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【2021.12.18】第103回定例オンラインセミナー「ポストコロナ第3フェーズ第3回「子どもたちの「声」を聴こう」」を開催しました

公開日:2022年01月14日 カテゴリー:開催報告

 

.開催報告

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年12月18日(土)に,第103回定例オンラインセミナー「ポストコロナ第3フェーズ第3回「子どもたちの「声」を聴こう」」を開催しました。大学教員や大学院生を中心に49名の皆様にご参加いただきました。

「ポストコロナ第3フェーズ」シリーズは,「「コロナ」から学校教育をリデザインする学術知共創の可能性と課題」と称する共同研究プロジェクトの一環で開催される連続セミナーです。今年度は,「コロナと教育」に関する国内外の文献調査および「コロナと教育」に関する大規模アンケート調査等を実施するとともに,教育学以外の分野とも連携することで学術知を共創し,その成果を6月・9月・12月・3月の計4回のセミナーで報告してまいります。

 

 

シリーズ第3回となる本セミナーでは,コロナ禍において子どもたちがどのように感じているのかについて、実際に小学生、中学生、高校生たちに行ったインタビュー動画の供覧と、それに対する教育学と心理学の立場からのコメント、およびブレークアウトセッションを利用したセミナーの参加者同士での議論・意見交換が行われました。

はじめに,三時眞貴子准教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。コロナ禍の学校教育実践を通してこれからの学校教育をリデザインするフェーズとして、これまでは現場の教員などの声や実践を見てきた一方で、当事者である子どもたちの声を聴く機会がなかったことを課題とし、子どもの「声」を聴くことでリデザインを考える場として本セミナーが位置付いていることが述べられました。具体的には、私たち大人にとっては非日常だと感じる状況を日常として生きている子どもの実態、つまり様々な社会的緊張や制限を強いられているように見える子どもたちの日常生活を、子どもたちはどのように生き抜いているのか、どのように楽しんでいるのかという私たち大人の問いかけに、子どもたちがどう答えたのかを自由に感じ、考えていきたいということがセミナーの参加者全体で確認されました。

次に,3本のインタビュー動画の供覧が行われました。動画はそれぞれ小学生、中学生、高校生各2名を対象に、約1時間ずつ行われたインタビューを各10分程度に編集したもので、コロナ前後で学校での様子や学校がない休日の様子がどのように変化したか、どう感じているかということに加え、コロナが無かったら、あるいは終わったら何をしたいのかについて、子どもたち個人の様々な「声」を聴くことができました。例えば、小学生へのインタビューでは学校では友達とお喋りができずつまらないという思い、中学生へのインタビューでは家にいてもオンラインでずっと繋がっていて話ができお互いをより深く知ることができたという経験、高校生へのインタビューではコロナがあったからこそ人とのつながりが大事だと感じられたという気持ちなどが語られていました。

 

次に,子安潤氏(中部大学)から「教育学の立場から」としてコメントが行われました。まず、子どもの生活や保護者の見る子どもの様子に関する調査研究の紹介がなされ、子どもの家での過ごし方は家庭によって異なるものではあるものの、総じてコロナ禍で子どもの生活はストレスの高いものになっているという情報が共有されました。次に、学校においては孤立的な学びの増加で子どもたち同士の関係が深まらず、オンライン上でのコミュニケーションは他者の反応が限られるために誤解が増えて子どもの関係が険悪になりやすい一方で、オンライン上で長く繋がっていることは見方を変えるとそれ以外の人々との繋がりが切れた状態とも捉えられると述べられました。さらに、オンライン上の活動においては、リアルの場合と異なって、誰にどんなコメントをしたのかがログとしてずっと残ることで事態が大きくなってしまう危険性があることが指摘されました。最後に、ブレークアウトセッションに向けて、このようなコロナ禍での子どもの生活に生じる制約をどこでどのようにカバーするのか、あるいはカバーできずに残るものは何かという論点が提示されました。

