▶2024年1月20日 公開 ▶2024年12月19日 最終更新
プログラムの詳細や受講のお申込みは,
下記のページからお願いいたします。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/gshs/risyu_syomei
※令和6年度の募集は終了いたしました。ありがとうございました。
プロジェクトの概要
本ページでは,広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が主催する履修証明プログラムである「教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座」について紹介します。
以下,トピックごとに記載しています。
関心のある項目をクリックしてご覧ください。
近年,教師教育や教員養成の世界では,「教師教育者(Teacher Educator)」という概念が注目されています。「教師教育者」には,教員養成に携わる大学教員のみならず,教育委員会の指導主事や学校現場の管理職,同僚教師など,教師の成長に影響を与える幅広い立場の人も含まれています。「教師教育者」は,「教師を育てる研究者」や「元(ベテランの)教師」といった単なる職歴や専門領域を備えているだけではなく,教師の力量形成を支援する存在としての特別な専門性(professionality)や信念(identity)が必要であるとされています。このことから,世界中で教師教育者についての研究が行われ,教師教育者の専門性開発のあり方が議論されています。
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は,設立当初から教師教育者に関する研究を行っています。これまで,日本国内外の学校や機関と連携しながら,「教師教育者とは誰なのか」「教師教育者とはどのような専門性をもつ存在なのか」「教師教育者が専門性を高めるためには何をすればよいのか」といったテーマについて,教師教育者の専門性に関する研究や実践を重ねてきました(「教師教育・授業研究」ユニットの特設ページもご参照ください)。
これまでのEVRIが行ってきた取り組みをさらに発展させるべく,2021年度4月より,EVRIは広島大学が社会人向けに開講している「履修証明プログラム※」の1つとして,「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」を開設しています。
※「履修証明プログラム」…学校教育法施行規則で定められた,体系的な知識・技術等の習得を目指した社会人向け教育プログラムのこと。制度についての詳細は,文部科学省のこちらのページを参照。広島大学で開講されているプログラムについては,こちらのページを参照。
若手教員や教育実習生の指導,および校内研修の企画・運営などに関わっている先生方を対象とした有料の講座です。1年間(計80時間)をかけて,EVRIが受講者の教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援していきます。修了者には,学校教育法に基づく「履修証明書」を発行します。
受講をお勧めしたいのは,次のようなニーズをお持ちの先生方です。
プログラムの詳細や申し込み方法についてはこちらのリンク先,ならびに以下の案内用チラシ(PDF)をご参照下さい。
講座全体で,「オンライン講習」「共同研究・論文執筆」の2つが連動する形で進行していきます。
希望者には,任意で草原教授の提供する教師教育に関する大学院授業の情報提供も行います。
実施計画は,以下のようなイメージとなっています。
実施日程は調整中ですが,5月から翌1月まで,毎月1回を原則として計10回実施予定です。
講習は1回2時間で,休日や祝日などの参加しやすい日程で開催します。
講習終了後,2週間を目処に,その講習回に応じた課題を提出していただきます。
【実施日程(暫定)】
第1回:2024年5月12日(日)※変更しました。
第2回:2024年6月15日(土)
第3回:2024年7月20日(土)
第4回:2024年8月3日(土)
第5回:2024年8月24日(土)
第6回:2024年9月29日(日)※変更しました。
第7回:2024年10月19日(土)※変更しました。
第8回:2024年11月23日(土)
第9回:2024年12月21日(土)
第10回:2025年1月11日(土)
受講者が聴講している,草原担当の大学院授業科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の実施報告については,草原教授の個人HPにて公開する予定です。
基本的にはZoomによるオンラインの形で講習を行っていきます。以下,各回の講習の概要を報告していきます(随時更新)。
【第1回:2024年5月12日(日)14:00~16:00】
