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2021年02月25日公開

Introductionはじめに

 

プロジェクトの概要

本ページでは,広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が主催する履修証明プログラムである「教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座(入門編・研究編)」について紹介します。

事業概要
●事業テーマ  :教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座(入門編・研究編)
●事業目的・内容:若手教員や教育実習生の指導及び校内研修の企画・運営に関わっている先生方を対象に,1年間(計60時間)をかけて教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援すること。

NEWS
2022年1月5日 第9回までの講習の実施報告を掲載しました
2021年9月2日 第5回までの講習の実施報告を掲載しました
2021年6月3日 第2回までの講習の実施報告を掲載しました
2021年5月27日 本講座の実施日程を更新しました
2021年3月25日 本講座受講者向けページを公開しました(要パスワード)
2021年2月1日 本講座(入門編・研究編)の履修申請を開始しました(2月26日まで)
2021年1月30日 本講座の告知ページを公開しました

以下,トピックごとに記載しています。
関心のある項目をクリックしてご覧ください。


講座開設の経緯(クリックすると開きます)

近年,教師教育や教員養成の世界では,「教師教育者(Teacher Educator)」という概念が注目されています。「教師教育者」には,教員養成に携わる大学教員のみならず,教育委員会の指導主事や学校現場の管理職,同僚教師など,教師の成長に影響を与える幅広い立場の人も含まれています。「教師教育者」は,「教師を育てる研究者」や「元(ベテランの)教師」といった単なる職歴や専門領域を備えているだけではなく,教師の力量形成を支援する存在としての特別な専門性(professioanality)や信念(identity)が必要であるとされています。このことから,世界中で教師教育者についての研究が行われ,教師教育者の専門性開発のあり方が議論されています。

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は,設立当初から教師教育者に関する研究を行っています。これまで,日本国内外の学校や機関と連携しながら,「教師教育者とは誰なのか」「教師教育者とはどのような専門性をもつ存在なのか」「教師教育者が専門性を高めるためには何をすればよいのか」といったテーマについて,教師教育者の専門性に関する研究や実践を重ねてきました(旧「教育学研究者クラスタ」や旧「教師教育者クラスタ」の取り組みをご覧ください)。

これまでのEVRIが行ってきた取り組みをさらに発展させるべく,2021年度4月より,EVRIは広島大学が社会人向けに開講している「履修証明プログラム※」の1つとして,「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座(入門編・研究編)」を開設することとなりました。

※「履修証明プログラム」…学校教育法施行規則で定められた,体系的な知識・技術等の習得を目指した社会人向け教育プログラムのこと。制度についての詳細は,文部科学省のこちらのページを参照。広島大学で開講されているプログラムについては,こちらのページを参照。


講座の概要(クリックすると開きます)

若手教員や教育実習生の指導,および校内研修の企画・運営などに関わっている先生方を対象とした有料の講座です。1年間(計60時間)をかけて,EVRIが受講者の教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援していきます。修了者には、学校教育法に基づく「履修証明書」を発行します。

受講をお勧めしたいのは,次のようなニーズをお持ちの先生方です。

  • 教師教育者として,「実習生」の指導や「若手教員」の育成について研究したい。
  • 研修担当者として,「校内研修」や「授業研究」の進め方やその効果や意味を研究したい。
  • 大学教員として,「教職志望者」のためのカリキュラムや指導法について研究したい。
  • 教育学に関する最新の研究動向を学びたい。
  • EVRIの研究拠点としての活動をもっと間近で見たい。

ニーズにあわせて3つのコースをご用意しています(「日常コース」は本講座の対象ではありません)。

1)日常コース … EVRIの(オンライン)セミナーを余裕がある時に聴講し,自分のペースで勉強したい。
→ これまでどおりEVRIの各種セミナーをお楽しみください。特に手続きは必要ありません。
2)初級コース … EVRIの(オンライン)セミナーを聴講するだけでなく,他の受講者と交流したり,EVRIからフィードバックをもらったりして,より省察や知見を深めたい。
→ 「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」(入門編)を受講してください。
3)発展コース … EVRIの(オンライン)セミナーを聴講するだけでなく,もっと教師教育者として専門性を高めたい。教師教育に関する論文を読んだり書いたりする力をつけたい。
→ 「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」(研究編)を受講してください。

それぞれのプログラムの詳細は,リンク先,ならびに以下の案内用チラシ(PDF)をご参照下さい。

PD講座ポスター案ver1.4 1のサムネイル PD講座ポスター案ver1.4 2のサムネイル

*R3年度の募集は終了しました。


「入門編」の実施計画(クリックすると開きます)

(1)オンライン講習の実施日程

第1回:5月1日(土)13:00~16:00(研究編と合同で実施)
第2回:5月22日(土)13:00~14:00
第3回:6月20日(土)13:00~14:00
第4回:7月22日(木・祝)13:00~14:00
第5回:8月28日(土)13:00~14:00
第6回:9月23日(木・祝)13:00~14:00
第7回:10月31日(日)13:00~14:00
第8回:11月20日(土)13:00~14:00
第9回:12月25日(土)13:00~14:00
第10回:1月29日(土)13:00~14:00
第11回:2月26日(土)13:00~14:00
第12回:3月21日(月・祝)13:00~14:00

(2)受講者専用ページ

受講者の方はこちらよりアクセスしてください(パスワードが必要です)。


「研究編」の実施計画(クリックすると開きます)

