menu
※上掲の写真は、本事業の一環として2018年10月にカンボジアで実施されたアクション・リサーチ研修の様子です。

 

 

2019年4月1日更新

 


0. Introduction
はじめに

プロジェクトの概要

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は、社会貢献活動の一環として、2017年7月から独立行政法人・国際協力機構(JICA)が実施する「カンボジア教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト」に協力しています。2021年8月現在、第3次の事業が進められています。

 

採択事業詳細
【第1
次(2017年7月20日~2019年5月15日)】

●採択枠    :独立行政法人・国際協力機構 技術協力プロジェクト
●採択事業名  :「カンボジア教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト」
●連携・協力機関:カンボジア王国教育・青年・スポーツ省教員養成局、プノンペン教員養成大学、バッタンバン教員養成大学、奈良教育大学、株式会社パデコ
●事業目的・内容:カンボジア教員養成大学(小中学校教員養成課程)における職能開発マネージメントに関する技術指導と教材作成(現地)、および遠隔での技術指導と教材作成(国内)、およびカンボジア教員養成大学管理職研修の受入(国内)
【第2次(2019年5月16日~2021年5月17日)】
●採択枠    :独立行政法人・国際協力機構 技術協力プロジェクト
●採択事業名  :「カンボジア教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト(第2年次)」
●連携・協力機関:カンボジア王国教育・青年・スポーツ省教員養成局、プノンペン教員養成大学、バッタンバン教員養成大学、奈良教育大学、株式会社パデコ
●事業目的・内容:カンボジア教員養成大学(小中学校教員養成課程)における職能開発マネージメントに関する技術指導と教材作成(現地)、および遠隔での技術指導と教材作成(国内)
【第3次(2021年5月20日~2023年1月19日)】
●採択枠    :独立行政法人・国際協力機構 技術協力プロジェクト
●採択事業名  :「カンボジア教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト(第3年次)」
●連携・協力機関:カンボジア王国教育・青年・スポーツ省教員養成局、プノンペン教員養成大学、バッタンバン教員養成大学、奈良教育大学、株式会社パデコ
●事業目的・内容:カンボジア教員養成大学(小中学校教員養成課程)における職能開発マネージメントに関する技術指導と教材作成(現地)、および遠隔での技術指導と教材作成(国内)

 

独立行政法人・国際協力機構(JICA)は、開発途上地域等の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的とした団体であり、「1. 質の高い成長と格差是正」「2. 普遍的価値の共有と平和構築の推進」といった5つの基本方針のもと、多岐にわたる活動を行っています。

その中のひとつに「技術協力プロジェクト」があります。これは、JICAの専門家の派遣、研修員の受入れ、機材の供与という3つの協力手段(協力ツール)を組み合わせ、一つのプロジェクトとして一定の期間に実施される事業です。この度、2017年1月から2022年12月にかけて技術協力プロジェクト「教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト」が実施されるのをうけて、国立大学法人奈良教育大学や国際コンサルティング企業である株式会社パデコとともに、EVRIとそのスタッフである丸山恭司教授木下博義准教授佐藤万知氏らが本事業に協力することとなりました。

【参考】JICAカンボジア事務所ニュースレター「カンボジアだより」(リンク先から閲覧できます)

 

1. Backgroundプロジェクトの経緯・背景

カンボジア教員養成の課題と本事業の位置づけ

この章の文章は、おもにこちらのJICAの評価報告書およびこちらのプロジェクト概要ページを参照して作成しています。プロジェクトの正確で詳細な情報につきましては、リンク先をご確認下さい。

カンボジア王国(以下、カンボジア)では1975〜79年のポルポト政権による大量虐殺によって教師や知識人らの有能な人材はことごとく失われ、人材育成のシステムそのものが崩壊しました。その後の政権によってある程度の再興は達成されましたが、量的な拡大に重点を置いたために、退学率の高さ、能力のある教師の不足等の質的な問題を抱え込んだままとなっています。

カンボジアにおける近代教員養成制度は、このような1980 年代以降の紛争復興期における圧倒的な教員不足に対応するため、変則的な短期講習の形で開始されました。現在は正規の教員養成機関として、2年制の小学校教員養成校(Provincial Teacher Training Center: PTTC)および中学校教員養成校(Regional Teacher Training Center: RTTC)が全国各地に設置されています。

一方、これら教員養成校入学者は国家試験である中等教育(12年生)修了資格試験合格者とされているものの、世銀の報告書「Educating the next generation」によれば、PTTC入学者の約80%、RTTC入学者の約70%以上が「成績下位グループ」であることが指摘されており、カンボジアでは教員の質の確保に大きな課題を抱えています。