月1回の講習が始まりました。今年度は9名の受講者が全国各地からオンラインで集まりました(今回は1名欠席のため,8名が参加)。
はじめに,講座の参加者全員の簡単な自己紹介が行われました。受講者は,同じ教師教育に携わる立場でありながら,初等中等学校,高等教育機関,教育行政,教育系法人など,様々な機関に所属されている方が集まっています。受講者に加えて,運営をサポートしたり共同研究を遂行するスタッフが多く加わり,共に講座を進めていくことが確認されました。
続いて,大坂教育研究推進員より講座全体についてのオリエンテーションが行われました。講座の目的や履修証明プログラムの概要,講座で活用するMicrosoft Teamsなどのアプリケーションの使い方,毎月のオンライン講習の展開と各回の学習課題などの基本事項を確認しました。特に本年度の講座では,毎月開催される2時間の講習とは別に,共同研究グループを組織して定期的に集まる必要があることや,最終的に研究成果を学術論文として提出する点に特徴があるということが強調されました。
休憩を挟んで,後半ではアイスブレイクと自己紹介を兼ねた,教師教育者としての専門性開発研修の体験を行いました。アクティビティのテーマは,「教師教育者としての”転機”や”契機(きっかけ)”を絵にして共有する」というものです。受講者に教師教育者としての私へと転換していった契機を踏まえながら自己紹介をしてもらいました。初めに草原先生からこの活動の意義や背景になっている実践の解説がありました。その後、受講者個人にワークの時間を設け、個人の経験を転換の契機という観点から一枚の紙にまとめてもらいました。全体で自己紹介を共有しながら、主に教師としてのこれまでの歩みを辿り、どのように教師教育者になっていったのかについて、多種多様に語られていました。この自己紹介を通して、教師教育者としてどのような課題意識があるのかが全体で確認されました。
受講者からの自己紹介が一通り終わった後,草原教授よりこのワークのまとめがありました。自らのこれまでの教師や教師教育者としての歩みをメタ認知することや,自らが教師教育者であるというアイデンティティを改めて自己認知すること,そしてそれらを他者との相互作用の中でさらに深めていくことの重要性が共有されました。このことが強調される背景には,他の専門職と異なり教師教育者は自らの意思ではなく外的要因で教師教育者に”なってしまう”ことが多いため,自らを教師教育者であるとアイデンティファイしづらい専門職であるということが確認されました。
今年度は9名という非常に多くの受講者がおり,なかなか深く交流することが難しかったのですが,全員の経歴や関心を知ることができました。スタッフも作品づくりを行ったのですが,講習外での共有となりました。次回以降,徐々に互いの問題関心をすり合わせる作業を行っていきたいです。
(金弘・大坂)
【第2回:2024年6月15日(土)14:00~16:00】
今回は前回欠席されていた1名を加えた受講生9名全員がオンラインで集合しました。
はじめに,大坂教育研究推進員より本日の講習の流れが説明されました。本日の講習では,①関連文献をもとに教師教育の研究と実践における重要な概念について理解を深めること,②過去のPD講座の研究成果論文を分析・参照して自身が取り組みたい教師教育の研究を構想すること,の2点を目指します。
今回からは,①本日の講習の目標確認や大学院科目での学びを共有する「導入パート」,②教師教育に関する理論や研究方法について学習する「講義パート」,③グループに分かれて教師教育に関するワークショップや共同研究を推進する「演習パート」,の3本柱で講習を展開していきます。
「導入パート」では,近況報告や大学院科目に関する感想などが参加者間で共有されました。草原教授の担当する大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」では,授業の冒頭で駆け出しの教師教育者(大学教員)から「直近1週間以内に起こった教師教育に関する印象的な出来事」を語ってもらう時間を設けています。この”帯企画”に関心をもった受講生から,なぜそのような時間を設けているのか質問がなされ,草原教授から意図開示がなされました。他にも,草原教授はEVRIでは頻繁に教師教育に関するセミナーが開催されていることを紹介しながら,ぜひこのようなセミナーに参加することを通して教師教育者コミュニティに参画してほしいという期待も説明していました。
