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2018年8月30日更新
2019年10月9日更新

 

 

0. Introductionはじめに

本ページでは、広島県教育委員会より広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が受託した取組を紹介します。

 

受託研究
●研究題目 :「広島創生イノベーションスクール」サマースクール(国際協働型プロジェクト学習)

●研究目的・内容: 広島の教育資源(平和)を活用した国際協働型プロジェクト学習のプログラム開発

 

1. Background 実施の経緯・背景

広島県教育委員会の動画「広島創生イノベーションスクール グローカルスクールの様子

本取組は、広島県教育委員会・学びの変革推進課が推進した3か年の教育プロジェクト「広島創生イノベーションスクール~グローカルスクール in 広島~」の集大成として実施されました。広島県内の高校13校から集まった約90名の高校生が、海外4ヶ国のパートナースクールの生徒達とともに、「2030年のより良い未来」の実現のために様々な社会的な提言・発信に取り組みました。

 

出典:広島県教育委員会「広島創生イノベーションスクール 概要」平成28年5月

 

3カ年の集大成となる「グローカルスクール@広島」は、「サマースクール」「広島フォーラム」「ホームステイ」の3つによって構成されています。この度、教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は受託研究として、「グローカルスクール@広島」の導入に位置づく「サマースクール」プログラムの開発に携わりました。このプログラムは、広島の教育資源(平和)を活用した国際協働型プロジェクト学習としてデザインされ、7月24日~26日の3日間、JMSアステールプラザを中心会場としてワークショップ形式で展開されました。

 

 

2. Aims & Objectives 実施のねらい

The Last 10 Feet of the Hiroshima Peace Memorial Museum

 

2017年7月末の猛暑と局地的豪雨に見舞われた3日間、海外27名と広島県内10名、計37名の高校生は、広島創生イノベーションスクール・サマースクールのためにヒロシマの地に集い、寝食をともにしました。

オバマ大統領の広島訪問の批評に始まり、アジア各国が伝えるオバマ来広記事を比較読みする、平和記念資料館の展示を見る、来館者に展示の是非をインタビューする、被爆者のお話を聞く、原爆投下時の状況を日記で再現する、慰霊碑「過ちは繰り返しませぬから」の主語を議論するといった、プロジェクト・ベースドな学びを経験しました。

このヒロシマの地で行われた3日間の探究的な学びは、米国・ニュージーランド・インドネシア・フィリピン・日本という第二次世界大戦の負の歴史と直接的・間接的に関わった国々の高校生が、ともに「平和」の意味を追究する貴重な場となりました。

 

3. Assignment 高校生にとっての「平和」とは

 

本プロジェクトに参加する高校生に対して、事前に平和観に関するアンケートをとりました。「あなたにとっての”平和”をパワーポイントで1枚のスライドに表現してください」といった事前課題を示し、それぞれの”平和”を表現してもらいました。

結果として、参加者からは多彩な平和観が集まりました。例えば、「ネイチャー・生命系」「共生・相互理解系」「伝統文化・日常生活の享受系」「友情・趣味の謳歌系」「スピリチュアル・祈り系」「正義・社会貢献系」のようなイメージが共有されました。

 

プロジェクトの前に高校生が考えた平和のイメージ

スライドショーには JavaScript が必要です。

 

4. Program 3日間の学びの履歴

 

ヒロシマの地で、3日間をともに過ごしました

 

私たちは、高校生の持っている”平和観”をヒロシマでの経験を通じて揺さぶり、ヒロシマ(における原爆投下)の背景やヒロシマを、米国、日本、韓国、中国等の多角的な視点で捉えることができるようになってほしいと考え、異質な他者との対話を通して”平和観”の再構築をうながす「国際協働型プロジェクト」学習を開発しました。参加した高校生らが再構築した”平和観”は、後掲する作品群:広島平和記念資料館の「ラスト10フィート」で確認することができます。

 

1日目 7月24日(月)


