menu

 

2022年01月27日公開

プログラムの詳細や受講のお申込みは,

下記のページからお願いいたします。

https://www.hiroshima-u.ac.jp/gshs/risyu_syomei

※2022年度の申込みは締め切りました。ありがとうございました。

Introductionはじめに

 

プロジェクトの概要

本ページでは,広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が主催する履修証明プログラムである「教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座」について紹介します。

事業概要
●事業テーマ  :教師教育者のためのプロフェッショナルディベロップメント講座
●事業目的・内容:教師教育の実践に携わっている先生方=教師教育者を対象に,1年間(計60時間)をかけて教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援すること。

以下,トピックごとに記載しています。
関心のある項目をクリックしてご覧ください。


講座開設の経緯(クリックすると閉じます)

近年,教師教育や教員養成の世界では,「教師教育者(Teacher Educator)」という概念が注目されています。「教師教育者」には,教員養成に携わる大学教員のみならず,教育委員会の指導主事や学校現場の管理職,同僚教師など,教師の成長に影響を与える幅広い立場の人も含まれています。「教師教育者」は,「教師を育てる研究者」や「元(ベテランの)教師」といった単なる職歴や専門領域を備えているだけではなく,教師の力量形成を支援する存在としての特別な専門性(professionality)や信念(identity)が必要であるとされています。このことから,世界中で教師教育者についての研究が行われ,教師教育者の専門性開発のあり方が議論されています。

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は,設立当初から教師教育者に関する研究を行っています。これまで,日本国内外の学校や機関と連携しながら,「教師教育者とは誰なのか」「教師教育者とはどのような専門性をもつ存在なのか」「教師教育者が専門性を高めるためには何をすればよいのか」といったテーマについて,教師教育者の専門性に関する研究や実践を重ねてきました(旧「教育学研究者クラスタ」や旧「教師教育者クラスタ」の取り組みをご覧ください)。

これまでのEVRIが行ってきた取り組みをさらに発展させるべく,2021年度4月より,EVRIは広島大学が社会人向けに開講している「履修証明プログラム※」の1つとして,「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」を開設することとなりました。

※「履修証明プログラム」…学校教育法施行規則で定められた,体系的な知識・技術等の習得を目指した社会人向け教育プログラムのこと。制度についての詳細は,文部科学省のこちらのページを参照。広島大学で開講されているプログラムについては,こちらのページを参照。


講座の概要(クリックすると閉じます)

若手教員や教育実習生の指導,および校内研修の企画・運営などに関わっている先生方を対象とした有料の講座です。1年間(計60時間)をかけて,EVRIが受講者の教員養成・研修の改善と研究能力の向上,そして教師教育者のコミュニティづくりを支援していきます。修了者には、学校教育法に基づく「履修証明書」を発行します。

受講をお勧めしたいのは,次のようなニーズをお持ちの先生方です。

  • (現職の教員として)実習生の指導や若手教員の育て方について学び,研究したい。
  • (研修担当者として)実習指導・授業研究の理念や方法について学び,研究したい。
  • (大学教員として)教職志望学生のためのカリキュラムや指導法について研究したい。
  • 教師教育の研究者として必要な,学術論文の読み解き方や資料の探し方を実践的に学びたい。
  • 教師教育に関する研究業績を積み重ねたい!そのために,学術論文の執筆に携わりたい。
  • 将来大学院に進学して教育学に関する最新の研究成果を学びたい!その準備をしたい。

プログラムの詳細はこちらのリンク先,ならびに以下の案内用チラシ(PDF)をご参照下さい。

 

講座全体としては,「大学院授業科目の履修」「オンライン講習」「共同研究・論文執筆」の3本柱で進行していきます。実施計画は,以下のようなイメージとなっています。


オンライン講座の実施計画(クリックすると閉じます)

オンライン講習の実施日程

実施日程は調整中ですが,5月から翌1月まで,毎月1回を原則として計10回実施予定です。
講習は1回2時間で,休日や祝日などの参加しやすい日程で開催します。
講習終了後,1週間を目処に,A4一枚程度の課題レポートを提出していただきます。
第1回:2022年5月21日(土)13:00~15:00
第2回:2022年6月18日(土)13:00~15:00
第3回:2022年7月16日(土)13:00~15:00
第4回:2022年8月6日(土)13:00~15:00
第5回:2022年8月28日(日)13:00~15:00
第6回:2022年9月17日(土)13:00~15:00
第7回:2022年10月15日(土)13:00~15:00
第8回:2022年11月19日(土)13:00~15:00
第9回:2022年12月17日(土)13:00~15:00
第10回:2023年1月21日(土)13:00~15:00