(1)オンライン講習の実施日程

第1回:5月1日(土)13:00~16:00(入門編と合同で実施)
第2回:5月22日(土)14:00~16:00
第3回:6月20日(土)14:00~16:00
第4回:7月22日(木・祝)14:00~16:00
第5回:8月28日(土)14:00~16:00
第6回:9月23日(木・祝)14:00~16:00
第7回:10月31日(日)14:00~16:00
第8回:11月20日(土)14:00~16:00
第9回:12月25日(土)14:00~16:00
第10回:1月29日(土)14:00~16:00

(2)受講者専用ページ

受講者の方はこちらよりアクセスしてください(パスワードが必要です)。


2021年度広島大学の授業カレンダー(クリックすると開きます)

画像をクリックすると年間授業スケジュールの掲載ページに遷移します。


「入門編」の実施報告(クリックすると閉じます)

【第1回:2021年5月1日(土)13:00~16:00】

この日は,初回ということで,顔合わせを兼ねて研究編の受講者と合同で3時間の講習を行いました。Zoomによるオンライン講習を基本としつつ,一部の受講者はEVRIの部屋(教育学部B101号室)に来て対面で受講もできる体制を整えました。

講習では,はじめに教員,スタッフ,TAの自己紹介などを行った上で,講習の趣旨説明,スケジュールの確認,資料の共有方法,課題の提出方法などについて確認しました。資料共有や課題提出は「Microsoft Teams」を活用します。ZoomやTeamsの利用に不慣れな受講者もいることを想定し,実演を交えて操作を確認していきました。

次に,草原和博教授の担当する大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」を聴講している研究編受講者による受講報告です。これは,研究編の受講者が毎回担当を決め,5分程度で学んだ内容や自身の教師教育に対する考えがどのように変容したかといったことを発表してもらう取り組みです。今回発表した受講者は,第1講から第4講までの概略を説明した上で,どのような時に教師は変化するのか,どのような状態の教育実習生が教職課程履修学生のモデルケースなのかを学び,教師教育者であるという責任感と自覚が高まってきたことを報告していました。

続いて,アイスブレイクと自己紹介を兼ねたアクティビティを行いました。お題は,「教師教育者としての”転換”や”きっかけ”を絵にして共有する,というものです。単なる自己紹介ではなく,受講者が「教師教育者」としてどのような道を歩んできたのかにフォーカスを当てた自分語りをお願いしました。受講者は紙とペンを使って思い思いに自身の教師教育者としての来歴や転機を描いた上で,小グループに分かれて様々なエピソードや苦労話を交えながら自己紹介を行いました。絵を描く活動は,オランダの教師教育者研修にヒントを得て実施したものです。絵を描くことを通して教師教育者としての自身の歩みを振り替えることで,教師教育者に必要な省察の重要性に気づいてもらうことを意図していました。

 

 

【第2回:2021年5月22日(土)13:00~14:00】

今回からは,入門編と研究編がそれぞれ時間帯を分けて同じ日に講習を行っていきます。入門編では,教師教育者としての自身の信念や実践について省察するために,前回講習のフィードバックと,これまでに受講したEVRIセミナーの報告を通した交流を行います。

講習のフィードバックでは,まず岡村美由規教育研究推進員より,課題として受講者に蓄積することを要求しているポートフォリオを通した省察(リフレクション)の意味について確認しました。その上で,ポートフォリオの記述を通して,受講者がそれぞれ何を「参照項」として自身の信念や実践を省察しているのかについて,分析と議論がなされました。

また,受講者からは,5月9日の教師教育者によるセルフスタディセミナーシリーズを受講した報告がありました。ご自身が若手教師に対するメンタリングを行っている立場として,メンターがメンティの実践を鏡として自身でセルフスタディを行うことで,両者が互恵的な関係となる可能性に気づいたと振り返っていました。

 

【第3回:2021年6月20日(日)13:00~14:00】

この日は,まず受講者のポートフォリオの書き込みをもとに,自身の教師教育実践で感じた日々の悩みを共有しました。書き込みでは,「20代から40代前半の教員が殆どでベテラン教員が少ないといった学校の現状を,共同プロジェクトを推進することでどのように変えられるか」「若手教員のメンターとして,あるいは1人の人間として,自分は”ふさわしい”言動をとることができているだろうか」といった記述がなされていました。それをもとに,「なぜ自分はメンターとして”ふさわしい”言動をとる必要があると考えるのだろうか?」のように,その悩みの持つ意味を深堀りしていきました。

続くEVRIセミナーの受講報告では,第79回定例オンラインセミナーに参加した受講者から,「インクルーシブな学びの推進のためには,自立した個人から他者への依存を前提とした人間観への転換が必要ではないか」という提起を受けて,教師教育においても他者への依存を前提として教員同士の協働や対話を軸とした成長支援が必要ではないかという示唆が得られたことが紹介されました。また,「ポスト・コロナの学校教育を提起する」シリーズの動画を視聴した受講者からは,「学校休業下の学校運営,カリキュラム編成,子どもたちへの支援などでは,学校でのICTの普及状況に応じてできることをやるべき」という提起を受けて,教師教育でも受講者それぞれの問題関心やレディネスに応じた研修プログラムが提供されるべきだと考えたという学びが提案されました。

研究編の受講者も聴講生として多く参加し,活発に意見交換がなされました。

 

【第4回:2021年7月22日(木)13:00~14:00】

この日は,第62回定例オンラインセミナー録画映像を視聴した受講者から,セミナーで岩田昌太郎准教授が発表された事例をもとに,「授業改善や教師の成長のめざすべきゴールは『観(信念)の変容』なのか,それとも『実践の変容』なのか?」「メンタリングの目標として,メンティーの目の前の授業を変えることに加えて『観』も含めて変えていかなければならない。両方大事にしたいのだけど,メンターはどちらをより大事にしていけばいいのか?」といった論点が提起されました。

