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【2022.12.16】定例オンラインセミナー講演会No.128「オランダの授業研究の研究者から学ぶ(2)―Sarah Seleznyov先生―」を開催しました。

公開日:2022年12月27日 カテゴリー:開催報告

.開催報告

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,教師教育・授業研究ユニットの活動の一環として,2022年12月16日(金)に,第128回定例オンラインセミナー「オランダの授業研究の研究者から学ぶ(2)―Sarah Seleznyov先生―」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に27名の皆様にご参加いただきました。

「授業研究を軸に教師教育を改革する」シリーズは,日本の授業研究と世界のLesson Studyとの交差点を探りながら,授業研究に基づく教師教育について研究できる国際共同研究プラットフォームの構築を目指す企画です。Kim, J., Yoshida, N., Iwata, S., Kawaguchi, H. (Eds.). (2021). Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese Approach in Global Settings. New York, NY: Routledgeの出版を契機に,広島大学の共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成:2020~22年度)の支援を得て,日本の授業研究と世界のLesson Studyとの相互作用の解明に取り組んでいます。

シリーズ第14回となる本セミナーでは,イギリスでのレッスン・スタディの広がりを測定する「教育的借用(educational borrowing)」・「政策借用(policy borrowing)」の研究者であるSarah Seleznyov氏を招いて,国境を越えたレッスン・スタディの展開の挑戦と課題について議論を行いました。

はじめに,司会の金鍾成准教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。教育的借用についての紹介を行ったうえで,日本の授業研究が,イギリスにどのように「翻訳」されたのか,そのインパクトをどのように測るのかをSeleznyov氏から講演を頂くこと,続けて講演を踏まえて国際的な授業研究の展開可能性及び文化や国境を越えてネットワークを作っていくことの意義と課題について議論したいという趣旨が述べられました。

次に,Sarah Seleznyov氏(Vrije Universiteit Amsterdam,オランダ; Big Education Trust,イギリス)から「International Policy Borrowing And The Case Of Japanese Lesson Study」と題して発表が行われました。ロンドン大学教育研究所在籍時に,イギリスでのレッスン・スタディの効果研究を委嘱されたことをきっかけに授業研究を知るようになった氏は,日本における授業研究の進め方を実際に観察してイギリスにおける実践と大きく異なっていることを感じ,日本の授業研究で大切にされている要素や観点を析出することの重要性を意識するようになりました。研究を通して,日本の授業研究における8つの「重要要素Critical Components」を析出し,イギリスでこれらの要素がどれほど保たれているかの調査結果を紹介しました。どの要素もイギリスにおいて実施率は高くなく,イギリスには実施を困難にさせる制度的・文化的な文脈がいくつかあることがわかりました。続けて氏は教育的借用のパラダイムについて,「Blind fidelity(盲目な忠実さ)」,「Unconscious adaptation(無意識的適用)」,「Conscious adaptation(思慮深い適用)」の三つのパラダイムがあることを指摘し,ある国の文脈における取り組みを他国の異なる文脈に移す借用の諸形態について提案しました。

以上の発表を受けて,指定討論者の宮本勇一助教(広島大学),金原遼さん(広島大学大学院・院生),藤井翔太さん(広島大学大学院・院生)が,Seleznyov氏の発表に対するコメント・質問を投げかけました。イギリスにおけるレッスン・スタディではどのような「エビデンス」が授業改善のために取り上げられ議論されるのか,「Koshi(講師)」にはどのような力が期待されているかなど,まずはイギリスにおけるレッスン・スタディの展開状況についてさらに話し合い,イギリスのレッスン・スタディについて理解を深めました。イギリスでの状況の理解を深めたうえで,教育的借用について,文脈とはいったい何であるのかについて議論しました。イギリスでのレッスン・スタディの実施を難しくさせる「文脈」を具体的に特定することに,取り組み展開させる可能性があるのではないかということが提案されました。これについてSeleznyov氏は,レッスン・スタディの実施を困難にさせる文脈は複雑であり,特定することは困難であると指摘したうえで,教員の勤務の実態や財政的基盤から教師の自主的な研修を支える仕組みがない点を具体的に紹介しました。

また,ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,教育委員会の有無や教師教育上の機能について,参加者の母国であるモザンビークにおける教育的借用の展開可能性についての質問が出ました。

最後に,本プロジェクトメンバーの先生方(岩田昌太郎准教授川口広美准教授吉田成章准教授)からは,教育的借用における「翻訳」の重要性が指摘されました。日本からイギリスへの一方的な借用ではなく,国境を越えたレッスン・スタディの展開を期してさらなる双方向の交流を展望し,会は終了しました。

今後もEVRIでは「教師教育・授業研究」ユニットを中心に,授業研究を軸に教師教育を変革していくための方略について引き続き検討してまいります。

文責(宮本勇一)


教育学研究科HPにも掲載されています

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