2022年度広島大学の授業カレンダー(クリックすると閉じます)

画像をクリックすると,広島大学の学年暦(授業スケジュール)掲載ページに遷移します。


オンライン講習の実施報告(クリックする閉じます)

受講者が聴講している,草原担当の大学院授業科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の実施報告については,草原教授の個人HPにて公開する予定です。

昨年度と同じく,基本的にはZoomによるオンラインの形で講習を行っていきます。以下,各回の講習の概要を報告していきます(随時更新)。

【第1回:2022年5月22日(土)13:00~15:00】

月1回の講習が始まりました。今年度は5名の受講者が全国各地からオンラインで集まりました。

講習では,はじめに教員や受講者の簡単な自己紹介などを行った上で,講習の趣旨説明,スケジュールの確認,資料の共有方法,課題の提出方法などについて確認しました。資料共有や課題提出は「Microsoft Teams」を活用するため,当日の講習で利用方法を実演する時間を設けました。コロナ禍を通してオンライン会議や情報共有のツールが広く認知されたこともあり,受講者の皆様はすぐにTeamsの利用方法を心得たようでした。

次に,草原和博教授の担当する大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究」を聴講している受講者による学びの報告です。昨年度同様,研究編の受講者が毎回担当を決め,5分程度で学んだ内容や自身の教師教育に対する考えがどのように変容したかといったことを発表してもらう取り組みです。今回発表した受講者は,第1講と第2講の授業の概略を説明した上で,教師教育者としての役割を引き受けたいと考えた動機について省察したり,自身の理想とする教師教育を実現するための方法を検討したりすることの必要性を実感したことを報告していました。

続いて,アイスブレイクと自己紹介を兼ねたアクティビティを行いました。お題は,「教師教育者としての”転機”や”契機(きっかけ)”を絵にして共有する」というものです。草原教授が自身の「作品」をもとに自身の転機や契機を紹介した上で,受講者に「教師教育者」としてどのような道を歩んできたのかにフォーカスを当てた自分語りをお願いしました。あまり時間が確保できなかったのですが,受講者は紙とペンを使って,自身の教師教育者としての来歴や転機を描き,的確に言語化していました。絵を描く活動は,オランダの教師教育者研修にヒントを得て実施したものです。絵を描くことを通して教師教育者としての自身の歩みを振り替えることで,教師教育者に必要な省察の重要性に気づいてもらうことを意図していました。

今年はどのような課題意識のもと,どのような共同研究が展開されるのかを楽しみにしながら,講習を進めていきたいと思います。(大坂)

【第2回:2022年6月18日(土)13:00~15:00】

今回からは,①草原教授が担当する大学院科目を受講して学びの報告を行う「共有パート」,②教師教育に関する理論や研究方法について学習する「講義パート」,③グループに分かれて教師教育に関する共同研究を推進する「演習パート」,の3本柱で講習を展開します。

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第3講から第5講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回では,ダン・ローティ『スクールティーチャー』を購読しながら,「教師とは何か,どういう職業か,どういう専門職か」「教師は,なぜ保守的なのか」という問いに対する回答を考えていく内容です。受講者は,教師を目指す人は学校にいいイメージを持っているから変革の担い手になりづらいこと,草原が具体と抽象の往還を意識しながら説明をしていたこと(求めていたこと),今年度から教師教育者となった人の報告を受け,教師教育者の1年目としてのつまずきが言語化することの重要性を実感したこと,などが印象に残ったことを報告していました。

「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(岩田ほか2018原田ほか編2017:281-290大坂ほか2020)を参照し,受講者が「教師教育者」「移行」「同型性」という概念について,自身が理解した内容を報告しました。

「演習パート」では,昨年度のPD講座成果論文を読み,共同研究の成果のまとめ方や論文の構成について読み解く活動を実施しました。「研究上の主要な問いは何か?」「データはどのように集めたのか?」といった学術的な読み方と,「納得したところ,不満なところは?」「結果や示唆に共感できるか否か?」といった鑑賞的な読み方を提示しながら,論文は目的に応じた読み解き方が必要であることを学びました。

本日の講習で,受講者の追究したい問いが深まったことを願います。(大坂)

 

