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▶2023年1月27日 公開  ▶2024年1月25日 最終更新

プログラムの詳細や受講のお申込みは,

下記のページからお願いいたします。

https://www.hiroshima-u.ac.jp/gshs/risyu_syomei

※R5年度の募集は締め切りました。多くのご応募をいただきありがとうございました。

Introductionはじめに

 

プロジェクトの概要

本ページでは,広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が主催する履修証明プログラムである「教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座」について紹介します。

事業概要
●事業テーマ  :教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座
●事業目的・内容:教師教育の実践に携わっている先生方=教師教育者を対象に,1年間(計60時間)をかけて教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援すること。

以下,トピックごとに記載しています。
関心のある項目をクリックしてご覧ください。


講座開設の経緯(クリックすると閉じます)

近年,教師教育や教員養成の世界では,「教師教育者(Teacher Educator)」という概念が注目されています。「教師教育者」には,教員養成に携わる大学教員のみならず,教育委員会の指導主事や学校現場の管理職,同僚教師など,教師の成長に影響を与える幅広い立場の人も含まれています。「教師教育者」は,「教師を育てる研究者」や「元(ベテランの)教師」といった単なる職歴や専門領域を備えているだけではなく,教師の力量形成を支援する存在としての特別な専門性(professionality)や信念(identity)が必要であるとされています。このことから,世界中で教師教育者についての研究が行われ,教師教育者の専門性開発のあり方が議論されています。

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は,設立当初から教師教育者に関する研究を行っています。これまで,日本国内外の学校や機関と連携しながら,「教師教育者とは誰なのか」「教師教育者とはどのような専門性をもつ存在なのか」「教師教育者が専門性を高めるためには何をすればよいのか」といったテーマについて,教師教育者の専門性に関する研究や実践を重ねてきました(旧「教育学研究者クラスタ」や旧「教師教育者クラスタ」の取り組みをご覧ください)。

これまでのEVRIが行ってきた取り組みをさらに発展させるべく,2021年度4月より,EVRIは広島大学が社会人向けに開講している「履修証明プログラム※」の1つとして,「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」を開設することとなりました。

※「履修証明プログラム」…学校教育法施行規則で定められた,体系的な知識・技術等の習得を目指した社会人向け教育プログラムのこと。制度についての詳細は,文部科学省のこちらのページを参照。広島大学で開講されているプログラムについては,こちらのページを参照。


講座の概要(クリックすると閉じます)

若手教員や教育実習生の指導,および校内研修の企画・運営などに関わっている先生方を対象とした有料の講座です。1年間(計60時間)をかけて,EVRIが受講者の教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援していきます。修了者には、学校教育法に基づく「履修証明書」を発行します。

受講をお勧めしたいのは,次のようなニーズをお持ちの先生方です。

  • (現職の教員として)実習生の指導や若手教員の育て方について学び,研究したい。
  • (研修担当者として)実習指導・授業研究の理念や方法について学び,研究したい。
  • (大学教員として)教職志望学生のためのカリキュラムや指導法について研究したい。
  • 教師教育の研究者として必要な,学術論文の読み解き方や資料の探し方を実践的に学びたい。
  • 教師教育に関する研究業績を積み重ねたい!そのために,学術論文の執筆に携わりたい。
  • 将来大学院に進学して教育学に関する最新の研究成果を学びたい!その準備をしたい。

プログラムの詳細や申し込み方法についてはこちらのリンク先,ならびに以下の案内用チラシ(PDF)をご参照下さい。

 

講座全体としては,「大学院授業科目の履修」「オンライン講習」「共同研究・論文執筆」の3本柱で進行していきます。
実施計画は,以下のようなイメージとなっています。


オンライン講座の実施計画(クリックすると閉じます)

オンライン講習の実施日程

実施日程は下記のとおりです。5月から翌1月まで,毎月1回を原則として計10回実施します。
講習は1回2時間で,休日や祝日などの参加しやすい日程で開催します。
講習終了後,2週間を目処に,その講習回に応じた課題を提出していただきます。
第1回:2023年5月20日(土)14:00~16:00
第2回:2023年6月17日(土)14:00~16:00
第3回:2023年7月22日(土)14:00~16:00
第4回:2023年8月5日(土)14:00~16:00
第5回:2023年8月27日(日)14:00~16:00
第6回:2023年9月16日(土)14:00~16:00
第7回:2023年10月28日(土)14:00~16:00
第8回:2023年11月11日(土)14:00~16:00
第9回:2023年12月16日(土)14:00~16:00
第10回:2024年1月20日(土)14:00~16:00

 


2023年度広島大学の授業カレンダー(クリックすると閉じます)

画像をクリックすると,広島大学の学年暦(授業スケジュール)掲載ページに遷移します。

 


オンライン講習の実施報告(クリックする閉じます)

受講者が聴講している,草原担当の大学院授業科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の実施報告については,草原教授の個人HPにて公開する予定です。

基本的にはZoomによるオンラインの形で講習を行っていきます。以下,各回の講習の概要を報告していきます(随時更新)。

【第1回:2023年5月20日(土)14:00~16:00】

月1回の講習が始まりました。今年度は7名の受講者が全国各地からオンラインで集まりました(今回は1名欠席のため,6名が参加)。

はじめに教員やスタッフ,受講者の簡単な自己紹介などを行った上で,Microsoft Teamsの使い方,講習の趣旨説明,受講の流れのイメージなどについて確認しました。資料共有や課題提出はMicrosoft Teamsを活用するため、当日の講習で利用方法を実演する時間を設けました。コロナ禍によるテレワークの推進やGIGAスクール構想の影響からか,多くの受講者がTeamsを扱った経験があるとのことから,利用方法に関しては滞りなく理解いただけたようでした。