研究編の受講者の多くが聴講生として参加し,「『観』には目の前の授業・単元をどうしたいかという具体的なものもあれば,長期的なビジョンもあるのではないか」「『観』を聞いてあげて言語化してあげることが教師教育者として重要なのではないか」「『観』が変わったから実践が変わるというような単純なものではない(タイムラグがある)のではないか」「『観』と『実践の変容』の間には『自分が授業実践を評価する枠組みの変化』などの中間項があるのではないか」などの意見が出されていました。

 

【第5回:2021年8月28日(土)13:00~14:00】

この日は,第88回定例オンラインセミナーに参加した受講者から,セミナーで報告のあったアメリカの教師の専門職スタンダードの動向紹介をふまえ,「教師の専門職スタンダードは,唯一絶対の”あるべき教師像”の指標として機能すべきなのか」「スタンダードは誰によって規定され,どのように運用されるのが教師にとって望ましいのか?」といった論点が提起されました。

まず,アメリカでは,教師の専門職スタンダードは専門職団体や学会など複数の団体が異なる内容のものを提起しているという状況が確認されました。その上で,講座運営教員やスタッフ,そして聴講していた研究編受講者からは「スタンダードには,日本の教員評価指標のように”全員が満たすべき”という最低限のものから,”最終的に目指すべき”という最高レベルのものまで複数あり,スタンダードの性質が異なれば運用の仕方も異なるのではないか」「複数のスタンダードの中から,個々の教師が就職活動や昇進などの際に自身に合ったものを選択できるようにするのが望ましいのではないか」などの意見が出されていました。

 

【第6回:2021年9月23日(木・祝)13:00~14:00】

この日は,第90回定例オンラインセミナーに参加した受講者から,セミナーで行われたダイアナ・ヘス氏の著作に関わる政治的中立性の議論をふまえ,「論争問題学習を取り入れるためには社会科教師の専門職性が保障される必要があるのか」「教師の権力性を弱め,一人の市民として教室での政治の議論に参加するにはどうすればいいのか(そもそもそれは可能なのか)」と言った論点が提起されました。これに対し,「教師が普段から政治的な立場や意見を表明することが重要ではないか」「子どもたちが他の子どもたちの意向を気にせずに意見を表明できる空間をつくることが必要ではないか」などの意見が出されていました。

また,第74回定例オンラインセミナー動画を視聴した受講者から,セミナーの主要テーマであった「教師のゲートキーピング」という考え方に関する疑問や論点が提示されました。「教師が自身の行っているゲートキーピングの源泉を自覚するために,教師教育者はどのような働きかけができるのか。授業研究などを企画することが有効だとしても,当事者である教師から始めなければ意味がないのではないか。」「教師の行うゲートキーピングが多様であるべきとはいっても,社会科として最低限守るべきラインのようなものはあるのではないか」といった論点に対し,「どのような性質の授業研究会なのかが重要ではないか(公的な研修か私的なサークルの活動なのか等)」などの意見が出されていました。

 

【第7回:2021年10月31日(日)13:00~14:00】

この日は,まず受講者のポートフォリオの記録を読み合うなかで,「教科や学年をこえた連携が希薄になりがちな高校の現場で,授業(教科指導)に熱意を込めて指導するということに専門性を見出し研鑽をし合える仲間をどのように集めていけばよいのか」という悩みが出されました。それに対して,聴講している研究編の受講者からは,「生徒指導や学校経営などをリードする教科の先生から仲良くなっていくという方法が有効なのではないか」「大部屋職員室であれば,他の先生が関心を持ってくれそうな書籍や教材をわざと机の上に置いて置くという作戦も有効かもしれない」などの実践的な提案がなされて盛り上がりました。

また,終盤では第94回定例オンラインセミナーに参加した受講者から提起された論点も議論しました。「日本の高校教師は,論争問題学習の“効果期待(教師が論争問題学習をうまく実践することができるだろうという期待,自信)”と“結果期待(論争問題学習を通じて生徒が市民として必要な力を身につけられるだろうという期待)”の間にギャップがあり,効果期待を高めなければならない」というセミナーでの提言をふまえ,論争問題学習の効果期待を高めるための具体的な方策とはどのようなものが考えられるのかについて話し合われました。時間の都合で途中で打ち切らざるを得ないほど,様々な論点が出されて活発に議論が進められた回となりました。

 

【第8回:2021年11月20日(土)13:00~14:00】

今回も,前回に引き続いて第94回定例オンラインセミナーに参加した受講者から提起された論点を深堀りしました。セミナー当日に行われた,どうすれば子どもたちの社会参加が促進されるのかを調査した小栗さん(広島大学大学院博士課程)の研究成果を題材に,「学校はどのような場面で,どこまで子どもの社会参加を促すべきなのか?教師はそれにどこまで関与すべきか?」といったテーマを中心に議論を行いました。受講者は,このテーマを考える具体的な事例として,現在公立の中学・高校を中心に全国で注目されている校則を変えていく動きを取り上げ,このような活動に教師はどこまで積極的に関与すべきなのか,こういったテーマを教科指導(例えば社会科や公民科の授業)で取り扱うべきなのか,といったことが話し合われました。

「教科のなかでいくら題材として取り上げても大した効果は期待できない,学校の教育課程全体で取り上げていくことが求められる」という小栗さんの研究成果をもとにした提案は理解できても,「着任したての生徒指導担当教員が校則見直しを生徒と行おうとしたら前任者に変えてはいけないと釘を差されるようなケースもある(のでなかなか難しい)」といった,実際に取り組もうとすると秩序・規範の維持といった現実的な問題に直面するという不安が語られました。また,「生徒の『自治』の問題なので,授業で扱うよりも生徒会活動という特別活動で扱うべきではないか」「子どもから自主的に提案されるべきもので,教師が意図的に“焚きつける”ような指導は望ましくないのでは」といった意見も出されました。

