものがあるのではないか」と語っていたんです。こういった先生たちは、アイデンティティはいろいろあっても、同じ地域で生活していることは紛れもない事実だとして、子どもの多様性とローカルシティズンシップの育成を大切にされていました。」

「日本の学校で地域活動といえば・・・、清掃活動とか(笑)。地域の年長者がしたいことを子どもにさせる」というネガティブなイメージをもっていたという。しかしイギリスの学校では、子どもがやりたいことをそのまま子どもにやらせる、全く趣きの違うプロジェクト学習が見られたという。「発表の形式がラップだったりしたんです。私は正直驚いたんですけど、先生たちがそれをすごい褒めるんですよ。よい自己表現ができたねって。そこに文化差を感じて・・・。子どもが違うことが当たり前で、子どもが言いやすい表現で表現する文化、子どもがしたい表現方法を彼らなりの表現方法だと認めていく様子を目の当たりにしました」。「celebrate diversity」の意味が腑に落ちた瞬間だった。

多様性を尊重する教室空間のあり方は、ノルウェーオーストリアでも感じることができた。しかしそこで川口は、単に論争し合うだけが民主的・政治的な教室空間でないことに気がつく。

「オーストリアの教室に行ったとき、最初は戸惑いがあったんですよ。これまでに見てきたイギリスとかアメリカの教室には,たくさんの議論があり,わかりやすい意見の衝突場面がありました。でも、オーストリアにはなかったんですよ。もちろんよく見ると、衝突場面はあるんです。しかし直接他者とやりあうんじゃなくて、意見を紙に書きながら、なぜそのように考えるのかを考えたり、意見の交流を通して自己の考えを省察する時間が多い。他者との対話というよりも、自己との対話が大事にされているんですね。」

後述する科研・(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」の代表を務める草原は,当時を思い起こしながらこう言う。「これ(静かな自己との対話)に気づくまでに結構時間かかりました。最初は「あれ、政治教育あんまりやっていないのかな。フィールド間違えたかな。失敗した!と思った(笑)」,しかし「現実社会のリアルな現象を静かに語り合う意味を突き詰めて考えていくと、その意味が見えてきた」と草原。

イギリスのように差異と多様性に目を向けた教室空間である点では似ているが、それを論争で可視化させるのではなく、差異や多様性を自分の中でじっくり吟味して持ち帰るような学びの過程がオーストリアにはあった。「対話についての考え方が浅かったんだなと自覚させられました。対話の目的って、他者を説得するためだけではなくて、自己や私達の価値観をメタ認知するためにもある。そういう時間というのは、派手ではなく静かなんですよね」。こうして教室空間の中の対話のあり方についての探究は、オーストリアの研究で新たな展開を迎えることとなった。


3-3.オーストリアの政治教育の挑戦に学ぶ(クリックすると開きます)

オーストリアの政治教育の挑戦に学ぶ

 

〇オーストリアとの出会い―ウィーン大学歴史文化学部との協定

川口および草原にとってのオーストリアとの出会いは、2016年にさかのぼる。教科教育学や教師教育の比較に焦点を当てた濃密な研究交流を経て、2017年9月25日、草原はオーストリア・ウィーン大学歴史文化学部部のChristoph Augustynowicz副学部長と交流協定書を交わした。2018年9月に交流協定締結1周年を記念して、ウィーン大学よりAlois Ecker先生とBettina Paireder先生を招聘し、9月28日(金)に研究拠点創成フォーラム(8)「私たちはどのような視点で授業をみるかー日本の教科教育学とオーストリアの各科教授学ーを開催。教科教育学研究の国際的なネットワーク化を図った。

「オーストリアとの関わりは、とってもWin-Winでね。
お互いにたくさん得るもの大きいですよ。」

 

〇オーストリアとの交流の展開―主権者教育をオーストリアから学ぶ

研究交流は、グラーツ大学のGeorg Marschnig先生をパートナーに向かい入れ、オーストリア国内の2地域4校の協力を得るまでに広がる。各校の授業やそこの社会的・文化的状況を観察するとともに、先生方へのインタビューやカリキュラム・教材等の基礎資料を収集する過程で、共同研究の体制を整えるに至った。これが、草原和博を研究代表とする国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」に結実した。その成果は以下の通り蓄積されてきている。

代表の草原によれば、オーストリアの教師の政治教育観について、①政治的中立性は「教師・子どもの実践に対する縛りや自粛」ではなく、ボイテルスバッハ・コンセンサスに基づいて「教師・子どもの発言や行動の自由の保障」として理解されていること、②学校生活の中で、生徒は「大人=市民」、学校は「政治的空間」として扱うことが意図されていること。とくに、社会と教室の間には、社会のリアルな言説を教室に持ち込んだり子どもが社会に働きかけたりする連続性と、社会の過度な権力作用や制度的格差に子どもを曝さない不連続性,それぞれが保証されていること、③授業は「概念」ベースでつくられており、概念をレンズにして社会を批判的に分析したり,それを鏡にして自己の考え方をメタ認知させたりしていること、④歴史教育は現代社会の諸課題と接続しており、記憶のあり方をめぐる政治化された歴史的課題を扱うことがカリキュラム化されていること,などが確認されている。本科研は、最終的には「政治問題の扱いを忌避する傾向にある日本の社会科教育(主権者教育)の改善・改革に示唆を与える」ことを目的に、具体的な提言を行うことまで視野に入れられている。

(詳細は研究拠点創成フォーラム(8)開催報告をご覧ください

「注目!あたらしい研究成果が載っていますよ~」

【関連業績】

の政治教育の教師は政治的中立性をどのように理解し実践しているか?―日本の社会科教育の再政治化を目指して― 」、『社会科研究』 92 1 – 12 2020年。


3-4.オンラインセミナーへの展開(クリックすると開きます)

オンラインセミナーへの展開

 

「オーストリアの科研やご自身の論争問題の取扱に関する研究の成果は誰に届けたいですか」という質問に、川口は間髪入れず「教師です」と答えた。日本の教室空間の再政治化に向けて、2020年よりオンラインセミナーシリーズ「主権者教育の改革を考える」を開始し、現職教員や未来の教師に向けて研究成果を発信している。政治的な発言や議論を忌避しがちな日本の先生方や学生の関心は高い。

「私意外と好評だなって印象ですね」と川口。「始めはどうしてオーストリアなのって疑問に思われた方が、セミナー後に政治教育の専門書を読んでみたくなったとか、ポジティブな声をたくさんもらえたんですね。教室の中で対話や論争がなぜうまくできないのかを、このセミナーを通して言葉として表現したくなると嬉しいですね」と意気込む。川口は、このセミナーを通して、タテマエだけの主権者教育に疑問を抱き、それを変えていってほしいと期待するが、それ以上に自らの教育観を振り返ったり、教室空間の民主化と政治化の担い手になってほしいと願っている。

第42回セミナー
2020年6月27日(土)
第47回セミナー
2020年9月19日(土)
第55回セミナー
2020年11月22日(日)

3-5.終わりに:市民性教育を作り変えていくために(クリックすると開きます)

終わりに:市民性教育を作り変えていくために

「論争問題を扱うこと、市民性教育を進めることは、今後も変わらない研究課題です。ただ、変革のためのパワーを子どもにどのようにつけるかは新たな課題ですよね。実は子どもは既に社会でそういう行動をしているんですよね。Twitterでハッシュタグ付けたり、「いいね」をつけたり。でも公民の教科書には政治参加が旧来のカタチのままで、スマホ触っちゃダメみたくなっている。社会で子どもがどのように生きているかとか、社会に対して子どもがどのように働きかけていくかというあたりは、もう少し議論したいと思うところです」。

社会科教育の研究者として、川口は、子どもが自分たちの教室空間を「治める」ことのできる「能力」を育てるだけではなく、治めるとはどういうことかの「認識」も育てたいという。市民性教育は、子どもの日常の市民生活の中にその端緒がある。本サブユニットは、子どもが学校内外の社会認識と社会変革の力をつけるべく、教室空間を「再政治化」する方策の解明に向けて挑戦を続けている。

 


4.「平和・市民性教育ユニット」に関連するセミナー

第38回定例セミナー「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(1)―学びを止めないために,学校・大学・社会ができること―」(クリックすると開きます)

第38回定例セミナー
「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(1)―学びを止めないために,学校・大学・社会ができること―」

2020年4月25日(土)定例オンラインセミナー講演会No.38を約180名の参加をもって実施することができました。参加者の数から関心の高さがうかがえました。
当日は,以下の通り展開しました。
はじめにセンタ―長の草原和博が,本セミナーの趣旨説明を行いました。続いて本センターが実施した緊急アンケートの結果を森田愛子が報告しました。調査結果から,回答者が置かれたICT環境と問題状況の多様性が確認できました。その後は,①外部ゲストに事例報告をいただく前半部と②EVRIスタッフによる問題提起を行う後半部,それぞれ約60分を割いて展開していきました。
前半は,まず河原洸亮先生(中国・国際関係学院)と栗本和明先生(北京日本人学校)より「コロナ禍における中国の教育事情と教育機関の対応例」と題してご報告いただきました。両先生のお話は,日本がこれから数か月の間に直面するであろう課題を暗示するとともに,困難を乗り越えていく手がかりと勇気を与えてくださいました。次に徳田敬先生(広島県立広島叡智学園中学校・高等学校)より「学校休業時における新たな可能性の追究ーZoomの活用」をご報告いただきました。各教科におけるオンライン授業の取組例と、生徒のICTスキルの対応した丁寧な導入と実践の必要性をお示しいただきました。

後半は,本センターの大坂遊川口広美三好美織吉田成章より、学校休業の状況を捉える3つのフェーズ論と各フェーズに対応した遠隔授業の事例,そして大学からの支援の可能性が提案されました。最後に一連の報告と並行して行われたチャットでの議論とその論点整理を,丸山恭司が行いました。

詳細はこちらからご覧ください。


第39回定例セミナー「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(2)EVRI知恵袋-オンラインお悩み相談室-」(クリックすると開きます)
第39回定例セミナー
「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(2)EVRI知恵袋-オンラインお悩み相談室-」

2020年5月2日(土)、定例オンラインセミナー講演会No.39を約130名の参加をもって実施することができました。

草原和博吉田成章が司会を務め、「EVRI知恵袋-お悩み相談室-」を開催しました。はじめに、直近の教育界の動きをレビューするとともに、この先予期される課題や論点を提起しました。引き続き休校が長引くことが予想される中、休校後をも見通してなすべきことの論点整理を行いました。続いて前回のセミナー後に寄せられたアンケートの結果を森田愛子が報告しました。多くの現場がフェーズ0.xにあることや子どもとのつながりの持ち方に悩んでいる実態が明らかとなりました。

続けて参加者との議論に移りました。子どもの学びをどう保障するのかについて、小中高校だけではなく,特別支援学校や定時制高校,教育委員会から、また教職員として,管理職として、保護者として、子どもの支援団体として、と様々な立場と視点からの声が寄せられました。校内研修をどのように作っていくのか、各フェーズで授業をいかにつくるか、オンラインでの「授業開き」や「ルール作り」をどのようにするか、外国にルーツのある子や特別なニーズな必要のある子に今なすべきこと・できること、そして著作権の取扱い等について、意見交換が行われました。最後に丸山恭司が議論を踏まえて、今後を考えていくべき論点をまとめました。

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第40回定例セミナー「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(3)EVRIオンライン授業研究会-今週何をした?再開後を見据えて何をします?-」(クリックすると開きます)

第40回定例セミナー
「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(3)EVRIオンライン授業研究会-今週何をした?再開後を見据えて何をします?-」

2020年5月16日(土)、定例オンラインセミナー講演会No.40を87名の参加をもって実施することができました。

学校休業下の学び支援・授業づくり第三回目となる今回のセミナーは「オンライン授業研究会」として開催しました。はじめに丸山恭司が直近の教育界の動きをレビューするとともに、「新たな日常」のはじまりを提起しました。続けて、OECDが発表した最新レポートを取り上げ、コロナ問題がもたらした学校教育への影響について報告がありました。レポートを踏まえ、「vulnerable=社会的に脆弱な、身体的精神的に被害を受けやすい」子どもへの支援を軸にして、①子ども・教師・家庭にいかにアプローチしていくか、②超短期・短期・中長期的にはどのような課題に取り組むべきか,を捉える枠組みが示されました(資料の「マトリクス」をご覧ください)。