【第3回:2022年7月16日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第6講と第7講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回では,引き続きダン・ローティ著・佐藤学監訳ほか(2021)『スクールティーチャー』を購読しながら,「教師とは何か,どういう職業か,どういう専門職か」「教師は,なぜ保守的なのか」という問いに対する回答を考えていく内容です。受講者は,学校や教師(集団)がなかなか変革することが難しい性質にあるということは同意しつつも,「学校をチームとしてみなし,学校運営に一人ひとりの先生が参加することで同僚性が高まり・・・社会変革につながるファーストステップにはなりうる」という大学院生の報告をふまえて,校内の教師や学校に外部から関わる者の立場からできることを提案していました。

「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(小柳2016岡田ほか2018社会系教科教育学会編2019:310-320)を参照し,受講者が「アイデンティティ」「専門性開発」という概念について,自身が理解してまとめた内容を報告しました。

「演習パート」では,PD講座で実施する教師教育(者)に関する共同研究について,アイデアを出し合いグループづくりを行いました。まず,受講者はオンラインホワイトボードであるGoogle Jamboardを活用し,受講者全員が共同研究で実施したいアイデア(テーマや問い)を付箋の形で書き込みました。その後,書き込まれたアイデアを分類・整理しながら,共同研究のグループ分けを検討しました。この時点では,「学校を基盤とする教師教育者と大学を基盤とする教師教育者はどのように協働できるか?」「分野や世代の異なる大学の教師教育者が共同で授業実践をどう改善していくことができるか?」といった問いを追究できるのではないか,というアイデアが出ていました。

今年は2グループで共同研究が展開できそうです。今後,それぞれ具体的な研究テーマや実施計画を具体化していきます。(大坂)

 

【第4回:2022年8月6日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第8講から第10講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回は,J・ロックラン監修・武田信子解説ほか(2019)『J.ロックランに学ぶ教師教育とセルフスタディー』を購読しながら,「教師とは何か,どういう職業か,どういう専門職か」「教師教育者という概念を要求する人と,嫌悪する人がいるのはなぜか」「教師教育者は自立的に成⻑するのか,制度的・社会的に育成されるのか」という問いに対する回答を考えていく内容です。受講者は,各回で紹介されたロックランの実践や教師教育の理論を引用しながら,自身の教師教育実践を省察・評価し,改善すべき点を提案していました。

「講義パート」では,あらかじめ課題として提示された教師教育に関する3つの論文(赤尾編2004:141-169濱本ほか2019石川2019)を参照し,受講者が「成人教育論」「メンタリング」という概念について,自身が理解してまとめた内容を報告しました。

「演習パート」では,グループに分かれて共同研究の実施計画を具体化する作業を行いました。オンラインホワイトボードであるGoogle Jamboardを活用し,研究・調査の目的やそれが求められる背景(問題の所在)や,研究における主要な問い(リサーチクエスチョン)」といった研究の遂行に必要な項目を協議しました。ディスカッションを通して,2つのグループのリサーチクエスチョンは「教師が学校基盤の教師教育者として変容するきっかけは何か?教師教育者としてのアイデンティティをどのように形成するのか?」「教師教育者は模擬授業におけるフィードバックをどのように伝えるのか?そのフィードバックを教職志望学生はどう受け止めるのか?」へと具体化されてきました。

学校も夏休みに入り,受講者もようやく落ち着いて研究に取り組める時期になりました。先行研究の分析やデータの収集など,できる限り作業を進めておきたいところです。(大坂)

 

【第5回:2022年8月28日(日)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第11講から第12講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回は,前回に続いてJ・ロックラン監修・武田信子解説ほか(2019)『J.ロックランに学ぶ教師教育とセルフスタディ̶̶教師を教育する人のために』を購読しながら,「教師とは何か,どういう職業か,どういう専門職か」「教師教育者という概念を要求する人と,嫌悪する人がいるのはなぜか」「教師教育者は自立的に成⻑するのか,制度的・社会的に育成されるのか」という問いに対する回答を考えていく内容です。受講者は,本書の中心的なテーマであり研究方法論である「セルフスタディ」の理論と実践について論じられた2回の授業内容を要約して紹介しつつ,実践を参考にして自身の担当する教育実習カリキュラムを省察・構想していました。

「講義パート」では,大坂教育研究推進員が共同研究のベースとなる質的研究法の考え方について概説しました。質的研究法の定義や分類には様々な考え方がありますが,今回はサトウタツヤほか編(2019)『質的研究法マッピング』に依拠して「実存-理念」と「過程-構造」の2軸・4象限で分類・説明を試みました。また,それぞれの象限の代表的な研究法として,「TEA(複線径路・等至性モデリング)」「SCAT(Steps for Coding And Theorization)」「GTA(Grounded Theory Approach)」「ライフヒストリー」などを,参考文献とともに簡単に紹介しました。さらに,受講者とともに練習用の文章をコーディング(コード化)するワークに取り組み,それぞれのコーディングに揺れがあることを確認し,コーディングは共同研究として複数の人数で擦り合わせを行う必要があることを体験しました。

