【2021.11.06】第97回定例オンラインセミナー「授業研究を軸に教師教育を改革する(8)-日本の教師教育者は授業研究にどのようにかかわっているか-」を開催しました
Ⅰ.開催報告
広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,ユニットの活動の一環として,2021年11月6日(土)に,第97回定例オンラインセミナー「授業研究を軸に教師教育を改革する(8)-日本の教師教育者は授業研究にどのようにかかわっているか-」を開催しました。大学の研究者,大学院生,学校教員を中心に85名の皆様にご参加いただきました。
「授業研究を軸に教師教育を改革する」シリーズは,日本の授業研究と世界のLesson Studyとの交差点を探りながら,授業研究に基づく教師教育について研究できる国際共同研究プラットフォームの構築を目指す企画です。その契機として,2019-2020年の研究成果をKim, J., Yoshida, N., Iwata, S., Kawaguchi, H. (Eds.). (2021). Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese Approach in Global Settings. New York, NY: Routledgeにまとめて出版しました。さらに,同書刊行に合わせてこれまで計7回のセミナーを,2020年度教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援も受けて開催してきました。2021年度も引き続き教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援を得て,日本の授業研究と世界のLesson Studyとの相互作用の解明に取り組んでいます。
シリーズ第8回となる本セミナーでは, 日本の授業研究の「指導助言者」の役割が“knowledgeable others(知識ある他者)”として翻訳され発信されている状況に着目し,日本の教師教育者がどのように授業研究に関わってきたかを報告いただきました。
はじめに,司会の金鍾成先生(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。趣旨説明では,「日本の教師教育者は,なぜ,どのように,授業研究に関わるか」というセミナーを貫く問いが共有されたのち,「knowledgeable othersは,何に関してknowledgeable(知識ある)なのか。提供するknowledge(知識)とは何か。」という日本の授業研究と世界のLesson Studyをつなぐ問いが共有されました。
次に,3名の先生から話題提供がなされました。まず,岩田昌太郎先生(広島大学)から「教師教育者としての役割の変容:授業研究を通じて教師に関わるということ」と題して発表が行われました。公開授業後の協議会で10分間のコメントを担当するだけでは実質的な授業改善を保障できないと考え,自身の授業研究への関わり方を拡張してきたことが報告されました。具体的には,協議会で得た知識を次の授業にすぐに反映できる「短期集中型校内研修」を企画し実施するなど,協議会の「指導助言者」の役割を超えて「仲介者(Broker)」として振る舞うようになったことを述懐しました。なお,このような拡張のプロセスは,専門である体育教育学と教師教育の視点から「授業研究を研究する」過程でより強化されたと言及されました。
次に,川口広美先生(広島大学)から「教師教育者としての悩みと工夫―「知識ある他者」であるということの葛藤―」と題して発表が行われました。大学院生時代に指導教員のスタイルを観察して学んだ「指導助言者」の振る舞いは,実際に教師教育者として授業研究に関わる中で変化したと報告しました。具体的には,①年齢(若手)や性別(女性)などの個人的属性,②教科教育研究者としてのアイデンティティ,③シティズンシップ教育という専門分野を受けて多様な葛藤を経験し,その乗り越え方を考察するなかで,自分のスタイルを確立してきたことが述べられました。現在では,実践,研究,政策をつなぎ,授業に関する思考の言語化を促す存在として,また政策と実践を客観的に俯瞰できる存在として授業研究に関わりたいと話しました。
最後に,吉田成章先生(広島大学)から「教師教育者からカリキュラム・デザイナーへーコミュニティー・ベースの授業研究の試みー」と題して発表が行われました。授業研究を,①授業という教育学的営みを研究する「授業『の』研究」,②授業改善のための研修である「授業『のための』研究」,③授業の研究を通して学校カリキュラムや学校間連携の取組,(学級・学年)集団づくりなどを究明する「授業『による』研究」,の3つに類型化した後,①②を重視しながらも③を志向するようになった経緯とその具体例を報告しました。具体的には,「集団づくり」という研究関心や子どもの「解放」を志向した教育観を受けて,カリキュラム研究に重点を置きながらも授業研究に持続的に携わっている姿勢が開示されました。
以上の発表を受けて,3名の指定討論者の先生からコメントをいただきました。
まず,齊藤英介先生(Monash大学)からは,「学びの共同体」の知的伝統に基づき,子どもの学びから教師教育者の授業研究への関わり方を考える必要性をご指摘いただきました。また,大学の教師教育者の授業研究への関わり方を研究する際に,個人の研究だけではなく「学校との協働」や「大学での実践」をも考慮する必要性も指摘していただきました。
次に,草原和博先生(広島大学)からは,授業研究は教師が自らの実践を文脈化・脱文脈化する契機となりうる可能性をご指摘いただきました。具体的には,授業研究において,授業のFoundationの再構成,実践のAcademicな意義付け,教育観のReflectionの支援,教師教育者としてのAlternativeの提案,そして改善に向けたempowermentを意識することの重要性について指摘していただきました。
最後に,的場正美先生(東海学園大学)からは,現象学と解釈学の観点に基づき,論理形成の解釈共同体における「知識ある他者」の役割についてコメントいただきました。特に,授業実践・記録から表象をどのように切り取るか(=分節),分節された事実からどのように新たな気づきを見出すことができるかという観点から,解釈共同体である授業研究共同体における知識ある他者の存在意義を説明していただきました。
また,ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「インクルーシブな教師教育でとくに難しい点」,「授業研究という行為を通して,実践の事実から授業理論を構築していく可能性」「特定の教科に特化してknowledgeをもった教師教育者として,「学校」という場に入っていくときの意識」「非常勤などの立場の弱い教員が学校で学校全体の研究や研修に関わっていく方法」などの質問が出されました。これらの質問は,教師教育者が持つ知識とは何か,それを学校現場にいかに還元していくかの議論につながり,授業研究における教師教育者/指導助言者の責任と役割について,参加者全体の理解を深めることができました。
今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想しております。
①授業研究に携わる教師教育者/指導助言者の専門性開発に資するカリキュラムをデザインする必要がある。
②上記の目的を達成するための第一歩として,現在,授業研究に携わっている教師教育者/指導助言者の関わり方と,そのような関わり方を持つようになった経緯(ナラティブ)を継続的に取集する必要がある。
今後もEVRIでは,「教師教育・授業研究ユニット」ユニットを中心に,授業研究を軸に教師教育を変革するための方略を検討してまいります。この取り組みは,「教師教育者のためのセルフスタディ」シリーズや「ポスト・コロナの学校教育」シリーズとも連動します。是非,EVRIのセミナーシリーズに幅広いご関心をお寄せいただき,今後とも研究・実践をご一緒させていただければ幸いです。
Ⅱ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。
*第97回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。
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