「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(岩田ほか2018,原田ほか編2017:281-290,大坂ほか2020)を参照し,受講者が「教師教育者」「移行」「同型性」という概念について自身が理解した内容を報告しました。発表とその後のディスカッションを通して,教師教育者は,①大学を基盤とするアカデミックな教師教育者,②専門機関を基盤とするプロフェッショナルな教師教育者,③学校を基盤とするプロフェッショナルな教師教育者,という3種類に大別できること,今回の受講者は①~③のそれぞれの教師教育者がバランスよく集まっていることなどを確認しました。他にも,「導入パート」で触れられた駆け出しの教師教育者に省察する機会を設けているのは「移行」を支援することも意識しており,PD講座も「移行」支援のあり方の一つに位置づけられること,教師教育者が教師にとって望ましい教師のヴィジョンと指導を体現したロールモデルとしての役割を期待される一方で,そこには困難さもある現実を踏まえながら「同型性」の意味を考えました。
「演習パート」では,昨年度のPD講座成果論文を題材に,学術論文の読み解き方の修得と読み取った結果の共有,そして自らの研究関心等についてメタ認知するアクティビティを行いました。活動を通して,学術論文には「研究上の主要な問いは何か?」「データはどのように集めたのか?」といった学術的な読み方と,「納得したところ、不満なところは?」「結果や示唆に共感できるか否か?」といった鑑賞的な読み方などがあり,論文は目的に応じた読み解き方が必要であることを確認しました。受講生からは,「(昨年度の論文で題材となったような)自己の教師教育実践や葛藤を他者に向けて発信することの意義とリスクを考えた」「教師教育実践の”発信”ができるかどうかは,所属機関の状況や職務・職責などの文脈に大きく依存するのではないか」「校内研修をデザインするためには,学校ベースの教師教育者としてどのような力量形成が必要なのか考える必要があると認識した」といった意見が出されました。
9名の受講者が発表することになり,「講義パート」の議論は非常に充実したものとなった一方で,「演習パート」の活動に割く時間が限られてしまったのが運営の反省点です。課題となる読むべき文献に加えて参考文献などもあわせて紹介するなど,講習外でも受講者の方々に学術論文に触れていただき,自らの問題関心がクリアになるよう支援していきたいと思います。
(髙須・大坂)
【第3回:2024年7月20日(土)14:00~16:00】
今回は受講生7名がオンラインで集合しました。
はじめに,大坂教育研究推進員より本日の講習の流れが説明されました。本日の講習では,①関連文献をもとに「(教師教育者の)アイデンティティと専門性開発」についての理解を深めること,②議論を通して共同研究メンバーと研究テーマをゆるやかに決定することが目標として示されました。
今回も前回に引き続き,①本日の講習の目標確認や大学院科目での学びを共有する「導入パート」,②教師教育に関する理論や研究方法について学習する「講義パート」,③グループに分かれて共同研究を推進する「演習パート」の順に講習を進めていきました。
導入パートでは,近況報告や大学院科目に関する感想などが参加者間で共有されました。草原教授の担当する大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」では,日本教師教育学会監修(2024)『大学における教員養成の未来―「グランドデザイン」の提案―』を手がかりに,論点を出してディスカッションを行っています。教員養成を考えていくための基本的な知識を確認していきながら,より良い教員養成のために何ができるのかを様々な観点から批判的に検討しています。本日は授業内容に関わる意見等は出ませんでしたが,今後も授業の録画映像や資料等を参照し,教師教育に関わる議論や学びを共有できればと思います。
講義パートでは,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(大坂ほか2022,岡田ほか2018,社会系教科教育学会編2019:310-320)やその他関連する文献を参照し,「(教師教育者の)アイデンティティ」「(教師教育者の)専門性開発」という二つの観点から論点や学びをまとめた成果が受講者から共有されました。課題文献の1つの著者でもある草原教授からは,職業的アイデンティティと専門職者アイデンティティとは厳密には区別されるべきもので,前者は当の仕事に就いていることに自分自身が納得していること,後者はその専門職に特有の知識や能力を有した者としての自覚や認知だといえるのではないか(だからこそ教師教育者としてのアイデンティティ形成は難しい),といった提起がなされました。また,草原教授の提案したアイデンティティ関するこの分類を用いて,受講者の教師教育者としてのアイデンティティがどういう状態にあるのかといった議論も展開されました。さらに,教師教育者の専門性開発に関して,(日本における実質的な教師教育者養成機関の1つである)教職大学院の修了要件が「修士論文」ではなく「実践報告書」であることから,学校や行政に所属する教師教育者に求められる専門性とは何が想定されているのかを,欧州や米国の専門性開発システムとの比較を通して議論しました。