一方で,「教室空間では安全で民主的な関係が構築されて,参加の意欲が高まっても,リアルな社会に出たとき,押しつぶされるという問題が次に生じてくる。エンパワーしても,社会の抑圧構造に立ち向かえないという課題をどうするのかを考えないといけない」といった意見も出され,「ひとりで社会に立ち向かうのは極めて難しい。つながることがパワーの源になるのでは」といった提案がなされるなど,様々な角度から議論が展開されました。

 

【第9回:2021年12月25日(土)13:00~14:00】

今回は,第65回定例オンラインセミナー第100回定例オンラインセミナーに参加した受講者から提起された論点を中心に議論しました。

1つ目の論点は,深い省察をともなう授業の見方をどのように養えばよいのかということです。授業研究が日々の業務の中に組み込まれてルーチン化し,行為志向(授業の技術的な改善にばかり目が向かう状況)に陥ってしまっていたり,研究協議なども予定調和で深まらなかったり…といった学校の課題をふまえ,授業を見る目を養うには何が必要かを話し合いました。学校や教師のニーズとして行為志向になりがちなのは仕方がないのではないか,指導助言者的な人や研究協議を回している人が行為志向だけでなく意味志向(行為の背景で働いているプロセスの理解に取り組む)にも気づかせるような「仕切り」が必要なのではないか,いやそもそもそのような場を仕切る人は必要なのか…といった意見が出されました。

2つ目の論点は,授業研究などを通して新しい授業モデルに出会うことは,教師の教育観を転換させるきっかけとして機能するのか,ということです。日本の教員養成や教育実習では,授業実践よりも授業観察が重視されがちです。その背景には,短い期間で実践をするよりも観察をすることが授業を見る眼を養い,自身の授業モデルを転換させるきっかけになるという期待があると考えられます。しかし,公開研究会などで自分が知らなかった新しい授業モデルに出会ったとき,それをきっかけに自分の授業のあり方を見直そう,改善しようと思う人もいれば,「進学校だからできる(=うちではできない)」のように省察につながらない人がいるのも事実です。この差はどのように生じるのかについて議論し,問題状況があるとメタ認知しているのかどうかに関わるのかの違いではないか,観察者の授業改善観や学校改善観に依存するのではないかなど様々な意見が出されましたが,観察者側の「構え」が重要であるという点では一致しました。

3つ目の論点は,学校における「媒介の専門家」とはどんな人か,どのような資質・能力が求められるか,ということです。新学習指導要領では探究の重視や社会に開かれた教育課程の実現などが掲げられ,教科横断的な学びや地域と連携したカリキュラムづくりがこれまで以上に求められています。そういった,これまで一部の「得意な」教師に委ねられがちだった業務を,各学校では誰が・どのように担当すべきなのかが難しい課題です。たとえば,国際バカロレア認定校にはカリキュラムコーディネーターを配置することが義務付けられており,教科を横断した単元づくりだけでなく,地域のステークホルダーと連携してカリキュラムを構想することなどが求められています。カリキュラムコーディネーターや特別支援教育コーディネーターのように,今後は学校内で「媒介の専門家」が特別な専門職として認められるようになっていくのではないか。特に若手教師はそのような力が求められるため,教員養成段階で「媒介」「つなぐ」人を育てる必要があるのではないか。このような意見が出されていました。

 

【第10回:2022年1月29日(土)13:00~14:00】

今回は,第97回定例オンラインセミナー第104回定例オンラインセミナーに参加した受講者から提起された論点を中心に議論しました。

1つ目の論点は,「“論争問題を取り上げること”と“論争すること”のどちらが大切なのか?」ということです。第104回のセミナーでは、教師に対する調査を通して、社会科などの教科において論争問題(政治的・社会的に意見が対立している問題)を取り扱う学習は重要だが実際に実施している時間は少ないという結果が紹介されていました。このことなどをふまえ、社会科における公民的資質を達成するために、教師はやはり論争問題を積極的に扱わなければいけないのか、それともテーマはさておき「論争(討論・議論)すること」という行為のほうが重要なのか、という投げかけが受講者からなされました。参加者からは、ある調査によれば、ホームルームでも他の教科の授業でも、普段から討論や対話をしているという生徒は社会参加へ方向づけられる傾向が強いという結果が見られたことをふまえ、「論争問題を取り上げることは本質的ではなく、普段から自分の意見やその表明が許容・承認されるかどうか、エンパワーされる環境にあるかどうかが重要なのではないか」といった意見が出されました。また、教科担任制が前提となる中学や高校で、そのような「応答性」のある学校風土をどのように形作っていくのかが今後の課題だろうといった話が展開されました。

2つ目の論点は,外部講師などで学校と関わる教師教育者が果たすべき役割とは何か、ということです。ある受講者は、「校内で教師教育・研修を担う立ち位置に立つ自分は、年齢が若いという理由でフラットな関係性を作ることの難しさに悩んでいる。そもそも学校空間の中に授業を研究する風土や関係性がない中でどのようにリーダーを育てていくのか、その時に外部の人間はどのようにサポートしてくれるのか。」という問題意識が語られました。議論の中では、「授業研究には様々な視点や立場があり、人によって授業中に見ているものが違うため、議論がなかなかかみ合わない。それを調整する役目を担うのも外部の人間の責任なのではないか。」「教科教育をベースとする教師教育者の中には、授業の成否の責任は教師にあるという規範性があり、そのような一種の自己責任論が教師を追いつめているのではないか。教師教育・教員養成を担うものは、その圧力に無意識に加担してしまってはいないか。」といった意見が出されました。また、実際に外部講師などとして学校に関わる立場の受講者からは、「外部の人間に学校自体を変える力はなく、あくまでもきっかけを与える存在にすぎない。“水面に石を投げる役”ではないか。」といった、経験談をもとにした実践的な関わり方も提案されました。学校の置かれている状況や課題は学校によって違っており、コンテキストに応じた外部者のかかわりが必要になるということを、改めて認識させられる議論でした。