次に,草原和博教授の担当する大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」を履修している受講者に,学びの報告をしていただきました。この大学院科目は,①教師教育者の研究論文をレビューして重要概念(用語)を抽出・定義する,②教師教育者の専門性開発に関する海外のスタンダードを読み,教師教育者に要求されているものとその背景を分析する,③これらをふまえて「教師教育者の重要用語事典」の素案を構想し,その社会的意義や有用性を提案する,といったことを目標に,4月から実施されています。報告では,担当者を決めた上で,5〜10分程度で学んだ内容や教師教育として感じたこと・考えたことについて各回で発表してもらいます。
今回発表した受講者は,第1回(なぜ教職課程・現職研修のカリキュラムデザインが問われるのかを理解する),第2回(2020年度の当該科目の発表資料を参照して,教師教育者の特性との研究に関する概念・用語をリストアップし解説する),第3回(第2回と同様に,2021年度の発表資料から概念・用語をリストアップし解説する)の授業の学びの報告が対象でした。これらは,おもに先述の目標の①にかかわる内容です。受講者は授業の概略を説明した上で,自己開示をしつつ自分自身が志すことと技を磨くことの間ギャップが苦しいということ,そしてセルフスタディに取り組む場が自分の実践や振る舞いを見つめ直すきっかけとなっていることを報告していました。

続いて,アイスブレイクと自己紹介を兼ねたアクティビティを行いました。お題は,「教師教育者としての”転機”や”契機(きっかけ)”を絵にして共有する」というものです。大坂教育研究推進員や草原教授の”転機”や”契機”,また他のいくつかの事例を紹介した上で,受講者に「教師教育者」としてどのような道を歩んできたのかにフォーカスを当てて絵を作成し,絵とともに自分語りをお願いしました。受講者は具体的な事例を提示しながら転機を語ったり,根っことその上にある木を絵で描きながら来歴における揺るぎないきっかけをわかりやすく表現していました。最後に草原より,絵を描く活動がオランダの教師教育者養成研究にヒントを得ていること,教師教育者としての歩みを振り返ることで教師教育者に必要な省察の重要性に気づいてもらうことを意図していたこと,といった活動のねらいが開示されました。

初めての顔合わせということで,運営スタッフも受講者も少し緊張した面持ちでしたが,アクティビティを通してお互いの教師教育者としての歩みを知ることができました。進行の不手際で,受講者の皆さんの問題関心や研究したいテーマを十分に掘り下げられなかったのですが,次回からの講習で徐々に交流する時間を増やしていきたいと思います。(大坂)

 

【第2回:2023年6月17日(土)14:00~16:00】

2023年度2回目の講習を実施しました。今回も受講者6名がオンラインで集合しました。(1名欠席)

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,①教師教育の研究と実践における重要な概念について理解を深めること,②過去のPD講座の研究成果論文を分析・参照して自身が取り組みたい教師教育の研究を構想すること,の2点を目指します。

今回からは,①草原教授が担当する大学院科目を受講して学びの報告を行う「共有パート」,②教師教育に関する理論や研究方法について学習する「講義パート」,③グループに分かれて教師教育に関するワークショップや共同研究を推進する「演習パート」,の3本柱で講習を展開します。

最初の「共有パート」では,草原和博教授の担当する大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」を履修している受講者に,学びの報告をしていただきました。
今回発表した受講者は,第4回(第3回までと同様に,2022年度の発表資料から教師教育上の重要概念・用語をリストアップし解説する),第5回(2020年度から2022年度に扱った用語をすべてリストアップし分類した上で,その分類の体系・構造を説明する),第6回(米国教師教育協会(ATE)の教師教育者スタンダードを分析して教師教育者に求められていることを簡潔に説明した上で,日本の教師教育者の育成や実践への示唆を提起する)の授業の学びの報告が対象でした。
受講者は,授業の概略を説明した上で,第4講で登場した「風土病的不確実性(ダン・ローティ著『スクールティーチャー』に登場する概念)」という概念を興味深いと感じたこと,学校基盤の教師教育者は教師でもあるため,時と場合に応じてアイデンティティを使い分けることの難しさがあると感じたこと,ATEのような教師教育者向けスタンダードを日本で導入する場合にどのような批判や議論が出るのかを考えたこと,などを報告していました。その後,講義に登場したどの単語・概念が重要だと思っているか,なぜそれを重要だと考えるのかをチャットで共有し合う活動も行われました。

「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(岩田ほか2018原田ほか編2017:281-290大坂ほか2020)を参照し,受講者が「教師教育者」「移行」「同型性」という概念について,自身が理解した内容を報告しました。発表とその後の議論を通して,「教師教育者の成長には育成・伴走・フォローアップが重要ではないか」「どのようにして教師は教師教育者へと移行していくのか,我々(受講者)はどのように移行を経験したのか」「自分自身の実践や規範を問い直すことを求めるのが、同型性(congruency)の重要なポイントではないか」といった議論が展開されました。