演習パートでは,共同研究グループづくりのためのテーマ設定の議論を行いました。最初に,ホワイトボードアプリを用いて受講者の教師教育に関わる研究や実践上の問題関心を「問い(疑問)」の形で複数提起してもらい,それらをスタッフが中心となって5つほどのグループに整理・共有しました。その後,整理をもとに受講者とスタッフが関心の異なる3つのグループにゆるやかに分かれて,お互いのグループの行き来を認めながら,各グループの共同研究のテーマや問い(RQ)を検討しました。
1つめのグループでは,学校における教師教育者の役割,評価,周囲からの期待といったテーマが提示されました。学校ベースの教師教育者が抱える役割の多重性や評価基準のブレ,周囲の期待の高さとそれへの応答の苦悩といった問題関心が共有されました。2つめのグループでは,若手教員から教師教育者への移行といったテーマが提示されました。まだまだ若手として第一線で子どもと接する「いち教師」でありたい一方で,近年の学校組織における年齢層のひずみによって教師教育者の役割を担わざるを得ない苦悩や,学校種の違いによってイメージされる教師教育者像のギャップやコミュニケーションの難しさが問題関心として共有されました。3つめのグループでは,教師教育者としての在り方・生き方・倫理観といったテーマが提示されました。学校内の教師教育者として与えられる権限とその行使の難しさや,そもそも一部の教師がそうした権限を有すべきなのかといった,「学校の中で教師教育者として”ある”」ことの困難さが問題関心として共有されました。
今回はあくまでもゆるやかなグループ分けであり,RQもまだまだ検討の余地がありそうです。研究グループや研究テーマは今後柔軟に変更していくことを想定し,欠席した受講者の方々も含めた議論の上で,次回の講習時には確定させたいと思います。
(金弘・大坂)
【第4回:2024年8月3日(土)14:00~16:00】
今回は受講生8名がオンラインで集合しました。
はじめに,大坂教育研究推進員より本日の講習の流れが説明されました。本日の講習では,①関連文献をもとに,教師教育の研究と実践における重要な概念である 「成人教育論とメンタリング」について,文献を参照した成果を発表し,議論を通して理解を深めること,②PD講座で実施する共同研究について,研究グループを確定させ,リサーチクエスチョンやデータ収集の方法といった具体的な研究の枠組みや手続きについて協議すること,の2点が目標として確認されました。今回もこれまでと同様に,「導入パート」「講義パート」「演習パート」の順に講習を進めていきました。
導入パートでは,近況報告や大学院科目に関する感想などが参加者間で共有されました。大学院科目では,日本教師教育学会監修(2024)『大学における教員養成の未来―「グランドデザイン」の提案―』を手がかりに,教員養成にまつわる論点を出してディスカッションを行っています。授業の録画記録を追いかけて学んでいる受講者からは,学校で働いていると教員養成に目を向ける機会がなく,新任の教師がどういった教員養成を経て入職し,学校ベースの教師教育と接続していくのかが曖昧なまま接していたことに気付かされた,といった感想が出されました。それに対して草原教授からは,養成に関わる大学ベースの教師教育者と研修に携わる学校や行政の教師教育者が,お互いの状況や課題意識を共有・交流することの重要性が提起されました。他にも,(大学のゼミナールなどを通して)教師教育の場における学習空間や学習文化をどのように形作っていくのか,ということに注目したディスカッションなども行われました。
講義パートでは,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(赤尾編2004:141-169,濱本ほか2019,稲垣・久冨編1994:97-107)やその他関連する文献を参照し,「成人教育論」「メンタリング」という二つの観点から教師教育に示唆する点や学びをまとめた成果が受講者から共有されました。草原教授がリードする形で,「成人教育論における成人の学びの特性とは何か?教師教育者はどのように教師(志望者)と関わったり学びを促したりする必要があるか?」といったテーマが投げかけられ,スタッフも交えて議論が展開されました。議論を通して,「教師としての専門性の高まりに応じて教師教育者としての自負もまた強化されることで,自らの価値観や知識を反省し再創造するという営みが難しくなりがちになるのではないか」「(博士課程に所属する運営スタッフから)指導教員の自身への関わり方を分析すると,自ら進む道を方向付けるのではなく,当事者のやりたいこと・進みたい道を尊重し,信じて背中を押すことがメンタリングなのではないか」といった意見が出されました。