続けて参加者との議論に移りました。「今週何をした?再開後を見据えて何をします?」をテーマに、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・教育行政の部会に分かれて、今週の取組と課題を共有し合いました。幼稚園・小学校部会では、タブレットでドリルを導入しつつ、学校にも家庭にもオンライン環境が整備されていない状況で何をしていくべきかが話題となりました。中学校では,分散登校が始まり,どのように授業を展開するかが話題となりました。高等学校部会では、オンライン・オンデマンド化が進む中で、オンライン授業の負荷を減らしていく工夫が共有されました。取組の過程で教員間の絆が深まったことや、生徒が積極的にコメントしてくれる発見もあったことが報告されました。教育行政・教員研修部会では、オンライン授業の進め方や学校の問題状況の多様性を見据えた教員研修のあり方が問題提起されました。

最後に草原和博吉田成章が議論を踏まえて総括を行いました。吉田は、子どもたちの横のつながりを作ること、子どもの自治の力を育てていくこと、そのために教師・学校・家庭が連携していくことの重要性を指摘しました。草原は、とりわけコロナ対応の中で,目標をベースにカリキュラムを再構築していく必要性が提起されました。

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第41回定例セミナー「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(4)EVRIオンライン授業研究会-教科指導を考える-」(クリックすると開きます)

第41回定例セミナー
「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(4)EVRIオンライン授業研究会-教科指導を考える-」

2020年5月30日(土)、定例オンラインセミナー講演会No.41を約80名の参加をもって実施しました。

学校休業下の学び支援・授業づくりシリーズ第四弾となる今回のセミナーは「オンライン授業研究会―教科指導を考える―」と題して開催しました。はじめに学校再開に向けての準備状況の点検として、3校の事例が報告されました。兵庫県立西宮香風高等学校の石川照子校長からは、EVRIで提案した対応マトリクスを元に実施された、子どもの状況把握やオンライン授業の準備についての取組が報告されました。子どもの心身の健康と安全を保障するための超短期・短期・中長期的視点にたった見通しが紹介され、カリキュラム再編やオンライン授業に向けた教員間のサポートの大切さが指摘されました。広島大学附属小学校の山中勇夫教諭からは、オンラインでの授業づくりと作成にあたってのコツや留意点について、また子どもの学習のペースメーカー的な役割を組み込むことや、教師の顔を見せることの大切さについて提案されました。オンデマンド授業の蓄積と発信が、同僚の取組を知ることにもなる点で教員研修の役割も担うことも指摘されました。広島県立日彰館高等学校の今中浩二教諭からは、学校教員がつながる校内体制づくりが報告されました。教職員だけでなく、学年を越えた生徒同士の応答関係を用意したり、保護者や地域と連携することなど、様々なつながりの大切さが再確認されました。

続けて参加者との議論に移りました。子どもの状況把握やオンライン整備に奔走してきたこれまでから、今後は学びの質と深まりについても考えていくべく、教科指導のあり方について、①国語②社会③算数・数学④理科,技術・家庭⑤音楽⑥保健・体育⑦外国語(英語)⑧特別支援⑨生活指導,高等教育,学校経営,総合の9部会に分かれて議論を行いました。それぞれの部会では、参加者のこれまでのオンライン授業の試行錯誤や取り組みが共有されました。

最後に草原和博吉田成章が議論を踏まえて総括を行いました。コロナ禍のオンライン授業の取り組みを休業下のものだけのものに留めない事、この数か月での試行錯誤と取り組みを広く共有し発信していくことが提案され、次回のセミナーへの展望を開いて終了しました。

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第42回定例セミナー「主権者教育の改革を考える(1)-政治的中立性を守るとは-」(クリックすると開きます)

第42回定例セミナー
「主権者教育の改革を考える(1)-政治的中立性を守るとは-」

2020年6月27日(土)に, 第42回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(1)―政治的中立性を守るとは―」を開催しました。

「主権者教育を考える」シリーズは,現職教員および学部生・大学院生を主な対象とした講演会(セミナー)であり,研究成果の社会還元を目的としています。本研究チームは,広島大学の草原和博先生をリーダとし,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生をメンバーとし,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者とも共同調査を進めています。日本学術振興会の科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)))で実施しています。近年の文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育が行われていると報告されているものの,その中身は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まっており,子どもが現実社会の問題にふれる機会を提供することは稀であることが分かります。このような状況では,真の主権者や市民を育成しているとはいえないと上記の研究チームは指摘しています。

そこで,16歳から選挙権を付与し,学校のなかで現実社会の問題を積極的に扱おうとする文化が広がりつつあるオーストリアの挑戦に注目し,主権者教育の「実質化」,社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察しています。その大きなプロジェクトのなかで,金鍾成先生と渡邉巧先生からは,「政治的中立性」に注目した事例研究を紹介していただきました。具体的には,オーストリアの中等学校で「歴史・社会・政治科教育(歴史と公民の統合科目)」を担当する三人の教師の協力を得て,政治的中立性に関するインタビューや彼らの授業実践の現地調査をおこなっています。結果として,日本の社会科教育を改革していくために,以下の四つを提言しました。一つは,社会と教室の距離を縮めていくことが求められ,授業で現実社会の問題を論争的に取り上げる必要があること。二つは,政治的中立性に対する柔軟な理解が必要であること。三つは,教師が自律的に授業の目標を考えたり,取り扱う論争のテーマを判断したりする力(ゲートキーピング力)が必要であること。四つは,教師が自らの判断(ゲートキーピング)の理由を説明する能力を高める必要があること,でした。日本とは異なる文脈のオーストリアの事例を通して,日本の社会科教師や学生に対して.論争問題学習と政治的中立性に対する新たな理解を提供していただきました。

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セミナーの様子


第43回定例セミナー「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(5)ー学校の新しい日常をいかに受けとめ・つくっていくかー」(クリックすると開きます)

第43回定例セミナー
「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える(5)ー学校の新しい日常をいかに受けとめ・つくっていくかー」

2020年6月13日(土)、定例オンラインセミナー講演会No.4362名の参加をもって実施しました。

「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える」シリーズ第5回を数える今回は「学校の新しい日常いかに受け止め・つくっていくか」と題し、学校が再開した今、これまでの休業下の取組を「第1フェーズ」として総括し、それを踏まえた今後の学校づくり・授業づくりを展望する趣旨設定が司会の草原和博吉田成章より述べられました。

続けて、前回の第41回セミナーを経て教員の方から寄せられた学校休業下の授業実践と取組の報告14件を検討・議論するパネル討議が行われました。最初に大坂遊川口広美三好美織が、オンライン設備の準備状況に基づくEVRIフェーズの観点(38回セミナーで提案されました)から、子どもとの人間関係構築や教育課程の抜本的な再編が大きな課題となってきた一方で、コロナ下での作成動画の共有等を通した教員同士の連携の重要性が提起されてきたことを指摘しました。とりわけコロナ下の取組が提起したものとして授業観の問い直しに着目し、ICTで従来の学習を充実させる段階から、ICTで新しい授業と学習自体を変換していくモデルを提唱しました。続けて、吉田成章・三時眞貴子らは、本年3月にOECDから提案されたフレームワークに基づくEVRI版マトリクス(40回セミナーで提案されました)の観点から、「封鎖、隔離、遮断が行われる状況の中で、制約を打破しつつ、越境や対話、開く、包摂、連携を促す取り組みに組み替えていくこと」の重要性を指摘しました。パネル討議の最後に、「社会科教科書執筆者からの挑戦状」に寄せられた授業実践の回答に対する更なる挑戦が草原から紹介されました。教科書の使用者である子どもと教科書を執筆した専門家の間での課題提起と答えの吟味の応答の繰り返しを通じて、単なる正解の追求に閉じない、問いへの回答からさらなる問いが広がり、教科の学びの継続的な深まりを可能とする新しい学習のあり方が提案されました。

パネル討議を経て、EVRIからの提案と挑戦に対して、参加者との質疑応答がなされました。「社会科教科書執筆者からの挑戦状」への回答者の先生からは、教科書執筆の専門家からのフィードバックにより、子どもの学びに対する応答性の広がりとともに、教師の授業づくりのメタ認知も促されたことの意義が言及されました。実践報告を提出された教員の方は、EVRIからの応答を受けて授業観が問い直され、今後のカリキュラムをどのように再編していくかを考える機会となったと述べました。また、学校再開後の学校と子どもの様子が「何か違う」という違和感と向き合っている現状が共有され「新しい日常」がすでに学校の中に始まっており、EVRIにおける新たな授業づくりの探究と更なる議論の重要性が提起されました。

 

最後にセミナーの統括がなされました。草原は、「これまでと何かが違う」というコロナ後の違和感が、新たな学校と授業を作っていくことにつながっていくことが指摘され、今後も学校の新たな日常を作り、問い直していくことを提案しました。吉田は、セミナーを通じて子どもの学び支援と授業づくりに向けて取り組んできた多くの教育実践者の努力と挑戦を評価し、EVRIを通して見えてきた子どもと子どもの学びに応答しゆく教師像を強調し、成果をまとめることの意義を指摘しました。丸山は、質疑応答での声を引き受けながら、学校再開後に学校に来れない子どもができていないか、コロナでの対応や取組を「なかったこと」にしてしまわないようにすることの大切さを指摘しました。セミナーの発起人である川口は、コロナ下における学校が直面している問題に向き合うための場として同セミナーが続けられてきた経緯を振り返り、大学教員として教師教育に携わる自身もまた新しい教師教育実践を開き問い直していくことの大切さを自己認識したことに触れ、第1フェーズでのセミナー全体を通しての学びと蓄積が多面的に意義を有していることが指摘されました。

「第1フェーズ」を締めるにふさわしい、休業下の取組を総括するパネル討議と質疑応答が展開され、シリーズ5回を通して提案と協議に参加してきた参加者・提案者に相互の健闘への拍手を送り合って、セミナーは閉会しました。

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第44回定例セミナー第二フェーズ「ポスト・コロナの学校教育(1)-EVRI緊急出版物を読む-」(クリックすると開きます)

第44回定例セミナー
第二フェーズ「ポスト・コロナの学校教育(1)-EVRI緊急出版物を読む-」

2020年7月23日(土),定例オンラインセミナー講演会No.44を87名の参加をもって実施しました。

2020年4月から6月までの第一フェーズ「学校休業下の学び支援・授業づくりを考える」を締めくくり,第二フェーズ「ポスト・コロナの学校教育」のシリーズセミナー第一回目となりました。はじめに,司会の草原和博吉田成章より,第二フェーズ開催の趣旨が述べられました。

続けて,木村優先生(福井大学教職大学院),栗本和明先生(中華人民共和国北京日本人学校),寺田拓真先生(広島県総務局付)より、EVRIが刊行した『ポストコロナの学校教育:教育者の応答と未来デザイン』(溪水社)のレビューをしていただきました。

木村先生はストーリー・コミュニケーション・ニューノーマルの三つのキーワードとともに同書の意義を論じました。教師,子ども,地域のコミュニケーションを触発させるOECDマトリクスの開発を評価し,学びと教えのニューノーマルを協働的に探究していくことの重要性を指摘しました。栗本先生は,同書でも紹介された北京日本人学校での取組のポイントを4点にまとめて指摘し,「全員が集う」という規範から離れた新しい授業の形を意義づけました。寺田先生は,はじめに同書を,いいことばかりが書かれたハッピーエンドに尽きる本ではなく,コロナ対策下の様々な登場人物のリアルな葛藤が描かれている点を、いい意味で「泥臭い」と評価し,「しなやかで,したたかで,泥臭い学校」へリデザインしていくことが同書から読み取れることであると述べました。

続けて質疑応答に移りました。提案された学校のリデザインにおいて,履修制度をどう組み替えられるかという質問に対して,履修主義から習得主義への移行の重要性や,授業の参加度による評価ではなく,学習者の学びと育ちを見取る評価のあり方を考えていくことの重要性が指摘されました。そこでは具体的な子どもの姿を描いて教師達が共有することの大切さが確認されました。

最後に吉田成章・棚橋健司・草原和博より総括がなされました。今後の同シリーズのセミナーでは,教育学の言語を取り換えていくことが肝要であることを確認しあい,ポストコロナの中で参加者がそれぞれの立場で今後できることを中長期的に考えていくことの重要性が指摘されました。第二フェーズの開幕にふさわしい,多くの触発と新しいコンセプトの提案がなされた90分間となりました。