午前
(1)広島のイメージについて語る。
(2)オバマ大統領の広島訪問のビデオを視聴する。
(3)以下の点について各自の意見を記述し、みんなの前で意見表明する。
○ 米国大統領の広島訪問にそこまで時間を要したのはなぜだろう。
○ あなたはオバマ大統領の広島訪問をどのように評価するか。
(4)中心課題を構築する。
  「第二次世界大戦における日本での核兵器使用が私たちに問いかけていることは何か」
   What is the lasting impact of the use of nuclear weapons in Japan during WWII?
(5)中心課題に応えるためのプロジェクトを提起する。
  「広島平和記念博物館のラスト10フィートをデザインしよう」
   Design the last 10 feet of the Hiroshima Peace Memorial Museum!
(6)補助発問1を提示する。
○ 問い:米国が日本で核兵器を使用するに至った経緯は何だろう。
○ 活動:核兵器使用に至る一連の出来事を、各自でフローチャートに表そう。
(7)広島平和記念資料館での活動計画を説明する。
午後
(8)会場から広島平和記念資料館に移動する。
(9)広島平和記念資料館を観覧し、上記の問いに取り組む。
(10)観覧者に聞き取り調査を行う。
(11)会場に戻る。
(12)補助発問2を提示する。
○ 問い:原爆は広島にどんな影響を与えたか、市民はそれにどのように対応したか。
○ 活動:1945年8月6日に広島で生活をしていたとして日記(journal entry)を書こう。
(13)観察と聞き取り調査の結果を共有する。
観覧者が資料館の展示に抱いた印象や不満をチャートに表す。
(14)資料館が参観者に伝えようとしているメッセージと、広島の状況を取り巻く諸価値とのギャップを見つける。

 

2日目 7月25日(火)


午前
(16)補助発問3を提示する。
○ 問い:原爆死没者慰霊碑の碑文「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」の主語とは何か(weとは誰か)。
○ 活動:碑文の主語(weとは誰か)に関して自分の考えをつくり、みんなの前で意見表明をしよう。
(17)広島平和記念資料館のラスト10フィートについて、下記の点を検討する。
○ ポスターや映像、3次元モデルなどのデザイン例を紹介する。
○ 現在のラスト10フィートを,私たちが考える「平和」に基づいて作り替える準備をする。
○ 「100円ショップに行こう」の活動計画を説明する。
○ 各グループでデザイン案を話し合う。
午後
(18)本通りに移動。昼食後、100円ショップに行く。
(19)100円ショップでラスト10フィートを作るのに必要な物品を購入する。
(20)会場に戻る。
(21)ファシリテーターとデザイン案を検討する。
(22)広島平和記念資料館のラスト10フィートを、以下の点を含めて作成する。
○ ラスト10フィートの展示品
○ デザインの説明文(100ワード以内の解説パネル)
○ デザインの提案書(ラスト10フィートにふさわしい理由)

 

3日目 7月26日(水)


午前
(23)本日の展示会の運営のし方を説明する。
(24)展示品を仕上げる。
(25)グループ単位で巡回して、展示品のプレゼンテーションを聴き、お互いの「平和」を出し合う。
午後
(26)ピース・プレイグランド:3日間のリフレクションを行う。
○ ステーション1:フォーカス・インタビュー
○ ステーション2:折り鶴をつくる
○ ステーション3:「平和」に関する俳句をつくり、笹の木に飾る
○ ステーション4:サマーススクールの思い出を綴ったハガキを書く
○ ステーション5:サマースクールの宣伝パンフレットを描く
(27)修了証書を授与する。

 

 

 

5. Design 広島平和記念資料館の「ラスト10フィート」9作品

 

 

3次元アート作品


The Tree of Peace「平和の樹」

 