「研究編」の実施報告(クリックする閉じます)

研究編受講者が聴講している,草原教授担当の大学院授業科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の実施報告については,草原教授の個人HPにて公開しています

【第1回:2021年5月1日(土)13:00~16:00】

 ※入門編第1回と同じ内容のため省略します。詳細は入門編の報告をご覧ください。

【第2回:2021年5月22日(土)14:00~16:00】

今回からは,入門編と研究編がそれぞれ時間帯を分けて同じ日に講習を行っていきます。研究編では,教師教育の研究に必要な概念や研究方法に関する講義と,それをふまえた小グループでの演習を行い,論文執筆に向けた準備を進めていきます。各グループには講座のTA・スタッフが加わり,受講者の学びや研究を支援します。

今回の目標は,教師教育研究を行うための研究上の問い(Research Question)の立て方,研究の進め方を理解することができることと,教師教育実践の共同研究を行うための問いと実施計画を構想できることです。そのために,まず草原教授と大坂教育研究推進員より「RQをいかにして立てるか」「RQにどのように答えるか」といったテーマで,教師教育の研究の進め方に関する情報提供を行いました。草原からは「RQを導くには先行研究を収集して「飛躍」や「転換点」を描き出す必要がある」こと,大坂からは「RQやニーズにあった研究法を選択する」こと,などのポイントが示されました。

その後,受講者は3つのグループにわかれて,RQとその答え方(実施方法)を検討しました。グループは,学校を基盤にした研修や若手教師の力量形成,教育実習・教員養成の実践と改善など,関心を同じくする受講者が集まっています。検討後の全体交流では,「私は異動の危機をどう乗り越えたか?」「教育実習指導教員は,実習指導をどのように意味づけるか?」といった共同研究のためのRQが提案されました。共同研究のRQは講習を通じて今後も継続的に検討を続け,ブラッシュアップしていきます。

 

【第3回:2021年6月20日(日)14:00~16:00】

今回の目標は,教師教育研究を遂行していく上で有効な理論や視点を学ぶとともに,前回立てた各グループの研究上の問い(Research Question)を振り返り,各グループの研究デザインを構想・具体化することです。

そのために,スタッフ・TAより現在の教師教育の実践や研究で注目されている理論の紹介が行われました。TAの河原さんからは,イギリスとオランダのグループが共同で開発した「”ストーリー”を活用した専門性開発アプローチ」が紹介されました。大坂遊教育研究推進員からは,F.コルトハーヘン氏のALACTモデルと研修への応用の可能性について提案がなされました(大坂の提案は講座内で時間が足りなかったため,後日補足説明をした動画を配信)。

その後,受講者は3つのグループにわかれて,RQの見直しと研究デザインの具体化を検討しました。研究の構想を練る中で,それぞれのグループは調査方法・対象・実施時期の確定や,研究倫理審査の申請書の計画など,論文の投稿に向けたスケジュールを確認していました。また,研究デザインを具体化していく中で,月1回ペースの講座で話し合うだけでは不十分であるという共通認識が生まれ,講座外でもTeamsやZoomを活用してオンライン上で継続的に議論を進めていくことを確認しました。

なお,今回より岡村教育研究推進員による毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」が始まりました。第1回目は,論文執筆の大原則(研究倫理の遵守)と,その大原則を守るための諸ルール(引用・出典の必要性など)について学びました。このミニセミナーシリーズは,「帯企画」として毎回の講座の内容に加わります。

 

【第4回:2021年7月22日(木)14:00~16:00】

今回の目標は,各グループが現在行っている教師教育の共同研究を推進するための有効な理論を学び,研究上の問い(Research Question)をブラッシュアップし,夏休みに実施する具体的な研究計画を構想することです。

そのために,スタッフ・TAより現在の教師教育の実践や研究で注目されている理論の紹介が行われました。TAの河原さんからは,イギリスの教師教育研究者Ronney Davey氏の論文を手がかりに,「教師教育者のプロフェッショナルアイデンティティ(PI)」という概念についての紹介がなされました。Davey氏は,9人の教師教育者に対する継続的な調査を通して,PIを調査するための方法論的枠組み(5つのレンズ)を見出しており,日本の教師教育者のPIを分析する上でも氏の論が有益なのではないかということが提案されました。

その後,受講者は3つのグループにわかれて,RQのブラッシュアップと夏休みに実施する具体的な研究計画を検討しました。すでに各グループは,月1回のオンライン講習外でもTeamsやZoomを活用して共同研究を推進しており,オンライン上で継続的に議論を進めています。その成果を改めて確認するとともに,次回(9月)の講習に向けて各自が行うべき準備や調査等について確認しました。

なお,今回の講習では,岡村教育研究推進員による毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」も行われました。第2回目は,立命館大学pixiv論文論争を手がかりとして,教師教育を含む教育学分野の研究における倫理的配慮のあり方について議論しました。

 