「演習パート」では,2グループにわかれて進めている共同研究の進捗報告と今後に向けた協議を行いました。各グループのメンバーは,このオンライン講習以外にも,オンライン上で定期的に集まって共同研究に必要な作業を行っています。例えば,学校基盤の教師教育者としての変容やアイデンティティ形成をテーマに研究を進めているグループの議論では,校内の研究・研修担当主事についての先行研究の分析から,学校基盤の教師教育者の葛藤や悩みに注目した研究がいいのではないかといった論点が話し合われました。また,大学の模擬授業における教師教育者のフィードバックの伝え方と教職志望学生の受け止め方をテーマに研究を進めているグループの議論では,先行研究レビューの際にはスムーズな活用のために引用できそうな箇所をエクセル等で管理するとよいといった実践的なアドバイスが出されていました。

講習後,草原教授と大坂教育研究推進員がそれぞれのグループに加わり,共同研究をサポートすることになりました。各グループの研究したいことを尊重しつつ,現実的に実行可能な方法や枠組みで研究を推進する体制を模索していきます。(大坂)

 

【第6回:2022年9月17日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の大学院科目の第13講から第15講の授業の概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回は,Ruben Vanderlindeほか編(2021)『Teacher Educators and their Professional Development』を購読しながら,「教師教育者の専門性基準に何を求めているか」「教師教育者の専門性を高めるために何をなすべきか」という問いに対する回答を考えていく内容です。受講者は,授業では欧州において教師教育者の専門職性に注目が集まり,教師教育者の専門職の基準をスタンダードやモデルとして策定する動向があることをふまえ,「日本において多様な教師教育コミュニティを構築するためには、「誰」をこそ包摂すべきか」という問いが議論されていたことを紹介しました。そのうえで,「教師-学習者-教師教育者-教師教育者の教育者-教育を支える外部機関等」がそれぞれの立場でセルフスタディし、それを発信とともに、フラットに関係しあって学べる場所が有効なのではないか,と提案していました。

「講義パート」では,大坂教育研究推進員が共同研究で必要となる質的研究法について,特にGTA(Grounded Theory Approach)をはじめとする様々な質的研究法の基本的な手続きであるオープンコーディングの方法に焦点を当てて概説しました。サンプルとなるインタビュー記録やその分析手順がわかるデータを示しながら,質的分析支援ソフトの活用方法や,一般的なオフィスソフトを用いた分析方法などを紹介しました。

「演習パート」では,2グループにわかれて進めている共同研究の進捗報告と今後に向けた協議を行いました。「研究主任を担う教師は学校基盤の教師教育者としてどのようなつまずきや葛藤に直面するのか?」を研究するグループは,グループのメンバー内で定期的に集まってセルフスタディを進めています。現在は,相互インタビューを通して研究主任を担っていた当時の取り組みや葛藤を振り返り,気づきを得る作業を進めていることが報告されました。他のグループや教員からは,先行研究の分析を通して「葛藤」や「研究主任」といったタームに関する概念整理や定義づけを行うことの重要性などが指摘されました。「教師教育者は模擬授業後の協議会においてどのようなフィードバックを行い,学生はそれをどう受け止めているのか?」を研究するグループは,分担執筆して作成を進めている最中の仮原稿を持ち寄り,参加者はそれを読みながら気になる点についてコメントをしました。他のグループや教員からは,分析対象を増やしすぎずに目的に応じて焦点化していく必要があるのではないかといった指摘がなされていました。

2つのグループの共同研究はテーマも進め方も異なりますが,自身を対象としたセルフスタディ的なアプローチを採用することになりそうです。研究が自身の教師教育者としてのあり方を振り返り,再発見する機会となっているようで,みなさん相互交流に刺激を受けている様子でした。(大坂)

 

【第7回:2022年10月15日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の後期大学院科目の第1回の授業概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。草原教授担当の後期の授業科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」では,①日本教育方法学会編『教師の自律性と教育方法』に所収の論文の検討,②Swennen & White編『Being a Teacher Educator』に所収の論文の検討,③草原教授が実施する教員研修への参加と分析,の3部構成となっています。受講者からは,本授業のキーワードの一つである「agency(自律性・主体性などの意味)」に関連して,自身が学び手としてのagencyを自覚させられる感覚で,新鮮な気持ちとなったといったことが述べられました。