「樹」とは、過去、現在、そして育てられ成長していく柳のこと。この平和の樹は、広島の人々を多数殺害した出来事を思い起こさせるとともに、人間の結びつきを通した平和な未来への希望を表している。この樹が成長し続けるには、人類もまた自分たちが成長しうる平和な状態に置かれていなくてはならない。葉は、佐々木貞子の話で知られる広島にとって重要な意味をもつ折鶴で形づくった。樹として柳を選んだのは、原子爆弾を生き抜くことのできた植物種の1つに他ならないからである。平和と平穏のために励む人々の努力によって、この平和の樹は、これからも美しい花を咲かせ続けることだろう。

 

 

メッセージボックスとプレゼンテーション

Exchanging Peace「行き交う平和」

 

平和への思いは、日本を越えて世界全体へと広がる。この資料館で第二次世界大戦での広島の被害とその後の復興物語を眺めたのち、(資料館の最後で)世界の人々の平和への思いを、このメッセージボックスを介して手から手へと交換する。(来館者は)この象徴的な折鶴の紙に平和への思いを書き残し、また別の思いが書き残された折鶴を持ち帰ることで、地元の人と共有する。平和の構築をグローバルに仲介していくためには、平和をめぐる多様な意味に共感し、受容する文化を培わなくてはならない。世界の全ての地域の全ての人々が、ともにグローバルな理解を築いていくために。

 

 

小さな装置美術モデル(インスタレーション)

The Power of Empathy「共感の力」

 

この相互対話的(interactive)な平和の装置美術は、平和の創造という機会を実体験できるようにデザインされたものである。大きな政策として平和の実現は、頭で理解することはできるかもしれないが、それは決して自分たちにとっては身近な存在ではない。本展示での(複数の紐を引っ張って)カーテンを開けるという行為は、平和の意味と平和のつくられ方について無知に甘んじないことを、また単独行動ではなく協働するべきことを、すなわち、対話とともに連携すべきことを意味する。成功のためには、共感が欠かせない。これらはいずれも、平和の礎となるものである。この装置によって、他者と平和を気楽に創造する経験が得られ、平和について理解を深める機会ともなるだろう。

 

 

3次元アート

Looking to The Past, Present, Future and Peace Within
「箱の中から過去を、現在を、未来を、そして平和を見つめる」

 

戦争または破壊的な行為をもとに、汝が何者であるかを語らしめるな

 

そこからは、平和をみつけよ

 

それができたときにこそ、汝は前進できるのだ

写真と記録は、たくさんのことを語りかける。資料館を歩くと、原子爆弾が広島に与えた影響を概観することができる。しかし、この箱は、被爆者の目を通して世界を眺めることを可能にしてくれる。爆弾は空を照らし出し、目には白い閃光が走り、そして町一帯は火で焼き尽くされた。一度起きたことは、すぐに歴史となる。だからこそ(私たちは)歴史と結びつき、歴史に息吹を与えることで、歴史を過去のものとし、そして地球の未来平和にむけて前進することができる。

 

ポスター

What Now?「今どうなっているか」

 

第二次世界大戦における日本での核兵器使用が永続的に問いかけていること。その答えの1つが、私たちの中で、また私たちの周囲で、「平和」がもっている意味・重要性である。私たちは資料館を見学したあと、展示品をめぐって(他の来館者と)考えを共有する機会がないことに気付かされた。そこで本ポスターには、平和が意味することや平和のために行いたいことについて、世界各地からの来館者に書き込んでもらいたい。

 

 

地図

World Peace Recognition「世界平和の再認」

 

昨日はもう歴史になってしまったが、明日はミステリー、今日とは天からの恵みのことである。本展示は、広島のためだけのものではない。世界の人々のためのものであり、平和記念資料館を訪れた人々のためのものである。とりわけ第二次世界大戦に従軍した人々のためのものである。原子爆弾の投下で戦火に倒れた人は数知れないが、瓦礫は修復され、平和を喚起するシンボルへと形を変えた。本展示の目的は、広島平和記念資料館が広島市民のみならず世界の人々とつながっていくためのものである。では、なぜつながるのか。それは、つながることは関係性に帰着し、関係性を築くことが、意識下で(自分の役割を)喚起することになるからである。すなわち、つながるとは、対象との絆を強めることに他ならない。本展示にシールを貼付することは、すなわち、世界の人々にむけて平和の支持を宣言するのと同意なのである。
皆さん、お願いです。あなたの出身地の国旗にシールを貼ってください。次に本展示をじっくり眺めて、他の来館者がシールを貼っている箇所をよく調べてみてください。

