【2024.12.08】定例セミナー講演会No.169「〈理数教育講演会〉拡張的理論のためのインクルーシブ・デザイン:多様な生徒のための教材開発にあたって研究者として学ぶこと Inclusive Design for Expansive Theory: What We Learn as Researchers When We Develop Educational Resources for Diverse Students」を開催しました。
I.開催報告
広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2024年12月8日(日)に,定例セミナー講演会No.169「〈理数教育講演会〉拡張的理論のためのインクルーシブ・デザイン:多様な生徒のための教材開発にあたって研究者として学ぶことInclusive Design for Expansive Theory: What We Learn as Researchers When We Develop Educational Resources for Diverse Students」を開催しました。大学院生や研究者を中心に44名の皆様にご参加いただきました。
はじめに,司会の影山和也准教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは,インクルーシブな理数教育の実現にあたって,教育研究者・実践者として私たちは何を考えておかねばならないか,その思想的・哲学的基盤を確認するとともに,世界的にも先駆的な取り組みを事例的に知りたいという趣旨が確認されました。
次に, Dor Abrahamson氏(UC Berkley)より, 拡張的理論のためのインクルーシブ・デザインと題した講演がなされました。Dor氏はカリフォルニア大学バークレー校に勤めながら,身体化デザイン研究所(Embodied Design Research Laboratory)のチーフ・ディレクターの役回りを担っています。講演では,この研究所を創設するに至った発端と経緯,研究アプローチの説明,現在進行中の12のプロジェクトが紹介されました。また,こうした取り組みからDor氏とそのチームメンバー(世界各国からの大学院生が主要なメンバーです)が学んだ事柄が随所に示されました。
仕事の多くは,アメリカのDaniel Kish氏やJoshua Miele氏との直接のやりとりに触発されたものであることが窺われました。そこには,視覚を含むあらゆる感覚を最大限に活用して周りの環境に適応している,驚くべき姿があります。「知覚的に盲目の人には、経験の全次元が利用可能なのだ。」(Daniel Kish)。反面,その環境・社会は,定型的で多数派の側にいる者たちによってつくられてきているという事実を表しており,したがって感覚運動,認知,文化,民族,その他の違いを持つ多様な生徒のための教育資源を独自にデザインしなければならないという倫理的動機を持つに至りました。研究・教育の問題は,徹底したデザイン志向サイクルから生み出されるということです。
事例は次の二つの観点でまとめられました:
- 感覚/運動/認知的多様性:数学的イメージトレーナー(視覚を含む感覚モダリティを介した比と割合の認識),四つ組み(幾何学習のための柔軟な学習ツール),バランスボード(身体運動の調整を通じた数学理解)など
- 文化的/民族的/言語的多様性:注意アンカー(民族的ダンスと幾何的問題解決をつなぐ想像物),デジタル・グリッド(リアルタイムでの身体化された幾何学習),ポーランドとウクライナのような,国や言語の異なる者どうしの協調を前提とするゲームデザインなど
以上の報告を受けて, 松島充氏(香川大学)をファシリテーターとした質疑応答が行われました。個々の障害の状態に応じるところから研究を始めるが,やがてすべての人にとって学びやすい環境デザインを考えていること(講演にもあった「カーブカット効果」に通じるものです),データ分析については,数学的概念の生成に関わるミクロレベルの文化的実践,他者との協働性による問題解決中の気づき(awareness)や行為(enaction)を把握しようとする質的分析と,学習者の行為パターンを取り出すという量的分析とを併用していることが述べられました。
最後に, 松島氏より,閉会の挨拶がなされました。
改めて,目の前の実践から研究上の問いを引き出して,評価・改善・実装というデザインベースのサイクルであることが強調され,今後どのような教育研究をしていけばよいかのヒントが得られたことが述べられました。
文責(影山和也)
Ⅱ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
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教育学研究科HPにも掲載されています(準備中)
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