演習パートでは,前回のグループ分けと受講者それぞれの問題関心について議論を振り返ったうえで,それをふまえて編成された3つの共同研究グループに分かれて,リサーチクエスチョン(RQ)の精緻化やデータ収集の方法などといった,具体的な研究の手続きについて議論を深めていきました。結果的には,グループ編成は基本的に前回と同様のままで確定となり,無事に全員が「(学校ベースの教師教育における)外部講師の役割や影響」「若手から教師教育者への移行」「教師教育者としての(教師を育てることに対する)葛藤」という3つのグループに分かれて研究を進めていくことで合意できました。なお,PD講座では毎年,各グループの共同研究の成果を,広島大学人間社会科学研究科附属教育実践総合センターが刊行する『学校教育実践学研究』に投稿しています。そのため,このパートでは論文掲載に至るまでの具体的なスケジュールを確認しました。また,今後は講習以外の場でもグループ毎に定期的にオンラインで集まって研究を進める必要があることも確認されました。
共同研究グループは確定しましたが,まだグループ内で共有している概念や課題意識にズレが見られたり,研究のRQが十分に精緻化・構造化できていなかったりと,課題がある状態です。今後はそれぞれのグループで夏休み期間を利用して打ち合わせを行い,次回(8/24)の講習までに有意義な報告ができるようにしたいと思います。
(金弘・大坂)
【第5回:2024年8月24日(土)14:00~16:00】
2024年度5回目の講習を実施しました。8月2回目の講習です。受講者7名がオンラインで集合しました。
はじめに大坂教育研究推進員より,講習の流れが確認されました。本日の講習では,①研究を遂行していく上で必要となる質的研究の枠組みやコーディングの基本的な考え方を理解し共同研究に活用すること,②共同研究で進めている作業の進捗や成果物を報告・共有し全体での協議を通して研究を進展すること,の2点を目指します。
「導入パート」では,3グループに分かれて進めている共同研究の進捗報告と今後に向けた意見交換を行いました。各グループのメンバーは,このオンライン講習以外にも,オンライン上で定期的に集まって,共同研究に必要な作業を行っています。各共同研究グループから,研究の進捗状況が報告された後に,参加者からのコメントをふまえて,グループ毎にブレイクアウトセッションで別れた後,主に今後の研究の方向性について検討しました。
第一グループでは,教師教育者としての外部講師・元教員・現職教員と,教師教育を受ける現職教員との関係性に着目しています。とりわけ,「外部講師」として招待する教師教育者と教師教育者的な立場にいる現場教員との関わりが,学校を基盤として実施される教師教育に対して,どのような影響を与えているのかをリサーチクエスチョンとして掲げています。進捗報告では,これまで外部講師としての教師教育者に関する研究はいくらか蓄積があること,そして,これら研究にどのように共同研究を位置づけるかが,今後の課題として全体に共有されました。草原和博教授からは,学校と外部講師それぞれが,相手に期待することとの間のズレを明らかにしてはどうか,と提案がありました。
第二グループでは,若手教員が教師教育者という立場になった時に抱えがちな困難として,教師教育者としてのアイデンティティの不在に着目しています。当座立てられたリサーチクエスチョンは,教師教育者としての若手教員の抱える葛藤の特徴とは何か,という問いです。この問いを研究する背景やこの問いに関わる先行研究について,それぞれ「アイデンティティ」や「移行」あるいは「葛藤」をキーワードにしながら,グループに所属する参加者から全体に報告がありました。大坂教育研究推進員からは,各種キーワードにおいて研究されている膨大な量をまとめるには時間的に困難であるため,キーワードをより絞る必要があるだろう,ということが指摘されました。また草原和博教授からは,教師教育者はいつ,なにをもって教師教育者になったと自己認知されるのか,あるいは外部評価されるのか,という問いであれば,グループに所属する参加者の強みを生かせるのではないか,と提案されました。
第三グループでは,第二グループと同様に教師教育者の抱える葛藤に着目しています。ただ第二グループとは異なり,抱えた葛藤を教師教育者がどのように克服していったのか,といった解決のプロセスまでをも射程にふくめながら研究を推進していこうと考えています。とりわけ,セルフスタディという方法論が葛藤を解決する際,いかに有効であるのかという問いをリサーチクエスチョンとして掲げています。大坂教育研究推進員からは,すべての葛藤が成長につながるわけではないから,それらを含めた葛藤と成長との関わりを描ける分析枠組みが必要ではないか,という問いが投げかけられました。草原和博教授からは,教師教育者の葛藤に関する研究として着目されてきた教師教育者が,指導主事や研究主任あるいは大学教員だったことに着目して,教師教育者の葛藤とは何かという問いを,この研究のメインストリームとは必ずしも言えないような,個別な境遇を持つ教師教育者の語りに着目しながら明らかにしてはどうか,という提案がなされました。
