広域交流型オンライン学習の取組を報告します【小3~6総合,特活・やさしい日本語】(2024.06.19)
- 授業実施者:南浦涼介,草原和博
- 授業補助者:各小学校での授業担当教員
- 市役所からの中継: 神田颯,酒井涼太
- 学校技術支援担当: 三井成宗,新谷叶汰,清政亮,細野花莉,川本吉太郎,野津志優実
- 事務局機器担当①(広島大学): 澤村直樹,久我祥平,草原聡美
- 事務局機器担当②(造賀小学校):𠮷田純太郎,大岡慎治,細野花莉,手嶋高嶺,横田亜美,宇ノ木啓太
2024年6月19日,東広島市内小学校2校3学級(造賀小6年生,三津小5年生,三津小6年生)の計41名と西条のフレンドスペースの生徒(3名)が参加し,「やさしい日本語」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「ことばと学級づくり・地域づくり~やさしい日本語の「やさしさ」とは?~」と題して,日常生活で使う「やさしい日本語」の特性に気がついたり,文化的・言語的多様性の視点から東広島市という地域社会の理解を深めたりすることを目指しました。
本時は,「やさしい話し方」が使われている場所として保育園に注目し,保育園の先生が話している2本の動画で視聴するところから始まりました。1本目の動画は先生が園児に向かって話しかける場面で,もう1本の動画は保護者と話している場面です。児童には2本の動画を比較させたところ,前者の方が話すスピードがゆっくりで,身振り手振りなどがあるとの気づきが指摘されました。
次に「やさしい話し方」が使われている場所として,市役所の窓口に注目しました。導入と同じように2本の動画を視聴しました。1本目は,相談に窓口に訪れた大人と早口で話している様子が,2本目は,同じように相談に窓口に来た大人(しかし顔は写されていない)と,ゆっくり丁寧に話している様子が映し出されました。その語,2本目は,市役所に転入学の相談にきた外国人市民と話している様子であることが明かされました。
ここで,授業者の南浦先生が「(外国人市民にとって)日本語で話すのは難しくない?英語の方がいいんじゃないの?」と問いかけます。合わせて「外国の人に話しかけるのであれば,英語がいい?それとも日本語がいい?」についてオンライン・アンケートを実施したところ,「英語で話したかける」が多数の支持を得ました。そこで,もう1人の授業者の草原先生が次のような挑戦状を発表しました。「市役所の人が,外国の人と『日本語』で話しているのはどうしてだろう?そこにはどんな工夫があるのだろう?」。この挑戦状をもって,本日のめあてが共有されました。
展開部は,この挑戦状に答えるように展開していきます。授業の前半部では,東広島市に住んでいる外国人市民の出身国の国別割合,また外国人市民が話すことのできる言語などのグラフを見ながら分析を進めていきました。子どもからは「グラフをみると(思いのほか)日本語を話せる人が多いので,日本語でもいいのではないか」などの意見がでました。
そこで市役所と中継をつないで,どうして外国人市民に日本語で話しているのか,そのわけを担当者にお尋ねしました。担当者からは,「役所にも英語を話せる人はそこまで多くない」「外国人の方にも日本語を話せる人も多いので日本語を使う」「ちょっとだけ日本語を話せる人もいるので,話し方に工夫をしている」などの回答を得ました。このインタビューの結果,「日本で外国人市民と話すときには,日本語も共通語になる」こと,ただし「外国人市民に日本語で話すときには,工夫が必要」なことが確認されました。
続いて,市役所の担当者の話し方にはどのような工夫があるのかを考えました。児童からは,「ジェスチャーをつけている」「簡単な日本語を使っていた」「ゆっくり丁寧に話していた」「笑顔で話していた」「3回に一緒に行きましょうとやさしかった」などの意見が出ました。ここで再度市役所と中継をつないで,担当者の認識を尋ねました。すると,「丁寧に,分かりやすく,区切る」「ジェスチャーとアイコンタクト」「例える(具体的な事例で話す)」「安心してもらえるように話す」などの工夫が示され,それを「やさしい日本語」と呼ぶこと教えていただきました。
展開部の後半では,カキ養殖を営む社長さんとそこで働く外国人労働者とのやり取りを通して,「やさしい日本語」について考えを深めました。動画を見ると,船上で指揮をとる社長さんは,「〇〇ちゃん,もうええよ,あんたもういい」「これ昼まで」と短く,一見ぶっきらぼうにも聞こえる話し方で指示をしています。動画を見た直後のオンライン・アンケートでは,「社長さんの話し方は,やさしいか」の問いに,「やさしくない」と回答する児童が多数でした。
その後,社長さんにそのような話し方をしている意図を尋ねた動画を視聴しました。動画では,「とにかく短く話している」「です・ますをつけると逆に難しくなる」「喜怒哀楽を入れたり,相手に気づかいをしたりしている」「方言のほうが分かりやすい」「普段からコミュニケーションをとろうとしている」等の思いが語られました。その後に実施したアンケートでは,「社長さんはやさしい」の回答が多数派になりました。
この結果を受けて,南浦先生は「意見が変わった人の話を聞いてみたい」と児童に声をかけました。児童からは「あだ名をつけているからやさしい」「敬語を使わない社長さんはやさしくないと思ったけど,社長さんなりに自分で考えてやさしくなるようにしていた」といった発言がありました。「やさしさ」にも,いろいろな表現のし方や関係性があるのかもしれないと考えるようになったようです。
最後に,本時のまとめとして,改めて草原先生が登場し,課題が示されました。「やさしい日本語」の「やさしい」を漢字で表してみよう。児童からは,「優しい」や「易しい」だけでなく,「温」「喜」「嬉」「楽」などの当て字が発表されました。「やさしい日本語」の子どもなりの意味理解が,漢字として表現されて授業を終えることができました。
このように本授業は,何気なく使っている日本語も,相手に応じて多様な工夫や配慮をして使われていることに気づくことのできた2時間となりました。保育園の先生に始まり,市役所の担当者,外国人研修生を雇う社長さん,それぞれの語りを聞き比べることで,児童が日本語の「やさしさ」の多様性と重なりに気づいていく姿が印象的でした。とりわけ文化的・言語的な多様性がある東広島市で生活する市民として,「やさしい日本語」のあり方を探究する格好の機会となったと考えられます。
今回は,本プロジェクト初の総合的な学習の時間としての遠隔授業の試みとなりました。引き続きNICEプロジェクトは,学校だけでなく,社会的・文化的な背景や世代も越えて議論に参画する学びのカタチを提案してまいります。
本授業は,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築」採択事業「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」とも連動しています。同事業の詳細については,バナーをクリックするか,こちらからご覧ください。
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