このような中、カンボジアでは、2015年8月に産業開発政策(Industrial Development Policy: IDP 2015-2025)が発表されました。そこでは、今後も経済成長を維持していくためには、産業の多様化、国際競争力のある高付加価値産業の創出・育成が重要であるとされ、そのための産業人材育成の必要性が指摘されました。それをうけて、カンボジア教育・青年・スポーツ省(以下、カンボジア教育省)は、産業人材育成を主な目的とした教育改革を推し進めており、基礎・中等教育、高等教育、技術教育の各部門において大規模な改革を進めています。

そのような改革の一環として、教員養成制度の改革が進められています。カンボジア教育省は、全小・中学校教員の学士化を主要な政策と位置付け、そのために教員養成校を2020年までに大学化(Teacher Education College: TEC)することを目標として掲げました。教員養成の枠組みを現行の「12+2制」から「12+4制」へと発展させ、担当する学校種を問わず全ての教員の資格を学士号以上に移行することを喫緊の課題としています。さらに、教員養成校の大学化に関連して、教員養成校入学者の選抜方法改善、教員給与の見直し等も行い、質の高い学生を教員養成校に入学させる取り組みも行っています。

このように、現在カンボジアでは質の高い教育を提供するため大規模な教育改革が進められており、TEC設立はこれら教育改革の中でも最重要課題として扱われています。本事業の実施主体であるJICAはこれまで、基礎教育分野においては、理数科教育の分野を中心として、「カンボジア理数科教育改善計画プロジェクト(2000年~2005年)」「理科教育改善計画プロジェクト(2008年~2012年)」「前期中等理数科教育のための教師用指導書開発プロジェクト(2013年~2016年5月)」という技術協力プロジェクトを継続的に進めてきた実績があります。この成果をふまえながら、本事業では教員養成分野での豊富な研究・実践の蓄積を持つ広島大学と奈良教育大学が協力機関としてプロジェクトを進めることとなり、広島大学はEVRIがその任務を引き受けることとなりました。

 

 

2. Activities & Outputs活動と成果

はじめに

2017年1月、「カンボジア国教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト」、通称「E-TECプロジェクト」が始まりました。

プロジェクト全体の進展についてはJICAの特設ページをご覧頂くとして、ここではEVRIが直接関わった研修の内容について紹介してまいります。なお、プロジェクト自体は6年の長期にわたる事業ですが、ここではEVRIが現在協力している期間(2017年7月~2019年5月)の内容に限定してご紹介します。


活動①:TEC学長らに対する本邦研修の実施(クリックすると開きます)

活動①:TEC学長らに対する本邦研修の実施

2017年11月27日から12月22日にかけて、プノンペンとバッタンバンに設立予定の教員養成大学(TEC)の学長・副学長候補9名が来日し、EVRIを拠点に本邦研修を行いました。

 

本研修は、カンボジアの教員養成が2年制から4年制に延長されることをうけて、TECの設立を制度面から支援するものです。このたびの研修では、主にTECの経営戦略、内部質保証ガイドラインおよびTEC教員評価基準の立案を目的に実施されました。

研修の前半では教育学研究科と高等教育研究開発センターより理論的支援が提供されました。教育学研究科では、主に①教師教育の理念と歴史、教員免許の種類や課程認定の制度など教員養成に関わるナショナルな仕組みと、②教育学研究科内部の経営戦略と運営体制、教育・研究の支援体制、教育実習のカリキュラムなど教員養成大学の実務についての講義が行われました。高等教育研究開発センターでは、主に①大学のガバナンス、内部質保証、学生支援と学習環境、国際化戦略等の理論と、②広島大学独自の経営戦略やFD等の取組についての講義が行われました。

研修の後半では、3つの成果物(経営戦略、内部質保証ガイドライン、TEC教員評価基準)を作成するためのワークショップが行われました。研修員は、前半の講義で学んだことを基盤に、新たに他大学の事例も参考にしながら、成果物の仕上げに取り掛かっていました。模造紙に論点を書き出したり、グループディスカッションを繰り返したりしながら、自分たちが目指すTECの姿を可視化していきました。

最終日に行われた成果報告会では、研修の成果として、TECの経営戦略、内部質保証ガイドラインおよびTEC教員評価基準の原案が提案されました。経営戦略では、1つのヴィジョンと3つのミッションが明快に設定され、またそれに対応した10のゴール、ゴールに導く16の戦略、そして戦略を具体化した50を越える活動案が提案されました。短期の準備期間にもかかわらず、ビジュアルかつ体系化された構想が示されました。

