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【2021.04.29】第75回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(5)―歴史・政治教育の教師をいかに育てるか-」を開催しました

公開日:2021年05月06日 カテゴリー:開催報告

.開催報告

「主権者教育を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。

 本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生を研究分担者として,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育は実施されていると報告されてはいるものの,その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まり,子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。そこで16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察してきました。
 主権者教育の「教師教育」をテーマとする本シリーズの第5回目は,2021年4月29日(土)に第75回のEVRI定例セミナーとして開催しました。大学院生や学校教員を中心に61名の皆様にご参加いただきました。第5回は,川口先生と草原先生が発表者を務められました。ヨーロッパで「CHE教科(subjects of Civics and History Education:公民・歴史に関する教科)」及び「CHE教師(公民・歴史を教える教師)」という概念が構想されていることに着目し,CHE教師がどのように養成されているのか,CHE教師の養成がなぜ求められるようになったかについて,本科研のオーストリア側のカウンターパートを務めるエッカー教授の論文・レポートを手がかりに報告いただきました。

 川口先生と草原先生の報告によると,①ボローニャプロセスの一環で欧州高等教育圏では大学の単位互換化が進んでいること,②並行して高等教育と教師教育の改革を通して欧州市民を育てる動きが活発化しており,オーストリアもそれに漏れないこと,③その結果,初等中等教育の歴史教育はナショナルな歴史を教えるだけではない,歴史に埋め込まれた現代的課題を,または欧州の文脈に埋め込まれた各国の政治的・社会的課題を探究させる歴史教育が期待されるようになったこと,④この動きは歴史と公民を統合して教える「CHE教師」「CDE教科」という概念に結実したこと,⑤各国の教育課程をCHE教科化するには制度的制約が大きいため,各大学ではCHE教師を養成し輩出することで,歴史系教科の実質的なCHE教科化を図っていること,⑥そのためにグラーツ大学の歴史教師の養成課程は,国際化,欧州化,市民教育化の方向で改革されてきたこと,などが報告されました。

 同発表に対して,指定討論者の吉田成章先生,池野先生から多様な論点が提起されました。具体的には,発表資料を眺める限り,欧州各国では依然として歴史科が中心的な地位にあり,CHE教科化は遅れているのではないか,欧州の教職課程改革は日本に何を示唆しているのか,どのような教員養成を行うことが主権者教育(市民性教育)を担う教師の育成につながるのか,などの問いが示され,それをめぐって意見が交わされました。

最後に司会の金先生が,ご自身の博士論文研究で直面した課題に言及されました。すなわち,アジア各国の異なる支配的な歴史言説と対話しつつ,子どもが歴史の語りをつくっていける教師を育てることが急務だが,それは決して容易ではないこと,またアジア各国で歴史教育のあり方をめぐって議論していくためにも,研究者の間で共通の言語(概念)をもつことが大切なことが確認されました。本シリーズでは,引き続き欧州・オーストリアの政治教育の動向を手がかりにして,「日本の主権者教育の改革を考える」視点を提供してまいります。

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。

 


*第75回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

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