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第45回定例セミナー「東広島市地域学習用デジタルコンテンツーのん太の学び場ー活用講座」(クリックすると開きます)

第45回定例セミナー
「東広島市地域学習用デジタルコンテンツーのん太の学び場ー活用講座」

2020年8月15日(土)第45回定例セミナー「東広島市地域学習用デジタルコンテンツーのん太の学び場ー活用講座」を東広島市立図書館で実施しました。市内の小学生9名がタブレット端末を使って「のん太の学び場」での学習に挑戦し,本学学生・大学院生5名が学習支援をつとめました。

13時から16時までの3時間を三分割して進行しました。進行は大坂教育研究推進員が務めました。

1時間目は「のん太の学び場」で何が・どのように学べるかを実体験的に学習しました。20のキーワードと問いを確認するとともに,HPにはどのような問いや資料が提示されているかを解説していきました。当日は,①警察署や消防署,図書館前と②のんバスの乗り場をZoomで結んで中継し,①そこには東広島の市旗が掲揚されているか,②のんバスと他の民間バスとはどこが違うかについて,参加者とともに確認していきました。草原センター長は,①施設に市旗が揚がっている・いない理由を考えたり,②コミュニティバスとしての「のんバス」の特色を追究したいときは,「のん太の学び場」を積極的に使ってほしいと呼びかけました。

2時間目は「のん太の学び場」を使って調べ活動を展開しました。当日は20のキーワードのうち「酒づくり」「公園」「市旗」「牛」「消防署」「広島大学」「のんバス」に関心を寄せる児童が集まり,各自が立てた問いを追究していきました。図書館にご用意いただいた参考図書は,調べ学習に大いに役立てることができました。参加した児童は,A3の紙にインターネットや参考図書を読んで分かったことを書き出したり,資料を引用して貼り付けたりしていました。この指導には大学院生と図書館の担当者が共同してあたりました。

3時間目は「のん太の学び場」の調べ活動の成果発表を行いました。最初に児童がペアで成果を報告し合い,次に大学院生がその価値を全体に向けてレポートしました。最後に草原センター長が短評を述べ,受講証を手渡しました。また図書館長が講評しました。当日は「KAMONケーブルテレビ」が取材に入り,児童の学びの様子はもちろん,支援にあたった学生にもインタビューをしていました。

参加した児童の皆さんには,「のん太の学び場」の作品展への応募を呼びかけました。送られてきた作品は本HPで紹介してまいります。

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第46回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(2)コロナ下の学校におけるコミュニケーション問題─あいさつから始業式まで─」(クリックすると開きます)

第46回定例セミナー
「ポスト・コロナの学校教育(2)コロナ下の学校におけるコミュニケーション問題─あいさつから始業式まで─」

2020年8月22日(土)に定例オンラインセミナー講演会No.46を開催しました。学校教員,大学院生,保護者など,60名のみなさまにご参加いただきました。

シリーズ「ポスト・コロナの学校教育」の第2回目となった今回のセミナーは,コロナ下の学校における「コミュニケーション」について,参加者のみなさまからのアンケート結果や実際の声をもとに、二部構成で開催されました。第一部は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために,「密集・密接・密閉」の回避が求められる現在の学校生活や教室場面において,「コミュニケーション」が変化してきているのではないかという、コーディネーターの間瀬茂夫氏からの問題提起および趣旨説明からはじまりました。

次いで,もう一人のコーディネーターである永田良太氏から,参加者への事前アンケートのまとめ報告が行われました。教師と子どものコミュニケーションより、子ども同士のコミュニケーションがより気になること,授業中ばかりでなく授業外のコミュニケーションも課題として認識されているというものでした。アンケート結果をふまえ、広島大学の尾形明子氏より,ソーシャルスキルの学習と発達に関するミニ講話およびコメントがなされ、その後,参加者からの質疑や提案が行われました。

第二部は,グループに分かれてのディスカッションが行われました。尾形氏から「コロナ下における制約された状況で,新たなコミュニケーションの力を学校で育むにはどうすればよいか」という問いが投げかけられ,それぞれのグループで活発な議論が行われました。

今回のセミナーでは,「コミュニケーション」という普段,私たちが無意識的に行っていることが,コロナ下において変化していることが改めて確認されました。同時に,そこでの問題や課題を克服するための工夫や取り組みには,児童や生徒も参加しうること、それらが新たなコミュニケーションのスタイルへとつながる可能性があること,さらには,学校における「コミュニケーション」の意味についても考える時間となりました。

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第47回定例セミナー「主権者教育の改革を考える(2)」(クリックすると開きます)

第47回定例セミナー
「主権者教育の改革を考える(2)」

2020年9月19日(土)に, 第47回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(2)―教科論と内容構成・学習指導―」を開催しました。

「主権者教育を考える」シリーズは,現職教員および大学院生を主な対象とした講演会(セミナー)であり,研究成果の発信を目的としています。本研究チームは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)))を基盤に,広島大学の草原和博先生をリーダに,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生をメンバーに,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めています。文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育が行われていると報告されているものの,その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まっており,子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。そこで,16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察しています。

今回は本シリーズの第2回目として,川口広美先生と草原和博先生が,オーストリアの「歴史・社会・政治科教育」のカリキュラムと学習指導上の特徴について報告しました。前半では,本教科では「なぜ歴史教育と政治教育が統合されているか」の問いが検討されました。授業では,現在に埋め込まれた歴史的な課題を取り上げていること,いわゆる「記憶」が教育内容として機能していることが,実践事例に基づいて報告されました。後半では,そういう教科内容が「なぜ概念ベースで指導されなくてはいけないのか」の問いが検討されました。実践事例に基づいて,概念は,権力からの個人の自立を支援するとともに,学習者や共同体がもっている規範をメタ認知させる機能があること,そうすることで教室空間に過度な分断を生み出さず,差異や多様性に対する寛容が養われうることが報告されました。

指定討論者の池野範男先生との対話を通して,いわゆる狭義の主権者教育を歴史・政治教育として捉えなおしていくことの意義が指摘されました。また参加者との質疑を通して,欧州でこのような教育論が成立した背景について理解が深まりました。本シリーズでは,引き続き日本の主権者教育の改革を考える指針を考えてまいります。

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第48回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(3)COVID-19をどのように教材化するか?」(クリックすると開きます)

第48回定例セミナー
「ポスト・コロナの学校教育(3)COVID-19をどのように教材化するか?」

 

2020年9月26日(土)に定例オンラインセミナー講演会No.48を開催しました。学校教員,大学院生,学生・院生など,52名の皆様にご参加いただきました。

シリーズ「ポスト・コロナの学校教育」の第3回目となった今回のセミナーは,COVID-19をどのように学校に持ち込み,教材として扱うかというトピックについて扱いました。セミナーは,コーディネーターの川口広美による事前アンケートの結果の紹介から始まりました。そこで,多くの教師にとってCOVID-19は「扱いたいけれど扱いにくい」という​状況であることが明らかになりました。

​この課題に対して,2人の中等学校の教員からの実践報告が行われました。1人目は佐藤甲斐氏による「保健体育科授業における感染症の取扱とCOVID-19」​という実践発表です。佐藤氏の実践は,全寮制という特質をもつ学校で,子どもがどのように主体的に感染症対策できるようにするか,という切実な課題に応えるものでした。実践では,子どもたちが「感染症啓発予防の動画」を作るというパフォーマンス課題に応えることを通して,「正しい」COVID-19の対策を考える際に必要な知識やスキルなどを獲得することを目的にしていました。

次いで,2人目は行壽浩司氏による「中学校社会科歴史的分野における「感染症」授業実践」という実践発表です。行壽氏の実践は,中世の終わり~近世を対象とし、天然痘や梅毒など「感染症」によって人々の生活システムが変化し、社会全体がパラダイムシフトしたことを検討していました。様々な学校行事が中止になり,社会が大きく変わっている状況を経験している子どもに対して,歴史という視点からの意義を示すことで,客観的に最近の状況を検討できる実践となっていました。

​両名からの実践報告を受けて,金鍾成氏と大坂遊氏から「どのような視点で教材化が行われたか」「教材化ではどのような判断が求められるか」に関しての論点整理が行われました。金氏からは,佐藤氏の実践が「コロナの中でどのように生活するか」という「コロナを考える授業」であったのに対し,行壽氏の実践は「社会の推移と繋がりを考える題材としてのコロナ」であった「コロナで考える授業」との整理が示されました。大坂氏からは,他の様々な実践事例の検討から「当事者or非当事者」「直接or間接」「自分ごとor社会ごと」「変容or代替」といった論点があり,実践を行う上では以上の論点をどう捉えるかが中心であることが明らかになりました。

参加者からの質疑の中では,全寮制という特性を持つ学校に対する周囲からの視線といった環境の問題,実践を受けての子どもたちの反応がどのようなものであったか,などの活発な疑問が示されました。セミナーでは,「扱いたいけど扱いにくい」COVID-19の教材としての特性に対し,学校がどのように向かい合うかが具体的に示されました。関心のある教師が繋がり,実践に向けてエンパワーされるセミナーとなっていたのではないでしょうか。

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第50回定例オンラインセミナー「ポスト・コロナの学校教育(4)ICTを活用したポスト・コロナの 授業づくりを考える」(クリックすると開きます)

第50回定例オンラインセミナー
「ポスト・コロナの学校教育(4)ICTを活用したポスト・コロナの 授業づくりを考える」

2020年10月24日(土)に定例オンラインセミナー講演会No.50「ポスト・コロナの学校教育(4)ICTを活用したポスト・コロナの 授業づくりを考える」を開催しました。学校教員、大学生・大学院生、教育関係者など、82名の皆様にご参加いただきました。

 

シリーズ第4回目となった今回のセミナーでは、学校教育におけるICTを利活用したこれからの授業づくりに焦点を当てました。学校の臨時休業期間中、これまで当たり前とされてきた教師と児童・生徒が教室において対面して行う授業が実施できなくなり、その代替として、多くの学校において、ICTを活用したオンライン授業を経験することとなりました。今後コロナの流行のさらなる波も予想される中、今回の事態を契機として、2023年度までに義務教育段階の児童・生徒向けの学習端末を一人1台導入し、高速大容量の通信ネットワークを整備するとしていたGIGAスクール構想が前倒しされ、各学校において急ピッチで環境整備が進んでいます。コロナ禍におけるオンライン授業の経験を活かし、これからの時代に応じた児童・生徒一人一人のよりよい学びを実現するために、これからの授業においてICTをどのように利活用していけばよいのか、先進的な授業実践をもとに考えることとしました。

最初に、平田篤史先生から、「SAMRモデルとICT利活用教育」と題したご講演をいただきました。ICTの利活用がこれまでの授業にどのような影響を与えるか、影響の度合いを定義するモデルの一つであるSAMRモデルをもとに、代替、拡大、変形、再定義の各段階における具体的な授業事例が提示されました。今後のICT利活用の前進に向け、授業づくりにおいて、生徒に育みたい力は何かを起点として、必要な学習活動は何か、学習活動を実現するためにどのツールをどのように使うのか、置かれた環境の中で何ができるかを考えることの重要性が示されました。

次に、岡本竜平先生から、「中・高等学校におけるICTを用いた授業実践-学習スタイルの多様性に着目して-」と題した実践発表をいただきました。臨時休校期間中の勤務校における取り組みについて、実践の振り返りをもとにスタイルが進化してきたこと、教科の特性を見極めた授業が展開されてきたこと、などの事例紹介がありました。休校明けの授業を含むこれまでの一連の経験を通して、多様な学習スタイルがあることを認めそれに挑戦することの必要性、対面授業における空気感や時間の共有の大切さなど、学校だからこそできる「学び・学習スタイル」が明確になってきたことが指摘されました。

 

網本貴一先生からは、「大学でのオンライン授業で見えてきたこと-理科(化学)の講義・実験・演習での実践を通して-」と題した実践発表をいただきました。これまでの対面授業に準じた機能をオンライン授業に持たせるための工夫と、オンラインを活用するからことできることについて、実践を踏まえてお話しいただきました。講義や演習の授業では、パワーポイントを黒板に見立てて使用しながら授業を双方向化させたり、学生同士の協働的な学習活動を取り入れたりすることによって、学生の習熟度を担保することができること、一方で、実験技能等の習得には対面での指導が必要となることが示されました。

