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【2024.06.08】定例オンラインセミナー講演会No.162「アナスタシア・P・サマラス著『教師のためのセルフスタディ入門ー協働的な問いによる実践の改善ー』(学文社刊)出版記念セミナー」を開催しました。

公開日:2024年06月06日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2024年6月8日(土)に,定例オンラインセミナー講演会No.162「アナスタシア・P・サマラス著『教師のためのセルフスタディ入門―協働的な問いによる実践の改善―』(学文社刊)出版記念セミナー」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に111名の皆様にご参加いただきました。

はじめに,司会の武田信子氏(一般社団法人ジェイス代表理事)より本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーは,教師並びに教師教育者のためのセルフスタディの指南書であるAnastasia P. Samaras著『Self-Study Teacher Research: Improving Your Practice Through Collaborative Inquiry』が翻訳プロジェクトチーム(20名)によって翻訳され,学文社より『教師のためのセルフスタディ入門:協働的な問いによる実践の改善』(以下,「本書」と記述)として刊行されたことを記念して企画されました。

武田氏は,翻訳の過程を登山にたとえながら,翻訳チームが自分の体力に合わせてお互いに励まし合いながら登る「チーム登山」をやってきたこと,今日のセミナーも後半部は「チーム登山」としてみんなでセルフスタディを語り合うスタイルにしているという意図があることを説明しました。そのうえで,今回の翻訳には,①教師教育の理論と実践に橋を架けたいという想い,②実践家が研究できるようになるためのマニュアルを提供したいという想い,③自身の教育実践を省察する方法を学び,なぜ研究を行うのかを考えてほしいという想い,が込められていることが説明され,参加者のみなさんにもセルフスタディのコミュニティに加わってほしい旨が語られました。

 

続いて,著者のサマラス氏からいただいたビデオメッセージを参加者とともに視聴しました。サマラス氏からは,今回の翻訳に関わった方々に対する感謝が述べられるとともに,本書の刊行が国際的なセルフスタディ研究を展開していく大きな一歩となったという意義が語られました。

 

次に,西田めぐみ氏(アイスランド大学)と亘理陽一氏(中京大学)から本書の目次について説明がありました。本書は大きく分けて,セルフスタディの理論に関わる内容(第Ⅰ部)とセルフスタディの具体的な進め方・手順を示す実践的な内容(第Ⅱ部)という2つの柱から成り立っています。両者からは,本書が現場の先生にとって参考になることはもちろん,卒業論文や研究論文を書く学部生や大学院生,そして大きく教育に携わる方々にとって自身の実践を省察するための指南書ともなりうることが示されました。また,教師のセルフスタディの研究実践例,そしてセルフスタディに関連する用語の解説についても付録として収められており,セルフスタディに関心のある読者に向けた工夫が多く散りばめられていることが共有されました。

 

その後,山内敏男氏(兵庫教育大学)・大西慎也氏(神戸学院大学),大村龍太郎氏(東京学芸大学),西田氏,齋藤眞宏氏(旭川市立大学)の5名から,本書の中心テーマであるセルフスタディの実践と研究に実際に携わり,論文を執筆して得た経験がそれぞれ簡単に述べられました。5名からは,セルフスタディの実践と研究を通して,「クリティカルフレンドの重要性を再確認できた」「主観であることをいとわずに自分自身の変容をとらえることができた」「論文の査読者もクリティカルフレンドの役割を果たしてくれて研究がより洗練された」「協働的なセルフスタディを通して自身が当たり前に考えていた概念のとらえ直しにつながった」「アートベースのセルフスタディに出会ってから,自分が言語化できなかったもやもやがアートを通して伝えられるようになった」といった経験が語られました。

 

以上をふまえて,セルフスタディ翻訳プロジェクトチームの翻訳者によるグループディスカッションが行われました。本ディスカッションは,Zoomのブレイクアウト機能を利用してテーマの異なる4つのグループに分かれて,参加者が自由にグループ間を行き来できる形で実施されました。