「演習パート」では,昨年度のPD講座成果論文を題材に,学術論文の読み解き方の修得と読み取ったことの共有,自らの関心についてのメタ認知作業を行いました。活動を通して,学術論文には「研究上の主要な問いは何か?」「データはどのように集めたのか?」といった学術的な読み方と,「納得したところ,不満なところは?」「結果や示唆に共感できるか否か?」といった鑑賞的な読み方などがあり,論文は目的に応じた読み解き方が必要であることを学びました。受講者からは,「(研究方法論として採用されている)セルフスタディの特徴や魅力が理解できた」というポジティブな学びや,「葛藤を分析する上では,当事者の教職経験以外の背景に迫る必要もあったのではないか」といったクリティカルな意見が出されていました。議論のまとめとして,草原教授からは,自身が共同研究に取り組む際の問題意識や作法などを明確にできるようにしてもらいたいというメッセージが伝えられました。

受講者は事前に課題論文を読み込んで参加していた様子で,短い時間の中で非常に充実した議論が展開できました。議論を通して,受講者の問題意識が浮き彫りになったことを願います。(大坂)

【第3回:2023年7月22日(土)14:00~16:00】

2023年度3回目の講習を実施しました。今回も受講者6名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,①教師教育の研究と実践における重要な概念である「(教師教育者の)アイデンティティと専門性開発」について,文献を参照した成果を発表し,議論を通して理解を深めること,②PD講座で実施する共同研究について,購読した論文や自身の研究関心をふまえて行うべき研究を提案・協議し,研究テーマとグループを決定すること,の2点を目指します。

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第7講から第9講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回では,ノルウェーの教師教育改革レポートである『Transforming Norwegian Teacher Education』を参照し,ノルウェーの教職課程改革と日本の教職課程改革の方向性を比較しながら日本の​教職課程改革への示唆を検討することがテーマでした。発表担当者が欠席だったためスライドのみの共有となりましたが,スライドでは自身の教師教育者としての実践を引き合いに出しながら,研究能力を獲得させて「反省的実践家としての教師」を育成するという改革の可能性や,学校や自治体が戦略的に資金を獲得して長期的に投資を進めることの重要性に共感したことなどが説明されていました。​

「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(小柳2016岡田ほか2018社会系教科教育学会編2019:310-320)を参照し,受講者が「アイデンティティ」「専門性開発」という概念について,自身が理解してまとめた内容を報告しました。教師教育者の6つの役割論(教師の教師,研究者,コーチ,カリキュラム開発者,ゲートキーパー,ブローカー)などの専門職性のとらえ方や,米国の同じ職場で勤務する教師教育者の中でも異なるアイデンティティや専門性を有することを明らかにした研究の成果から,教師教育者のアイデンティティや専門性の多様性について協議し,理解を深めました。また,世界の教師教育者の専門性開発のあり方には複数の類型が見出だせる(実践ベースで現役教師が担うタイプ,研究ベースで研究能⼒に裏打ちされた教師が担うタイプ,研究ベースで教育能⼒に裏打ちされた研究者が担うタイプ)という文献の主張をふまえて,受講者はそれぞれどのタイプの専門性開発のルートを辿りたいかについて意見を交換する場面もみられました。

「演習パート」では,PD講座で実施する教師教育(者)に関する共同研究について,アイデアを出し合いグループづくりを行いました。まず,受講者はオンラインホワイトボードであるGoogle Jamboardを活用し,共同研究で実施したいアイデア(テーマや問い)を付箋の形で書き込みました。その後,書き込まれたアイデアを分類・整理しながら,共同研究のグループ分けを検討しました。非常に多くのアイデアが出されましたが,「媒介者(学校外のアクターと学校をつなぐ人)」「リフレクションとアイデンティティ形成」「教師教育を行う(学校)現場」「若手教師の力量形成」などに関心がありそうだということが見えてきました。その後,便宜的に2グループに分かれて研究テーマや関心について協議しましたが,現時点ではどのようなグループやテーマで共同研究が進められるかについて合意を得ることができませんでした。そのため,次回の講習までに改めて共同研究ができそうなテーマや人選を考えてくることになりました。

今年は,これまでとはまた異なる研究が展開されそうです。次回の講習で,確実に研究グループが形成できるよう,スタッフみんなでアイデアを考えてみます。(大坂)

 

【第4回:2023年8月5日(土)14:00~16:00】

2023年度4回目の講習を実施しました。今回も受講者6名がオンラインで集合しました(夏休みということで,8月は2回の講習が行われます)。

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,①教師教育の研究と実践における重要な概念である「成人教育論とメンタリング」について,文献を参照した成果を発表し,議論を通して理解を深めること,②PD講座で実施する共同研究について,グループの編成を行い,具体的な研究の手続きについて提案すること,の2点を目指します。

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第10講から第12講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回では,教師教育に関する事典を作成することを念頭に置いて,どのように重要概念・用語を体系化するかがテーマとなっていました。「教師教育者」「教員養成」「学校ベースの教師教育」などの概念・用語について解説した実際の記事の原案が示され,議論がなされました。これらの回を報告した受講者は,「事典も作品であり構築物であるため,どうやってできたのかというプロセスこそ価値があることに気づいた」「教師教育の文脈に基づく事典が存在することは,教師教育者でもある現場の教師にとって心強いし,読み物としても活用できるのでぜひ作成してほしい」といった学びや期待を共有しました。また,用語として提案されていた「アドボカシー」について印象に残ったことなども語られていました。

「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(赤尾編2004:141-169濱本ほか2019石川2019)を参照し,「成人教育論」「メンタリング」という概念について各受講者から理解した内容を報告していただき,自身が理解してまとめた内容を報告しました。受講者とスタッフは,論文の内容をふまえて,「成人の学びは子どもの学びとどのように異なるのか」「成人の学習者としての教師の特性をふまえた教師教育のあり方とはどういうものか」「(成人教育の手法としての)メンタリングをどのように行うか・どのような効果があるか」「メンターをどのように育てるのか」「メンターと(セルフスタディにおける)クリティカルフレンドとの違いは何か」といった点についてディスカッションし,理解を深めました。

