【2023.3.21】定例オンラインセミナー講演会No. 134「ドイツにおけるインクルーシブ教育と教師教育」を開催しました。
I.開催報告
広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2023年3月21日(火)に,第134回定例オンラインセミナー「ドイツにおけるインクルーシブ教育と教師教育」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に47名の皆様にご参加いただきました。
はじめに,司会の吉田成章准教授(広島大学)と辻野けんま氏(大阪公立大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。インクルーシブ社会の構築に向けて,教育にはどのような課題があるのか,そして教育実践と教師教育には何ができるのかを,日独の比較を通して議論していくという本セミナーの問題意識がセミナーの参加者全体で確認されました。
次に,Bettina Amrhein氏(ドゥイスブルク・エッセン大学)から「ドイツにおけるインクルーシブ教育と教師教育」と題して基調報告が行われました。Amrhein氏はドイツの学校制度における3分岐型システムが各学校間の学力・社会間格差を固定化している側面や,それらと特別支援学校(Special Education School, Förderschule)の間にある「組み分け(Streaming; tracking)」の状態を「非常にエクスクルーシブ」であるとして,インクルーシブ教育の実現に向けては,政治レベルにも働きかけながら,長期的な視野でアプローチしていくことの重要性を強調しました。そのうえで,教育実践レベルにおいては,インクルーシブ教育を実現するためにはラベリングをしないアプローチ(Noncategorical approaches; reject labeling)の意義が強調され,難しい子どもの行動(difficult student; difficult behavior)に対して同じアプローチをし続けるのではなく,教師自身が子どもや子どもの行動に対する見方や理解を変容していくことが重要であることを示されました。他方で,社会問題としても認知され始めている教員不足のなか,十分な教師教育を受けないままに教師として教壇に立つ人数が増えている状況で,いかにインクルーシブな教師教育を実現していくのかが課題であることも確認されました。そのうえでAmrhein氏からは,全ての教師に向けたインクルーシブ教育のガイドラインを作成し,教師教育カリキュラムの中に位置づけていくことなどが,インクルーシブな教師教育を実現する方途として提起されました。
以上の報告を受けて,指定討論者の川合紀宗教授(広島大学)からは,日本における特別支援教育,インクルーシブ教育の現状分析に基づいて意見が提示されました。川合教授は,特別な教育的ニーズがあると判断された子どもの数がここ10年で2倍に増加した要因の一つとして,教師の判断力が向上したことを挙げられました。しかし,特別な教育的ニーズのある子どもが増える中で子どもたちにラベリングをしていないか,教育予算を削るためにインクルーシブ教育の拡充を進めていないかという提言をされました。こうした課題に対応するためにも,教師教育段階でインクルーシブ教育を学ぶ機会を広げる重要性を強調されました。
今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想します。
①国際的な視野からのインクルーシブ社会とインクルーシブ教育の理論的・実践的検討
②インクルーシブな社会の構築と発展を担う子どもたちの教育を牽引する教師教育の充実
③「インクルーシブ」という用語・概念を使わなくとも,すべての人があらゆる場所で安心して生活をし,教育をうけられる社会の実現のための学術研究の必要性
今後もEVRIでは国際的かつ実践的な視座からのインクルーシブ教育のあり方について引き続き検討してまいります。
文責(吉田成章)
Ⅱ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。
教育学研究科HPにも掲載されています(準備中)
*第134回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。
本イベントに関するご意見・ご感想がございましたら,
下記フォームよりご共有ください。
※イベント一覧に戻るには,画像をクリックしてください。