講演と実践発表を受けて質疑応答が行われました。それぞれの学習環境に応じて目の前の生徒に適したツールを見極めながら使っていくこと、社会に出ていく生徒の姿を想定しながら授業で行うことを考えること、それぞれの児童・生徒の実態に応じた多様な学習スタイルを取り入れてみること、ICTの利活用に限らず今ある環境の中で可能な児童・生徒の学びを伸ばすための仕掛けを考えていくことなど、これからの授業づくりについての提案が行われました。

最後に、渡辺健次先生よりコメントをいただきました。インターネットが普及してきた平成の30年間の歩みを振り返るとともに、今後のGIGAスクール構想を取り入れた新しい学校づくりに向けて、管理職は力ある若手教員の熱意を受け止め、若手教員は物おじせず取組み議論していくなど、チーム学校で取り組んでいく必要性が指摘されました。

参加者からは、「対面授業だからこそ伸ばせる力とは何かを改めて考える機会となった」、「どのようなICTの利活用ができるのか、多くの実践例を知ることができた」、「改めてオンラインツールを活用してみたい」、などの感想をいただきました。

なお、時間内に取り上げることが出来なかった質問に対して、登壇者より、ICTの利活用に向けた学校の雰囲気づくりの方策については、最初から全員がではなく、できる人ができることから始めること、ICTの活用について相談したい場合には、近隣のGEG (Google Educator Group、参考URL https://edu.google.com/intl/ja/latest-news/communities/)への参加や、Facebook 「Google for Education 研究グループ」に参加すること、などのアドバイスがありました。

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第51回定例セミナー「広島叡智学園HiGAの 平和教育への挑戦(1)-HiGAミュージアムをつくろう-」(クリックすると開きます)

第51回定例セミナー
「広島叡智学園HiGAの 平和教育への挑戦(1)-HiGAミュージアムをつくろう-」

2020年10月31日(土),定例オンラインセミナー講演会No.51を開催し,大学院生や学校教員など47名の皆様にご参加いただきました。

広島叡智学園プロジェクトシリーズでは,Peace Makerの育成をねらいとするGlobal Justiceの単元デザインと子どもの学びに焦点化し,ヒロシマ発・HiGA発の平和教育のあり方を提案するものです。第1回は,Global Justiceの最終成果物である「HiGAミュージアムをつくろう」を紹介し,平和学習の新たな可能性をめぐって意見交換しました。

当日は,広島県立広島叡智学園中学校・高等学校(この後,広島叡智学園と記載)のある大崎上島と中継を結びながらセミナーを進めました。まず司会の草原和博より教育ヴィジョン研究センターと広島叡智学園が,研究開発と教員研修に係わる覚書を交わした経緯が解説されました。続いて同校教諭の徳田敬氏より「未来創造科」の教育課程上の位置づけと目標が説明され,さらに草原和博より未来創造科を構成する単元の1つ「Global Justice」のねらいと年間課程が示されました。なお,このGlobal justiceは,覚書に基づいて両組織の教員と大学院生が共同でデザインしたカリキュラムです。このカリキュラムの出口に位置付けられたのが,HiGAミュージアムの作成でした。

セミナーの前半は,同校の生徒10名による,HiGAミュージアムのギャラリートーク風の展示解説で進んでいきました。このミュージアムには,2019年11月から2020年10月までの学習成果が集大成されています。ミュージアムのテーマは「平和×あなた」。1年間に学んだAプロジェクト「日米の子どもでヒロシマの教科書を作ろう」,Bプロジェクト「平和をとらえる概念を身につけよう」,Cプロジェクト「国内外の平和に関する博物館を見学しよう」の成果を視覚化して伝え,来館者との対話を通して「あなたにとっての平和とは何ですか」を問いかけるとともに,生徒全員の「私にとっての平和」の定義を動画でスクリーンに映し出すように構成されていました。生徒からは,異なる多様な見方に接した驚きや,自分には見えていなかった非平和な状態に気づくことができた経験が語られました。

セミナーの後半は,外部の専門家,授業の担当者,そして生徒が一堂に会して,1年間の学びを振り返る場を持ちました。未来創造科を担当した徳田氏は,年間カリキュラムにおける各プロジェクトの意味と配列の妙を語るとともに,Global justiceを核兵器の問題にとどまらない新たな平和教育の試みとして意義づけました。未来創造科に指導者・コーディネータ,そして研究者として参画した金鍾成氏は,日米韓の歴史教科書におけるヒロシマの取扱いの違いを示し,真正な対話を通じてヒロシマの記憶を交わし再構築していく必要性を説きました。平和・文学の研究者の川口隆行氏は,対話の対象とはなっていない他者を発見したり,対話を拒絶する他者をも巻き込んで対話できる関係を築いていく責任とその難しさを指摘しました。

本セミナーは,対話・概念・記憶を視点に,1年間の平和の学びを立場を異にする当事者が語り合う貴重な場となりました。このシリーズは,今後,Global Justiceの成果と課題をプロジェクトを単位に報告して参ります。

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第54回定例オンラインセミナー「ポスト・コロナの学校教育(5)─パンデミックと学校教育─」(クリックすると開きます)

第54回定例オンラインセミナー
「ポスト・コロナの学校教育(5)─パンデミックと学校教育─」

2020年11月21日(土)に、第54回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(5)─パンデミックと学校教育─」を開催しました。

「ポスト・コロナの学校教育」セミナーシリーズの第5回は、全9回のちょうど折り返し地点でもあり、「コロナと教育」をより広い視点から教育的・教育学的に捉え直すことを意図して、中国四国教育学会第72回大会シンポジウム「学校の日常が突然に引き剥がされた時:戦争、自然災害、パンデミック下の学校教育」との共催で「パンデミックと学校教育」と題して開催されました。EVRIメンバーでもある川口広美(広島大学EVRI)氏は広島大学教育学部K201のシンポジウム会場より、田端健人(宮城教育大学)氏はオンラインにて、大門正克(早稲田大学)氏は音声・資料提供形式にて、話題提供をしていただきました。K201でのシンポジウム会場での参加者は28名、オンラインでの参加者は57名、そしてEVRIセミナーへの参加者は36名で、合計121名の参加者を得ての共催の会となりました。

川口氏はEVRIの取組の成果である『ポストコロナの学校教育―教育者の応答と未来デザイン―』(溪水社、2020年)にも言及しながら、学校休業後、学校再開後、2020年秋という三つのタイミングで行った学校教師たちのインタビューをもとに、コロナが大きく教育を変えたという側面と、変わらなかった側面とを指摘した上で、教師の変わらない「価値観」や教育観に学校の日常が支えられているという事実とともに継続的な教師研究の重要性とその研究を支える教育学研究の意義を提案しました。田端氏は、震災被害を受けた小学校を巡る訴訟問題の経緯を丹念に紐解きながら、学校教育が「闘争モデル」による競争・対立・分断の場に陥ることへ警鐘をならしながら、「合意モデル」を軸とした民主主義の場としての教育の可能性を提案しました。大門氏は、戦時下の学童疎開の実態とある子どもの手記およびその子への教育的介入の可能性と課題を捉えることが、教育を視点とした「考える歴史学」という大学でのオンライン授業の取組において学生自身の歴史観・教育観をゆさぶる教育的・教育学的しかけとなることを提案しました。

3者からの提案後に学会シンポジウムは休憩に入り、EVRIセミナーでは森田愛子(広島大学EVRI)と吉田成章(広島大学EVRI)の司会のもと、セミナー参加者からの質疑への応答や3者の提案の振り返りを行いました。Zoomのチャット欄に寄せられた質問や要望などを参加者とともに読み解きながら、3者のそれぞれ異なる角度からの切り口の意味を味わうことができる時間となりました。

休憩後に再開したシンポジウムでは、EVRIメンバーである丸山恭司(広島大学EVRI)氏より指定討論がなされました。丸山氏は、事実解明(困難への対峙の実践)・根拠探索(暗黙のうちに前提していたものは何か)・将来展望(学校・教育ができること/すべきこと)・多角的視点(過去から今日を捉える角度)から3者の提案の強調点とそれぞれの関係性をまとめ、コロナによる「問題露呈限界水位の低下」によるこれまで隠れていた問題の顕在化とそれに伴うわれわれ教育関係者の暗黙の前提が良くも悪くも明るみにでてきていることの意義と課題の検討の重要性を提起しました。

シンポジウムでは中坪史典(広島大学)氏と三時眞貴子(広島大学)氏による司会進行のもと、参加者からの質問と登壇者からの応答がなされました。同時にEVRIセミナーでもチャットを用いて参加者からコメントや質問が多数寄せられ、森田・吉田がそれらのコメントや質問の論点をまとめ、シンポジウム会場にEVRIセミナーからのコメントと質問として声を届けました。その要点は、「教育という営みには多様なステークホルダー(学校教師はもちろん、保護者、地域、行政、福祉関係者、そして子ども自身)が介在している。今回のシンポジウム・セミナーで開かれる『教育的関係』とはどのようなものだと考えるか」でした。この問いは、シンポジウム会場から提起された「学校でしかできないことはあるのか?あるとすれば、それは何か?」という問いとも接続して、まさにパンデミック下で教育という日常が引き剥がされる中で、われわれ教育者は何に対峙し、誰とどのような関係のもとで教育という営みを考えてきた/いるのか、という本セミナーシリーズに通底する問いへと昇華していきます。

シンポジウム会場での三時氏によるまとめに続いて、セミナーでは森田・吉田による振り返り(問いの重要性とその問いに応える角度の重要性、そしてその問いに答えることの難しさとセミナー等を通じたEVRIを介した関わりの重層性の意義)とともに本セミナーを終了しました。

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第55回定例セミナー「主権者教育の改革を考える(3)―選挙の事前・事後教育をなぜ・どのように行うか」(クリックすると開きます)

第55回定例セミナー
「主権者教育の改革を考える(3)―選挙の事前・事後教育をなぜ・どのように行うか」

 

「主権者教育を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生をメンバーとして,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育が行われていると報告されてはいるものの,その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まっており,子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。

そこで16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察していきます。

 

本シリーズの第3回目として渡邉巧先生と金鍾成先生が,オーストリアの「歴史・社会・政治科教育」における選挙前・選挙後教育の実践動向を報告しました。オーストリアでは,EU議会,大統領,国会,州議会,地元議会等が実施されるたびに,選挙関係の指導が行われています。その意味で選挙教育は日常化した教育活動であって,決して特殊な位置づけではありません。両先生によると,調査対象校では普段の授業でも社会の争点やスキャンダルなどが取り上げられており,それは選挙教育時でも変わらないこと,そして仮想ではないホンモノのニュースや政党の主張を取り上げる点では共通するといいます。しかし,指導の重点や教師のスタンスには,個人差がみられたようです。①一人ひとりの投票行動にあたっての判断基準づくりを重んじる教師もいれば,②制度や政策を批評する科学的知識の習得と活用を重んじる教師もいれば,③政治的な談話を楽しみ,政局をめぐって対話することを重んじる教師もいました。そういう政治教育が社会的に承認されており,そのための学習アプリや選挙データが広く提供されているところに,オーストリアの特色があるようです。

 

後半では,池野範男先生による指定討論が行われました。とくに特定の人(候補者)を選ぶのではない政党を選ぶヨーロッパの選挙制度の特徴が指摘され,それが本報告のような実践を可能にしている可能性が指摘されました。また日本への示唆について質問があり,上述のような指導の再生産を可能にする文化を醸成していく必要性が確認されました。

司会者の草原和博先生と川口広美先生からは,教室空間は社会空間と隔てられることなく連続するとともに,社会空間から教育的に区画された特別な空間であることも指摘されました。具体的には,選挙権を持たない(移民や16歳未満の)子どもにも模擬投票の機会を認めること,実際の選挙結果とは異なる(若者に偏った)投票傾向が見られること,また社会のパワーバランスから解放されて主体的な意見が尊重されやすいことなど,教室空間の虚構性と非現実性も確認されました。

 

 

 

提案者と指定討論者との対話を通して,オーストリアの選挙前・選挙後教育から浮かび上がってくる政治教育の意味とその背景が確認されました。本シリーズでは,引き続き「日本の主権者教育の改革を考える」指針を考えてまいります。