「演習パート」では,前回決めきれなかった共同研究グループの再編成を行いました。前回,各々の関心のある研究テーマについて,Google Jamboardを用いながら議論した内容をふまえて,スタッフがあらかじめ関心の近そうな2つのグループを提示し,グループ内で改めて意見交流を行いました。その結果,1つのグループは「初年次の教師教育者の葛藤や成長,研究や実践の省察と発信」などに注目して,もう1つのグループは「教師教育をされる側する側のギャップや困難,学校ベースの教師教育者の研修の意図」などに注目して,それぞれ研究を進めていくという見通しを立てることができました。

今後,それぞれのグループは講習外の時間にも集まって,共同研究の打ち合わせを進めていくことになります。夏休みが始まり,比較的時間に余裕があるこの時期を活用して,研究を少しでも前に進めていきたいところです。(大坂)

 

【第5回:2023年8月27日(土)14:00~16:00】

2023年度5回目の講習を実施しました。8月2回目の講習です。受講者6名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,①研究を遂行していく上で必要となる質的研究の枠組みやコーディングの基本的考え方を理解し共同研究に活用すること,②共同研究で進めている作業の進捗や成果物を報告・共有し全体での協議を通して研究を進展すること,の2点を目指します。

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第13講から第15講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。
これらの回では,教師教育に関する事典の作成を想定して,これまでの議論をふまえて選定された重要概念・用語に関する記事を発表し,改善案を検討することがテーマとなっていました。取り上げられた具体的な概念・用語は,「観察による徒弟制」「リアリスティック・アプローチ」「正当的周辺参加」「洗い流し」「Pedagogical Content Knowledge」「メンタリング」「教育的ジレンマ」「アカウンタビリティ」「協働/ビジョン」などです。これらの回をリアルタイムで報告していた受講者は,「(リアリスティック・アプローチに関して)省察と呼ばれる行為には対象や求められる深さに多様性があり,それが整理されないまま論じられる傾向があるのではないか」といったように,自身の専門やこれまでの実践,教師教育者としての経験について振り返っていました。また,発表に対して他の受講生や教員もチャットでリアクションし,積極的に意見交流がなされました。

「講義パート」では,今年も共同研究では質的研究法を採用する可能性が高いことをふまえ,大坂教育研究推進員が質的研究法についての基本的な考え方と,質的研究におけるコーディング作業について概説しました。質的研究法の定義や分類には様々な考え方がありますが,昨年度と同じくサトウタツヤほか編(2019)『質的研究法マッピング』に依拠して「実存-理念」と「過程-構造」の2軸・4象限で分類・説明を試みました。また,それぞれの象限の代表的な研究法として,「TEA(複線径路・等至性モデリング)」「SCAT(Steps for Coding And Theorization)」「GTA(Grounded Theory Approach)」「ライフヒストリー」などを,参考文献とともに簡単に紹介しました。

「演習パート」では,2グループにわかれて進めている共同研究の進捗報告と今後に向けた協議を行いました。
各グループのメンバーは,このオンライン講習以外にも,オンライン上で定期的に集まって共同研究に必要な作業を行っています。共同研究グループごとにこれまでの研究の進捗が報告された後に,草原教授のアドバイスをふまえてグループごとにブレイクアウトセッションで今後の方針について検討しました。
一方のグループは,着任1年目に自らの教師教育研究や実践の様子を公的に”発信”しようとする大学教員の営みに注目し,初年次教師教育者の”発信”の形式・動機・背景について検討することをテーマに掲げています。これまで,実際に”発信”を試みたメンバー2名の着任1年目のブログやジャーナル,論文などの記録物・発信物を読みながら共同で検討を進めてきましたが,今後はこれらの発信物に加えて,メンバー間で「なぜ(私は)”発信”しようとしていたのか」をたずねるインタビューを実施・分析することになりました。協議の結果,リサーチクエッション(RQ)の明確化・構造化をはかることや,RQにもとづくインタビューガイドを作成すること,先行研究の検討による視点(理論・分析方法)の明確化を行っていく必要があることなどが確認されました。
もう一方のグループは,学校ベースの教師教育において,研修担当教員(教師教育者)と被研修教員(被教師教育者)との間に横たわる様々な形の”差異(ギャップ)”に注目し,それを埋めるための手立てを探りたいという動機のもとで研究を進めています。これまで,学校ベースの教師教育の実践例と課題について論じられた書籍を読みながら,徐々に問題意識を構築するとともに,そのような”差異”が生まれる要因についての仮説を立ててきました。また,学校内で主に研修を受ける立場(被教師教育者)のメンバーが,主に研修を実施する立場(教師教育者)のメンバーに対してインタビューを行うことを想定し,半構造化インタビューの項目を検討しました。草原教授からは,多様に存在する「研修」の種類を限定したほうがよいことや,立場を逆にしたインタビューによって若手(被教師教育者)がミドル(教師教育者)に対して抱くギャップも検討する必要があるのではないかという意見が出され,それらをふまえて方向性を修正することとなりました。

学校は間もなく夏休みが終わりますが,大学はまだ夏休みが続き,研究・分析する時間的な余裕があります。9月の間に先行研究を整理して分析のための理論的な枠組みを検討したり,インタビューを実施・分析したりして,10月からの論文の執筆作業に向けた目処を立てられるように鋭意準備を進めます。(大坂)