次に,金山元春氏(天理大学)から「心理学の立場から」としてコメントが行われました。まず、インタビュー動画での「声」は個別の状況であり、子どもたちそれぞれのものという意味と、語り手(子どもたち)と聴き手(インタビュアー)との相互作用で生まれたものという意味の2つの個別性があることが指摘されました。そして、子どもの姿は私たち大人とは切り離されたものとして理解されがちであるが、実際にはその子どもと関わる自分との相互作用として、あるいはこちらの子どもへの関わりの反映として現れるものであることが解説されました。次に、そうでありながらも発達心理学の知見における一般的な傾向も見受けられるとして、ギャンググループ、チャムグループ、ピアグループという概念を用いながら小中高生それぞれのインタビュー内容について分析がなされました。ブレークアウトセッションに向けては、学校から帰れば同調圧力から解放されたかつての子どもとは異なって、SNS以後の今の子どもは24時間365日気を使わなければならない生活を続けているのではないかという金山氏の疑問から、個人の時間と他者と繋がっている時間とのバランスはどうなっているのか,という論点が提示されました。

次に,ブレークアウトセッションに分かれて参加者間での議論が行われました。参加者は各グループに4,5人振り分けられ、20分程度の枠内で、子安氏・金山氏より提示された論点を中心に意見交換が行われました。各グループで司会と報告者を決め、円滑に充実した議論が進められました。

その後,メインルームでブレークアウトセッションの報告が行われました。人間関係や環境上の様々な制約がある中で、子どもはオンラインツールを使ってコミュニケーションを取ろうとするなどして大人の配慮に関係なくたくましく生きており、そのあり方に大人が励まされていると子どもの「声」を肯定的に捉える意見が寄せられました。一方で,制約を補うツールである子どものインターネットの利用をどのように指導するのかという意見や、子どものあり方は家庭の状況の写し鏡となっているのではないか、大人・教師の目の届かない場所に子どもたちが避難所を設けていることを許容する必要もあるのではないかという意見が出されました。各グループの報告を通して、「子どもが語りたいことではなく、大人が聴きたいこと」の答えとしての子どもの「声」に対し、私たち大人がどう向き合うのかについて考えていくべきことが了解されました。

次に,子安潤氏・金山元春氏からブレークアウトセッションの報告を踏まえ,改めてコメントが行われました。子安先生からは、コロナ禍での生活の「ひずみ」に直面した子どもの「声」から正と負の両面を捉えることと、「ひずみ」の中で困難を抱えた子ども一人ひとりの「個の問題」に応えることの重要性が述べられました。金山氏からは、今の子どもの姿は、それを見ている人自身が見ている姿であり、同じものを見たとしても、映る姿は見る人によって様々で異なることが再度強調されました。

 

最後に,川合紀宗教授(広島大学)から終わりの言葉として,インタビューの内容、子安氏・金山氏のコメントおよび参加者の議論から、子どものたくましさや柔軟さが感じられた一方で、様々な個別具体的な問題が山積していることの両面がうかがえたことを振り返りました。また,これまでの概念が通用しない今の状況を理解し、課題解決に取り組むには、私たちが時代の変化に追いつき、見通しを持っていくことが大事とまとめられました。

今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想しています。

①多様な子どもの声を「聴く」ことによる教育ヴィジョンの構想です。このたびのセミナーでは子どもの発言からポスト・コロナの学校や社会、生活について議論をしました。その声は個別的・具体的であるとともに、寄り添うべき多様な声,しかも声にならない声があること,も示唆しています。こうした個々の声を「聴く」ことと、そこから教育を構想していくことが,これまで以上に重要であると考えます。
②教育におけるデジタル化について、コロナ前の導入に向けた動向やその課題を踏まえた上で、ポスト・コロナのデジタル化の動向を検証する必要があると考えます。SNSやウェブを介した子ども同士のつながりや、子どもと社会のつながりは、教育におけるデジタル化によってさらに加速かつ変質していきます。デジタル化の恩恵のみならず,その副作用として生じる課題を含めて検討していく必要があります。

今後もEVRIでは,学校教育のリデザインから教育そのもののあり方を検討することをテーマに検討してまいります。


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


教育学研究科HPにも掲載されています


*第103回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。


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