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【2021.08.29】第87回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(6)-オーストリアの歴史・社会・政治科の教員との対話-」を開催しました

公開日:2021年09月22日 カテゴリー:開催報告

.開催報告



広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年8月29日(日)に,第87回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(6)-オーストリアの歴史・社会・政治科の教員との対話-」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に54名の皆様にご参加いただきました。

「主権者教育の改革を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生が研究分担者として連携し,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組を手がかりに,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」にむけた戦略を考察してきました。

シリーズ第6回となる本セミナーでは,実践者の教育観とカリキュラムデザインに注目します。これまでは研究の「対象者」として語られてきたオーストリアの「歴史・社会・政治科」の教師が,実践の「主体」として,自らの声で自らの教育観を語る場として企画されました。

はじめに,Ecker, Alois 先生(ウィーン大学)より,基調報告としてオーストリアの教育改革の動向が概説されました。オーストリアの歴史教育は,ファシズムへの反省を踏まえ,歴史教育と市民教育を切り離すことなく接続させ,過去と現在の関係を重視し,「歴史的思考」と「批判的で責任感のある市民性」を一体的に育成してきたところに特質があることを述べました。

続いて,Zapusek, Bernhard先生,Lang, Thomas先生,Buchegger, Karin先生より,それぞれの先生方にとっての「良き市民」「良き学校」「良き授業」について報告が行われました。Zapusek先生は,子どもが学校や授業で民主主義を肌で感じる機会を作ることを大事にしていること,とりわけ支配の構造を見抜き,疑うことができる資質の大切さを語りました。Lang先生は,メディアを読み解き,批判的かつ反省的な意見を形成する意義を主張するとともに,「スペイン風邪」と「covid-19」のパンデミックを比較した自らの実践を紹介しました。Buchegger先生は,人道,連帯,寛容,平和,正義,その他の民主的価値の重要性と説きました。とくに概念や史料を扱うこと,これらの諸価値は,個々の教科に限られず教科横断的に学校生活全体で育まれていることを強調しました。

 

 

以上の発表を受けて,2名の研究者よりコメントが寄せられました。 Marschnig, Georg先生(グラーツ大学)は,まずオーストリアの「歴史・社会・政治科」の特質として,①主体志向,②ソース志向,③コンピテンス志向,④政治教育の4点を提示しました。それを踏まえ,最年長のZapusek先生を,論争を通して子どもを成熟させようとするコンピテンス志向の先駆的な実践者として評価するとともに, Lang先生の実践をソース志向の典型として,またBuchegger先生を学習者の主体性=子どもを尊重した実践者として位置付けました。

近藤孝弘先生(早稲田大学)は,日本で社会科教員の養成に従事している研究者の立場から,3人の教育観に強い共感を示されました。一方で,必ずしも3人の実践を安易に日本に転移させる議論には与しないこと,むしろオーストリアでこのような自由な教育が実践できる状況が構築されてきた歴史的経緯こそ問われるべきであり,日本においても政治教育に関するコンセンサスを時間をかけて形成していく可能性を提起しました。

 

終わりに,池野範男先生(日本体育大学)より,本日の議論のまとめが行われました。3人の教師の語りには,民主主義を重視し,歴史上のテーマを取り上げながらも,過去と現在の対話を通して,共同で意見形成し、決定し、遂行し、結果を判断していくという点で共通の構造が認められると指摘しました。また,その構造に,日本の社会科教育は学ぶことができると示唆しました。


今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想してします。

以下の2点を支援する法・制度を整備していくこと

 

①学校内での政治的対話を期待し・許容する,学校外の規範・システムを構築する。

 

②学校外の様々な主体や議論を取り入れて,学校内の政治的議論を活性化させる。

 


今後もEVRIでは,平和・市民性教育ユニットを中心に,引き続き欧州・オーストリアの政治教育の動向を手がかりにして,「日本の主権者教育の改革を考える」視点を提供してまいります。

 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


教育学研究科HPにも掲載されています


*第87回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

 


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