グループ1のテーマは「教師教育者の研究と専門性開発を支えるセルフスタディ」です。本グループでは,草原和博氏(広島大学・EVRI),亘理氏,齋藤氏の3名が話題提供者となり,おもに①学術研究の方法論としてのセルフスタディ,②教師教育者の育成及び専門性開発のためのセルフスタディ,という2つのテーマのもとで議論が行われました。

グループ2のテーマは「現職教師の研究を支えるセルフスタディ」です。本グループでは,山内氏,大村氏,武田氏,茂木智央氏(新渡戸文化小学校)の4名が話題提供者となり,研究方法やまとめ方について学校教育現場の先生方の視点から本書を切り取り,「どこに何が書かれているか,どのような点にお役立ち情報があるか」が紹介されました。そして「自分とセルフスタディのかかわり」「本書とのかかわり」を関連づけて参加者とともに語り合いました。

グループ3のテーマは「セルフスタディの論文執筆」です。本グループでは,佐々木恵美子氏(聖隷クリストファー小学校),西田氏,小田郁予氏(早稲田大学),早坂めぐみ氏(高千穂大学)の4名が話題提供者となり,セルフスタディ論文執筆経験がある実践研究者や大学教員が中心となって,①一般の論文とセルフスタディ論文の相違点,②セルフスタディの論文執筆体験談,③論文執筆における本書の活用のしかた,の3つのテーマのもと,具体的な執筆体験を交えながら語り合いました。

グループ4のテーマは「教師の成長を支えるセルフスタディ」です。本グループでは,渡辺貴裕氏(東京学芸大学),渡邉巧氏(広島大学),大坂遊氏(周南公立大学・EVRI),大西氏の4名が話題提供者となり,①セルフスタディにおけるクリティカルフレンド(協働する他者)の役割,②教師の専門性開発や授業研究にセルフスタディがどう活かせるのか,をテーマに,セルフスタディを通して自身や他者の専門性開発に取り組んだ経験のある翻訳者同士がディスカッションしました。

グループディスカッション後,各グループにてどのようなことを議論したのかについて全体で共有しました。

 

終盤では,参加者からも質問を募り,翻訳者との対話の時間が設けられました。参加者からは,「当事者研究がセルフスタディ研究に対してどのような影響を与える可能性を有するのか」「研究を進める上でクリティカルフレンドとどの程度やり取りを行うべきか」といった問いが投げかけられ,翻訳者らから様々な回答が寄せられました。また,本書の編集に携わった学文社の落合絵理氏より,購入希望者向けの案内なども行われました。

※本書の目次や購入方法は,こちらより確認いただけます。
https://www.gakubunsha.com/book/b646323.html

 

最後に,翻訳者の一人である草原和博教授(広島大学)より,本セミナーのまとめが行われました。草原氏からは,ちょうど10年ほど前から徐々に教師教育者の営みに関心が向けられるようになり,教師教育者が行う研究としてセルフスタディが注目され,その理論・概念・具体が徐々に導入され始めてきたという経緯が紹介されました。草原氏は,この10年間の営みの集大成が本書,および姉妹書である『セルフスタディを実践する』であり,コミュニティの成立に欠かせない「辞書≒共通言語」ができたことが確認されました。そのうえで,草原氏はこれらの書籍の刊行を契機として,セルフスタディという共通言語を「使いこなす」第2ステージへ移行していくであろうこと,日本におけるセルフスタディのコミュニティが形成され,日本的セルフスタディの再構築と発信が展開されていくであろうことの期待が語られました。あわせて,広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)がこれまで実施してきた教師教育やセルフスタディに関する活動が紹介されるとともに,セルフスタディを導入した専門性開発の取り組みの事例として「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座(PD講座)」を実施していることが共有されました。

 

今後もEVRIでは,セルフスタディをはじめとする教師や教師教育者の専門性開発の方法論とそれを普及・発展させる方策を検討してまいります。

 

文責(大坂遊

 


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第162回定例セミナーのポスターはコチラです。

教育学研究科HPにも掲載されています


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