【第5回:2021年8月28日(土)14:00~16:00】

今回の目標は,質的研究を遂行していく上で必要となるデータ分析の基本的方法を学び,各グループが調査で収集したデータをどのように分析するのかを検討することです。

そのために,まず講座運営スタッフより質的研究を遂行していく上で必要となるコーディングの基本的考え方と,データ分析法の1つである「SCAT」の具体的な手続きの紹介,そして質的研究支援ソフト(NVivo)の使い方などの説明がなされました。GTAやSCATを始めとする質的研究のデータ分析では,具体的なテクストを抽象的な概念の形に置き換えていく「コーディング(オープンコーディング)」とよばれる作業を行う場合が多いことをふまえ,なぜコーディングが必要なのか,どのようにコーディングを行っていけばよいのか,コーディングを通して何が得られるのかといった基本的な事項を確認しました。

その後,受講者は共同研究を行う小グループにわかれて,データ収集・分析の手続きと解釈の基盤となる理論をどのように定めるかを中心に協議を行いました。RQのブラッシュアップと夏休みに実施する具体的な研究計画を検討しました。解釈の基盤となる理論の設定までは至らなかったグループが多かったものの,先行文献の収集を目処を立てたり,グループインタビュー(座談会)を行うことを決めたり,SCATを採用した分析を進めていくことで合意したりと,各グループで今後の研究の進め方について前進が見られました。

なお,今回の講習では,岡村教育研究推進員による毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」も行われました。第3回目は,前回に引き続いて,研究における倫理的配慮のあり方について取り上げました。教師教育を含む教育学分野の研究においてどのような研究倫理上の問題が起こりうるかについて,問題となりそうな具体的な事例を取り上げながら確認するとともに,トラブルを回避するためにどのような振る舞いが求められるのか,どのような制度が存在するのかといった知識を学びました。

 

【第6回:2021年9月23日(木・祝)14:00~16:00】

今回の目標は,質的研究を遂行していく上で必要となる論文の構成や記述に関わる内容を学び,各グループが先行研究を整理し,どのように問題の所在を書くか,論文の章立てをどうするか等の見通しを立てられることです。

そのために,まず講座運営スタッフよりタイプ別の論文の構造について,情報提供が行われました。共同研究を行う3つのグループが実証的研究や文献解釈的研究を進めていることをふまえ,それぞれのタイプの論文に見られる典型的な構造を,実例を示しながら紹介しました。実証的な研究は分析・解釈の基盤となる理論(仮説)を自身で生み出すか他者から拝借するかによって,文献解釈的な研究は当事者の問題関心に寄り添って分析するのか著者の問題関心に大きく引き寄せて解釈するのかによって,それぞれ問いの立て方や結論の導き方が大きく異なっていることを確認しました。

その後,受講者は共同研究を行う小グループにわかれて,投稿予定の論文のタイトルや構成,著者順,完成までのタイムスケジュールなどを詰めていきました。「異動」「困難・危機」など研究の核となるキーワードを書き出してタイトルを模索するグループ,コルブの経験学習論などの理論を軸に分析の手順を考えるグループ,複数のアイデンティティ論などを組み合わせて分析枠組みを構築しようとするグループなど,それぞれ異なるアプローチで研究の方針を固めていきました。

なお,今回の講習では,岡村教育研究推進員による毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」も行われました。第4回目は,研究倫理の中の「研究不正」が取り上げられました。「特定不正行為(FFP)」とよばれる明確な研究不正行為だけでなく,「好ましくない研究行為(QRP)」とされる行為(サラミ出版や不適切な著者記載)に注目し,「不適切な水増し・切り分けの基準となるラインはあるのか」「オーサーシップの条件は何か」などを深堀りして議論しました。

 

【第7回:2021年10月31日(日)14:00~16:00】

今回の目標は,12月初頭の共同研究論文の完成に向けて,共同研究を進めている小グループで協議し,論文執筆の進捗報告を行って今後修正・改善が必要な点について具体的な助言をもらうことができることです。

今回からは協議の時間を可能な限り確保するために,講座運営スタッフからの情報提供は行わず,ほとんどの時間を論文執筆に向けた協議の時間にあてました。それぞれのグループは,「高校教員にとって異動という経験がもつ意味」「学校ベースの教師教育者にとっての教育実習指導経験の意味づけ」「教師教育者のアイデンティティの獲得プロセス」といったテーマで執筆を進めています。オンライン講座の時間内だけで論文を執筆することはできないため,各グループは時間外でも協議を進めており,この日も講座の直前まで分析を行っていたグループもありました。それらの成果を持ち寄りながら,さらに議論を進めていきました。

その後,各グループから全体に向けて進捗状況を報告するとともに,アドバイスがほしい点を発表しました。データ分析の成果をまとめて論文化するまでの膨大な労力をいかに圧縮して効率よく作業を進めていけばいいか悩むグループ,分担して執筆を進めている原稿の表現や示唆のズレをどのように修正すればいいか悩むグループ,研究で得られた成果をもとに示唆や主張をどこまで踏み込んで書くべきか悩むグループなど,それぞれの悩みどころと解決策を検討しました。

なお,今回の講習では,岡村教育研究推進員による毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」も行われました。第5回目は,研究倫理の中の「研究不正」の発展的な内容として,出典・引用表記の問題が取り上げられました。ある書籍の一部を参照して書かれた学生のレポート見本を題材に,その引用の仕方が適切かどうか検討するなど,具体的なケースを挙げながら議論することで,状況や文脈に応じて適切な引用・出典表記のあり方が変わりうるということを実感してもらいました。

 

【第8回:2021年11月20日(土)14:00~16:00】

今回の目標は,12月初頭の共同研究論文の提出に向けて,他のグループの原稿を読み,改善すべき点を指摘しあい,今後修正・改善が必要な点について協議することができることです。