「講義パート」では,今年も各共同研究グループで質的研究法を採用する可能性が高いことをふまえ,大坂教育研究推進員が質的研究法についての基本的な考え方と,質的研究におけるコーディング作業について概説しました。昨年度と同じくサトウタツヤほか編(2019)『質的研究法マッピング』に依拠して「実存-理念」と「過程-構造」の2軸・4象限で分類・説明を試みました。また,それぞれの象限の代表的な研究法として,「TEA(複線径路・等至性モデリング)」「SCAT(Steps for Coding And Theorization)」「GTA(Grounded Theory Approach)」「ライフヒストリー」などを,参考文献とともに簡単に紹介しました。
「演習パート」ではグループ毎のブレイクアウトセッションを踏まえて,今後の研究の方向性などを全体で共有しました。第一グループの今後の研究の方向性として,これまでの共同研究で議論されてきた学校ベースの教師教育をより効果的にするために外部講師としての教師教育者とどのように関わるのか,という問いをリサーチクエスチョンとして主眼に置くことが共有されました。ただ,場合によっては柔軟にこのリサーチクエスチョンを変えていく可能性があることも示唆されました。第二グループでは,若手教員が教師教育者であることで抱える特有の問題とは何か,という問いをリサーチクエスチョンとして立て,移行や葛藤に関わる先行研究をまとめた上で,相互インタビューしていくことになりました。加えて,移行や葛藤以外のキーワードを選定しながら,分析枠組みを焦点化する必要があることが課題として確認されました。第三グループでは,リサーチクエスチョンをさらに明確化していくための作業課題として,葛藤とは何か,なにに葛藤してきたのか,葛藤を分類するための分析枠組みは何か,ということを今後探求していくことになりました。
学校は間もなく夏休みが終わりますが,大学はまだ夏休みが続き,研究・分析する時間的な余裕があります。9月の間に先行研究を整理して分析のための理論的な枠組みを検討したり,インタビューを実施・分析したりして,10月からの論文の執筆作業に向けた目処を立てられるように鋭意準備を進めます。
(金弘・大坂)
【第7回:2024年10月19日(土)14:00~16:00】
2024年度7回目の講習を実施しました。受講者8名がオンラインで集合しました。
はじめに大坂教育研究推進員より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,共同研究で進めている作業の進捗や成果物を報告・共有し,全体での協議を通して研究を進展することが目的です。次回の講習(11/23)までに,論文のドラフトを準備できるようにすることが最重要目標です。
本日は「共有パート」「講義パート」はお休みし,2つの「演習パート」が実施されました。
前半の「演習パート」では,各共同研究グループから,進捗状況と現在の課題が共有されました。第一グループは,「学校ベースの教師教育を推進するために,外部講師はどのような役割を果たすべきか」をRQに掲げています。このRQを明らかにするために,「外部講師」を招聘する側と招聘される側の間にある期待のズレに焦点を当てて研究を進めていることが説明されました。実際にSCAT分析を行った受講者からは,発話と解釈との間の距離感を保つことの困難さや,それゆえに描くストーリーラインに一貫性を持たることの困難さが述べられました。草原教授からは,「外部講師」の定義および期待ギャップを分析する理由を明確にする必要があることが共有されました。
第二グループは,「教師教育者が抱える葛藤の構造を「若手」という視点からいかに捉えることができるか」をRQとして据えています。このグループは,「若手」教師教育者に着目しています。分析を通して「若手」教師教育者は,年齢や経験年数,専門性といった変数間のバランスが崩れたときに葛藤を抱えるのではないか,という仮説的結論が報告されました。また,このバランスの崩壊として葛藤を描くことによって,教師教育者への教育における専門性以外のケア的支援の必要性が示唆されました。草原教授からは,自分自身に対する期待と他者からの期待とのズレというもう一つの軸を取り入れることによって,より立体的に葛藤を描き出せるのではないかという意見が出されました。
第三グループは,「葛藤からみる教師教育者の『成長』にはどのようなものがあるのか,そしてそれらをどう意味づけているのか」をRQとしています。ある教師教育者は,対話と省察を重要視する学習観に疑問を持ち,教員研修に携わることを通して葛藤を抱えながらそうした考え方を相対化していったが,今では対話と省察の授業観へと戻っていったとのことでした。そしてこのような経験が「成長」にとって意味があるのではないだろうか,という結論へと研究が進展しつつあります。草原教授からは,葛藤と向き合う中で葛藤にどのような意味づけをするのかということにこそ「成長」へのきっかけがあるのではないか,そしてそうした意味づけがどのように教師教育者それぞれで異なる意味づけをしているのか,といった疑問が共有されました。