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第60回定例セミナー「広島叡智学園HiGAの平和教育への挑戦(2)-日米の子どもによるヒロシマ教科書づくり-」(クリックすると開きます)

第60回定例セミナー
「広島叡智学園HiGAの平和教育への挑戦(2)-日米の子どもによるヒロシマ教科書づくり-」

2020年12月12日(土),定例オンラインセミナー講演会No.60「広島叡智学園HiGAの平和教育への挑戦(1)-日米の子どもによる教科書づくり-」を開催し,大学院生や学校教員など35名の皆様にご参加いただきました。

広島叡智学園プロジェクトシリーズでは,Peace Makerの育成をねらいとするGlobal Justiceの単元デザインと子どもの学びに注目し,ヒロシマ発・HiGA発の平和教育のあり方を提案していきます。第2回の今回は,Global Justiceの第1単元「日米の子どもによる教科書づくり」(以下,本単元)の成果をめぐって意見交換することとしました。

第1パートでは,広島大学の草原和博が本プロジェクトの歴史的経緯を紹介するとともに,広島県立広島叡智学園中学校・高等学校教諭の徳田敬氏よりGlobal Justiceのカリキュラム上の位置づけが解説されました。とくに本単元には,学校のミッションに直接的なつながる場として,平和の担い手の育成に期待を寄せたことが語られました。

 

第2パートでは,広島大学の金鍾成と草原和博が,単元のねらいと構造を解説しました。金は,国家の語りを超えて子どもが公共圏をつくる単元のデザイン原則を示すとともに,草原は叡智学園と米国のL小学校がともに「ヒロシマ」の「教科書」を作成し,相互に批評しあう対話の過程(5回のラウンド)を写真を交えて紹介しました。また,広島と長崎,そして核兵器廃絶について知識を深めていったL小学校の子どもと,教科書記述に隠されたバイアスとそのバイアスを生み出すナショナルな歴史言説と教科書制度についてメタ認知を深めた叡智学園の子ども,それぞれの言葉が再現されました。あわせて両校の子どもが,双方の立場を「ヒロシマ教科書」に併記することで公正さを追究し対立を解消しようとする相対主義的な合意形成の実態も確認されました。

続いて広島大学の川口広美,鈩悠介(同大学大学院生),星瑞希(東京大学大学院生)が,両校の児童生徒にみる歴史観を報告しました。ヒロシマをめぐる17の歴史的出来事の重要性(歴史的意義付けの仕方)を調べたところ,広島の歴史に焦点化するか/核軍縮の課題を語るのか,広島の被害を強調するか/被爆者のトラウマを強調するのか,歴史的に解決された出来事として描くか/現在進行形の出来事として描くかで,日米で違いが見られたことが報告されました。また学校外の経験や個人のアイデンティティが,歴史認識に影響を与えている可能性が指摘されました。

第3パートでは,原爆文学を研究する川口隆行先生と被爆の心理的社会的影響を研究する川野徳幸先生がコメントしました。川口は,教科書に語られていないことにこそ注目する必要性を説き,米国国内の核実験地や先住民・ウラン鉱山等の被爆者の存在,広島で被爆した南方留学生や朝鮮人の存在を紹介しながら,子どもの語りを二国間の語りに収束させず,多様な声と語りに開いていく可能性を提起しました。川野は,対話を通して歴史認識の合意をつくっていく教育の価値に言及するとともに,教育現場で核兵器廃絶の主張や被爆者感情の取り扱う難しさを指摘しました。あわせて教育内容に原爆後障害の問題を組み込む必要性を提案しました。

これらのコメントを受けて,Global Justiceの学びを1回に留めるのではなく螺旋型カリキュラムとして編成する可能性,そしてヒロシマや被害・加害を語る「視点」と「当事者」を徐々に複線化,重層化していくカリキュラムのあり方が議論されました。

本セミナーは,平和教育を共通テーマに異なる分野の専門家が語り合い,本単元の改善・発展の行き先を考える貴重な場となりました。次回(2021年1月30日)は,概念を通して平和のあり方を考える第2単元の成果と課題を報告します。

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第61回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(6)「諸外国の現状から見た教師教育・教育研究の展望」(クリックすると開きます)

第61回定例セミナー
「ポスト・コロナの学校教育(6)「諸外国の現状から見た教師教育・教育研究の展望」

2020年12月26日(土)に、第61回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(6)─諸外国の現状から見た教師教育・教育研究の展望─」を開催しました。

「ポスト・コロナの学校教育」セミナーシリーズの第6回は,教育ヴィジョン研究センター及び広島大学教育学部共同研究プロジェクト「「ポストコロナの学校教育」の提起する学術知共創の可能性と課題」の主催,広島大学の異文化間教育推進室とIinternational Network of Education Institute(INEI)委員会の共催で開催されました。桑山尚司講師と丸山恭司教授を司会に、INEI事務局からChen Wang氏を基調講演者にお迎えし、広島大学附属中・高等学校長でもある鈴木由美子教授、異文化間教育推進室のBrett R. Walter講師とRussell S. Kabir准教授、Tinka Delakorda Kawashima講師を話題提供者として、35名の参加者を得て開催されました。

はじめに丸山恭司氏より趣旨説明が行われました。Covid-19から日本や世界の学校教育がどのような影響を受け,教師や教育研究者がこれにどのように応答していくかが議論される中,大学・教員養成機関の役割があらためて問われていることが指摘されました。これを踏まえ本ウェビナーでは,教員養成課程をもつ研究大学の国際的なネットワークINEIのシンポジウムの議論を紹介しながら,インターナショナルな文脈とナショナル/ローカルな文脈を交わらせることから見えてくる教師教育と教育研究の課題を検討したい旨の趣旨が述べられました。

まず,Brett R. Walter氏とRussell S. Kabir氏は,12月14日・15日にINEIが主催したシンポジウム”How is the Covid-19 global pandemic reshaping the debate on education?”の要旨を報告しました。同シンポジウムでは,1日目に韓国・シンガポール・日本・中国・オーストラリアの登壇者が,二日目にはカナダ,南アフリカ,ブラジル,アメリカの登壇者が,2020年下半期の教育実践や教育言説,研究や政策の状況を紹介しました。1日目の主な論点が,カウンセラーとしての教師の役割や,「学習の喪失(Learning loss)」に対するオンライン学習やハイブリッド学習の質的向上に向けられたのに対して,2日目は,資源分配の不平等や教育政策の批判的検討が論点となったことが報告されました。教師教育の課題としては,テクノロジの可能性と限界を意識した研修プログラムの開発,そして新任教師の支援が指摘されました。

Chen Wang氏は,はじめにINEIの設立の経緯と趣旨を紹介し、パンデミック下における教育研究機関の連携の重要性を指摘し,続けてパンデミックが学生・大学院生に与えた影響について報告しました。特に学生の流動性(Mobility)に着目して,留学の機会を失った学生や,留学先で研究と学習のアクセスを閉ざされた学生がいかにこの困難に向き合い克服しているかの考察が行われました。さらに対面での実施が通常とされてきた質的研究の困難さにも触れ,パンデミック下での海外在住留学生の困難と自己調整の姿をいきいきと描き出しました。

指定討論者の鈴木由美子氏は,広島大学附属中高等学の校長としての経験を踏まえ,教師教育と教育研究のあり方を提案しました。学校休業下でのオンライン学習の拡充とカリキュラム上の柔軟な対応などを紹介しつつ,この動向が各国の報告と重なるところが多いところを指摘しました。パンデミックを単なる一過性のものではなく,常に起きるものだと捉え,災害や緊急事態への対応を含んだ教師教育の必要性と,すべての子どもに学習権を保障する公教育の意義を今一度見つめなおすこと,そしてこれに関連した教育の平等性に関わる論点を提起しました。

Tinka Delakorda Kawashima氏は,出身地のスロベニアでのパンデミック下の状況を紹介しました。スロベニアでは早期にオンライン学習の環境が整えられ,教育実習ができなかった学生がポータルサイトで子どもと交流し学習支援が可能となる機会を開いていったことが紹介されました。広島大学での取組に触れながら,言語的・文化的に多様な子ども、障害児や社会経済的に不利に置かれた子どもに焦点をおいた教育の拡充の必要性を提起しました。

各報告と議論を通して,パンデミック下で各国の教師教育・高等教育機関が教育実践に向き合う時の共通の課題が浮かび上がり,さらにそれに対して多様な解決策が提案されてきたことが確認されました。EVRIもまたこのような国際的な動向を参照しつつ,ポスト・コロナの学校教育のあり方を提案してまいります。

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第64回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(7)ポスト・コロナの学校教育に要請される数理的思考」(クリックすると開きます)

第64回定例セミナー
「ポスト・コロナの学校教育(7)ポスト・コロナの学校教育に要請される数理的思考」

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年1⽉23⽇(土),第64回定例オンラインセミナー「ポスト・コロナの学校教育(7):ポスト・コロナの学校教育に要請される数理的思考」を開催しました。⼤学院⽣や学校教員など47名の皆様にご参加いただきました。

「ポスト・コロナの学校教育」セミナーシリーズ第7回,今回のテーマは数理的思考でした。新型コロナ禍をあえて教材としてみて,卒業後においても生きて働く能力や態度の形成を促すことは取り組まれてもよいでしょう。本報告を書いている時点(令和3年2月頭)でもこの感染症拡大は地球規模で収まりを見せていません。だからこそ,結末を知っている題材だけを取り上げて後世の者たちが教訓として学ぶだけではなく,「現象を理解しようと努め」「現象の展開を予測し」「個人レベル・集団レベルでできる裏付けのある対処は何かを問う」ことを当事者として行うことは,数理に関わる知識・技能を駆使することの意味と意義を知る絶好の機会と言えます。

このセミナーでは,数理的思考を次のように規定しました【指標等の意味や意義をある程度以上に利活用でき,判断の根拠にできること。】そして,このような思考力等を養う機関として学校は機能しているのか?という漠然とした問いにアプローチするために,現行の確率教育の刷新を図ろうとする石橋一昴先生(岡山大学)と,諸外国学校教育のパラダイム転換に関心のある早田透先生(鳴門教育大学)の二人を専門家として招きました。
同セミナーはオンライン開催であり,小山正孝影山和也の2名の主催者から今回セミナーの主旨と上記の問いの概説,ならびに日本学術会議による数学教育への「提言」が説明されました。次いで専門家からそれぞれの立場からの講演があり,フロアからの質問を糸口にして講演の理解を深めたり上記問いへの解答の可能性を考えたりしました。

石橋先生の講演では,医療検査の結果を確率的に理解することから話題を起こし(いわゆる精度の問題),その結果がメディアでは数理的とは言いがたい仕方で扱われている様に触れながら,ポスト・コロナにおいて我々が覚悟するべき事柄が次の二つにまとめられました:(i)適切とは言えない数学活用は増加しているがそれらを絶対視できないこと,(ii)メディア等で目にする数値やメッセージに批判的に対処すること。早田先生からは,学校にある制約を改めて問いながら,変わらず学校数学は重要でありながらもその枠組みを変えてみることを恐れない態度の大切さが求められました。したがって,我々は学校数学の限界に向き合うべきであるし,そのためには“学校外”では自然な活動(たとえばインターネット検索によって情報収集したり,その情報の信憑性を色々な仕方で疑ったりすること)にも取り組むべきであることが言われました。

講演後のフロアからは,本セミナーのテーマに沿った興味深い問いが出されました:ある都市の一斉検査は有効な仕方か,そして市民は数理的に考える場合,どう対処するべきか。数学科だけにとどまらない教科の形が問われているように感じられるが,教科の融合等はどのように考えたらよいか。前者の問いなどは典型的ですが,意思決定のためには数理的思考は大きく働くが,現実的に行動する場合には,勘案したほうがよい要因が多くあるためこれらを列挙し重みづけたりすることが求められることが確認されました。また教科の融合についても,やはり“学校内”に収まる限り,そこで得られる知識・技能,共に培う知恵すらも学校という場に根ざしてしまうので,意図的に融合・連携を図るにしても如何にして自分事として問題を仕立て直していくかが鍵になることが言われました。