今回も前回同様,協議の時間を可能な限り確保するために,講座運営スタッフからの情報提供は行わず,多くの時間を論文執筆に向けた協議の時間にあてました。まず,各グループが事前に関係者全員に共有しておいた原稿ドラフトを担当を決めて読み合い,共同編集機能を活用して気になる点にコメントをつけていきました。続いて,各グループに分かれて他の受講者やスタッフからつけられたコメントを確認し,それに対してどのような修正・対応をすべきかを議論しました。

誤字脱字や表現についての意見はすぐに対応できるものですが,リサーチクエスチョンと分析・考察の中身が対応していなかったり,理論的枠組みと分析の手続きが若干噛み合わなかったり,研究結果に基づく示唆を誰に・どこまで具体的に提案するのかが曖昧だったりといった,論旨に関わるクリティカルな指摘も出されていました。今後は,論文提出までの残りの期間で,オンライン等で可能な限り指摘に対応して修正していく必要があることを確認しました。

なお,今回の講習では,スタッフの岡村さんによる毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」も行われました。第6回目は,研究倫理の中の「引用の仕方」が取り上げられました。直接引用と間接引用といった引用の方法,バンクーバー方式やハーバード方式などの引用方式,APAスタイルやシカゴスタイルといった引用スタイルなどについて,具体的な説明がなされました。教育学の分野では領域や学術誌によって引用の形式が異なっていたり,引用形式を著者に委ねているものもあるため,大学院生や研究者にとっても引用の仕方は悩みのタネです。講習では,実際にスタッフらが経験した引用の仕方に関する悩みを披露しあいながら,今回執筆している原稿ではどのような引用の仕方を採用するのかをルール化しておく必要があることを確認しました。

 

【第9回:2021年12月25日(土)14:00~16:00】

今回の目標は,①12月初頭に提出した共同研究論文の執筆過程を振り返って,論文を書くという行為について省察することができること,②教師教育に関するストーリーを読む活動を通して自身の教師教育者としての信念・規範・あるべき姿を言語化・省察することができること,の2点でした。

前半は,①の執筆開始から提出までのプロセスについて,受講者とスタッフ全員で振り返る活動が行われました。共同研究として教師教育の論文を執筆するのは,多くの人が初めての経験でした。その経験と学びを共有するために,全体論文を書くという行為についての認識・イメージの変遷,当初の構想からの研究計画・調査の変遷,研究・執筆を助言してみて感じたこと・考えたこと,他グループの草稿を読んでみて感じたこと・考えたこと,などを,1人1分程度で順番に発表していきました。また,この活動には,これまで共同研究と論文執筆は3つの小グループがそれぞれ個別に進めていたため,受講者は自分たち以外のグループがどのように作業を進めたのか,どんな点が難しかったのかなどを知ってもらうというねらいもありました。

後半は,TAの河原さんが進行を担当し,②の教師教育に関するストーリーを読む活動が行われました。この活動は,第3回の講座でも紹介した,イギリスとオランダのグループが共同で開発した「”ストーリー”を活用した専門性開発アプローチ」をベースにしています。このアプローチでは,複数の(架空の)教師教育者が実践を行うなかで直面した葛藤を,自己語り的な文章にしたエッセイ=「ストーリー」が教材として複数用意されます。参加者は,それを読んだり,ケースについて話し合ったり,自身も同じようなストーリーを書いたりすることで,自身が無意識に有している教師教育についての見方・考え方や信念=「レンズ」を自覚し,他の行動可能性を模索する機会とすることが意図されています。

今回の活動では,「多忙ななか母校実習にやってきた実習生への対応に苦心する若手教員」や「校内研で指導・助言を任されたがどのように若手教師をエンパワーするか悩む大学教員」といった4つの「ストーリー」が配布され,4グループに分かれてそれぞれの「ストーリー」について読み,議論しました。スタッフがファシリテーションしながら,「あなたはこのストーリーの主人公に共感するか否か?」「あなたがストーリーの主人公の同僚だったらどのような声かけをするか?」など,用意された複数の質問について意見を出し合いました。「こういう場面,よくあるよね」と共感する意見が多く出されたところもあれば,「(同じ立場になったことがないので)状況がよくわからない,想像できない」という意見もあり,「ストーリー」の読み方や受け止め方は受講者によって異なるということが改めて浮き彫りになりました。次回までの宿題として,自身も「ストーリー」を書いてみる(架空の話でもよい)活動に取り組みます。

なお,今回の講習では,岡村教育研究推進員による毎回10分程度のミニセミナーシリーズ「教師教育の論文執筆のための作法と倫理」も行われました。第7回目は,前回に続いて研究倫理の中の「引用の仕方」が取り上げられました。講座内での共同研究論文の中で用いられた直接引用と間接引用の事例を確認したり,孫引きを避けた引用の仕方のテクニックなどを学びました。

 

【第10回:2022年1月29日(土)14:00~16:00】

今回の目標は,「教師教育に関する自己のストーリーを書き,他者のストーリーを読む活動を通して,自身の教師教育者としての信念・規範・あるべき姿を言語化・省察することができる」でした。前回に引き続き,今回も草原教授とTAの河原さんが中心となって進行しました。

受講者とスタッフ・TAは,宿題として,事前に自身の経験に基づいて教師教育者としての悩みや葛藤場面を描いた「ストーリー」をA4一枚程度の分量で書き,それを事前に読みあった上で授業に参加しました。草原教授と河原さんは,内容を確認したうえで,似たような問題状況に置かれた「ストーリー」の執筆者同士で4名程度の小グループを作成しました。なお,各グループは,大学院生として後輩の成長を支援する際の葛藤,大学教員として将来の教員を養成する際の葛藤,教育実習指導担当教員として実習生を育てる際の葛藤,校内で研修に関わる立場としての葛藤,指導主事や管理職などとして後進の教師教育者を育てる際の葛藤,などでおおまかに分けられました。