本来であればここで「講義パート」が入るのですが,提出期日が近づいている共同研究論文の執筆・検討作業に専念するため,今回はお休みとなりました。

「演習パート」では,2グループにわかれて進めている共同研究の進捗報告と今後に向けた協議を行いました。セルフスタディを通して「校内で研究主任を経験する教師は学校基盤の教師教育者としてどのような葛藤に直面するのか?」を探究するグループの協議では,相互インタビューの分析を通して自身が教師教育や研修で大切にしようとしていた「同僚性」や「自立性」などのキー概念が浮かび上がってきたといった気づきが報告されました。また,他のグループや教員からは,コーディングの視点として,前提となる対象者の研修観やキャリアなどを整理しておく必要があるといった指摘が出ていました。一方,セルフスタディを通して「教師教育者は,模擬授業で行う学生へのフィードバックをどのように行い,どのように改善しようとするのか?」を探究するグループの協議では,前回同様に論文の草稿を持ち寄り,参加者はそれを読みながら気になる点についてコメントをしました。他のグループや教員からは,リサーチクエスチョンに答えるためには学生を対象としたインタビューの手続きや成果を強調するのではなくセルフスタディとしての自身の気づきや変容の記述を充実させたほうがいいのではないか,といった指摘が出ていました。

試行錯誤しながら進めてきた2つのグループの共同研究は,いずれもセルフスタディを通して自身の教師教育者としての価値観や行動の省察・変容を促すものとなっており,専門性開発という本講座の趣旨に叶うものになっています。今後は,セルフスタディを通して教師教育の実践や文化の発展のためにどのような示唆を導くことができるのかを精緻化する必要がありそうです。(大坂)

 

【第8回:2022年11月19日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の後期大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の第2回から第4回の授業概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。これらの回は,いずれも日本教育方法学会編(2022)『教育方法51 教師の自律性と教育方法』を購読し,各論文の魅力を端的に紹介するとともに,授業研究をめぐる論点のパノラマ図を描くことが目指されました。第2回は吉永紀子「子どもと教師の自己変革の場としての授業づくり」(第Ⅱ部第1章),第3回は宮原順寛「授業研究者をとりまく教育臨床研究の倫理に関わる問題群」(第Ⅱ部第2章),第4回は黒田友紀「校内授業研究を通した教師の自律性を保証する学校文化の醸成」(第Ⅱ部第4章)が課題論文として取り上げられました。受講者からは,「自身が授業研究に入る際の”観察者”としての権力構造を改めて意識した」「授業研究を通して共有された教室の言葉が学びの種となっていく過程のダイナミクスを感じた」「教師は学校文化の作り手であり壊し手でもあり,教師教育者はこの2つの側面をどのように支えるか考える必要がある」といったことが述べられました。

前回に引き続き,提出期日が近づいている共同研究論文の執筆・検討作業に専念するため,「講義パート」はお休みとなりました。

「演習パート」では,2グループにわかれて進めている共同研究の進捗報告と今後に向けた協議を行いました。今回は,2グループとも執筆中の論文の草稿を持ち寄り,事前に受講者らが読み込んだ上で,気になる点についてコメントしあう形で協議を進めました。

セルフスタディを通して「校内で研究主任を経験する教師は学校基盤の教師教育者としてどのような葛藤に直面するのか?」を探究するグループの協議では,教師教育者の葛藤に注目する意義を強調するとともに,分析の視点ともなる本研究における教師教育者の葛藤の定義を先行研究をもとに明確化する必要性が指摘されました。また,研究の出口として,研修主任の地位の在り方に関する提言や葛藤を軽減する具体的方途を示すべきとの意見が出されていました。

セルフスタディを通して「教師教育者は,模擬授業で行う学生へのフィードバックをどのように行い,どのように改善しようとするのか?」を探究するグループの協議では,セルフスタディという研究方法論の特性上,自己の実践の改善だけでなく教師教育コミュニティの改善に向けた示唆を提示する必要があるといった指摘がなされました。また,模擬授業時のフィードバックに関する先行研究の位置づけや,考察や示唆の論点を明確化してはどうかといったアドバイスが出ていました。

次回の講習時までに論文原稿の提出期限を迎えるため,残りは各自で作業を進めて提出を完了させる必要があります。2グループとも,今回の講習で受けた指摘や助言をふまえて論文をブラッシュアップし,教師教育の発展に寄与する成果を提案できるように,教員・スタッフも全力でサポートします。(大坂)