現実的に我々が突きつけられ直面する問題はあまりに大きく,一人で対処するだけの能力を培うべきなのか,あるいはそれぞれの得意領域を磨いて分業して事に当たる術,すなわち問題解決のための広義のコミュニケーション能力をも育成の射程に入れねばならないのか,学校教育には常に転換が迫られています。これからの学校教育では,ポスト・コロナに関わらず「探究」は一つの鍵言葉ですが,ポスト・コロナだからこそ「探究」として具体に為すべき事や論点が見えやすくなったと言えるでしょう。これまで異領域とされてきた人たちが関わり合うことで新規の知恵が生まれることは,協同することの醍醐味であることが再認識されました。

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第66回定例セミナー「広島叡智学園 未来創造科プロジェクト(3)―平和をいかに定義するか―」クリックすると開きます)

第66回定例セミナー
「広島叡智学園 未来創造科プロジェクト(3)―平和をいかに定義するか―」

 

2021年1月30日(土),定例オンラインセミナー講演会No.66「広島叡智学園HiGAの平和教育への挑戦(3)-「平和」をいかに定義するか-」を開催し,大学院生や学校教員など50名の皆様にご参加いただきました。

広島叡智学園プロジェクトシリーズでは,Peace Makerの育成をねらいとするGlobal Justiceの単元デザインと子どもの学びに注目し,ヒロシマ発・HiGA発の平和教育のあり方を提案しています。第3回の最終回は,Global Justiceの第2単元「概念プロジェクト-専門家の考えを学び,使いこなそう」(以下,本単元)の成果をめぐって意見交換を行いました。

 

第1パートでは,広島大学の草原和博が本プロジェクトの歴史的経緯を紹介するとともに,本単元のカリキュラム上の位置づけを解説しました。

 

第2パートでは,本プロジェクトを構想し実践した広島大学の大学院生が,本単元の指導を記録映像を交えて紹介しました。具体的には,①米国のIDMモデルを参照したカリキュラムデザイン,②直接的暴力から構造的・文化的暴力まで多様な非平和な状態を捉える社会諸科学の概念をベースとした単元構成,③概念を活用して,子どもの外部世界に広がる非日常的な非平和から子どもの生活に埋め込まれた日常的な非平和な構造までを順次捉えなおしていく単元展開,④概念と対応した社会現象をリアルに再現する教材の選定,⑤概念を適用した一次資料の読解,あるいは自己の評価・行動をめぐって意見表明する場面づくりなど,単元構成の基本原則が語られました。

 

第3パートでは,学習成果物を手がかりとして,概念を活用した「平和」の意味の捉えなおしの実態について報告が行われました。分析結果を踏まえて,両者の関係は必ずし単線的の進行するわけではなく,概念学習を契機に平和観の省察を促進させることは容易ではないこと,また,平和は「どれも大切」といった相対化志向や「平和なんてムリ」いった諦観志向も確認できることが報告されました。

 

第4パートでは,広島県立広島叡智中高等学校の徳田敬先生と草原が1年間の協働実践を振り返りました。徳田先生は,今回のデータには必ずしも表れていないが,子どもには普段の学校生活の中で概念に影響を受けた発言や行動が認められること,直ぐには言語化できないが平和をめぐる深い思索と逡巡の跡が認められること,平和というテーマを継続的螺旋的に学ぶ機会を作っていく必要性などが報告されました。最後に原爆文学を研究する川口隆行先生と教育哲学を専門とする丸山恭司先生よりコメントをいただきました。参加者との質疑を通して,教育のもたらす意味を,学校の各教科の時間内だけでみとることの限界,そして生活や社会との関わりの中で学校での学びをいかに意味づけ,活かしているかを捉えていく可能性が確認されました。

 

本セミナーは,平和教育を共通テーマに異なる分野の専門家が語り合い,記憶と表象の視点から平和教育の新たな展開を考える貴重な機会となりました。3回のシリーズを通してご参加いただいた方々に御礼を申し上げます。

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第68回定例セミナー「主権者教育の改革を考える(4):評価と試験」(クリックすると開きます)

第68回定例セミナー
「主権者教育の改革を考える(4):評価と試験」

 

「主権者教育を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生を研究分担者として,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育は実施されていると報告されてはいるものの,その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まり,子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。そこで16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察していきます。

 

主権者教育の「評価」に焦点化する本シリーズの第4回目は,2021年2月6日(土)に第68回のEVRI定例セミナーとして開催しました。大学院生や学校教員など47名の皆様にご参加いただきました。特に今回は,オーストリアを中心とする欧州の教育事情に詳しく,『変動する大学入試ー資格か選抜か、ヨーロッパと日本』を出版されたばかりの伊藤実歩子先生(立教大学)をお招きし,「オーストリアのマトゥーラ改革と 歴史・社会・政治科の評価」についてご講演をいただきました。

 

伊藤先生のお話では,①オーストリアでは2000年代にはPISAショックに由来する教育改革が加速した,マトゥーラ(中等教育資格修了試験)の改革もその流れに位置づくこと,②マトゥーラは,学校単位で実施される課題論文と,同一日時同一内容で試験される記述試験(外・数・独),そして口述試験の3本柱があること,③記述試験が統一化・中央化される一方で,コンピテンシーと高大接続を意識した課題論文が必修化され,伝統的な口述試験が残るという対照的な動きが見られること,④口述試験は,各教科の内容と方法の組み合わせで作成され,事前に準備された問題からランダムに出題されること(教育的な介入や配慮の余地が低減したこと),⑤都市部でのマトゥーラの大衆化が進んでいること,などが報告されました。

 

同発表に対して,指定討論者の池野範男先生,川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生より多面的な質問が提起されました。具体的には,マトゥーラにおいて期待されている(日本とは異なる)「公正さ」とは何か,記述試験の内容にオーストリアの標準的な政治規範や民族性が投影されることはないのか(移民等のオーストリア化の装置になってはいないか),立ち振る舞いや言葉使いを含みこむ口述試験は階級の再生産につながらないのか,マトゥーラの評価方法が3つに分かれたことの意味とは何か,などの論点をめぐって意見が交わされました。

 

最後に司会の草原和博先生より,東アジアと欧州の試験をとりまく制度的文脈の違い,中等教育資格試験だからこそ評価主体としての教師への信頼とそれを裏付ける専門性と自律性が依然として残っていること,また資格試験ゆえに問題がプールされ,それを社会の誰もが参照できるシステムが構築されていることの意味についてコメントがありました。

 

報告者と指定討論者との対話を通して,市民性を多面的なアプローチで評価していくことの意義が確認されました。本シリーズでは,引き続き「日本の主権者教育の改革を考える」指針を考えてまいります。

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第70回定例セミナー「ポスト・コロナの学校教育(8)多様なニーズのある子どもを支える人々を孤立させない支援ネットワークの在り方」(クリックすると開きます)

第70回定例セミナー
「ポスト・コロナの学校教育(8)多様なニーズのある子どもを支える人々を孤立させない支援ネットワークの在り方」

2021年2月13日(土)、第70回定例オンラインセミナー「ポスト・コロナの学校教育(8)多様なニーズのある子どもを支える人々を孤立させない支援ネットワークの在り方」を111名の参加をもって実施することができました。

ポスト・コロナの学校教育シリーズの第8回目となる今回のセミナーは、それでは多様なニーズのある子どもを支える側をどう支えていくのかを考える契機とするために、長年米国ニューヨーク州でスクールサイコロジストとして活躍されているバーンズ亀山静子氏、東京都議会議員で保護者でもある龍円愛梨氏、日本の特別支援教育施策に重要な提言をし続けてきたLITALICOの野口晃菜氏の3名の立場の異なるシンポジストにご登壇いただきました。まず、松宮奈賀子川合紀宗から全体の趣旨説明等を行った後、シンポジストからは、それぞれの立場で「支える側を支える」ために実施してきたこと、今後実施していくことについて話題提供いただきました。

 

続けて川合紀宗が指定討論者となり、会場からの質問やコメントも一部紹介しつつ議論に移りました。3名のシンポジストとの話題提供から、①すでに支援者側には十分な支援スキルはあるものの、テクノロジー等が使いこなせていないため、そのスキルが子供に対して十分に発揮できていない状況への支援、②多忙のため十分に支援に集中できる時間が取れない支援者に対する時間的節約の側面からの支援、③支援者がスキルアップできるための支援、④地域のリソースの活用など、連携を促進していくための支援、の4つが主な「支援者を支えるために必要な考えるべき側面」として浮かび上がってきました。

最後にまとめとして、①特別支援教育が必要な幼児児童生徒も今後減少していく中で、支援者の増加が見込めなくなる可能性がある中、どのようにテクノロジーと賢く共存していくか、②研修や連携等を通して支援者がつながり合い、十分に知識と技術を兼ね備えたという自信をもって指導支援できるようなサポート体制をどのように作っていくか、③民間とつながり、有効活用することで支援者が支援に集中できる環境をコストエフェクティブ実施していくための体制をどのように作っていくか、の3点についてさらに掘り下げて検討していくことの必要性が提起されました。

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第72回定例セミナー「ポストコロナの学校教育(9)ポストコロナ社会における「プラクティス」と遠隔教育 :「3実(実技・実習・実演)」の視点から」クリックすると開きます)

第72回定例セミナー
「ポストコロナの学校教育(9)ポストコロナ社会における「プラクティス」と遠隔教育 :「3実(実技・実習・実演)」の視点から」

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2021年3月6日(土)に,第72回定例オンラインセミナー「ポストコロナの学校教育(9)」として「ポストコロナ社会における「プラクティス」と遠隔教育」:「三実(実技・実習・実演)の視点から」を開催しました。

 

井戸川岩田が司会を務め,話題提供は以下の3名から行われました。まず(1)八木健太郎氏(広島大学,造形芸術教育)から「遠隔授業による美術/デザイン教育」というテーマで,(2)住岡健太氏・Mary Popeo氏 (NPO法人 Peace Culture Village)・松本幸市氏(一般社団法人まなびのみなと/PCV,木江宿庭火)からは「オンラインツアーで広がる自己探求学習の可能性」について,そして(3)高旗健次氏(広島大学・広島大学附属幼稚園長)からは「遠隔での実践指導―幼稚園での取り組みと大学での音楽実技指導の事例―」について,お話しいただきました。指定討論では,高田宏氏(広島大学・人間生活教育)に「家庭科住生活分野の実習指導者の立場から」コメントいただき,学ぶ側への配慮と技術的可能性の2つの論点から討論を行いました。井戸川のコーディネートのもと,参加者からの質疑にも応えながら議論を深めることができました。当日のオンライン参加者は約40名となりました。

今回のセミナーでは,「ポストコロナ社会に向けて,「三実(実技・実習・実演)」のような特質を持つ教科は,いかにして子どもの学びを保障すべきなのか」をめぐって,多様な専門職の方々と理論や実践事例を共有することができました。今回が「ポストコロナの学校教育」シリーズの最終会となりましたが,EVRIでは,次年度以降もこの問題を追究してまいります。

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Educational Vision Research Institute(EVRI) Forum No.21/The third JERASS-ISSA International Forum How can social studies contribute to achieving Sustainable Development Goals?: Focus on SDG3―Teaching and Learning of “Health and Disease”(クリックすると開きます)

Educational Vision Research Institute(EVRI) Forum No.21/The third JERASS-ISSA International Forum
How can social studies contribute to achieving Sustainable Development Goals?: Focus on SDG3―Teaching and Learning of “Health and Disease”

2021年1月24日(日)に「全国社会科教育学会ISSA連携フォーラム」が開かれました。教育ヴィジョン研究センターとの共催で行われた本フォーラムでは、「How can social studies contribute to achieving Sustainable Development Goals?: Focus on SDG3: Teaching and Learning of “Health and Disease”( SDGsの達成に、社会科はどのように貢献することができるか-SDG3「健康と疾病」の指導と学習に焦点を当てて-)」というテーマに基づき、議論がなされました。

フォーラムのテーマ「SDGsの達成に、社会科はどのように貢献することができるか」を議論すべく、フォーラムの企画者である吉水裕也先生(兵庫教育大学)、阪上弘彬先生(兵庫教育大学)より、日本とシンガポールから二人のパネリストが招聘されました。一人目のパネリストは、井田仁康先生(筑波大学)です。地理教育およびESDを専門とする井田先生は「How to Protect Yourself from Disasters: The Role of Social Studies with collaboration in Asia(災害から自らを守る方法―アジアと協同した社会科の役割)」と題して、日本の社会科における防災教育の状況を紹介しつつ、アジア諸国との連携のあり方を提案しました。二人目のパネリストは、Chew-Hung CHANG先生(National Institute of Education, Nanyang Technological University)です。地理教育および気候変動(教育)の専門家であるChang先生からは「What does future-ready social studies education look like? Insights from teaching and learning geography(将来に備える社会科教育とはどのようなものか?地理の指導と学習から得られる見識)」という題目の発表で、社会の変化、OECD2030、地理教育の動向、気候変動など、グローバルな視点から持続可能な社会に向けての社会科(地理)のあり方が主張されました。