 

【第6回:2023年9月16日(土)14:00~16:00】

2023年度6回目の講習を実施しました。受講者5名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,①質的研究におけるコーディングのための作業の手順や支援ソフトの使い方を具体的な進め方を事例とともに学び,共同研究に活用すること,②質的研究における論文構成の特質を学び,共同研究の論文構成を構想すること,③共同研究で進めている作業の進捗や成果物を報告・共有し,全体での協議を通して研究を進展すること,の3点を目指します。

「共有パート」では,前回で前期の大学院科目の報告が完了したため,今回は事前課題として出されていた共同研究の進捗状況が各グループから報告されました。
校内研修において研修をする教師の意図と研修を受ける教師の意図のすれ違いに注目して研究テーマを模索してきたグループは,複数回の打ち合わせを通してリサーチクエスチョン(RQ)を繰り返し検討した結果,「若手教師を巻き込みながら校内研修を組織する教師教育者の専門性とは何か」を探りたいという意見で一致したということでした。このテーマを追究するために,校内研修を実施する主体としての教師教育者として自分たちを位置づけ,若手教師によるインタビューを行っている最中であることが報告されました。参加者からは,「校内研修を組織している●●(受講者名)・◯◯(受講者名)という2名の教師教育者は,自らの役割をどのように捉えているか?」といったシンプルなRQにしてはどうかという意見が出されました。
一方,大学ベースの教師教育者の着任一年目の,教師教育実践や研究成果の「発信」という行為に注目して研究を行うグループは,「なぜ初年次の教師教育者は「発信」したのか?」というRQを設定しました。この問いを明らかにする方法の1つとして,「発信」を経験した教師教育者であるグループのメンバー2名に対し,別のメンバー1名がインタビューを実施することになりました。すでにインタビューガイドの作成とインタビューの実施が完了し,現在はインタビューの文字起こしを作成中であること,今後はSCATを用いて分析を行う予定であることが報告されました。

「講義パート」では,前回に引き続き,大坂教育研究推進員による質的研究法についての講義が行われました。
2つのグループは,研究テーマは異なりますが,ともに共同研究グループ内でインタビューを実施し,コーディングと解釈を行うという質的研究の手続きを採用しています。そこで今回は,質的研究を行う上で前提となるデータの収集・整理・共有の方法を確認した上で,質的分析支援ソフトを用いた分析のやり方と,支援ソフトを用いない(WordやExcelを用いた)分析のやり方について,実例を交えながら紹介しました。特に両グループが採用する予定のSCATについては,提唱者である大谷尚氏の論文を紹介しながら分析手順を確認した上で,実施したインタビューの書き起こしデータの一部を使ってコーディング作業を体験的に学んでもらいました。
続いて,共同研究の成果を論文化していく上で参考としてもらうために,質的研究の論文構成の考え方について,過去に大坂教育研究推進員が関わった論文を事例に解説が行われました。質的研究のデータ収集・分析・解釈の手続きをデザインするためには,その基盤となる「理論的枠組み(Theoretical framework)」が必要であり,どのように理論を設定・援用するのかについてを中心に学びました。

「演習パート」では,共同研究を行っているグループにわかれて,研究に必要な手続きを協議しました。今回は,投稿予定の雑誌の申込期限が来月に迫っていることから,論文題目と著者の順番など,基本事項の確定作業が行われました。その後,RQの決定,論文の章・節構成の構想と大まかな執筆作業の分担の確認,今後の作業日程の確認などを実施しました。論文題目の主題や副題をどのようにつけるべきか,著者の順番をどのように決めるべきか(筆頭著者と責任著者の役割の違いなど),データの分析・解釈結果をどのように加工して論文中に掲載すべきかといった点について,活発に協議が行われました。

どちらのグループも,質的研究において最も重要となるデータの収集を完了させる目処が立ち,ひと安心です。間もなく大学も授業が始まり,学会シーズン等で忙しくなりますが,データの分析と並行して,できるところから論文執筆にも取りかかりたいです。(大坂)

 

【第7回:2023年10月28日(土)14:00~16:00】

2023年度7回目の講習を実施しました。受講者4名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習では,共同研究で進めている作業の進捗や成果物を報告・共有し,全体での協議を通して研究を進展することが目的です。次回の講習(11/11)までに,論文のドラフトを可能な限り準備できるようにすることが最重要目標です。

本日は「共有パート」「講義パート」はお休みし,3つの「演習パート」が実施されました。

冒頭の2つの演習パートは,いずれもチームで進めてきた共同研究の成果を確認し,論文の構成や研究の示唆をディスカッションする内容です。

前半では,「(若手教師を巻き込みながら)校内研修を組織する教師教育者にはいかなる役割が求められるのか?」をRQに掲げて追究するチームの報告が行われました。こちらのチームは,受講者である校内研修を組織する2名の教師教育者へのインタビューをSCAT分析した結果,導出された「ストーリー・ライン」を確認しながらディスカッションが展開されました。議論の中では,「RQの”求められているか”とは,周りの役割期待のことなのか,本人の役割認知のことなのか」「ストーリー・ラインは個人史的な記述がなされているが,歴史的な役割認識の変化も鍵となるのではないか」「分析結果を見る限り,日本の学校ベースの教師教育者はチームマネージャーやPLCの運営者的な役割を担っており,欧米の教師教育者(6 roles)とは異なる役割を担っているとは言えないか」といった意見が出されました。

