【2020.11.22】第55回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(3)―選挙の事前・事後教育をなぜ・どのように行うか」を開催しました
Ⅰ.開催報告
「主権者教育を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生をメンバーとして,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。文部科学省の調査によると,多くの学校で主権者教育が行われていると報告されてはいるものの,その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まっており,子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。
そこで16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察していきます。
本シリーズの第3回目として渡邉巧先生と金鍾成先生が,オーストリアの「歴史・社会・政治科教育」における選挙前・選挙後教育の実践動向を報告しました。オーストリアでは,EU議会,大統領,国会,州議会,地元議会等が実施されるたびに,選挙関係の指導が行われています。その意味で選挙教育は日常化した教育活動であって,決して特殊な位置づけではありません。両先生によると,調査対象校では普段の授業でも社会の争点やスキャンダルなどが取り上げられており,それは選挙教育時でも変わらないこと,そして仮想ではないホンモノのニュースや政党の主張を取り上げる点では共通するといいます。しかし,指導の重点や教師のスタンスには,個人差がみられたようです。①一人ひとりの投票行動にあたっての判断基準づくりを重んじる教師もいれば,②制度や政策を批評する科学的知識の習得と活用を重んじる教師もいれば,③政治的な談話を楽しみ,政局をめぐって対話することを重んじる教師もいました。そういう政治教育が社会的に承認されており,そのための学習アプリや選挙データが広く提供されているところに,オーストリアの特色があるようです。
後半では,池野範男先生による指定討論が行われました。とくに特定の人(候補者)を選ぶのではない政党を選ぶヨーロッパの選挙制度の特徴が指摘され,それが本報告のような実践を可能にしている可能性が指摘されました。また日本への示唆について質問があり,上述のような指導の再生産を可能にする文化を醸成していく必要性が確認されました。
司会者の草原和博先生と川口広美先生からは,教室空間は社会空間と隔てられることなく連続するとともに,社会空間から教育的に区画された特別な空間であることも指摘されました。具体的には,選挙権を持たない(移民や16歳未満の)子どもにも模擬投票の機会を認めること,実際の選挙結果とは異なる(若者に偏った)投票傾向が見られること,また社会のパワーバランスから解放されて主体的な意見が尊重されやすいことなど,教室空間の虚構性と非現実性も確認されました。
提案者と指定討論者との対話を通して,オーストリアの選挙前・選挙後教育から浮かび上がってくる政治教育の意味とその背景が確認されました。本シリーズでは,引き続き「日本の主権者教育の改革を考える」指針を考えてまいります。
Ⅱ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
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*第55回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。
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