日本国内外から約50名(パネリストなど運営者を含めると約60名)の参加者を得て、限られた時間ながらも積極的な質疑応答がなされました。金鍾成先生、坪田益美先生(東北学院大学)、川口広美先生のファシリテーションのもとで、(1)持続可能な開発のための教育(ESD)に取り組む際の社会科や地理の強み、(2)社会科において健康や幸福を確保・促進する方法、(3)学習方法論、(4)日本における教員養成・研修の制度についての議論を深めることができました。

全体を通して90分という短い時間ではありましたが、本テーマを介して、(1)SDGsあるいは持続可能な社会に関する学習の事例、(2)社会科・地理の役割、(3)教師(教育)の役割の重要性の再確認、について議論や情報の共有ができました。COVID-19により対面で本フォーラムを実施することは断念しましたが、オンラインで開催されたために国外の研究者が参加できた点は、本フォーラムにとってプラスの影響であったといえます。

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2020 East Asian Social Studies Symposium 1 / Educational Vision Research Institute(EVRI) Forum No.22(2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第1部)/ 研究拠点創成フォーラムNo.22)Teaching World War II in Asia―History Education and Historical Reconciliation―アジアの第二次世界大戦を教える―歴史教育と歴史和解―(クリックすると開きます)

2020 East Asian Social Studies Symposium 1 / Educational Vision Research Institute(EVRI) Forum No.22
(2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第1部)/ 研究拠点創成フォーラムNo.22)
Teaching World War II in Asia―History Education and Historical Reconciliation―
アジアの第二次世界大戦を教える―歴史教育と歴史和解―

2021年2月27日(土)の午前10時から12時(日本時間)にかけて、研究拠点創成フォーラムNo.22「2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第1部):アジアの第二次世界大戦を教える―歴史教育と歴史和解―」が開催されました。金鍾成先生が代表者を務める科学研究費助成事業(若手研究_19K14238)「他国の語りに開かれた教育観を育成する社会科教員養成のデザインベースド・リサーチ」のプロジェクトであり、広島大学教育ヴィジョン研究センター (EVRI)、International Social Studies Association (ISSA)、全国社会科教育学会、韓国社会教科教育学会が共催した本シンポジウムには、世界各地から50名の皆様にご参加いただきました。

金先生の趣旨説明では、第二次世界大戦の「何を」「どのように」記憶するか、またそれは「なぜか」という問いが現在の東アジアの緊張関係を理解する上で避けて通れない問題であることが指摘されました。第二次世界大戦を取り巻く記憶の競争のなかで「歴史教育は何ができるか」を考えるために、日本、韓国、台湾の専門家と話し合う時間を設けたフォーラムであるとの趣旨説明され、討論のファシリテーターと討論者が紹介されました。

Terrie Epstein先生のファシリテーションのもとで、日本の事例を川口広美先生が、韓国の事例を金先生が、台湾の事例をYu-Han Hung先生が紹介してくださいました。各討論者は、以下の三つの問いに対する各国の状況を話し、各国の状況を比較・検討しました。

・あなたの国の第二次世界大戦に対する主なナラティブは何か。それは、今日の東アジアの緊張関係とどのようにつながっているか。

・あなたの国では、第二次世界大戦がどのように教えられているか。

・歴史和解のために第二次世界大戦を教える場合、直面しうる問題とは何か。それをどのように乗り越えることができるか。

討論が進むにつれて、第二次世界大戦の記憶と各国のアイデンティティの問題、歴史教育における感情の捉え方、学校歴史と学校の外の歴史の関係、歴史と政治の関係など論点が浮き彫りになりました。複数の参加者からも各国の歴史教育の現状や歴史和解のための新たな取り組みに関する質問や学校歴史の役割の捉え直しの必要性など、討論者の議論を深める質問をいただきました。

EVRIは、今後も本シンポジウムのような国家を超えて記憶とその教育に関して語り合える公共圏を創造し、歴史和解を追求する平和・市民性教育ユニットの拠点形成を目指します。

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2020 East Asian Social Studies Symposium 2 / Educational Vision Research Institute(EVRI) Forum No.23(2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第2部)/ 研究拠点創成フォーラムNo.23)타자의 이야기에 열려 있는 사회과교원양성의 디자인리서치-국가의 담론을 넘어선 상호이해의 추구-他者の語りに開かれた社会科教員養成のデザインリサーチ―国の言説を乗り越える相互理解を目指して―(クリックすると開きます)


2020 East Asian Social Studies Symposium 2 / Educational Vision Research Institute(EVRI) Forum No.23
(2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第2部)/ 研究拠点創成フォーラムNo.23)
타자의 이야기에 열려 있는 사회과교원양성의 디자인리서치-국가의 담론을 넘어선 상호이해의 추구-
他者の語りに開かれた社会科教員養成のデザインリサーチ―国の言説を乗り越える相互理解を目指して―

2021年2月27日(土)の午後2時から4時(日本時間)にかけて、研究拠点創成フォーラムNo.23「2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第2部):他者の語りに開かれた社会科教員養成のデザインリサーチ―国の言説を乗り越える相互理解を目指して―」が開催されました。金鍾成先生が代表者を務める科学研究費助成事業(若手研究_19K14238)「他国の語りに開かれた教育観を育成する社会科教員養成のデザインベースド・リサーチ」のプロジェクトであり、広島大学教育ヴィジョン研究センター (EVRI)、International Social Studies Association (ISSA)、全国社会科教育学会、韓国社会教科教育学会が共催した本シンポジウムには、日本と韓国から34名の皆様にご参加いただきました。

司会の川口広美先生は、2020年度東アジア社会科教育シンポジウム(第1部)で議論された歴史和解のための歴史教育を言及し、第2部ではそのような教員をどのように育成することができるかを議論すると説明しました。その後、話題提供者の金先生、日本側の指定討論者の藤原孝章先生、韓国側の指定討論者の李貞姫先生、通訳の車・ボウンさんが紹介されました。

金先生は、ご自身で日本と韓国を行き来しながら授業実践を行った日韓の社会科教員志望学生による「より良いヒロシマ教科書」プロジェクトと、そのプロジェクトの中での参加者の学びを発表しました。プロジェクトにおいて、韓国の参加者は、ヒロシマに原爆が投下されるまでの経緯を重視する「歴史教科書」を作り、それに対して日本の参加者は、ヒロシマに落とされた原爆の悲劇とそこからのヒロシマの平和への活動を重視する「地域教科書」を作りました。互いに「より良いヒロシマ教科書」を提案し合うなかで、合意と非合意を繰り返しながらも、両国の参加者は、自身の既存の考えに対するメタ認知、相互理解をともに追求する他者の存在の実感、構築主義に基づく歴史教育の可能性と必要性の発見という学びを得たと報告しました。

藤原孝章先生と李貞姫先生は、金先生の実践を「国民」と「市民」の関係を捉え直す社会科教育および国際理解教育の新たな試みとして評価しました。一方、先行研究との相違点を明確にする必要性、「より良いヒロシマ教科書」に対する前提を揃える必要性、参加者の感情的な反応に対する取扱いの問題、安全な公共圏づくりの方略といった多様な観点からのコメントをいただきました。なお、両国の参加者からも、日本と韓国といった国家単位でプロジェクトを行うことの長所と短所を考える必要性などのコメントをいただきました。

EVRIは、今後も本シンポジウムのような国家を超えて記憶とその教育に関して語り合える公共圏を創造し、歴史和解を追求する平和・市民性教育ユニットの拠点形成を目指します。

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第75回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(5)―歴史・政治教育の教師をいかに育てるか-」を開催しました(クリックすると開きます)

【2021.04.29】第75回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(5)―歴史・政治教育の教師をいかに育てるか-」を開催しました

「主権者教育を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。

 本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生を研究分担者として,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育は実施されていると報告されてはいるものの,その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まり,子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。そこで16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察してきました。
 主権者教育の「教師教育」をテーマとする本シリーズの第5回目は,2021年4月29日(土)に第75回のEVRI定例セミナーとして開催しました。大学院生や学校教員を中心に61名の皆様にご参加いただきました。第5回は,川口先生と草原先生が発表者を務められました。ヨーロッパで「CHE教科(subjects of Civics and History Education:公民・歴史に関する教科)」及び「CHE教師(公民・歴史を教える教師)」という概念が構想されていることに着目し,CHE教師がどのように養成されているのか,CHE教師の養成がなぜ求められるようになったかについて,本科研のオーストリア側のカウンターパートを務めるエッカー教授の論文・レポートを手がかりに報告いただきました。

 川口先生と草原先生の報告によると,①ボローニャプロセスの一環で欧州高等教育圏では大学の単位互換化が進んでいること,②並行して高等教育と教師教育の改革を通して欧州市民を育てる動きが活発化しており,オーストリアもそれに漏れないこと,③その結果,初等中等教育の歴史教育はナショナルな歴史を教えるだけではない,歴史に埋め込まれた現代的課題を,または欧州の文脈に埋め込まれた各国の政治的・社会的課題を探究させる歴史教育が期待されるようになったこと,④この動きは歴史と公民を統合して教える「CHE教師」「CDE教科」という概念に結実したこと,⑤各国の教育課程をCHE教科化するには制度的制約が大きいため,各大学ではCHE教師を養成し輩出することで,歴史系教科の実質的なCHE教科化を図っていること,⑥そのためにグラーツ大学の歴史教師の養成課程は,国際化,欧州化,市民教育化の方向で改革されてきたこと,などが報告されました。

 同発表に対して,指定討論者の吉田成章先生,池野先生から多様な論点が提起されました。具体的には,発表資料を眺める限り,欧州各国では依然として歴史科が中心的な地位にあり,CHE教科化は遅れているのではないか,欧州の教職課程改革は日本に何を示唆しているのか,どのような教員養成を行うことが主権者教育(市民性教育)を担う教師の育成につながるのか,などの問いが示され,それをめぐって意見が交わされました。

最後に司会の金先生が,ご自身の博士論文研究で直面した課題に言及されました。すなわち,アジア各国の異なる支配的な歴史言説と対話しつつ,子どもが歴史の語りをつくっていける教師を育てることが急務だが,それは決して容易ではないこと,またアジア各国で歴史教育のあり方をめぐって議論していくためにも,研究者の間で共通の言語(概念)をもつことが大切なことが確認されました。本シリーズでは,引き続き欧州・オーストリアの政治教育の動向を手がかりにして,「日本の主権者教育の改革を考える」視点を提供してまいります。

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第78回定例オンラインセミナー「これからの平和教育を考える(1)-平和教育者アーカイブ構築の意義と可能性-」を開催しました(クリックすると開きます)

【2021.05.30】第78回定例オンラインセミナー「これからの平和教育を考える(1)-平和教育者アーカイブ構築の意義と可能性-」を開催しました

 

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,平和・市民性教育ユニットの活動の一環として,2021年5月30日(日)に,第78回定例オンラインセミナー「これからの平和教育を考える(1)-平和教育者アーカイブ構築の意義と可能性-」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に136名の皆様にご参加いただきました。

「これからの平和教育を考える」シリーズは,PELSTE(平和教育・授業研究国際セミナー)や広島叡智学園との共同研究プロジェクトといった,これまでEVRIで取り組んできた平和教育の実践と研究を,より総合的に展開していくために考えられたシリーズです。

シリーズ第1回となる本セミナーでは, EVRIが取り組んでいる,広島の平和教育者のオーラルヒストリーをまとめた動画作成の意義と可能性に関して,動画作成に協力して頂いた平和教育者をお招きして,それぞれの立場から具体的な報告が行われました。

はじめに,司会の川口隆行先生(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。社会におけるアーカイブのもつ意義,平和教育者(教師教育)におけるアーカイブのもつ意義に触れながら,特に新しい知を作り上げるアーカイブの創造的機能を考える必要性について,セミナーの参加者全体で確認されました。