後半では,「なぜ初年次の教師教育者は”発信”したのか?」をRQに掲げて追究するチームの報告が行われました。こちらも初年次に”発信”を行ったチーム内の2名の教師教育者のインタビュー記録をSCAT分析し,導出されたストーリ・ラインおよび理論記述(他の類似事象にも適用できそうな仮説)を確認しながらディスカッションが展開されました。議論の中では,1名の”発信”手法が「学会発表・研究論文」,もう1名の”発信”手法が「ブログ(note)」という異なる手段を採用している理由や,”発信”の定義について質問が投げかけられました。また,2名が初年次に”発信”した動機について,自己承認(力量を認めてほしい),自己演出(自分をこういう人間だと見せたい,認知してほしい)といった概念で説明できるのではないかと行った意見が出されました。とさらに,「研究上のポジショニングとして,若手教師教育者は積極的に”発信”するべきだという主張も内包されているのか」といった,論文執筆者としてのスタンスについての議論も展開されました。

最後の演習パートでは,ブレイクアウトルームでチームにわかれて,今後の研究の進め方について議論がなされました。前半で協議したチームは,指摘された課題点を検討するとともに,教師教育者の6つの役割を視点に,考察において記述する2名の共通点と相違点を検討しました。後半で協議したチームは,本研究における”発信”の定義の検討を行い,インタビューを通して登場した語りをもとに”発信”の意義を論文上で示していくことが確認されました。また,執筆分担の確認も行われました。

データ分析も完了し,論文の着地点も見えてきたので,いよいよ論文を書き進める段階に入りました。次回の講習は2週間後に迫っていますが,それまでに可能な限り原稿を書き進め,有意義な議論が展開できるようにしたいです。(大坂)

 

【第8回:2023年11月11日(土)14:00~16:00】

2023年度8回目の講習を実施しました。受講者4名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講習の流れが確認されました。本日の講習も,前回と同じく共同研究で進めている作業の進捗や成果物を報告・共有し,全体での協議を通して研究を進展することが目的です。特に今回は,論文原稿提出までに受講者・スタッフ全員が集合して協議できる最後の機会ですので,論文の質を高めるために具体的な改善意見をもらうことが重要となります。

本日も前回の講習と同様,「共有パート」「講義パート」はお休みし,3つの「演習パート」が実施されました。

冒頭の2つの演習パートは,それぞれのチームが執筆している論文のドラフト(草稿)を読み合い,気になる点や改善すべき点について意見・質問し合うという内容です。

前半では,「なぜ初年次の教師教育者は”発信”したのか?」をRQに掲げて追究するチームの論文ドラフトの読み込みが行われました。論文の記述内容の理解しづらい表現などが指摘されたほか,「問題の所在では,初年次の教師教育者にとって実践を”発信”することはどのような意味をもつかを問うことの研究的意味を強く打ち出す必要がある」「大きなRQは序章で掲げた上で,細分化されたRQ(SRQ)は理論・方法を確定し,それを述べた後で論じるべきではないか」「理論的枠組みは,①不安・葛藤,➁信念・使命を視点に設定されるべきではないか」といった意見が出されました。また,テキストやインタビュー記録の引用表記のルールを統一することや,エビデンスとして提示するインタビュー・ガイドの掲載方法といった形式面での課題も指摘されました。

後半では,「(若手教師を巻き込みながら)校内研修を組織する教師教育者にはいかなる役割が求められるのか?」をRQに掲げて追究するチームの論文ドラフトの読み込みが行われました。半構造化インタビューの構造の根拠や,ストーリー・ラインの引用方法などについての質問が挙げられたほか,「教師教育者としての専門性に関する記述を分厚くしたほうがいいのではないか」「欧米とは異なる教師教育者の役割について,『多様な実務経験,専門性,教育観を持つ人々を,教師の専門職者集団=PLCとして結び付け,課題解決したり,ヴィジョンを構築したり,連携関係を作っていくコーディネーター』という役割を規定できるのではないか」といった具体的で建設的な意見も提案されました。

最後の演習パートでは,ブレイクアウトルームでチームにわかれて,今後の論文執筆の進め方について議論や段取りの確認がなされました。論文の原稿を提出するまでには,指定のフォーマットへの統合や誤字脱字の修正といった体裁の調整だけでなく,剽窃防止ソフトでのチェックなどの様々な作業が待っています。提出期日までに確実に提出できるよう,各チームは入念にスケジュールを見直していました。

あとは,論文の執筆と提出までの作業を,各チームで進めることになります。次回の講習時には,それぞれのチームが笑顔で報告ができるよう,納得のいく論文が完成できるように準備を進めます。(大坂)

※2023年11月31日追記:無事,2チームとも共同研究論文を提出・受理されました。

 

【第9回:2023年12月16日(土)14:00~16:00】

2023年度9回目の講習を実施しました。受講者4名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講座の流れが確認されました。①提出した共同研究論文を振り返って得た学びを共有すること,②「ストーリーを用いた教師教育者の専門性開発研修」を体験すること,が本日の講習の目的です。

「共有パート」では,受講者の一人が草原教授主催の大学院科目の第1回〜第4回の報告を行いました。担当した受講者は,授業において疑問を抱いた点を”問い”の形にして提起し,チャット機能やブレイクアウトルーム機能を活用しながら協議するという手法を提案しました。具体的には,受講者は「教師教育者として必要な資質や条件とは何か?」「教師教育者に『勇敢な研究(Brave Research)』をどこまで求めるべきか?」といった問いを投げかけ,対話を促すことによって,「問うことで答えを引き出し,対話を通して自身の暗黙の了解や前提に気づく」という,授業で学んだ省察の営みの重要性を体験的に共有することを目指していました。受講者は,ぜひ授業の録画映像を他の受講者にも観てもらいたいという旨を熱心に伝えていました。

