【2021.9.18】第91回定例オンラインセミナー「ポストコロナ第3フェーズ第2回 「コロナ下における学校カリキュラムを問いなおす─学校行事・特別活動・総合学習の事例から─」」を開催しました
Ⅰ.開催報告
広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2021年9月18日(土)に,第91回定例オンラインセミナー「ポスト・コロナ第3フェーズ第2回セミナー「コロナ下における学校カリキュラムを問い直すー学校行事・特別活動・総合学習の事例からー」」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に52名の皆様にご参加いただきました。
「ポスト・コロナ第3フェーズ」シリーズは,「「コロナ」から学校教育をリデザインする学術知共創の可能性と課題」と称する共同研究プロジェクトの一環で開催される連続セミナーです。今年度は,「コロナと教育」に関する国内外の文献調査および「コロナと教育」に関する大規模アンケート調査等を実施するとともに,教育学以外の分野とも連携することで学術知を共創し,その成果を6月・9月・12月・3月の計4回のセミナーで報告してまいります。
シリーズ第2回となる本セミナーでは,コロナ下にあって延期・中止を余儀なくされている学校行事,特別活動,総合学習などの教育活動に着目し,コロナ下における各学校の取り組みに関して報告が行われました。
はじめに,間瀬茂夫教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。ご自身の小学校校長としての経験に基づいて,コロナ下における学校行事等の教育活動は学校ごとに検討がなされている一方で,教育行政からのトップダウン的な決定に依るものが多い現状が紹介されました。そのうえで,学校行事の延期・中止あるいは実施のもつ意味はどのようなものであるか,また学校行事の実施に関わって起こる問題は教科学習も含む学校教育全体のあり方にも関わるのではないかとの課題意識がセミナーの参加者全体で確認されました。
次に,梅比良麻子氏(広島大学附属小学校)から「なぜ合唱祭を中止しなかったか」と題して発表が行われました。音楽科の専科である梅比良氏は,伝統的な学校行事として実施されている合唱祭に関する2020年度の取り組みについて,自身の工夫や気づきを中心に報告されました。従来の方法による合唱祭の開催の断念を余儀なくされた梅比良先生は,児童の「みんなと一緒に」との発言を踏まえ,「合唱に取り組む姿勢を認め合う」ことを目標とした全校での合唱「鑑賞会」を提案・実施されました。合唱「鑑賞会」を身体的な共有の場として価値づけ,学校に集まって「一緒に」実施するといった身体・空間・時間のもつ「身体性」に注目する必要性が述べられました。
続けて,広戸茉里氏(島根県立安来高等学校)から「コロナが浮き彫りにした学校行事や部活動の本筋」と題して発表が行われました。広戸氏は,吹奏楽部,音楽科の授業,総合的な学習の時間の3つの取り組みについて報告されました。吹奏楽部では,定期演奏会や吹奏楽コンクールの中止を乗り越え,部員(3年生)の要望や他の教員の後押しにより文化部合同演奏会の開催に至りました。音楽科の授業では,一人ずつレコーディングを行うことで校歌の新しい音源を作成するといった課題解決型の学習を設定しました。総合的な学習の時間では,市の施設(演芸館)との連携により地域課題を生徒たちが自分ごととして捉え,課題解決に取り組む機会を創出しました。以上の取り組みを踏まえ,コロナだからと安易に諦めず,工夫し取り組んだからこそ見える各活動の価値があるのではないかと主張されました。
以上の2つの実践発表を受けて,白松賢氏(愛媛大学)からは「学校行事と特別活動の現状と課題」と題して指定討論が行われました。白松先生は,特別活動をめぐる賛否やコロナにより学校・教員が多忙化している現状を述べたうえで,今回の2つの事例報告を,子どもの声に基づいた教員の提案が他の教職員の協力を得て実現に至るという一連の流れが上手くいったモデルケースとして位置付けました。また,特別活動は子どもと教員の基礎的な関係性に応じてプラスにもマイナスにもなることが述べられました。この背景には,学校カリキュラムの中核に各教科が位置し,それらを取り囲むように感化の「道徳」,行動化の「特別活動」が位置するというカリキュラムの構造的特性が根本にあることが指摘されました。
ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「入学式や卒業式等の式典がオンラインになることについてはどのように考えるか」といった質問や「今回の実践は,音楽(合唱祭,吹奏楽部)が学校行事等につながっていく道筋であったが,逆に今回の実践を音楽科の授業にかえしていくうえでのアイデアは何かあるか」などの質問が寄せられました。また,「吹奏楽部は,演奏会を開催したり活動していくのに費用がかかったりすることから地域や保護者との距離感が他の部活より敏感になる。こうした学校外部の関係者の理解,もしくは学校管理職の理解が生徒たちの活動を制限することにもつながる場合があり,このあたりは課題となってくるのではないか」といった意見も出されました。
最後に,司会の間瀬茂夫教授(広島大学)・井戸川豊教授(広島大学)より,教員の働き方改革や負担感の観点,あるいはコロナ下において学校行事等を実施するうえで必要な配慮の観点から本セミナーのまとめがなされ,今後の課題や方向性の在り方についてコメントをいただき,参加者全体での理解を深めました。
今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想します。
①コロナ下においても特別活動や学校行事等を「実施できる」ようにするための指針や基準を設けること
②〈実践者–研究者〉間にとどまらず,学校行事等に関わる様々なステークホルダーが相互に広く議論を展開するための
機会を設けること
③教科学習の視点から,学校行事等の教育活動の意味や意義を問い直すこと
今後もEVRIでは,学校教育のリデザインから教育そのもののあり方を検討することをテーマに検討してまいります。
Ⅱ.発表資料
「セミナーの趣旨説明スライド」
間瀬茂夫(広島大学)
「なぜ合唱際を中止しなかったか」
梅比良麻子先生(広島大学附属小学校)
「コロナが浮き彫りにした部活動や学校行事の本筋」
広戸茉里先生(島根県立安来高等学校)
Ⅲ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。
*第91回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。
同セミナーに関連するプロジェクトページを以下のバナーからご覧いただけます
本イベントに関するご意見・ご感想がございましたら、
下記フォームよりご共有ください。
※イベント一覧に戻るには、画像をクリックしてください。