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2020年1月6日更新
2020年3月9日更新


Introduction
はじめに

プロジェクトの概要と実施体制

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は、「教育のalternativeを提案すること」「教育のreconstructionを促進すること」「教育のinteractionの媒体となること」をミッションに掲げています。このミッションを実現するために、EVRIは学内外の組織や機関と連携して、身近な地域から国際社会に至るまでの様々な課題を、教育の視点から解決していくことで社会に貢献してまいります。その一環として、EVRIは、JICA草の根技術協力事業「カンボジアにおける持続可能な社会構築のための社会科カリキュラム・教科書開発支援」に専門家として協力しています。

この度、上記事業をさらに発展させるために、文部科学省が推進する「2018年度日本型教育の海外展開推進事業パイロット事業」に申請した結果、下記のように「2018年度 EDU-Port応援プロジェクト」として採択されました。本事業は、教科書ベースでありながら、内容の伝達・理解に終始しない、教師の主体的な教材研究と子どもの探究的な学びに開かれた「日本型教育」の視点を活かして、カンボジアの「教科書の編集・活用システム」の構築を支援するものです。その中核は、➀教育課程・教科書開発、➁教科書編集・出版、➂教員養成・研修の3つをつなぐ人材養成プログラムの実施です。本取組を通して、社会科教科書を自立的に構想・出版できる編集者やそれを使いこなす教師の育成を図りました。

 

文部科学省 採択事業詳細
●応募事業名  :2018年度 文部科学省「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」応援プロジェクト
●採択事業名  :カンボジアの教科書出版会社と教員養成大学をつなぐ⽇本型「社会科教科書の編集・活用システム」の構築支援(現地業務調整・運営:教育学研究科・桑山尚司)
●事業の期間  :2018年10月1日~2020年2月15日
●事業目的・内容:本事業の目的は、カンボジアにおいて子どもの探求的な学びと教師の主体的な教材研究を実現するために、日本型「社会科教科書の編集・活用システム」を担う人材を育成することである。事業内容は、以下の二つからなる。

(1)日本の民間教科書出版会社等と広島大学の協働により、カンボジア唯一の教科書出版会社(PDH:Publication and Distribution House、以下PDH)の社会科教科書編集者に対して研修を行い、子どもの探求的な学びや教師の主体的な教材研究に開かれた社会科教科書の開発体制を構築する。(2)広島県立教育センターの指導主事と広島大学の協働により、プノンペン教員養成大学(PTEC:Phnom Penh Teacher Education College)及び同附属小・中学校の教員に対して授業研究の研修を行い、新社会科教科書を活用した授業の開発・改善体制を構築する。

 

本事業の体制は上図のようになっています。国立大学法人広島大学(代表者:学長・越智光夫)が代表組織となり、教育ヴィジョン研究センター(代表者:拠点リーダー/教授・草原和博)が全体の計画・実施・評価の実務を統括することになりました。EVRIは、大学院教育学研究科の人材とその専門的知見を基盤として、(1)教科書の編集・出版、(2)授業の開発・教師教育への展開を推進しました。

(1)については日本の民間教科書出版会社等、(2)については広島県立教育センターとの協働により実施。カンボジア側は、日本側との基本合意をもとに教育省関連部局・委員会と連携し、(1)についてはPDH、(2)についてはPTEC及び同附属学校が実施しました。いずれの体制においても、全体方針や理論的枠組みを担う組織と実務を担う組織が、相互補完的に事業を推進し、(2)の成果と課題は、(1)にフィードバックすることで円滑かつ効果的な運営を行いました。

関連する先行事業として、(1)はJICA草の根技術協力事業「カンボジアにおける持続可能な社会構築のためのカリキュラム・教科書開発支援」(広島県2017~2020年)、(2)はJICA技術協力事業「カンボジア国教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト(E-TECプロジェクト)」(社会科は対象外)があり、必要に応じて情報を共有しました。

(1)の活動の成果については教科書編集・出版に関するマニュアルとして、(2)の活動の成果は授業研究をとおして開発した社会科モデル授業としてアウトプットします。

 

「(1)教科書の編集・出版」と「(2)授業の開発・教師教育への展開」の2つの活動が進行しました

 

Activities & Outputs活動と成果

本事業に関連して、EVRIがこれまで行ってきた活動と成果は、以下から確認していただくことができます。活動報告書(レター)のPDFデータはこちらから参照できます。


■活動①:2018年9月 PDHへ訪問、ニーズ調査をしました

EDU-Port業務委託前であった2018年9月、広島大学教職員が先行事業であるJICA草の根技術協力事業(広島県2017~2019年度)でカンボジアに渡航した際、カンボジア唯一の教科書出版会社(PDH:Publication and Distribution House)に対する調査を行い、ニーズを把握しました。詳細は、こちら

HUGLIレターno.31 カンボジア9月渡航2のサムネイル

【HUGLI Letter No.31】
(クリックするとPDFが開きます)