発表後は、専門家や参加者との間で、教員採用の基準、カリキュラムやシラバスの改善のプロセス、FDの目標・レベル設定の考え方などをめぐって質疑が交わされました。研修員には、カンボジア帰国後に成果物をさらに充実させることが期待されています。

報告会終了後、研修生の9名に対して小山正孝教授(教育学研究科長、教育の専門家ユニット)と草原和博教授(EVRI拠点リーダー)から受講証が授与されました。関係者も研修生も互いにこの1ヶ月の取組と成果を称えあいました。

 

研修の様子は、下記の報告書をご参照下さい(PDF版はこちら:報告書①報告書②報告書③報告書④)。

 

【関連情報】JICAウェブサイトのプロジェクトページにも、本研修の報告が掲載されています。あわせてご参照ください。


活動②:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その1)(クリックすると開きます)

活動②:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その1)

2018年3月5日から7日にかけて、プロジェクトリーダーの丸山恭司教授がカンボジアに渡航し、TEC学長・副学長9名と教員養成局(TTD)職員らを対象とするTEC管理職の現地研修を開催しました。今回の研修目的は、TEC教員及び学生の評価に関するアウトラインとツールを開発することでした。

講義では、アセスメントの目的、高等教育の世界的な潮流、カンボジアにおける文化的背景を考慮したアセスメントの重要性などについて説明しました。現行のカンボジア教育資格基準の枠組みや教員養成校(TTC)の評価基準、アセアン教員教育基準(案)等を参考資料とし、どのような観点からどのように評価するのが望ましいか、また基準や指標をどのように設定するかをめぐって活発な議論が行われました。

TEC教員の評価基準については、ほぼ議論がまとまり、文書の作成が開始されました。TEC学生の評価基準については、TEC学生が卒業時までに質の高い小中学校の教師として身につけておくべき能力について議論を深め、到達目標・基準を列挙しました。今後は、これらを単位制度や成績スコア制度(A~F)に、あるいはGrade Point Average (GPA) に結び付けていくことが課題です。次回の研修までに丸山からの助言を反映させることを宿題として、今回のワークショップを終えました。

 

研修の様子は、下記の報告書をご参照下さい(PDF版はこちら:報告書⑤)。


活動③:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その2)(クリックすると開きます)

活動③:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その2)

丸山教授の渡航の直後、2018年3月13日から3月15日にかけてはプロジェクトメンバーの佐藤万知氏が渡航し、引き続きTEC学長・副学長9名と教員養成局(TTD)職員らを参加者としたTEC管理職の現地研修を開催しました。今回の研修の目的は、TECプログラムモニタリングガイドラインの素案を開発することでした。会場は、プノンペンから40キロほど郊外にある教員養成校です。

講義では「モニタリング」の意味や目的について説明し、どのようなガイドブック項目にするかについて議論を深めつつアウトラインを作成していきました。教育プログラムが確定していない中でプログラムのモニタリングを考えてもらうのは、なかなか困難な作業でした。

研修生には、自分たちが新しく任命されるTECの教員に向けて教育プログラムとは何かを説明するという想定のもとでコンセプトを考えてもらいました。全体的にモニタリング項目が細かくなりがちでしたが、プロジェクトのローカルコンサルタントを務めるDr. Chhinh Sithaより様々な参考事例やアドバイスをもらいつつチーム内で議論を積み重ね、共通理解と改善に努めました。今後は本研修での議論を踏まえてガイドラインに加筆・修正を加え、4月末をめどに素案を完成させる予定です。なお、ワークショップの最後には、TEC運営のための活動計画をアップデートし、今後の作業や課題を参加者全員で共有しました。

TECは2018年11月の開学に向けて教員を採用し、プログラムの内容を確定していきます。現時点までは全体像が見えない状態で管理職研修を進めてきましたが、今後は実際にマネージする対象者を意識しながら開学の準備を進めていくことになります。

 

研修の様子は、下記の報告書をご参照下さい(PDF版はこちら:報告書⑥)。

 

【関連情報】JICAウェブサイトのプロジェクトページにも、本研修の報告が掲載されています。あわせてご参照ください。


活動④:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その3)(クリックすると開きます)

活動④:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その3)

2018年の9月と10月に、カンボジア教員養成大学(TEC)にて、TEC学長・副学長と教員、教育省教員養成局職員等、総勢40名を対象にアクション・リサーチ研修を実施しました。