「演習パート」では,大きく2つの活動が行われました。1つ目は,共同研究の成果を共有し,論文の執筆過程を振り返る活動です。まず2つのグループから論文の内容について簡単に紹介してもらい,それを受けて執筆者よりそれぞれ感想が共有されました。どちらのグループにおいてもグループ内のメンバーを対象としたインタビューが実施され,インタビュアーとインタビュイーの双方の立場から多くの学びが得られたことが語られました。また,論文化することを通して,自身の教師教育者に関する理解を深く省察する機会になったことが確認されました。草原教授は,それぞれの論文に対して興味深いと感じた点を共有するとともに,数名という小さな規模の調査研究から教師教育の実践や研究を改善する示唆を導くことを模索することの意義や,論文を書くという行為を通した教師教育者としての変化や成長をメタ認知することの重要性を説明していました。

「演習パート」の2つ目は,教師教育者としての葛藤(tension/conflict)についてのストーリーを読み,問いに答え,各教師教育者のレンズを検討するという活動が行われました。活動に先立って,草原教授より活動の趣旨説明が行われました。イギリスやオランダでは教師教育者の専門性開発の方法として,教師教育者の葛藤を実体験に基づく「ストーリー」に仕立てて,それを読み・書き・読み返すという活動を行うことで専門性開発を促すというアプローチが提起されています。草原教授は,私たちは常に「レンズ(自身の経験を通して形成されてきた信念・規範・偏見など)」を通して世界を捉えており,教師や教師教育者の実践もその「レンズ」によって方向づけられることから,異質な他者と対話し「レンズ」を自覚することが重要であることが説明されました。

続いて,ペアに分かれて,講座で用意された複数の教師教育者に関する葛藤のストーリーを読むという活動を行いました。ペアワークでは,「このストーリーの主人公が直面した葛藤(tension/conflict)とは何か?」「あなたはこのストーリーの主人公に共感するか?主人公と似たような経験をしたことがあるか?」「あなたがストーリーの主人公の同僚だったら,どのような声かけをするか?」といった問いに対する回答を考え,共有しあいました。「ストーリー」の主人公に共感し,自身の日常と照らし合わせながら起こりうる事態に対して自分であればどうするかが語られたり,葛藤の起点に感情が関わっていることからよりリアリティを感じながら議論したことなどが語られました。最後に,次回までの課題として,受講生が自身の経験を題材とした「ストーリー」を作成してくることが求められました。

この「ストーリー」を読む・書く活動には,自身や他者の「弱さ(vulnerability)」をさらけ出すことが不可欠となるため,共同研究を通して信頼関係を形成した上で活動に取り組む必要があると考えています。次回に向けて,どのような「ストーリー」が描かれるのか,見守りたいと思います。(大坂)

 

【第10回:2024年1月20日(土)14:00~16:00】

2023年度9回目の講習を実施しました。受講者4名がオンラインで集合しました。

はじめに大坂より,本日の講座の流れが確認されました。本日の講習の目的は,前回体験した「ストーリーを用いた教師教育者のための研修」をより深掘りすることです。そのために,受講生は自らが作成した「教師教育者としての葛藤(tension/conflict)についてのストーリー」について,他の人が書いたストーリーを読んで,その「読み」を交流していくことが示されました。

導入として,草原教授より趣旨が説明されました。前回の活動を振り返りながら,私たちが「レンズ」を通して世界を捉えていること,教師や教師教育者の実践も自身の持つ「レンズ」によって方向づけられること,だからこそ異質な他者と対話し「レンズ」を自覚することが重要な点であることが改めて説明されました。

その後,大きく三つの活動が行われました。

活動の一つ目は,個人活動です。受講生が作成してきた教師教育者としての葛藤(tension/conflict)についてのストーリー(6つ)を個人で通読し,どのような教師教育者としてのストーリーが描かれているか,その概要をつかみました。若手として学校の広報戦略を共に検討する初任者教員へどう関わるべきか,中堅として管理職や若手教師との業務の調整に追われ授業が疎かになりがちな状況をどうするか,大学教員として学生の教員採用試験対策に熱を上げるも合格させられなかった時の「敗北感」とどう向き合うか・・・といった,それぞれの経験と文脈に基づくリアルでユニークな葛藤の場面が描かれたストーリーが集まりました。

二つ目は,グループ活動です。すべてのストーリーを読んだうえで,数名のグループに分かれて,グループとして深読みしていくストーリーを選定しました。その後,各グループで選んだストーリーについて読みを深めました。ワークシートに設定された5つの質問(「このストーリーにタイトルを付けるとしたら何でしょうか?」「このストーリーの主人公の「私」が直面した葛藤(tension/conflict)とは何でしょうか?」「あなたはこのストーリーの主人公に共感しますか,共感しませんか?あなたはこの主人公と似たような経験がありますか?」「あなたがストーリーの主人公の同僚だったら,どのような声かけをしますか?」「あなたがストーリーの主人公と同じ状況に置かれていたら,どういうふるまいをしますか?」)への回答を考え,意見交流をしました。時には自分自身の経験や教師教育観に照らし合わせながら,時にはストーリーの作成者の立場に寄り添いながら,闊達な議論を行いました。