 

【第9回:2022年12月17日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の後期大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の第5回から第6回の授業概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。

第5回は,前回に引き続き,日本教育方法学会編(2022)『教育方法51 教師の自律性と教育方法』の購読と検討です。今回は,坂本將暢「学校を基盤とした協働型授業研究(第Ⅱ部第3章)」についての検討と協議です。受講者からは,教師が「みえる」といっても,子供や授業の流れ,授業の構造など様々な「みえ」が存在するという議論をふまえ,「児童生徒,指導や授業の”みえ”を広げ・深めるという共通意識をもち,授業研究に臨むことが,事後検討会が活性化し,先生方にとって意味があったと思える授業研究が増えていくのではないか」という学びを得たことが述べられました。

第6回からは,Swennen & White編著(2020)『Being a Teacher Educator: Research-Informed Methods for Improving Practice』を購読し,「教師教育実践を改善するために,どのような方法論が提案されているか」「その方法論を,どのような研究の視点・方法・結果に基づいて導いているか」という問いに対する提案が要求されました。今回は,Chapter10「Learning from Stories about the Practice of Teacher Educators in Partnerships between Schools and Higher Education Institutions」が題材に取り上げられ,PD講座でも取り上げているストーリーを活用した教師教育のあり方について議論がなされました。受講者は「教師教育機関所属の教師教育者と学校所属の教師教育者が,相互の願いや発言の背景,コンテクストを理解し合うことが,教師の視野を広げるために大切であり,ストーリーの活用はその一助になると感じた」と学びを発表していました。​

続いて,12月初旬に無事,共同研究の成果を2グループとも論文として投稿できたことをふまえ,共同研究や論文執筆を通して得た成果を共有する活動を行いました。

セルフスタディを通して「校内で研究主任を経験する教師は学校基盤の教師教育者としてどのような葛藤に直面するのか?」を探究するグループからは,「他者との共同研究により様々な価値観や考え方を知ることができた」「必ずしも成功やグットプラクティスだけが価値あるものとして位置付けられるのではないことが示せたのではないか」「セルフスタディ(研究)を初めて実践したので,このような方法論が研究として成り立ちうるのかということが新鮮だった」といったことが語られました。また,セルフスタディを通して「教師教育者は,模擬授業で行う学生へのフィードバックをどのように行い,どのように改善しようとするのか?」を探究するグループからは,「PD講座を通して,自身の研究領域や職場にいるだけでは出会うことのなかったであろうクリティカルフレンドに出会うことができた」ことが大きな刺激となったことが共通して語られました。草原教授は,全く背景が異なる者同士だからこそ生まれた相乗効果であり,両者が相互インタビューを通して分析・構築した教師教育者としての語りの違いが明確で興味深かったと評価していました。

「演習パート」では,「共有パート」でも取り上げられた,教師教育者としての葛藤(tension/conflict)についてのストーリーを読み,問いに答え,各教師教育者のレンズを検討するという活動が行われました。

はじめに,草原教授より,活動の趣旨説明が行われました。草原教授は,オランダやイギリスで活用されている教師教育者の専門性開発研修プログラムを引用しながら,「専門職としての教師教育者は,これまでの環境や文化などによって独自の見方・考え方=レンズが形作られていること」「自分が一体どのようなレンズを通して教師教育者として世界を捉え,行動をしているのかを認識し,行動の選択肢を広げるためには,自己や他者の教師教育者の直面した葛藤に関するストーリー(物語)を読み・書き・語り合うプロセスが有効であること」などを説明しました。

続いて,ペアに分かれて,講座で用意された複数の教師教育者に関する葛藤のストーリーを読むという活動を行いました。ペアワークでは,「このストーリーの主人公が直面した葛藤(tension/conflict)とは何か?」「あなたはこのストーリーの主人公に共感するか?主人公と似たような経験をしたことがあるか?」「あなたがストーリーの主人公の同僚だったら,どのような声かけをするか?」といった問いに対する回答を考え,共有しあいました。ペアワークでの議論の結果を全体で共有した際には,「読んだストーリーの主人公の考え方や振る舞い方に納得できず,共感して読むことができなかった」「ストーリーの主人公と同じような葛藤を自分も経験したことがあるので,当時を思い出しながらあるべき対応や声掛けについて検討した」「あちらを立てればこちらが立たないという複雑な状況で葛藤する主人公の心境がよくわかって,自分もどうすればよいか悩んでしまった」といった,それぞれの受け止め方が語られました。