9月(2日~4日)に開催された研修では、プロジェクトリーダーの丸山教授がアクション・リサーチについての講義を行いました。本研修を通して、アクション・リサーチの基礎知識の習得とグループごとの研究計画の素案作成が行われ、おおむね期待されてきた成果を達成することができました。

10月(1日~3日)に開催された研修では、プロジェクトメンバーの木下がアクション・リサーチの計画作成について、佐藤氏がアクション・リサーチにかかわる職能開発計画について講義を行いました。3日間の研修を通して、アクション・リサーチの仮説の立て方や問題設定の習得と年間計画の作成などの成果を達成することができました。

両研修の成果を基盤としたアクション・リサーチの実践と、それを通したTECの今後の発展を期待し、EVRIはこれからも本プロジェクトをサポートしていきます。

 

研修の様子は、下記の報告書をご参照下さい(PDF版はこちら:報告書⑦)。

 

【関連情報】2018年末、予定通りプノンペンとバッタンバンに教員養成大学が無事開校され、12月21日に開校式が挙行されました。式典の様子は、こちらのJICAの記事をご覧ください。


活動⑤:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その4)(クリックすると開きます)

活動⑤:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その4)

 

2019年7月30日〜8月1日にかけてカンボジア教員養成大学(TEC)にて、P-TEC(プノンペンTEC)とB-TEC(バッタンバンTEC)の先生方を対象にワークショップを開催しました。

本プロジェクトでは、これまで多くのワークショップを開催してきました。具体的には、アクション・リサーチの手法を学んだり、具体的なリサーチ計画を立てたりしてきました。そこで今回は、最初に9つのグループ(心理学、クメール語、英語、ICT、数学、物理、化学、生物、地学)がリサーチの進捗状況を発表しました。多くのグループが実践を終え、データを収集していましたが、それをどのように分析すればよいのか悩んでいる状況がみられました。

そこで1日目は、アンケート調査を例にデータ収集から分析までの演習を行いました。2日目は、前日の演習を踏まえ、先生方が収集したデータを用いて各自で分析を行いました。一口に分析といっても様々なケースがあり、質問も多くありました。3日目は、リサーチのまとめに向けて論文執筆に取りかかりました。

このように、3日間を通して研究の計画を立て、実際に実践し、データを収集・分析し、論文にまとめていく研究活動を再現しました 。しかし、課題も多く表出したため、今後はリーダーによる研究の一層の推進が求められます。

 

 

研修の様子は、下記の報告書をご参照下さい(PDF版はこちら:報告書⑧)。

 


活動⑥:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その5)(クリックすると開きます)

活動⑥:TEC管理職らに対する現地研修の実施(その5)

 

2019年8月2日〜3日にかけてカンボジア教員養成大学(TEC)にて、管理職研修を実施しました。

本研修では、P-TEC(プノンペンTEC)とB-TEC(バッタンボンTEC)の評価部門が行なった学生による授業および教員の評価、教員向けのサーベイの結果を踏まえつつ、内部質保証の仕組みの見直し、TEC教員のコンピテンシーの見直しを行いました。

内部質保証については、ことごとに細かく情報を集めて評価する方向で議論が進みがちでした。そこで、本来はTEC管理者らが新しい高等教育機関として、まずどの部分を強化して独自性を強調していきたいのか、という部分を抽出し、それに対する実施状況を把握して、組織運営に生かしていくということが大切なのではないかという問題提起をしました。

全ての取り組みがうまく絡み合い、円滑に進行していくことが望まれます。しかしながら、何か新しいことに取り組む時は大抵うまくいかないことの方が多いものです。そのような中で、現状を受け止めつつ、長い目で人材育成に取り組んでいく覚悟を管理職の人たちが持っていることを確認できたのが、研修を実施した立場としての収穫となりました。

 

 

 

研修の様子は、下記の報告書をご参照下さい(PDF版はこちら:報告書⑨)。


【2023.1.20】定例オンラインセミナーNo. 131【HU-TEC オンラインセミナー】「教員養成大学に研究文化を根付かせる」を開催しました。(クリックすると開きます)

I.開催報告

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2023年1月20日(金)に,第131回定例オンラインセミナー【HU-TEC オンラインセミナー】「教員養成大学に研究文化を根付かせる」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に531名の皆様にご参加いただきました。

本セミナーは,カンボジアの二つの教員養成大学(TEC)と広島大学の教育ヴィジョンセンター(EVRI)による第1回共同セミナーとして開催しました。設定したテーマに迫るため,各大学の「挑戦」を共有し,それをもとに議論しました。まず,研究文化の定着に向けた各大学の取組・課題が報告されました。次に,各大学における研究の具体として,教員・院生によるアクション・リサーチの内容が報告されました。そして最後に,研究文化の構築について,質疑応答・意見交流が行われました。

