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【2022.01.08】第104回定例オンラインセミナー「政治的中立性をめぐる日本の教師(2)現職教員の調査から」を開催しました。

公開日:2022年02月11日 カテゴリー:開催報告

 

.開催報告

 

 

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,平和・市民性教育ユニットの活動の一環として,2022年1月8日(土)に,第104回定例オンラインセミナー「政治的中立性をめぐる日本の教師(2)現職教員の調査から」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に84名の皆様にご参加いただきました。

日本の民主主義教育の実現のために「論争問題学習」に注目しています。本シリーズは,(1)日本の教師は,「政治的中立性」や「論争問題学習」をどのように捉えているのか,(2)(1)の結果を踏まえると,今後どのような教師教育や専門性開発が求められるか,について考察を深めていきます。なお,本シリーズは,科学研究費_若手「社会科教師は論争問題をどのように捉えているか―「政治的中立性」との関係から」(研究代表者:川口広美)の研究公表の一環として実施されるものです。

シリーズ第2回となる本セミナーでは,日本の社会系教科の教師が論争問題学習をどのように受け止め,進めているか。なぜ,そのように進められているかに関しての2本の発表と,それについての報告がありました。

はじめに,司会の川口広美先生(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは,論争問題学習は民主主義教育の推進にとって重要であるという立場をとること。しかしながら,論争問題学習が積極的に行われていないという実態があることが示されました。以上の問題意識を踏まえて,今後,論争問題学習をどのようにして進めていくかという教師教育や研究の方向性を検討することの重要性がセミナーの参加者全体で確認されました。

 

続いて,2つの話題提供がなされました。
まず,玉井慎也さん・田中崚斗さん・野瀬輝さん・小野創太さん(広島大学院生),奥村尚さん(独立研究者),川口先生(広島大学)から「論争問題学習に対する教師のスタンス:全国地理歴史科・公民科教師への質問紙調査を基に」と題して発表が行われました。発表では,10個の論争問題を学習することに対する地理歴史科・公民科教師のスタンスについての第一次調査結果として,主に次の2点が報告されました。①多様な論争問題を地理歴史科・公民科で取り上げることが適切だと考えている積極的な姿勢の教師が多い一方で,実際に論争問題学習を行っている教師はごく少数であったこと。②論争問題の具体的な問い(イシュー)ごとにスタンスが変わる教師が多数を占めていること。こうした①・②の結果を踏まえ,論争問題学習の意義や意味を伝えるだけでは教師教育として十分でなく,イシューレベルでの丁寧な検討を行う研究が今後重要になることなどが示されました。

 

次に,金鍾成先生(広島大学),岡田了祐先生(お茶の水女子大学),村田一朗さん(広島大学院生),川口広美先生(広島大学)から「教師は社会の生々しい問題を教える際に,何をどのように考慮するか―同性婚を授業で取り上げた二人の社会科教師のゲートキーピング―」と題した発表が行われました。

本発表は,「社会の生々しい」問題として「同性婚」を取り扱った2人の教諭の事例をケーススタディとして取り上げ,どのように行ったのか,なぜ行ったのかを明らかにしました。調査の結果,両教師共に同性婚を扱うことを正当化する自信があったこと, 子どもの反応に対する課題・怖さを感じ,それぞれ解決策を講じていたこと,また自由なカリキュラムがデザインできる環境が促進する要因になり得ることを説明しました。同性婚を扱うことに対して,教師個人がリスクを背負うことになっている現状では,進めることが難しく,環境を整備する必要があることが今後の課題として見えてきました。

 

以上の発表を受けて,2名の指定討論者の先生からコメントをいただきました。

まず,岩崎圭祐先生(佐川町立佐川中学校)からは,ご自身の実践者としての経験を踏まえたコメントがありました。論争問題学習に対する教師のスタンスが文脈依存的であると同様に,論争問題学習を行う/行わない要因も文脈依存的ですそのため,今後論争問題を扱うためには,どの時期にどのような支援を行えばいいかを,深めることが重要ではないかという助言を頂きました。また,政治的中立性と論争問題学習についての近年の言説そのものも一度検討する必要性があることも調査結果から見えてきた点であると説明いただきました。

続いて,溝口和宏先生(鹿児島大学)からは,2つの調査についての質問と共に,今後,「民主主義観」や「社会観」との検討をあわせて行うことが重要ではないかという提案をしていただきました。民主主義教育としては,共同体の中で生きる主体形成の側面と共同体を改善する社会批判の側面の双方を育成することが求められます。そのため,教師の実践や受け止めの背景にある民主主義観にまで迫ることで,より深い分析が行えるのではないかという助言をいただきました。また,文脈依存性についてもさらに深めていく必要があると説明されました。

 

ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「教師の子ども観について掘り下げる質問項目は存在したか」,「高等教育と中等教育の違いは何か」,「年間計画においてどのように位置づけられるか」といった質問や,「論争問題学習を促進するための環境整備の必要性は理解できた反面,実際は難しさもある」といった意見も出されました。コメントや質疑を踏まえ,論争問題学習を促進するには,理論的背景と実践の条件の双方についての目配りや深化が重要であることを確認することができました。

今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想しております。

①論争問題学習を進めていくためには,その重要性や意義を,より丁寧に伝えていくことが必要です。児童・生徒の学習

 への動機付けに効果的といったところを超えて,民主主義教育としての重要性を示していくことが相当します。

②重要性や意義を伝えるだけでなく,イシューや学校の文脈ごとに,論争問題学習についてどのような難しさが発生しそ

 うか,どのように乗り越えられるかを検討し,教師が抱える不安の可視化とその解消を促すツールを提案していく必要

 があります。

③実践上のリスクを教師一人に担わせる現状では,リスクが伴う論争問題学習は促進されません。教師の自由なゲートキ

 ーピングを促進する体制を整備してゆくことが重要です。

今後もEVRIでは平和・市民性教育ユニットを中心に,「政治的中立性をめぐる日本の教師」について引き続き検討してまいります。


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。



*第104回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

No.104ポスターのサムネイル

教育学研究科HPにも掲載されています


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