最後に,次回までの課題として,受講生が自身の経験を題材としたストーリーを作成してくることが求められました。ストーリーはフィクションでもノンフィクションでも構いませんが,例年みなさん作成に苦労されるようです。課題を通して,自身の経験を内省し,他者に向けて言語化することの難しさと意義を考えて頂く機会になればと考えています。ストーリーを読むのが楽しみです。(大坂)

【第10回:2023年1月21日(土)13:00~15:00】

「共有パート」では,受講者が草原教授主催の後期大学院科目「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究」の第7回から第9回の授業概略を説明した上で,学びの成果を共有しました。この3回の授業では,前回に引き続き,Swennen & White編著(2020)『Being a Teacher Educator: Research-Informed Methods for Improving Practice』を購読し,「教師教育実践を改善するために,どのような方法論が提案されているか」「その方法論を,どのような研究の視点・方法・結果に基づいて導いているか」という問いに対する提案が要求されました。

今回は,Chapter 8「A Professional Social Network as a Platform for Teacher Educators’ Professional Development」,Chapter 9「International Semi-collaborative Research Initiative: a Critical Reflection of the Research Process」,Chapter 11「Teacher Educator as Researcher: Striving towards a greater visibility for Teacher Education」の3つの章が題材に取り上げられ,議論がなされました。「(9章で取り上げられている)共同研究によるデータベースを日本の学校で構築するとしたら,どのようなデータを収集すればいいだろうか」「(11章で取り上げられている教師教育者のセルフスタディの取り組みを学んで)自分なら教育実習生にどんな研究論文(参考図書)を紹介するだろうか」「(8章で取り上げられている)オンライン上でプロフェッショナル・コミュニティを構築する取り組みは,SNSが発達した現在は現実に多く存在するし,対面とな異なる特質をもつコミュニティになるのではないか」といった問いが出され,様々な意見が出されていました。

「演習パート」では,前回に引き続いて,教師教育者としての葛藤(tension/conflict)についてのストーリーを題材にした活動が行われました。今回は,事前に受講生が作成した,自身の経験を題材としたストーリー(フィクションでもよい)をもとに,ペアで他者の書いたストーリーを読み,感想を共有し合う活動を行いました。今回,取り上げるストーリーは,自分たちが書いたものではないもので,なおかつ自身が共感できそうなものを選ぶことにしました。ペアワークでは,前回と同様に,「このストーリーの主人公が直面した葛藤(tension/conflict)とは何か?」「あなたはこのストーリーの主人公に共感するか?主人公と似たような経験をしたことがあるか?」「あなたがストーリーの主人公の同僚だったら,どのような声かけをするか?」といった問いに対する回答を考え,共有しあいました。

ペアワーク後の全体協議では,大学で他の教員と目的や評価観をすり合わせて教師教育を行うことの難しさについて題材にしたストーリーを読んだグループは,「他の教員と協働して授業を行う立場として強く共感した」「どこまで本音で語り,どこまで組織の安定性をとる(気を遣うべき)か自分も悩んでいるので共感できた」といった感想が出ていました。また,自身も授業に臨む十分な準備ができていない不全感を抱えながら,準備不足で模擬授業に臨む学生に対してどのように指導すべきか葛藤する主人公を題材にしたストーリーを読んだグループは,「ストーリーの『レンズ』として,授業準備への厳しさ,厳格さを持ちながら,それをどの程度学生に求めるかを葛藤しているという苦しみが見える」「評価=厳しく指導するではなく,褒めの姿勢を見せることで,周りに評価を求め,結果として指導につながるのではないか」といった感想が出されていました。

最後に,1年間を通したふりかえりが行われました。受講者は,「自分が教師教育者になるのかどうかわからずに申し込んだが,教師としての自覚を感じられたし,後輩にどのように接していけばいいか強く考えるようになった」「大学の教師教育者として,1年目にこの講座を受けられたことの喜びを感じている」「学ぶことはしんどいけれど楽しいことを実感でき,学びが肉付けされていった感覚を得た」「研究に対する真剣度が蘇ったし,世代間の対話が本当に面白かった」といった,それぞれが本講座を受講して得た知見や学び,感想を共有し合いました。

これで集合しての講習はすべて終わり,レポート等の提出が完了すれば今年度の講座は終了です。今年は完全オンラインで実施する形となりましたが,受講者は自らの意思で,他の受講者のもとを訪れて交流するなど,積極的に教師教育者コミュニティの輪を広げてくれました。全員が完走できたことに感謝しつつ,ここでできた縁を今後もつなげていかなければという思いを強くしました。(大坂)

