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【2021.05.09】第76回定例オンラインセミナー「教師教育者のためのセルフスタディー研究の歴史・思想から実際までー(5)」を開催しました

公開日:2021年06月16日 カテゴリー:開催報告

.開催報告

 

2021年5月9日(日)に、第76回定例オンラインセミナー「教師教育者のためのセルフスタディー研究の歴史・思想から実際までー(5)」を開催しました。当日は大学教員や大学院生を中心に57名が参加しました。

「教師教育者のためのセルフスタディ」シリーズは、国際的な研究方法論として広がりをみせるセルフスタディについて、広く深く参加者とともに学んでいくセミナーです。様々な専門職の職能発展において活用できる可能性を持つセルフスタディですが、本シリーズでは、特に教師教育者に焦点をあてます。日本における教師教育者のセルフスタディの受容と発展について、その歴史や思想、そして海外事例を含む実践の諸側面から検討していきます。

本シリーズは、最終的にシリーズタイトルと同名の書籍の出版を目指しています。この研究/出版プロジェクトは、齋藤眞宏(旭川大学)、草原和博(広島大学・EVRIセンター長)、渡邉巧(広島大学)、大坂遊(徳山大学・EVRI教育研究推進員)の共同研究です。シリーズ企画は、科学研究費助成事業の一環としても実施されています。

シリーズ第2回目からは、シリーズの帯企画として「海外セルフスタディ研究の紹介」と「日本のセルフスタディ事例紹介」の企画の2本立てで進めてきました。前者は、海外の特筆すべきセルフスタディ研究事例を取り上げ、その研究の方法論的な特質や、研究の意義について示す企画です。後者は、日本における大学ベースの教師教育者が行ったセルフスタディ研究の実例を示す企画です。

シリーズ第1回の開催報告はこちら
シリーズ第2回の開催報告はこちら
シリーズ第3回の開催報告はこちら
シリーズ第4回の開催報告はこちら

セミナー前半の「海外セルフスタディ研究の紹介」企画では、武田信子先生(元武蔵大学)が、子どもたちに対する責任を意識した教育のために、教師教育者をはじめとしたすべての教育者にとってセルフスタディが有効な手段になりうると主張しました。またもともとの日本の教師文化,教師教育文化の特徴として,人権や民主主義を尊重する姿勢が日本の教師教育全体に普及していないこと,教師は「尊師」であるとみなされるために葛藤や戸惑いを素直に開示しづらいこと,言語の壁によって海外の教師教育者との交流や情報共有が阻害されたり一部の国への偏りがあったりすること,といった数々の課題が指摘されました。
その上で,武田先生は教師教育においてセルフスタディが普及していくことで,教育実践を中心とするコミュニティの創出により,上記の課題の解消が図られうることを指摘しました。さらに,セルフスタディの普及は,教育における理論と実践の乖離を解消する具体的方策になりうること,教師教育者が自分をリフレクションする機会を創出できること,実践家が理論を一般化できる有効な手段となりうること,などの可能性も示唆されました。

 

セミナー後半の「日本のセルフスタディ事例紹介」企画では、「自分とセルフスタディ」と題して、齋藤眞宏先生(旭川大学)、大坂遊先生(徳山大学)、渡邉巧先生(広島大学)、草原和博先生(広島大学)によるセルフスタディが報告されました。リサーチクエスチョンは、自身の「セルフスタディ史」から見て、私たちは今回のセミナーシリーズをどのように意義づけてきたか、つまり「なぜ私はセルフスタディにはまったか、取り組んだか、惹きつけられたか」をテーマに考察を行いました。メンバーは5ヶ月間にわたり、対話を積み重ねてきました。そして6人のセミナー参加者へのインタビューを行い、それを録画してテープ起こしもしました。その記録を鏡に4人で協働的に議論を重ね、自分とセルフスタディについて探究してきました。結果として22項目の論点が抽出されました。