活動手順の説明ののち,Zoomのブレイクアウト機能を使って小グループに分かれてワークが行われました。活動は,①グループの人と相談し,全員が共感して読めそうなストーリーを1つ選ぶ,②選んだストーリーを個人でもう一度よく読む,③ワークシートに従ってストーリーを分析・議論する作業を行う,④メインルームに戻って議論した結果を全体の前で発表する,というステップで作業を行いました。このステップを合計2セット実施し,各グループ2名分の「ストーリー」を読み議論しました。

「ストーリー」を読み解く際には,「このストーリーの登場人物が直面していたジレンマとは何か?」といった状況の分析や,「あなたがストーリーの登場人物の同僚ならばどうするか?」といった状況における関わり方を考える課題に取り組みました。この活動を行った感想として,受講者からは「自分が書いていた時に表現しようとした葛藤と,他者が読みとった葛藤が違って,気づかなかった教育観を知ることができた」「教師教育者としてのふるまいと教師としてのふるまいの一貫性を突き付けられている状況を再確認することができた」「自分のことを第三者的な視点でとらえ,他者の悩みを自分ごととしてとらえることができた」など,多くの方が自身の教師教育者としての考えを振り返るよい機会となったと満足しているようでした。

レポートの提出等の課題がまだ残されていますが,月1回実施してきた研究編のオンライン講習はこれで終了です。しかし,この講習を通してできたつながりは続きます。教師教育者が学びあうコミュニティをつくるということも本講座の目的の一つであり,今後は(今後も)同じ教師教育者というフラットな関係の中で交流を続けていけたらと思います。


お問い合わせが多い事項をQ&Aにまとめました。(例)R3年度(2021年2月12日追記)(クリックすると開きます)

「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」(入門編・研究編)に関するQ&A

  • 「入門編」と「研究編」がありますが,はじめは「入門編」から受けたほうがいいのでしょうか?
    履修の順番などはありませんので,ニーズに応じてどちらか一方にお申し込みくださいただ,「研究編」は受講者の上限が10名と少なく,大学院の授業科目の履修や論文の執筆といった専門的なワークもありますので,事前に担当者までご相談いただけますと幸いです。
  • 「研究編」の場合は,大学院の授業科目も必ず履修しなければならないのですか?
    はい,必ず履修していただきますEVRIの講習「教師教育者のための教育・研究セミナー」 を30時間受講することに加えて,大学院の授業科目である「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究(30時間)」もしくは「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究(30時間)」のどちらかを選択して受講していただくことになります。2020年度の授業シラバスは,本プログラムの解説ページの下部にあるリンクからご参照いただけます。より詳細な年間計画は,別途3月末にご提示する予定です。
  • セミナーや大学院の授業科目などの講座の内容については,対面で受講する必要がありますか?遠方なので広島大学での受講が物理的に難しいのですが…
    必ずしも対面で受講いただく必要はありませんこれまでのEVRIのオンラインセミナーと同様に,ZoomなどのWeb会議システムで受講可能です。コロナ禍の状況によっては,講座を全てオンラインで実施することも検討しています。
  • 大学院の授業科目を履修する際は,広島大学の科目等履修生に登録しなければならないのですか?その場合,講座受講料とは別に,検定料や入学金や授業料等の追加の費用負担が必要になるのでしょうか?
    場合によります将来的に大学院進学を想定されている場合,科目等履修生として事前に手続きをされることをお勧めします。大学院に入学後に本単位を修了単位に含めることができることがあります。ただし,検定料・入学料・授業料をお支払いいただくとともに,一定水準に到達することが条件となります(正規科目の単位認定は大学院生と同一の判定基準です)。特に大学院の単位は必要ないという場合は,本プログラムの履修料のみです。詳しいことは,下記の問い合わせ先にお尋ねください。

広島大学 教育学系総括支援室(大学院課程担当)
〒739-8524 東広島市鏡山1-1-1  TEL:082-424-3706
E-mail:kyoiku-in■office.hiroshima-u.ac.jp ※■は半角@に置き換えてください。

  • 大学院の授業科目は,いつの時間帯に実施するのですか?働いているので,平日の日中では参加が難しいのですが。
    最終的に大学院の授業をどの時間帯に開講するかは,受講希望者の希望を聞いて確定させる予定です希望者の多くが平日日中の実施では都合が合わない場合は,通常の大学院生向け授業を録画したものをオンデマンドでご視聴いただくか,あるいは別途本講座の受講者向けに同じ内容の授業を実施することを想定しています。
  • 講座で参加できなかった回の補講などを受けることはできますか?
    できます。勤務の都合などで通常の講座に参加できなかった場合は,オンデマンド(非同期オンライン)で欠席回の内容を補完していただきます。
  • 講座の履修資格として「教諭または校長,教頭等として学校教育に従事していること」とありますが,たとえば元教員で大学に転籍した等の場合でも履修は可能ですか?
    履修資格には,前職も含むと解します。制度設計上は,教師教育者として従事したいもの,あるいは現に従事している方を対象としたプログラムですので,幅広い方がこの履修資格者に該当すると考えています。
  • 履修申請手続きの中に「履修資格を証明するもの」とありますが,これはどのようなものを提出すればいいのでしょうか?
    →前職を証明する書類(辞令等),あるいは現職を証明する書類(辞令,職員証等)の写しをご提出頂くことになります。
  • 休職などで現職を一時的に離れていても受講可能でしょうか?
    受講可能です申請時には「履修資格を証明するもの」として休職の辞令のコピーなどをご提出ください。


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