後半の「演習パート」では,ブレイクアウトルームでチームごとにわかれて,今後の研究の進め方について議論がなされました。第一グループでは,意図や期待のズレの中でもどのようなズレを扱うのか,どのズレに着目するべきなのか,といったことを中心に検討されました。第二グループでは,採用する理論的枠組みについての検討の必要性が確認されました。第三グループでは,指導観や教育観,学習観といった学校教育実践に関わる様々な考え方の衝突における葛藤とそれらへの意味付けの重要性が確認されました。
次回のPD講座では,『学校教育実践研究』に投稿する論文のドラフトを提出し,それらについて意見交換をする予定です。いよいよPD講座も大詰めとなり,残すところ論文執筆となってきました。可能な限り原稿を書き進め,有意義な議論となるよう次回に向けて頑張っていきたいと思います。
(金弘・髙須)
【第8回:2024年11月23日(土)14:00~16:00】
2024年度8回目の講習を実施しました。受講者7名がオンラインで集合しました。
はじめに,大坂教育研究推進員より,本日の流れが確認されました。本日は,論文投稿期日までの最後のPD講座となっているため,共同研究の進捗状況を各グループから報告・共有しつつ,最終的な方向性の確認及び修正と,その修正期間のスケジュールを決めることが目的です。
本日も「共有パート」「講義パート」がお休みで,2つの「演習パート」が実施されました。「演習パート」①では,共同研究グループ毎の論文草稿を各自読んで,グループ毎に意見を集約し,それを共有しました。草原教授からはこの演習を通じて,受講者は学術共同体の一員として,互いの論文に対して査読者の立場を想定しコメントを考えてほしいという考えが共有されました。
第一グループは,第三グループから主に意見をもらいました。一方で,期待ギャップが外部講師側と学校教育現場側との間で生じているという点については共感しつつも,他方で,具体的にどのような期待ギャップが生じているのか不明瞭な点があり,そこが明瞭になることでどのような期待ギャップを念頭に置いて考察が進められてきたのかが分かりやすくなるのではないか,という意見が出されました。第一グループ所属の大坂研究推進員からは,内部と外部とで互いに外部講師という枠組みのもと異なる戦略を用いていることが徐々に見えてきた点を論文に反映していく必要があるだろうという意見が述べられました。
第二グループは,第一グループから主に意見をもらいました。一方で,第二グループがこれまで終始取り組んできた課題である若手教師教育者の葛藤を,三つの基準の長短・大小から説明する試みが分かりやすく,よく理解できたという肯定的な意見が出されました。他方で,これら三つの基準から対象者の葛藤を説明しきることができるかどうかに疑問があることが示されました。これら疑問を解決・解消する際には,三つの基準の導出過程をより明確に示すべきではないか,という提案もありました。草原教授からは,自己認知と他者や社会的期待とのギャップが十分に考察に反映されていないのではないかといったコメントが共有されました。
第三グループは,第二グループから主に意見をもらいました。一方で,葛藤を扱う論文として第二グループと同様の問題に取り組みつつ,異なるアプローチから葛藤に迫る点で興味深い論文であるという評価が述べられました。他方で,論文題目と問題設定との整合性について,いくつか疑問が投げかけられました。第三グループは,「葛藤との関わりからみた教師教育者の「成長」とその意味づけ」という論文題目にしています。このタイトルで言えば,葛藤との関わりから見るからこそ,これまでとは違った「成長」が見えてきたということが論じられる必要があるのではないか,という指摘がありました。
「演習パート」②では,グループから得た意見を踏まえて,ブレイクアウトルームに分かれて,今後のスケジュールの確認や研究の方向性の細かな修正を適宜行いました。
第一グループは,まだ草稿もプロット段階のところもあり,論文のページ数を超過している点を鑑みて,今後はシンプルに筋の通った論文のなるように,適宜省略しながら論文をまとめていくことが確認されました。第二グループは,考察が論文全体に位置づくように,問題設定を適宜修正していくことが確認されました。第三グループは,各節ごとの担当を決めて,PD講座で受け取ったコメントを基に修正をしていくことが確認されました。
論文の提出締め切りまで,論文の修正と提出までの作業を各グループで進めることになります。次回の講習時には,受講生の抱える教師教育者としての問題が少しでも解決・解消されるような,納得のいく論文が完成できるよう,準備を進めていきたいと思います。
(金弘・髙須)
「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」に関するQ&A
- 自分が受講する資格があるのか,受講しても最後まで継続できるのか不安なのですが,何か目安になるものはありますか?
