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【2025.11.18】定例オンラインセミナー講演会No.189「語ることの責任、教えることの痛み―南アフリカの経験から考える平和教育の限界と可能性―」を開催しました。

公開日:2025年12月17日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は, 202511月18日(火)に, 定例オンラインセミナー講演会No.189「語ることの責任、教えることの痛み―南アフリカの経験から考える平和教育の限界と可能性―」を開催しました。大学院生や研究者を中心に,50名の皆様にご参加いただきました。 

はじめに, 金鍾成准教授(広島大学)より, 本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは, 南アフリカのアパルトヘイトの歴史と, そのトラウマ的な記憶の問題を手がかりに, 困難な歴史を「誰が」「どの立場から」「どのような責任をもって」語り・教えるのかという問いを共有し, 平和教育の限界と可能性を多角的に検討することが目的であることが確認されました。

 

 

次に, Schalk Van der Merwe氏(Stellenbosch University)より, 話題提供がなされました。Van der Merwe氏は, 「失礼ですが、なぜ白人アフリカーナーの男性が私たちにアフリカ史を教えるのですか」という学生から投げかけられた問いを出発点として, 白人アフリカーンス話者としての自身のポジショナリティと「語ることの責任」をどのように引き受けてきたのかを語りました。
講演の中では, アパルトヘイト体制を四つの時期に区分しつつ, 教育予算の格差やパスブック制度, 1980年代の暴力的弾圧の様子などを, 自らの記憶や具体的な写真とともに紹介しました。また, そうした歴史がポスト・アパルトヘイト社会における極端な経済格差や教育機会の不平等として現在も残り続けていることが示されました。さらに, 真実と和解委員会(TRC)のアムネスティ制度の設計を, ニュルンベルク裁判やルワンダ虐殺後の対応と比較しながら検討し, 「平和を実現するために, 何をあえて裁かないことにしたのか」という倫理的ジレンマについて問題提起がなされました。後半では, #RhodesMustFall や #FeesMustFall に象徴される2015年前後の学生運動を取り上げ, 民主化以後に生まれた「born-free」世代が, 依然として社会的不正義のただ中で生きている現実を紹介しました。そのうえで, 異なる社会階層や背景をもつ学生が同じ教室に集う大学教育の場で, トラウマを伴う歴史をどのように扱い, 学習者一人ひとりの語りが尊重される対話の空間を生み出していくかという教育学的課題が示されました。

 

 

次に, 池尻良平准教授(広島大学)より, 指定討論が行われました。池尻准教授からは, 南アフリカのアパルトヘイトとそのレガシーについて, 教科書だけでは捉えきれない具体的な歴史的文脈や, 真実と和解委員会をめぐる議論を丁寧に共有していただいたことへの謝意が述べられました。また, 歴史的不正義の是正と歴史教育との関係性は, 海外でも「歴史的正義(historical justice)」の観点から活発に論じられているテーマであり, 今回の報告は, そうした国際的な議論と南アフリカの経験とを結びつける重要な示唆を与えるものであることが指摘されました。さらに, 加害の側に位置づけられうる立場から困難な歴史を語り続けることの負担や葛藤に触れつつ, なぜそれでも語り続けようとするのか, その動機や「責任感」がどのような経験を通して形成されてきたのかについて, 教師教育や日本の歴史教育への示唆を求めるかたちで質問が投げかけられました。

 

 

以上の講演を受けて, 質疑応答が行われました。 参加者からは, 日本やアジアの歴史教育において植民地主義や差別の問題をどのように扱うべきか, トラウマを抱える学習者への配慮と「居心地の悪さ」をあえて引き受ける学びとのバランスをどのようにとるか, 学生の生活背景や社会構造上の格差を可視化しながら授業を組み立てる際の具体的な工夫などについて質問が寄せられました。また, 南アフリカの経験を, 日本の平和教育や市民性教育の課題とどのように接続できるかについても意見交換が行われました。

 

 

最後に金准教授より, 本セミナーのまとめがなされました。南アフリカの事例は, 遠い地域の特殊な歴史としてではなく, 日本社会における戦争体験, 植民地支配, 差別や不平等の問題と重ね合わせて考えることができることが改めて確認されました。そのうえで, 困難な歴史を語り・教える際に伴う「痛み」や揺らぎを避けるのではなく, 学習者一人ひとりの経験や物語に耳を傾けながら, 対話を通じて互いの立場を考え続けることの重要性が強調されました。また, 本セミナーで得られた視点や問いを, 今後のEVRIにおける平和教育・歴史教育・教師教育の研究と実践に生かしていきたいとの抱負が述べられ, 盛会のうちにセミナーは締めくくられました。

 

文責金鍾成 


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第186回定例セミナーのポスターはコチラです。

教育学研究科HPにも掲載されています


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