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【2021.10.16】第95回定例オンラインセミナー「教科教育学・心理学・日本語教育学の視点からインクルーシブな学びを考える(5) 外国語科に学びにくさのある児童生徒の支援」を開催しました

公開日:2021年10月28日 カテゴリー:開催報告

.開催報告

 

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年10月16日(土)に,第95回定例オンラインセミナー「教科教育学・心理学・日本語教育学の視点からインクルーシブな学びを考える(5) 外国語科に学びにくさのある児童生徒の支援」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に129名の皆様にご参加いただきました。

「教科教育学・心理学・日本語教育学の視点からインクルーシブな学びを考える」シリーズでは,学びにくさを持つ子どもに既成の教科カリキュラムをいかに教えるかとともに,インクルーシブな社会の実現に向けて教育には何ができるかを考えています。

シリーズ第5回となる本セミナーでは,「外国語科(英語)」における「読み書き」の困難とその指導に焦点を当て,「読み書き」のメカニズム紹介,そのメカニズムを踏まえた指導が十分でない現状の指摘,そして指導方法の提案が行われました。

はじめに,司会の松宮奈賀子先生(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。外国語科(英語教育)においては,2020年度より小学校3,4年生から学習が開始となり,高学年では教科として「読み書き」を含めた英語学習を行うこととなりました。それに伴い,2021年度から中学校における指導も,小学校での学びを踏まえたものとなり,特に小学校高学年から中学校における学習内容の高度化という現状に直面しています。しかしながら,「読み書き」の指導が十分に行われていなかったり,その背景に指導者の指導に関する知識が不足していたりする現状があります。そこで,英語の「読み書き」における困難や,それに対する指導における第一人者である山下桂世子先生,村上加代子先生のお二人から,「読み書き」のメカニズムから具体的な指導方法の提案まで,広く提案していただき,これからの「読み書き」指導に活かせる考え方を共有することを目的とすることが確認されました。

 

まず,村上加代子先生(甲南女子大学)から「外国語科に学びにくさのある児童生徒の支援」と題して,「英語での読み書きの段階性などのメカニズムの概要」等についてお話いただきました。英語圏と日本ではディスレクシア(読みの困難)の出現率が異なりますが,それは英語という言語のもつ読みの難しさが背景にあり,日本人が英語を学習する際にも同じように困難に出会う可能性があることや,「読むこと(読解)」に必要な学びの土台である音韻意識(音韻認識),音韻操作,そして文字と音の対応規則を学びデコーディングを行う段階の指導が日本では不足していることが指摘され,文字と音の関係を体系的・段階的に学んでいくことの重要性が全体で共有されました。

次に,山下桂世子先生(Ashbrook School)から「英語の「読み書き」指導のありかたを見なおそう」と題して発表が行われました。山下先生が勤務されているイギリスの小学校では,教育省の定めた6段階の読み書き学習が行われており,英語を第一言語とする児童も,大変多くの時間と丁寧な過程を経て読み書きを学習していることが紹介されました。文字はきちんと指導されることで読め,書けるようになるものであることが改めて確認され,その上で,イギリスでの指導方法(Jolly Phonics)を基にした,日本の学校等でも活かせる指導方法が提案されました。具体的には,「多感覚」を用いて子どもたちの記憶に残りやすいような工夫を行いながら,少しずつ文字と音の関係を学んでいき,子ども自身の力で既習の音の組み合わせ(ブレンディング),聞いた単語から個別の音の切り出し(セグメンティング)を行う具体的な方法が紹介されました。特に学習の初期に教科書に登場する単語は,基本ルールでは読めないものも多く,基本的なルールと共に少しずつ「見て分かる」単語を増やしていくことで,「全て暗記」という負荷の高い学び方から脱却できるよう支援していくことの大切さが指摘されました。

そして,再度村上加代子先生(甲南女子大学)にご登壇いただき,日本人学習者の読みの発達の様子を,具体的なケース紹介を通して共有していただきました。当初,日本語の特徴である母音挿入(または母音脱落)を行っていた学習者が,Jolly Phonicsを用いた多感覚の音-文字学習や,音-文字を段階的に接続・分割する操作練習を重ねることにより,読み書きを上達させていく様子が実際の音声と共に紹介され,その成果を具体的なイメージをもって感じることができました。現在の日本の学校教育における英語の読み書き指導を「指導の網の目が粗い」状態だと指摘され,網の目を細かくしていくことで,網から落ちてしまう,つまり学習についていけなくなる児童・生徒を減らしていくことが重要であることが提案されました。

また,ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「英語母語話者の子どもたちに対しても時間をかける音-文字指導を,日本で行おうとするときに大事すべきところは何か」というご質問が出され,それに対して山下先生から「英語を急いで教えようと,文字の導入を急ぐのではなく,(特に小学校低中学年で)音あそびをたっぷり行うことが重要である」との回答がありました。また,村上先生からも「日本語音節の影響力は大きいが,音あそびを通して英語らしい音を捉えていくことは決して不可能ではないので,授業の中でも音あそびを取り上げていくとよいこと」,また「日本語にはない音素の指導や英語を発音する際の息の出し方などは丁寧に指導してほしい」との意見が出されました。この一連のやり取りの中で,decodableな教材(学習者が負荷を少なく読める読み物教材)の必要性がお二人から指摘され,参考図書が紹介されました。また,「中学校において指導時間の捻出が難しい状況があるので,小学校でフォニックスの指導を行って欲しい」といったご意見が出され,それに対して山下先生からは,まずは中学校でも取り組んで欲しいという回答がなされました。また,「どの程度の小学校でJolly Phonicsが導入されているのか」という質問に対しては,「具体的な数は分からないが,市町単位で導入しているところも10市程度ある」という現状をご回答いただきました。日本の小学校でも子どもたちの音への敏感さの成長など,成果が見られていることが報告されました。「急がば回れ」で,丁寧な「音」の段階の指導が大変重要であることが,質疑応答を通して参加者全体で共有され,理解が深まりました。

最後に,川合紀宗先生(広島大学)から以下の内容のまとめが行われました。「私たちが英語を学習する時,「瞬間的に消えてしまう音」よりも「文字」に頼りがちである。英語は日本語より音韻数が多く,学習が難しいものの,音韻の処理がきちんと行えないと,読めない,意味が分からないということに繋がってしまう。音韻意識(音韻認識)を高めるための学習を限られた時間でどのように取り入れていくかについては,山下先生,村上先生をはじめ,取り組みの成果も発表されているので参考にしていただくとよい。「読んで意味が分かる」ためには,もちろん「意味」へのアクセスが必要になるが,その前にまずは「文字を読めた」という経験が自信となり,次なる学びへとつながるであろう。」

また今回のセミナーを締めくくるにあたり,村上先生,山下先生から参加者の皆さんに以下のエールをいただきました。

村上加代子先生:「ここにご参加の先生方がフロンティアです。先生方のこれからの取り組みが来年,5年後,10年後の英語教育を作って行きます。一緒に英語教育を良くしていきましょう。」

山下桂世子先生:「「子どもの笑顔が見たい」が全てです。自分が子どもの時にこんな授業を受けたかった!というような指導を,子どもたちと一緒に,一歩一歩やっていきましょう。」

今後もEVRIでは,Inclusive・日本語教育ユニットを中心にして,多様な子どもたちがともに学び考える空間の在り方を検討してまいります。


 

アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


教育学研究科HPにも掲載されています


*第95回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

 


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