 

 

3次元モデル

Hiroshima’s Tragedy「広島の悲劇」

 

広島への原爆投下後、すべてが破壊された。多くの人が命を失うなかで、恐怖のなかで命を守った人もいた。平和は失われたが、数か月を経ると、土地は蘇り、希望の光を放った。数か年を経ると、文化が再建された。市民は前向きな姿勢でエネルギーを燃やし、いろいろと新しいものを創造した。家の中では、自分たちの平和を再建し始めた。誰も憎しみとともに生きることなどしなかった。それに代わって、過去を振り返り、失ったものを思い起こし、そして良き人間になることを約束した。命を失った家族を思い起こし、安らかに眠ってほしいと願い、過ちは決して繰り返さぬことを誓った。

 

 

What is Peace?「平和とは何か」

 

私たちのグループは、第二次世界大戦の歴史を捉えた写真をぶら下げたボードをデザインした。これらの写真は、真珠湾攻撃から広島での原爆投下に至るタイムラインを表現している。背景のボードには「平和とは何か」と記し、平和に対する人々の心を開こうとした。ボードの縁は、ランダムに黄、赤、黒、茶、緑、青の各色で着色した。多様な色のランダムな着色であっても、それぞれの色が見事に統合されることで、美が創造される。私たちは、このデザインを通して、この世界に生きる人類として、統合が織りなす美を、そしてこの地の平和を創造しようとしたのである。

 

 

3次元構造物

Morals of Science「科学のモラル」

 

私たちのグループが信ずることは、科学は、善悪いずれにも転ずる可能性があるということである。科学技術が発展しても、私たち人間がその使い方を知っていなければ意味をなさない。科学技術の発展にあわせて、私たちは他者への共感と慈しみの意識も高めなくてはならない。原子爆弾は、悪の目的で使用された偉大なる科学的発展の一例である。さらなる悲劇を生み出さないためにも、科学技術の使い方には十分留意する必要がある。
私たちは科学にそなわる悪の側面を、紙幣で作られた原子爆弾を模して、それはまさに死によって消耗される金銭に過ぎないことを示そうとした。一方で科学にそなわる善の側面は、薬品製造という平和的な方法で他者に寄与しうることを伝えようとした。カプセル錠剤の模型は、この点を表象しようとしている。

 

 

 

6. Conclusion 取組の意義・意味

By EVRI, For Everyone: Innovative Educational Design

 

本プログラムの意義は、以下の3点にあると考えます。第1に、「広島平和記念資料館のラスト10フィートをデザインする」ことで、自分たちの平和観を根底から問い直し、再構築し、それを同僚や専門家に提言する「真正な学び」の在り方を提案できたこと。第2に、異質な他者と対話し、多様な視点と出会う「空間」が、グローバル・シティズンシップの形成に一定の効果を発揮しうることが確かめられたこと。第3に、教育委員会と大学という2つの「専門機関の協働」を通して、Innovative Educational Designを切り拓いていく可能性と方策が見えてきたことです。上に掲載されたプログラムの内容や作品をじっくり鑑賞して、上の3点に関する私たちの理解を検証いただきたく存じます。

ー草原和博・金鍾成

————————–Special Thanks————————–
広島大学関係のファシリテータの皆さん(50音順)
安倍成美さん・川口広美准教授小松真理子教育研究推進員・鈩悠介氏・裵 芝允(ベ・ジユン)氏・山根治さん
ユニタールの皆さん

 

 

7.Linksリンク

Posterポスター

活動をまとめたポスターです

Pカンボジア草の根事業 ppt版のサムネイルPDF file >

 

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