次に,草原和博先生(広島大学)宮本勇一先生(広島大学),小松真理子さん(広島大学大学院・博士課程後期)から「なぜアーカイブをつくったのか」と題して発表が行われました。草原先生からは,アーカイブ作成に至る経緯の説明があり,さらに今後の方向性として,多様性が担保されたアーカイブのデザイン,広島の平和教育の歴史的見取り図の作成,アーカイブを利用した新しい平和教育の提案が示されました。小松さんからは,取材対象や質問項目の選定で考えた問題,取材時における「聞き手」としての役割の難しさや葛藤について報告がありました。宮本先生からは,動画編集者としてコンセプトの限定化や技術的な限界と向き合った経験,そこから考えるアーカイブの活用可能性と持続可能性について報告がありました。

次に,動画作成に協力してくださった森下弘先生(元広島県立高校教諭),多賀俊介先生(廣島ヒロシマ広島を歩いて考える会・元私立中高教諭),野元祥太郎先生(小学校教諭)の3名の先生方に「どうアーカイブをうけとめたのか」についてお考えを語っていただきました。まず,それぞれの方に自分の動画についての感想や意見を確認し,さらにはお互いの動画を視聴しての気づきなどを自由に語っていただきました。公開された動画を通して,自分の教育活動を改めて振り返ることができたこと,三人の動画を見ることで自分の教育活動の歴史的位置を知ることができたことなどが話題となりました。また,三人の動画や解説動画で詳しく触れることができなかった話題,特に九〇年代後半の平和教育の動向についても話題になりました。

以上の発表を受けて,指定討論者の川口広美先生(広島大学)からは,平和教育アーカイブを利用した教師教育の可能性について,金鍾成先生(広島大学)からは,今後の平和教育・実践研究の体系化におけるアーカイブの果たす意義について,それぞれ問題提起がなされました。

また,ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「動画の解説もバージョンアップする必要があるのではないか」「アーカイブをオンラインで公開する際の問題はないのか」といった質問や「教育現場における平和教育実践の継承のために,動画をうまく活用できるのではないか」「動画編集される過程で切り落とされざるを得なかった要素について,他のメディア(Webサイト等)を用いてスピンオフ的な情報として配置してアクセス可能にしてはどうか」といった意見も出されました。平和教育者のアーカイブ構築に向けて,具体的にどのようなことを考えて行けば良いのか,参加者全体で理解が深まりました。

今後もEVRIでは「平和・市民性教育ユニット」ユニットを中心に,平和教育の実践と研究のあり方について引き続き検討してまいります。

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第81回定例オンラインセミナー「ポストコロナ第3フェーズ第1回「ポスト・コロナの学校教育をリデザインする視点」」を開催しました(クリックすると開きます)

【2021.06.19】第81回定例オンラインセミナー「ポストコロナ第3フェーズ第1回「ポスト・コロナの学校教育をリデザインする視点」」を開催しました

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2021年6月19日(土)に,第81回定例オンラインセミナー「ポストコロナ第3フェーズ第1回「ポスト・コロナの学校教育をリデザインする視点」」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に68名の皆様にご参加いただきました。

 

 「ポストコロナ第3フェーズ」シリーズは,「「コロナ」から学校教育をリデザインする学術知共創の可能性と課題」と称する共同研究プロジェクトの一環で開催される連続セミナーです。今年度は,「コロナと教育」に関する国内外の文献調査や「コロナと教育」に関する大規模アンケート調査等を実施するとともに,教育学分野以外の分野とも連携して学術知を共創し,その成果を6月・9月・12月・3月のセミナーで報告してまいります。

 

 シリーズ第1回となる本セミナーでは,2021年6月に「ポストコロナ第2フェーズ」シリーズの成果として刊行された『「コロナ」から学校教育をリデザインする―公教育としての学校を捉える視点―』(溪水社)(以下『リデザイン』本)を紹介するとともに,同書「第1章第2節コロナ禍の学校教育への影響の調査」の執筆者による話題提供(太田さん・藤原さん)と,同書に対する指定討論(田中先生・西岡先生)を中心に議論が展開されました。

 

 はじめに,草原和博先生(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。草原先生からは,過去1年間のEVRIの取組を振り返り,「第3フェーズ」の「第1回」の位置づけを述べると同時に,一定間隔でセミナーを開催することでポストコロナの学校教育を定点観測していく構想が示されました。さらに,教育関係者の間で,「コロナ」によって学校教育は変わったのか,変わっていないのか,変わる契機となるのかについての認知面での対立が生じているという見立てが提起され,学校教育の動向を継続的に検討していく必要性が提起されました。

 

 

 次に,森田愛子先生(広島大学)・太田淳平さん・藤原由佳さん(広島大学・博士課程後期生)から「ポスト・コロナ状況における学校・先生方の困りごと調査」と題して発表が行われました。報告では,2020年4月の緊急アンケートのフォローアップとして実施された2021年4月のアンケートの結果が示されました。はじめに「コロナ禍による困難があるか」の問いに対して「ある」という回答が多かったことが示され,続いて学力面,授業実施面,ICT対応,児童生徒指導等,教員側の業務負担の5つのカテゴリー別に,困難の具体が紹介されました。報告では,以前から報告されてきたマスクによって表情が読み取れないといった困難さが指摘されると一方で,学校行事が従来通りに運営できない困難さが浮かび上がってくるなど,「第3フェーズ」特有の課題も見えてきました。 また,コロナの影響が発生する以前の学校ではなく,「新たな学校になることが望ましいと思う」という問いに対して「あてはまる」という回答数が半数以上あったことが示され,学びの多様性の保障や学校が有する価値観の見直しを含めて,これからの学校教育を議論するための論点が提示されました。

 

 

 以上の発表を受けて,田中智輝先生(山口大学)から,「「コロナ禍」において見えてきた学校教育の課題とリデザインの視点」と題して指定討論が行われました。田中先生からは,ご自身も関わった著書『学校が「とまった」日―ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦―』の知見に基づいて,教員とのコミュニケーション頻度や学校での受容感が,休業下でも学びを持続させる原動力になっていたことを指摘し,休校前の状況がその後の状況にも影響している点を強調しました。またこの点は,『リデザイン』本の調査でも,「学力面」と「児童生徒指導等」の関連において類似の結果が示されていると指摘を受けました。さらに,ポスト・コロナの学校教育のリデザインに向けて考えておきたいこととして,①かねてより存在していた課題への着手とコロナ禍以降の新たな取組の検証,②公共空間のリデザインを含んだ公教育のリデザインの試み,③説得のためではない議論を開くためのエビデンスの提示,の3つの論点を提示されました。
続いて,西岡加名恵先生(京都大学)から,「自身の取組(京大の取組)を『リデザイン』本を読んで振り返る」と題して指定討論が行われました。西岡先生からは,『リデザイン』本の調査結果には,学校の良いところは残したいけれど,より良い学校を目指したいといった教師の願いが読みとれるとの指摘がありました。続いて2006年に創設されたE.FORUM(教育研究開発フォーラム)の活動に言及され,E.FORUMが全国の教員に交流機会を提供すると同時に,政策提言の場ともなってきたことが説明されました。さらに休業中には,子どもの学びを支える「子どもたち応援サイト」を学部生主導で開設するなど,子どもの生活現実に手を伸ばす取組が継続的に実施されてきたことが報告されました。最後に,本セミナーを通して議論したい論点として,EVRIは①どのようなビジョンを目指すのか,②学校教育を主軸としながらもどこまでを視野に入れるのか,③どのようなニーズに応えるのか,の3点を提示されました。
 ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「授業のICT化は学力を向上させるかという点について意見を聞きたい」,「コロナ禍における困難として学力面での困難が上げられたが,ここで言う「学力」とは,学ぶ力としての学力か,試験等で測るような教科等の学力なのか,あるいはどちらも含むものなのか」,「「説明をする授業」の重要性が下がってきている中で,ポストコロナの教員が,教員だからこそ子どもにできることは何か」といった質問が出され,議論は進展しました。最後に司会の木下博義先生(広島大学)からは,リデザインを問いながらも並行してリデザインが進行している現状認識が示され,同じく司会の丸山恭司先生(広島大学)からは,教師や親,研究者など多様な立場で本課題に応答していく場としてのEVRIセミナーの役割が提起されました。参加者全体では,多様なアクターを巻き込んだ議論を続けていくことの重要性が共有されました。

今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想します。

① 大学という場に,多様なアクターが学校教育のリデザインを議論する場を,またそれを実際に実践に移していく場を構築すること。
② ①の場を,教員の自主的な研修機会として活用できるしくみをつくること。とくに教員が,大学等が提供する研修の場を積極的に活用できるしくみをつくること。

今後もEVRIでは,引き続き,学校教育のリデザインを通して,教育そのもののあり方を検討してまいります。

詳細はこちらをご覧ください。


今後開催予定のセミナーはこちら(クリックすると開きます)
実施日 イベント名・活動名(クリックするとアクセスできます)
2021年8月29日 第87回定例セミナー「主権者教育の改革を考える(6)ーオーストリアの歴史・社会・政治科の教員との対話ー」
2021年9月18日 第91回定例セミナー「ポストコロナ第3フェーズ第2回「学校を軸に子どもと世界をつなぐ視点」
2021年11月9日 第●回定例セミナー「主権者教育の改革を考える(7)ー日本の社会参加を考えるー(仮)」
2020年12月18日 第●回定例セミナー「ポストコロナ第3フェーズ第3回「学びを軸に子どもと社会をつなぐ視点」
2022年3月5日 第●回定例セミナー「ポストコロナ第3フェーズ第4回「持続可能な学校づくりと社会創造の視点」

EVRI-HU PELSTE 2021 Peace Education Section

*準備中*


[新聞]

紙面2020年5月8日(金)読売新聞社

*紙面のウェブサイトへの転載申請を行い、2021年4月13日に読売新聞社の許諾を得ました。

2020年5月8日(金)の読売新聞朝刊(23ページ)で、本プロジェクトが紹介されました。「ヨミダス歴史館」会員の方はログインして内容をご確認頂くことができます。また、広島大学の図書館のPCもしくは学内サーバーから広島大学図書館のデータベースページを経由して「ヨミダス歴史館」にアクセスすることで、どなたでも無料で記事を閲覧することができます。


[新聞] 2021年4月7日(水) 中国新聞社
「政治議論 日常の場から 選挙に諦めもたないで」

*紙面のウェブサイトへの転載申請を行い、2021年4月16日に中国新聞社の許諾を得ました。(2021年4月17日掲載)

2021年4月7日(水)の中国新聞朝刊(28ページ)で、川口広美先生が紹介されました。「中国新聞PLUS日経テレコン21」会員の方はログインして内容をご確認頂くことができます。また、広島大学の図書館のPCもしくは学内サーバーから広島大学図書館のデータベースページを経由して「中国新聞PLUS日経テレコン21」にアクセスすることで、どなたでも無料で記事を閲覧することができます。


[論文] 2021年8月 

『Frieden lernen, aber wie? – Aktuelle Fragen der Friedenspädagogik
(平和を学ぶ,でもどのように-平和教育の現状と課題-)』

「No More Wars」

2021年8月発行の『Frieden lernen, aber wie? – Aktuelle Fragen der Friedenspädagogik(平和を学ぶ,でもどのように-平和教育の現状と課題-)』に,金鍾成先生,川口広美先生,草原和博先生の執筆による「No More Wars」が掲載されました。本論文は,ドイツ・ミュンスター大学のDr. Klaus Harnackが編集委員を務める学際的学術誌『Science and Peace (W&F)』において「平和教育/平和学習」の特集号を組みたい,ついてはミュンスター大学と交流のある日本の広島大学より寄稿を受けたい,このような要請を受けて実現したものです。
本論文では,EVRIでの平和・市民性教育ユニットの活動もたくさん紹介されています。ぜひご一読ください。引き続きEVRIでは,成果の国際的発信に努めてまいります。

論文はこちら

 


ContactEVRIとの共同事業等へのお誘い

EVRIは、自らのミッションとヴィジョンを達成するために、共同事業、共同研究、受託研究および講演等をお引き受けいたします。
ご依頼やご質問は、EVRIの運営支援チームに遠慮なくお問い合わせください。連絡先は次のとおりです。

e-mail :evri-info@hiroshima-u.ac.jp
Tel & Fax: 082-424-5265
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