■活動②:2019年2月 専門家を派遣、現地研修を実施しました

本事業の日本型教育とは、「教科書ベースでありながら、内容の伝達・理解に終始しない、教師の主体的な教材研究と子どもの探究的な学びに開かれた教育」です。カンボジア等の国々では教科書ベースの授業が定着しており、現地の実態に寄り添いつつ教育の質を高める方策として、日本型教育は親和性が高いと考えています。2019年2月11-23日に、広島県立教育センターの迫有香指導主事がカンボジアへ渡航しました。今回の目的は、カンボジアの新シラバスの理念として示された子どもの探求的な学びを実現するために、教師が主体的にどのような教材研究を行えばいいのか、将来改訂される社会科教科書はどのようなものが望ましいのか、について授業研究を通して検討することです。
PTEC附属中学校では、迫指導主事自らが2年生家庭・経済「就業と失業」の単元で授業開発し、カンボジアの中学生に直接指導しました。2時間分の単元を作成したところ、試行授業は好評で、当初1時間の予定でしたが、単元2時間分全て実施してほしいとリクエストが出たほどでした。23日の公開授業でも、協議に参加した教育省副大臣から大変好評でした。詳細は、こちら

 


■活動③:2019年3月 2018年度EDU-Portシンポジウムで成果報告しました

2019年3月7日(木)に文部科学省にて開催された2018年度EDU-Portシンポジウムにて、ポスター発表の形式で事業の成果を報告しました。
当日の発表ポスターは、下記をご参照ください(PDF版はこちらからご覧いただけます)。


■活動④:2019年7月 カンボジアの教科書出版会社PDH副所長が来日、本邦研修を実施しました

2019年7月4~16日に、カンボジアPDHの副所長シム・チャンティ氏を招聘しました。チャンティ氏は、JICA草の根技術協力事業「カンボジアにおける持続可能な社会構築のための社会科カリキュラム・教科書開発支援」で来日したカンボジア教育省の6名とともに来日し、東京と広島でカリキュラムや教科書開発に関わる2週間の研修にオブザーバー参加しました。7月4日~6日の東京研修では、国家カリキュラムの開発プロセスや、教科書検定制度・教科書会社の役割について、これらの業務に携わった経験を持つ方々から学びました。詳細は、こちら

HUGLI Letter No.48のサムネイル

HUGLI Letter No.48
(クリックするとPDFが開きます)

とくに7月5日の東京書籍と教科書研究センターの訪問は、「国家カリキュラムの改訂に対応した教科書や教師用指導書の編集プロセス」「教科書の編集・出版作業で実際に使用している機材」「世界各国の多様なデザイン・コンセプトの教科書」「教科書検定の制度や手続き」について知ることができ、特に充実した内容になったようです。この他にも、7月8日~16日の広島研修では、専門家から社会科教科書の編成原理の情報提供を受けたり、広島大学附属小学校を訪問して社会科授業で教科書が使用される様子を観察したりするなどして、教科書開発と活用に関わる理論や実践を学びました。研修員は、研修を受けている教育省の6名のスタッフとともに、子どもの探求的な学びや教師の主体的な教材研究に開かれた社会科教科書を開発するにはどうすればいいかを検討していました。また、そのノウハウを次世代に継承していくにはどうすればいいかについて、所属や立場をこえてアイデアを出し合い、議論していました。
JICA草の根技術協力事業のマニュアル作成と共同し、EDU-Portニッポン事業ではその章の一部を担当し、PDHが編集出版プロセスについて作成しました。

 

研修を終えた研修員からの感想です。項目として、「1. 2週間の研修で学んだこと」「2. 帰国して生かしたいこと」の2つを話して頂きました。

こんにちは。私は、教育・青年・スポーツ省出版局副局長のシム・チャンテイと申します。この研修に関する感想ですが、とにかくカリキュラム・教科書の開発について学びました。私は、本国に帰って、次世代の人々に「カリキュラムとは何ですか?教科書とは何ですか?」と尋ねつつ、勉強を続けていきます。そして、それらを取りまとめてカリキュラム・教科書開発のマニュアルを作成し、残していきたいと思います。このマニュアルがあれば、将来のカリキュラム・教科書開発においてより良いものが作られると思います。最後に、私が今回の研修に参加させていただいたことを、EVRIに感謝申し上げます。ありがとうございました。

 


■活動⑤:2019年12月 専門家を派遣、現地研修を実施しました

12月14~19日、迫有香指導主事(広島県立教育センター)がカンボジアへ渡航し、授業研究のコンサルティングおよび関係者への研修を実施しました。詳細は、こちら

HUGLI Letter No.56 EDU-Port2019年12月渡航のサムネイル
HUGLI Letter No.56
(クリックするとPDFが開きます)

