menu

【2021.10.10】第94回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(7)日本版「ボイテルスバッハ・コンセンサス」考」を開催しました

公開日:2021年10月27日 カテゴリー:開催報告

.開催報告



広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年10月10日(日)に,第94回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(7)日本版「ボイテルスバッハ・コンセンサス」考」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に85名の皆様にご参加いただきました。

「主権者教育の改革を考える」シリーズは,科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。本科研では,草原和博先生を代表者に,日本体育大学の池野範男先生,広島大学の川口広美先生,渡邉巧先生,金鍾成先生が研究分担者として連携し,オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。16歳から選挙権を付与し,学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組を手がかりに,主権者教育の「実質化」,そして社会科教育の「再政治化」にむけた戦略を考察してきました。

シリーズ第7回となる本セミナーでは,日本の政治教育が直面する課題と政治教育を推進するための原理・原則に関して意見交換が行われました。

はじめに,草原和博(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。これまでの6回の連続セミナーを受けて,1976年に提唱された政治教育の基本原則:ボイテルスバッハ・コンセンサス1)を,日本的な文脈から再構築するための意見交換をしたい旨が示されました。近藤孝弘の見立てによると,政治教育を,政党が掲げる政治目標を達成する手段とみなすのではなく,子どもの政治的成熟を目標に求めることで本コンセンサスは成立したといいます。しかし,それから45年が経過し,時代状況が移り変わる中で,社会全体でこれからの政治教育の中心課題をめぐって議論していく必要があるとの問題意識が示されました。

次に,池野範男先生(日本体育大学)が,「セミナーの振り返り-オーストリアの教育実践が示唆すること-」について報告しました。池野氏は,歴史と公民を統合した教科課程に注目するとともに,(歴史的な)状況把握から行動のあり方を分析し,その結果に基づいて自己の(現在・未来の)行動を判断する学習指導の構造に,オーストリアの「歴史・社会・政治科」の特質を見いだしました。

 

続けて,①教師,②子ども,③教育課程,それぞれの側面と政治教育との関わりに焦点を当てて,話題提供が行われました。

初めに,吉田純太郎さん(広島大学・院)が,「高校教師は政治的中立性をどのように受けとめているか-西日本の調査結果から-」について発表しました。吉田さんは,西日本の高校公民科教師約350人に対する質問紙調査の結果に基づいて,論争問題の指導に対する積極性,および論争問題の指導頻度を左右しているのは,論争問題を扱う上での教師の自己効力感にあると指摘しました。

次に,小栗優貴さん(広島大学・院)は,「中学生の社会参加を促進・抑制している教育課程とはなにか-3県15校の調査結果からー」について発表しました。小栗さんは,約1500人に対する調査結果に基づいて,学校外との学び合いよりも学校内での学び合いの方が社会参加を促進すること, 良好な教師-生徒間関係よりも良好な生徒-生徒間関係の方が社会参加を促進していることを指摘しました。

最後に,北川弘紀先生(兵庫県立篠山鳳鳴高等学校),古塚明日人先生(同西宮香風高等学校),望月翔平先生(兵庫県立西宮香風高等学校),小栗優貴さん(広島大学・院)らのグループは,「社会参加を促進する教育課程をいかにしてつくり出すか-ある定時制高校の実践から-」について発表を行いました。発表者らは,子どもの表現必ずしも言語能力にのみ依存しない教科連携のあり方,理想的に準備された対話に開かれた空間といっさいの配慮なき現実の対話空間,それぞれの空間に参加させる教育課程のあり方が提起されました。

 

以上の発表を受けて,お二人の指定討論者がコメントをされました。唐木清志先生(筑波大学)は,社会参加を評価する規準づくりの必要性とエンパワメント格差に注目した本研究の意義に着目されました。 田中伸先生(岐阜大学)は,政治教育の規準=コンセンサスを定めるという行為そのものに対する疑義が示されました。

 

この指摘に対して,企画者の草原先生からは,コンセンサスづくりの主体と手続きの問題を含めて,政治教育という場で社会的合意をつくりだす必要性が指摘されました。総括コメントを述べた池野先生からは,教師の実践を抑圧・否定するためのコンセンサスではない,より積極的な実践を支え・促進するためのコンセンサスの必要性が提起されました。


以上の「日本版・ボイテルスバッハ・コンセンサス」をめぐる議論にもとづいて,

 

・教師には,学校で自立的に発言・表現できる権利を与えるべき

 

との政策を提言します。


引き続きEVRIでは,平和・市民性教育ユニットを中心に,引き続き欧州・オーストリアの政治教育の動向を手がかりに,「日本の主権者教育の改革を考える」視点を提供して参ります。

 

【註】

1) 「ボイテルスバッハ・コンセンサス」は,以下の3点。

① 生徒が自分の意見を持つのを教員はさまたげてはならない。

② 学問と政治の世界で議論のあることは,授業の中でも議論のあることとして扱わなければならない。

③ 生徒は自分の関心・利害に基づいて政治に参画できるようになるべきである。

 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第94回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

No.94のサムネイル

 


教育学研究科HPにも掲載されています


本イベントに関するご意見・ご感想がございましたら、
下記フォームよりご共有ください。


 

※イベント一覧に戻るには、画像をクリックしてください。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。