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【2024.02.23】定例セミナー講演会No.155「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」キックオフシンポジウムを開催しました。

公開日:2024年04月16日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

広島大学大学院人間社会科学研究科 教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は,2024年2月23日(祝・金)に,155回定例セミナー「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」キックオフシンポジウムを開催しました。大学教員や学校教員を中心に60名の皆様にご参加いただきました。

はじめに,草原和博教授(広島大学)より本セミナーの趣旨が説明されました。2021年4月より「広域交流型オンライン社会地域学習」として実施してきたEVRIと東広島市教育委員会の連携事業が,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「ポストコロナの学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築」事業に採択されたことを受けて,「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校(通称:NICE)」として新たにスタートを切ったことが報告されました。また,本キックオフシンポジウムのねらいが,初年度の実績と参加者との意見交換を通して,本プロジェクトの展望を描くことにあることが示されました。

次に基調講演として,小林信一教授(広島大学副学長,人間社会科学研究科長)より「人文社会科学分野のSIPの可能性」と題してご講演いただきました。小林先生は,人口減少が進む日本,とりわけ(首都圏ではない)広島県では人材不足が深刻となっているが,このような状況は決して悲観すべきものではなく,日本の地方社会の将来像の先取りであるという認識が必要と提案されました。また,すべての分野で高度な専門性をもった人材を確保できない地方で必要とされているのは,Disciplineベースの人材ではなく,むしろ多様な課題に向き合うことのできる教養に支えられた人材であることを指摘しました。さらに,これからの社会では,そのような人材を核にして,社会的課題の発見と多様なステークホルダーとの協働・共創が鍵となってくると指摘しました。

 

その後,本NICEの概要と初年時の成果について,6点の発表がありました。
第1発表は,草原教授による「NICEは何をしてきたか,何を目指すのか-越境する教室・デジタル公共圏-」でした。過去の授業実践を紹介するとともに,カリキュラム開発,社会基盤開発,AI技術開発それぞれのユニットのミッションと,目指しているデジタル・シティズンシップ・シティの姿,ならびにその実現に向けた方途が示されました。
第2発表は,川本吉太郎さん吉田純太郎さん田中峻斗さん両角遼平さん(広島大学大学院・院生)の「子どもはNICE授業から何を学んだか-異質な他者の認知から得られた示唆-」でした。本発表では,参加児童へのアンケート調査の結果として,①子ども‐大人間よりも子ども同士の方が,深い関係性で認知されていたこと,②同じ大人であっても,授業中の役割によって相手との関係が異なって認知されていたことが報告されました。
第3発表は,滝沢准教授(広島大学)の「公教育制度から見たNICEの可能性-教育長等への聞き取り調査の結果から-」でした。滝沢准教授は県内市町村教育長に対する調査結果を踏まえ,多くの教育長はNICEの取組に高い関心を示す一方で,教員負担の増加,予算確保等で課題を感じていたことを指摘しました。あわせて,多様な価値の存在を承認し,包摂する公教育制度の実現を提案しました。
第4発表は,渡辺教授(広島大学)・隅谷教授(広島大学)の「AI技術から見たNICEの可能性-音声認識技術の遠隔教育への活用課題-」でした。本発表では,教室で発せられている教師・子どもの声を集音する技術の難しさと,それをテキスト化し,要約するプログラムの開発状況が報告されました。
第5発表は,金准教授(広島大学)の「海外先進例から見たNICEの課題-学校を中心とする市民生態系の観点から-」でした。教師主導ではなく,子どもが自ら地域の課題を発見し,探究していく必要性が述べられました。また海外の先進事例(コロンビア大学のDr. Beth C. Rubin氏が実施するThe Civically Engaged Districts ProjectとしてのCivic Action Research)を通して,持続可能な体制を構築するには,教員の研修が鍵になることが指摘されました。
第6発表は,川口准教授(広島大学)の「プリミティブなNICEの取組から見えてくるドラスティックな教育改革の戦略」でした。NICEがきわめてシンプルな構造をとっている理由として,最先端のテクノロジーを教室に導入しても根付かない実態を指摘し,教育改革のフェーズ(段階性)を意識すること,また各地の状況に即した「誰も置き去りにしない」教育変革を進めていく必要性を強調しました。

 

続いて,参加者・有識者の皆様からコメントをいただきました。広島県内外の教育行政,学校教育関係者,研究者などから,NICEの取組に対する期待や課題,実際に参加した子どもや教師の感想,今後の連携の可能性等をご教示いただきました。特に人口減少著しい離島・中山間地域から見るとNICEの取組は魅力的である,NICEを経験した10-20年後の子どもの姿に期待したい,などの意見が出ました。その他にも,NICEを成立させる上で欠かせない大学生のサポート体制,社会科以外の教科での実施可能性,またオンライン授業に適した単元・内容の絞り込みの可能性,などについて質疑が交わされました。

 

最後に,次の3名の識者よりコメントをいただきました。市場一也氏(東広島市教育長)は,学校を越えて多様な他者とつながる学びの意義,東広島市教育振興基本計画がめざすもの,「学校を核とした」地域づくりなどの視点から,本プロジェクトに期待していると述べました。西岡加名恵氏(京都大学教授・本課題サブプログラムディレクター)は,NICEが掲げるデジタル・シティズンシップ・シティ構想はSIPが目指している社会の姿であるとして,リアルな人との出会いをデジタルで保障をする学校教育の重要性を指摘しました。また,テクノロジーとの付き合い方として,AIに管理されるのではなく,AIを(教師や子どもが)活用する姿勢で一貫している点も評価も示されました。最後に丸山恭司教授(広島大学・教育ヴィジョン研究センター長)は,大学と教育委員会と学生がともに良い教育を構想し実践しているNICEの取組を,EVRIセンター長として応援したいと述べました。

 

 

シンポジウム終了後の参加者同士での交流の様子

 

これからもNICEは,デジタル・シティズンシップ・シティの全国展開に向けて努めてまいります。

文責(草原和博・川本吉太郎)


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第155回定例セミナーのポスターはコチラです。

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