はじめに,丸山恭司教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。広島大学は,これまでにカンボジアの教員養成大学の創設にあたり,さまざまな支援をしてきました。本セミナーでは,教師教育者の研究FDに焦点をあて,教員養成機関に研究文化を根付かせることの意味を確認するとともに,各大学の実践を共有することを通して,課題に対する今後の取組を検討することがセミナーの参加者全体で確認されました。

続いて,丸山教授と木下博義准教授(広島大学)から「広島大学の挑戦」と題して発表が行われました。丸山教授から,広島大学の教育学研究のチャレンジとして,(1)教職課程担当教員養成プログラム,(2)3階層ティーチングアシスタント制度,(3)教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロプメント講座,という3つの試みが紹介されました。また木下准教授から,教職大学院のチャレンジとして,アクション・リサーチを基軸としたカリキュラムの特徴と,具体的な院生の姿が紹介されました。

 

次に,プノンペン教員養成大学(PTEC)学長のSet Seng氏から「PTECの挑戦」と題して発表が行われました。PTECのミッションとして,(1)十分な能力を備えた教員を養成する,(2)教育・学習改善のための研究を推進する,(3)現職教員の能力開発に向けた社会貢献をする,という3点が示されました。このうち,(2)を積極的に取り組むことによって,研究文化の構築が実現するだろうという展望が示されました。
次に,バッタンバン教員養成大学(BTEC)学長のBinh Chhom氏から「BTECの挑戦」と題して発表が行われました。BTEC教員の研究力に関する現状と課題を分析するとともに,学生の学習・研究に関する実態も分析し,それらについての報告がなされました。また,PTECと同様に,教員によるアクション・リサーチの成果をまとめた研究紀要を発行していることが紹介されました。さらに,研究文化を根付かせるための方策も示されました。

 

ここで一度休憩を挟み,更に3つの発表が行われました。

まず,Chea Soth氏(PTEC)から「Influences of Reflective Conversation During Practicum. A case study of Mathematics student teachers at Phnom Penh Teacher Education College」と題して発表が行われました。教育実習生の指導技術や学級経営などに着目して行ったアクション・リサーチの結果が報告されました。実習中にTEC教員と教育実習生が「振り返りの話し合い」を重ねることによって,指導技術の向上に一定の効果があったという考察が示されました。
次に,Heng Tola氏(BTEC)から「Question Generation: An Analysis of Student Teachers’ Practicum at Battambang Teacher Education College」と題して発表が行われました。子供に対する教育実習生の質問スキルに着目して行ったアクション・リサーチの結果が報告されました。ブルームのタキソノミーを参考にし,教育実習生による質問の種類や質を分析したところ,子供の思考を深めるような質問よりも記憶を促すような質問が多くなされていたという結論が示されました。

 

最後に,藤原聖輝さん(広島大学大学院生)と木下准教授から「Developing Decision-Making Skills in Junior High School Science in Japan」と題して発表が行われました。中学校理科における意思決定力に着目して行ったアクション・リサーチの結果が報告されました。質問紙と評価問題を分析したところ,生徒が意思決定の質を向上させようとする態度に課題が見られた, 固定観念が意思決定に影響を及ぼしていたという結論が示されました。

 

以上の発表を受けてウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「TECのカリキュラムでは,学生の質問スキルが身に付かなかったのか,それとも教育実習では発揮できなかったのか」,「学生がアクション・リサーチに取り組み,どのような力が付いたのか」「(日本の学会のように)研究の成果を共有し,議論するような組織はないのか」といった質問がありました。丸山教授によって本セミナーのまとめがなされ,教員養成機関における研究文化の構築に向け,今後どのようなことを考え,どのようなことに取り組んでいけばよいのかについて参加者全体で理解が深まりました。

文責(木下博義・丸山恭司)


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


教育学研究科HPにも掲載されています

※イベント一覧に戻るには,画像をクリックしてください。


Posterポスター

活動をまとめたポスターです


PDF file >

 

ContactEVRIとの共同事業等へのお誘い

私たちEVRIは、EVRIの掲げるミッションとヴィジョンを達成するために、共同事業、共同研究、受託研究および講演等をお引き受けいたします。
ご依頼やご質問は、EVRIの運営支援チームに遠慮なくお問い合わせください。連絡先は次のとおりです。

e-mail :evri-info@hiroshima-u.ac.jp
Tel & Fax: 082-424-5265
contact >