三つ目は,グループでの「読み」の全体共有です。それぞれのグループから,選定したストーリーの「読み」やそこでの気づきや疑問が共有されました。グループAからは,ベテランと若手とミドル(中間)や管理職とそれ以外といった教師のラベリングによるストーリー(レンズ)の違いが主な論点として報告されました。グループBからは,読み手の立場によって「読み」(5つの問いへの回答)が全く違うことが挙げられ,レンズの違いを自覚する契機が明確に語られました。また,葛藤している教師教育者への声かけとして,励ましなどの寄り添う声かけやリフレクションを促す冷静な声かけなどが挙げられ,人や場面・状況によって異なることが述べられました。グループCからは,教師教育者としての意識があることで葛藤(する気付き)を生んでしまっているのではないかといった意見が出されました。その後,ストーリー作成者自身によるストーリーの解説と葛藤した本人による意図開示も合わせて行われました。意図開示をすることや,他の人の「読み」を聞くことを通して,再度自分自身の経験や葛藤を振り返るきっかけとなったと語られました。

最後に,今年度のPD講座のまとめがなされました。今回が2023年度PD講座の最終回であったため,修了式(仮)が執り行われました。受講生からは,「教師教育にかかわる知識をつけながら学ぶことができた」「これからもこのメンバーでまだまだやっていきたい」といった言葉をいただきました。授業者の草原教授からの「PD講座の目的は達成されたと感じている。これからもPD講座でともに学んだメンバー(仲間)として,コミュニティを広げ深めていってほしい」といったコメントで今年度のPD講座最終回は終了しました。(大坂)

 


PD講座で取り組んだ共同研究の成果が学術論文として刊行されました。

〈論文①〉

〈論文②〉

広島大学の学術情報リポジトリ(https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/journals/HiroshimaJSchEduc/v/30)にて,掲載雑誌全体の電子データも公開されています。EVRI関係者の論文も多数掲載されていますので,あわせてぜひご覧ください。

 


お問い合わせが多い事項をQ&Aにまとめました。(クリックすると閉じます)

「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」に関するQ&A

  • 自分が受講する資格があるのか,受講しても最後まで継続できるのか不安なのですが,何か目安になるものはありますか?
    こちらのページの「履修資格」を満たしている方であれば,どなたでもご応募いただけます。ただ,R5年度は受講者の上限を5名程度としており,大学院の授業科目の履修や論文の執筆といった専門的なワークもありますので,不安な方は事前に担当者までご相談ください。昨年度のプログラムの活動報告ページも,ぜひご一読ください。
  • 必ず研究と学術論文の執筆を行う必要があるのですか?研究するのではなく,純粋に教師教育についての理論や知見を吸収したいのですが…。
    この講座の参加にあたっては,共同研究への参加と学術論文の執筆が必須となりますもちろん,研究と論文執筆は講座担当教員とスタッフがサポートします。これらの活動への参加が難しいという方は,EVRIの提供する教師教育に関連するセミナーに参加したり,科目等履修生として草原が担当する大学院科目を受講されるといった方法をご検討ください。
  • 大学院の授業科目も必ず履修しなければならないのですか?
    はい,必ず履修していただきます月1回・計10回実施されるオンライン講習「教師教育者のための教育・研究セミナー」 を30時間受講することに加えて,大学院の授業科目である「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究(30時間)」もしくは「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究(30時間)」のどちらかを選択して受講していただくことになります。
  • 講習や大学院の授業科目は,対面で受講する必要がありますか?遠方なので広島大学での受講が難しいのですが…
    必ずしも対面で受講いただく必要はありません
    (1)講習は原則としてビデオ会議システム(Zoom)を活用し,すべてオンラインで開催する予定です。毎月1回のペースで土曜日または日曜日の午後に実施します。
    (2)大学院の授業(30時間)は,原則対面で平日(おおむね金曜日の午前)に開講しますが,全てオンデマンドで後日視聴いただけます。オンデマンドでの受講後にレポートを提出いただきます。
  • 大学院の授業科目を履修する際は,広島大学の科目等履修生に登録しなければならないのですか?その場合,講座受講料とは別に,検定料や入学金や授業料等の追加の費用負担が必要になるのでしょうか?
    場合によります将来的に大学院進学を想定されている場合,科目等履修生として事前に手続きをされることをお勧めします。大学院に入学後に本単位を修了単位に含めることができることがあります。ただし,検定料・入学料・授業料をお支払いいただくとともに,一定水準に到達することが条件となります(正規科目の単位認定は大学院生と同一の判定基準です)。特に大学院の単位は必要ないという場合は,本プログラムの履修料のみです。詳しいことは,下記の問い合わせ先にお尋ねください。
    ・広島大学 教育学系総括支援室(大学院課程担当)
    〒739-8524 東広島市鏡山1-1-1  TEL:082-424-3706
    E-mail:kyoiku-in■office.hiroshima-u.ac.jp ※■は半角@に置き換えてください。
  • 講座で参加できなかった回の補講などを受けることはできますか?
    できます。勤務の都合などで通常の講座に参加できなかった場合は,オンデマンド(非同期オンライン)で欠席回の内容を補完していただきます。
  • 履修申請手続きの中に「履修資格を証明するもの」とありますが,これはどのようなものを提出すればいいのでしょうか?
    →前職を証明する書類(辞令等),あるいは現職を証明する書類(辞令,職員証等)の写しをご提出頂くことになります。
  • 休職などで現職を一時的に離れていても受講可能でしょうか?
    受講可能です申請時には「履修資格を証明するもの」として休職辞令のコピーなどをご提出ください。

 


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