→こちらのページの「履修資格」を満たしている方であれば,どなたでもご応募いただけます。ただ,R6年度は受講者の上限を5名程度としており,大学院の授業科目の履修や論文の執筆といった専門的なワークもありますので,不安な方は事前に担当者までご相談ください。昨年度のプログラムの活動報告ページも,ぜひご一読ください。- 受講希望者が多数の場合,どのような基準で選考されるのですか?
→応募者多数の場合は,教師教育を中心とした研究業績や,教師教育の実務経験等を考慮して履修者を決定します。- 受講した場合,必ず研究と学術論文の執筆を行わないといけませんか?研究するのではなく,純粋に教師教育についての理論や知見を吸収したいのですが…。
→はい,この講座の参加にあたっては,共同研究への参加と学術論文の執筆が必須となります。もちろん,研究と論文執筆は講座担当教員とスタッフがサポートします。これらの活動への参加が難しい,純粋に教師教育についての勉強がしたいという場合は,EVRIの提供する教師教育に関連するセミナーに参加したり,科目等履修生として草原教授が担当する大学院科目を受講されるといった方法をご検討ください。- 研究活動は,具体的にどのくらいの時間・日数をかけるのですか?
→研究テーマにもよりますが,過去の経験に基づくと,最低でも50時間~80時間程度,日数にして丸10日程度は研究活動に費やす必要があるとお考えください。
→研究活動の内訳は以下のようなイメージです。土日等の休日に時間的な余裕がない方の受講はおすすめしません。
– 先行研究の整理,RQや方法の確定,分析枠組みの確定・・・10時間以上
– 聞き取り調査の準備,質問紙項目の作成,データ収集・・・10時間以上
– データの分析と解釈,示唆についての議論・・・10時間以上
– 論文の執筆(草稿作成→推敲→提出→校正)・・・20時間以上- 昨年度まで必須だった大学院の授業科目は,今年は受講できないのですか?
→必須ではありませんが,情報提供は可能です。講座の受講者は,草原教授が担当する大学院の前期科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」と後期科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」を録画映像等を通して学ぶ機会を提供いたします。- 講習は,対面で受講する必要がありますか?遠方なので広島大学での受講が難しいのですが…。
→必ずしも対面で受講いただく必要はありません。講習は原則としてビデオ会議システム(Zoom)を活用し,すべてオンラインで開催する予定です。毎月1回のペースで土曜日または日曜日の午後に実施します。- 大学院の授業科目を正規に「履修(単位修得)」したい場合はどうすればいいですか?
→広島大学の科目等履修生に登録する必要があります。その場合,講座受講料とは別に,検定料や入学金や授業料等の追加の費用負担が必要となります(登録は2月末締め切り)。将来的に大学院進学を想定されている場合,科目等履修生として事前に手続きをされることをお勧めします。科目等履修生として修得した単位は,大学院に入学後に修了単位に含めることができる場合があります。詳しいことは,下記の問い合わせ先にお尋ねください。
・広島大学 教育学系総括支援室(大学院課程担当)
〒739-8524 東広島市鏡山1-1-1 TEL:082-424-3706
E-mail:kyoiku-in■office.hiroshima-u.ac.jp ※■は半角@に置き換えてください。
- 講座で参加できなかった回の補講などを受けることはできますか?
→可能ですが,講習には原則としてオンタイム(リアルタイム)での参加をお願いいたします。勤務の都合などでやむを得ず講座に参加できなかった場合は,オンデマンド(非同期オンライン)で欠席回の内容を補完していただきます。- 履修申請手続きの中に「履修資格を証明するもの」とありますが,これはどのようなものを提出すればいいのでしょうか?
→前職を証明する書類(辞令等),あるいは現職を証明する書類(辞令,職員証等)の写しをご提出頂くことになります。- 休職などで現職を一時的に離れていても受講可能でしょうか?
→受講可能です。申請時には「履修資格を証明するもの」として休職辞令のコピーなどをご提出ください。
私たちEVRIは、EVRIの掲げるミッションとヴィジョンを達成するために、共同事業、共同研究、受託研究および講演等をお引き受けいたします。
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