渡航の前半では、研究授業実施校を繰り返し訪問し、授業・指導案の検討をするカンボジア人指導助言者へのコンサルティングを行いました。今後の自立発展性を確保するため、授業研究の企画・運営はカンボジア側が主導し、迫指導主事はサポート役に徹しました。12月19日(木)には、教育省関係者や学校教員を招いた研究授業が実施され、中学校2年生歴史の授業(フランス保護国と近代化)を行いました。その後教育省スタッフのファシリテーションの下で協議会が実施され、迫指導主事は、授業や協議の様子に言及しながら研修の意義づけを行ったり、カンボジア側の活動を振り返って評価したりしていました。一連の授業研究の運営を通して、モデル単元を活用したモデル授業の改善を図るとともに、カンボジア側教育専門家が新カリキュラムの普及担当者として必要な知識や技能を高めることができました。


■活動⑥:2019年12月-3月 マニュアル原案の提出と発信

JICA草の根技術協力事業と共同してマニュアルを開発したPDHは教育省カリキュラム開発局に原案を提出しました。教育省同局は、2019年12月24日(火)に複数の教育省次官(大臣代理)を含む教育省関連部局の管理職等約80名の出席を得て、草の根技術協力事業と合同で事業完了式典を行い、マニュアルとして具体化された成果を広く発信しました。2月上旬に、同マニュアルは、教育省教育総局の公式資料として承認されました。今後、教員養成機関や関係部局に配布され、活用される予定です。詳細は、こちら

式典でPDH副局長と記念撮影

開発されたマニュアルの表紙


■活動⑦:2019年3月 2019年度EDU-Portシンポジウムで成果報告します

2020年3月3日(木)に文部科学省にて開催される2019年度EDU-Portシンポジウムにて、ポスター発表の形式で事業の成果を報告します。
当日の発表ポスターは、後日広報します。当日の発表ポスターは、下記をご参照ください(PDF版はこちらからご覧いただけます)。
*本シンポジウムについては、新型コロナウイルス(Covid-19)に関する社会情勢を鑑み、開催を延期することになりました。

 

 

 

 

 


Conclusionまとめ

プロジェクトの成果

「日本型教育」の視点を活かし、カンボジアの「教科書の編集」と「教師の活用」をつなぐシステム構築を支援する本事業の成果は以下のとおりです。

(1)教科書の編集・出版
①新しい教科書モデル単元を開発、カンボジア現地文脈化
現地教科書会社PDHは、編集・出版実務を改善するためにカリキュラム・教科書開発者と計9つの新教科書モデル単元を共有・改善し、日本型社会科教科書のデザイン原則の現地化を推進しました。
②社会科カリキュラム・教科書開発マニュアル
本事業で開発したマニュアルは、カンボジア教育省教育総局長の署名のもとで教育省の正式資料として承認され、今後の全国レベルや地方レベルのカリキュラム・教科書開発者向け研修や教員養成・研修で活用することになっています。

(2)授業の開発・教師教育への展開
①授業研究の実施、TEC教師教育者や附属学校教員の専門性向上
プノンペン教員養成大学と附属学校は、新カリキュラムの理念や目標を学校現場で実現するために、新教科書モデル単元を活用した授業研究を実施しました。今後に新カリキュラムを本格実施する際、授業研究の運営や指導助言をカンボジア側主体で行うためのモデルになることが期待されます。
②日本型モデル授業の海外展開
広島県教育委員会が推進する「ひろしま型課題発見・解決学習」も研修資料や授業づくりの中で、カンボジアの文脈に即して具体化されました。また日本の指導主事がカンボジアの子どもたちに向けて実際にモデル授業実践を行い、大きな反響を得ました。

今後の可能性

本事業は、カンボジアにおける教科書開発と活用に関わる人材育成をとおして、持続可能な開発目標(SDGs)の4「教育(質の高い教育をみんなに)」の達成に貢献するものです。我が国のソフトパワーの一つとして社会科の教科書づくり・授業づくりを発信することは、カンボジアの児童・生徒に対して直接的な親日層の拡大につながります。また、異なる歴史的、社会・文化的文脈にある他国において教育協力事業を企画・実施することにより、そこに携わる日本人専門家個人のみならず、日本の教育機関の国際通用性が向上することが期待されます。

さらに、日本型教育の海外展開を進めるには、多様な教育主体の連携体制が求められます。本事業においては、EVRが、学内のみならず教育委員会、教育センター、教育政策研究所、各種学校、教科書出版社等が培う人材と知見をコーディネートし、教育プログラム化する役割を果たして参りました。広島大学・EVRIが、経理やロジから教育プログラムの策定、広報までをワンストップで提供し、プラットフォームとしての機能を拡充できたことは大きな成果でした。

今後もEVRIを拠点として、特定の国や教科・領域に限定されることなく、教科横断的に「カリキュラム・教科書・教材」や「授業研究」を学ぶことのできる標準的な教育プログラムを開発し、またそれを相手側のニーズに応じてカスタマイズして提供できるプラットフォームを構築して参ります。

 

 

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