 


PD講座で取り組んだ共同研究の成果が学術論文として刊行されました。

広島大学の学術情報リポジトリ(https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/journals/HiroshimaJSchEduc/v/29?locale=ja)にて,掲載雑誌全体の電子データも公開されています。EVRI関係者の論文も多数掲載されていますので,あわせてぜひ御覧ください。

 


お問い合わせが多い事項をQ&Aにまとめました。(クリックすると閉じます)

「教師教育者のためのプロフェッショナル・ディベロップメント講座」に関するQ&A

  • R3年度は「入門編」と「研究編」の2コースがありましたが,今年は1コースしか無いのでしょうか?
    はい,今年はR3年度の「研究編」をベースとした1コースのみとなっています「入門編」に該当するコースはありませんが,R4年度もEVRIは教師教育に関連するオンラインセミナーを実施してまいりますので,ぜひそちらにご参加ください。
  • 自分が受講する資格があるのか,受講しても最後まで継続できるのか不安なのですが,何か目安になるものはありますか?
    こちらのページの「履修資格」を満たしている方であれば,どなたでもご応募いただけます。ただ,R4年度は受講者の上限を5名程度としており,大学院の授業科目の履修や論文の執筆といった専門的なワークもありますので,不安な方は事前に担当者までご相談ください。昨年度のプログラムの活動報告ページも,ぜひご一読ください。
  • 大学院の授業科目も必ず履修しなければならないのですか?
    はい,必ず履修していただきます月1回・計10回実施されるオンライン講習「教師教育者のための教育・研究セミナー」 を30時間受講することに加えて,大学院の授業科目である「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン基礎研究(30時間)」もしくは「教職課程・現職研修カリキュラムデザイン発展研究(30時間)」のどちらかを選択して受講していただくことになります。2022年度の授業シラバスはこちらからご参照いただけます
  • 講習や大学院の授業科目は,対面で受講する必要がありますか?遠方なので広島大学での受講が難しいのですが…
    必ずしも対面で受講いただく必要はありません
    (1)講習は原則としてビデオ会議システム(Zoom)を活用し,すべてオンラインで開催する予定です。毎月1回のペースで土曜日または日曜日の午後に実施します。
    (2)大学院の授業(30時間)は,原則対面で平日(おおむね金曜日の午前)に開講しますが,全てオンデマンドで後日視聴いただけます。オンデマンドでの受講後にレポートを提出いただきます。
  • 大学院の授業科目を履修する際は,広島大学の科目等履修生に登録しなければならないのですか?その場合,講座受講料とは別に,検定料や入学金や授業料等の追加の費用負担が必要になるのでしょうか?
    場合によります将来的に大学院進学を想定されている場合,科目等履修生として事前に手続きをされることをお勧めします。大学院に入学後に本単位を修了単位に含めることができることがあります。ただし,検定料・入学料・授業料をお支払いいただくとともに,一定水準に到達することが条件となります(正規科目の単位認定は大学院生と同一の判定基準です)。特に大学院の単位は必要ないという場合は,本プログラムの履修料のみです。詳しいことは,下記の問い合わせ先にお尋ねください。
    ・広島大学 教育学系総括支援室(大学院課程担当)
    〒739-8524 東広島市鏡山1-1-1  TEL:082-424-3706
    E-mail:kyoiku-in■office.hiroshima-u.ac.jp ※■は半角@に置き換えてください。
  • 講座で参加できなかった回の補講などを受けることはできますか?
    できます。勤務の都合などで通常の講座に参加できなかった場合は,オンデマンド(非同期オンライン)で欠席回の内容を補完していただきます。
  • 履修申請手続きの中に「履修資格を証明するもの」とありますが,これはどのようなものを提出すればいいのでしょうか?
    →前職を証明する書類(辞令等),あるいは現職を証明する書類(辞令,職員証等)の写しをご提出頂くことになります。
  • 休職などで現職を一時的に離れていても受講可能でしょうか?
    受講可能です申請時には「履修資格を証明するもの」として休職辞令のコピーなどをご提出ください。

 


Contact EVRIとの共同事業等へのお誘い

私たちEVRIは、EVRIの掲げるミッションとヴィジョンを達成するために、共同事業、共同研究、受託研究および講演等をお引き受けいたします。
ご依頼やご質問は、EVRIの運営支援チームに遠慮なくお問い合わせください。連絡先は次のとおりです。

e-mail :evri-info@hiroshima-u.ac.jp
Tel & Fax: 082-424-5265
contact >