リサーチクエスチョンに対する個別の探究を通して、4人はセルフスタディを進めるモチベーションとして、①教師教育や学校文化、社会の変革につながること(齋藤)、②研究成果の創出、自己の変革、コミュニティの形成など様々な副次的な効果が期待できること(大坂)、③教師教育者が自身をエンパワーしていくツールとなること(渡邉)、④教師教育と教育学研究を両立する人材の育成組織の形成に向けた学術的な拠り所となること(草原)、を感じていることが明らかになりました。

 

指定討論者の丸山恭司先生からはセルフスタディが教師教育者だけにとどまらず、専門職一般の研修方法として確立されることが望ましいというご指摘をいただきました。また同じく指定討論者である武田先生は社会や学校において子どもたちのウェルビーイングが阻害されており、子どもたちに対する責任を意識した教育のために、教師教育者をはじめとしたすべての教育者がセルフスタディを行うべきであると主張しました。

 

セミナー終了後の座談会では、学校で教員を始め誰しもが自己開示しやすい文化をどのように醸成するのか、初任者研修の場面でもセルフスタディは有効なのか、という問いが出されました。また、大学における教員養成が学校現場において信頼を得ていないという厳しい指摘もありました。参加者からは、教育は人間を相手にしているのだから、セルフスタディのような人間味を感じさせる研究が本質であり、それが人間味のある教師、個を大事にする人間味のある教室につながるというコメントをいただきました。
日本においてセルフスタディのどこに魅力を感じるのかが多様であり、様々な関心を持つ方々が本セミナーシリーズに集っていることが改めて浮き彫りになりました。このセミナーシリーズを通して、セルフスタディは、教師教育者や教師、その他の専門職の人たちにとっては安心かつ安全に専門職として成長していけるためのコミュニティづくりであり、それは学校や社会において子どもたちの居場所づくりに繋がっていく大事な営みであると私たちは考えています。


本セミナーを通じて以下のような政策提言を構想しています。

 

1. 日本の教師教育カリキュラムや教師教育者への示唆

 

・ 教師教育者は、教師教育に求められる使命観や自覚、社会正義等について自律的に議論し、倫理綱領等を明文化するべきである。
・大学の人事制度・評価制度は、教師教育者のアイデンティティ確立や教育・研究活動を促進するように改善すべきである。
・ 教師教育者は、政府の政策や所属機関の利害にのみ拘束されることなく、教育・研究等の自由が保障されるべきである。

 

2.日本におけるセルフスタディの導入に向けた示唆

 

・ セルフスタディは、教職大学院のスタッフ/大学院生や、教育委員会の指導主事等の専門性開発の方法の一つとして導入されるべきである。
・ セルフスタディは、教職大学院の現職大学院生が取り組む研究の方法の一つとして導入されるべきである。また、教職大学院の教員は、同じ教師教育者として、現職大学院生のセルフスタディを支援する存在となるべきである。
・ 教師教育者の教育活動に関する専門雑誌を発刊され、上記の研究活動が発表・評価される媒体が用意されるべきである。


なお、本テーマを研究していく過程で、企画者らは科研費「先生の先生はいかに自己成長をするか:教師教育者の専門性開発の体系化に向けて」(基盤研究C:課題番号21K02472)を獲得することもできました。今後はこのセミナーシリーズをもとに、『セルフスタディをどのように行うか-教師教育者による研究と専門性開発のために-(仮)』の出版を目指し、まずは教師教育者のコミュニティづくりに鋭意努力していきたいと思います。

 


教育学研究科HPにも掲載されています


 

Ⅱ.発表資料

 

発表:「教師教育者のためのセルフスタディ -研究の歴史・思想から実際まで(5)- 」齋藤眞宏(旭川大学),大坂遊(徳山大学) 渡邉巧(広島大学),草原和博(広島大学)  発表資料

発表:「セルフスタディの国際動向と今後の日本のセルフスタディ研究への期待」武田信子(一般社団法人ジェイス 代表理事,広島大学教育ヴィジョン研究センター 諮問委員) 発表資料

指定討論:「教師教育者のためのセルフスタディー(5)」丸山恭司(広島大学) 発表資料

Ⅲ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。

 


*第76回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

76のサムネイル

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