広域交流型オンライン学習の取組を報告します【小5社会】(2024.05.15)
- 授業実施者:草原和博
- 授業補助者:各小学校での授業担当教員
- 小石川観光リンゴ園からの中継: 三井成宗,青山伸洋
- 勝梅園からの中継: 見田幸太郎,清政亮
- 学校技術支援担当(東広島市内小学校): 林知里,鶴木志央梨,大岡慎治,神田颯,山本健人,澤村直樹
- 学校技術支援担当(徳之島町立花徳小学校): 川本吉太郎
- 学校技術支援担当(釧路町立別保小学校): 𠮷田純太郎
- 事務局機器担当①(広島大学): 小笠原愛美,草原聡美
- 事務局機器担当②(志和小学校): 松原信喜,天野珠希,宇ノ木啓太
2024年5月15日,東広島市内小学校7校14学級(寺西小学校,郷田小学校,志和小学校,高美が丘小学校,福富小学校,豊栄小学校,風早小学校)の5年生(359名)と鹿児島県徳之島町立花徳小学校1学級(11名),北海道釧路町立別保小学校1学級の5年生(35名)が参加し,遠隔授業を実施しました。昨年度に引き続き,東広島市と広島県外の小学校を接続しました。それぞれの参加校の地域でとれる作物が異なることを活かし,「とれる作物は,気温(や南北)で決まるのか?」をテーマに,気候や地形の違い,それに合わせた農家の工夫などを探究しました。
1時間目は,「3つの地域」に関する違いを捉えることからスタートしました。まず,3つの地域の児童が自分たちの地域を紹介しました。日本の南西に位置する鹿児島県徳之島町からは,3月にはジャガイモが収穫されたこと,4月には海開きがされたことなどが紹介されました。一方で冷涼な北海道釧路町からは,5月に入ってから桜が満開になったことが紹介され,さらに東広島市からは,米作りや酒造りが盛んで,ちょうど田植えが行われたことが紹介されました。3つの地域が同じ日本にありながら,季節感が大きく異なることが認識できました。この違いが次の展開の伏線になっています。
次に,それぞれの地域で,米・じゃがいも・リンゴ・バナナがとれるかを,児童一人一人の直感的な判断に委ね,Googleフォームで回答してもらいました。その後,各学級で生育温度や生産地上位5県が示された資料を基に,学級全体の意見や理由をまとめ,スプレッドシートで全体共有を図りました。この時点では,どの学級も主に気温に着目し,「東広島ではバナナはとれない。」「徳之島では米がとれる。」「釧路ではじゃがいもがとれる。」などの意見が出されました。そこで,本日の目標「とれる作物は,気温(や南北)で決まるのか?」が提示され,授業の導入が行われました。(この時点では,参加した児童の約90%が「とれる作物は,気温できまる。」と考えていました。)
展開では,まず,3つの地域でとれる作物について,学校からの発表や中継を通して確認しました。「徳之島ではジャガイモとバナナがとれる。」「東広島では米・ジャガイモ・リンゴ・バナナの4つすべての作物がとれる。」「釧路では,どの作物もとれない。」という事実を知った児童からは,「なぜ徳之島では米がとれないのか」「なぜ東広島市ではリンゴやバナナがとれるのか」「なぜ北海道ではジャガイモがとれないのか」などの疑問が示されました。前述した予想とのずれが,これらの疑問解決への意欲につながったようでした。
2時間目は,1時間目に出された児童の疑問を解決していく活動が行われました。
まず東広島でリンゴ栽培ができる理由については,豊栄小学校の発表や小石川観光リンゴ園からの中継で解決していきました。豊栄町は東広島市の北に位置しており,標高が約400mと高いために涼しいこと,特に冬になると寒くなり,リンゴの生育に適した地域であることが説明されました。リンゴを手がかりに,緯度だけでなく標高も気温に影響していることが見えてきました。東広島でバナナ栽培ができる理由については,バナナ農園(勝梅園)からの中継で解決していきました。ビニルハウスや加温機を使って年中暖かい気候を人工的に作っていることが説明されました(中継では,ハウス内の温度が43度であることが紹介され,子供たちに大きな驚きを与えました。)同じ東広島市内でも,自然条件を生かした作物栽培と,人間が工夫して行う作物栽培,それぞれの側面があることに子どもたちは驚いていました。
続いて,徳之島で米づくりが行われていない理由やジャガイモが栽培されている理由について,花徳小学校の児童が発表しました。米づくりは,気候は適しているけれど,国の政策によってサトウキビ等の作物栽培への転換が図られたこと,米づくりよりもパッションフルーツやマンゴーなどのフルーツを作った方が儲かること,じゃがいもは赤土を使って温暖な冬場に栽培されていることなどが紹介されました。
最後に,釧路では今回取り上げた4つの作物よりも酪農が盛んな理由について,別保小学校の児童が発表しました。釧路では(本当は米を作りたいけど)気温が低く,火山灰や泥の多い土壌のために牧草ぐらいしか育たないこと,だから牧草を食べる牛を育てるようになったこと,とくに学校給食で牛乳が広がり,牛乳を飲む人が増えて,国が牛の飼育を後押しするようになった背景が紹介されました。徳之島,釧路の両地域とも,国の方針や人々の気持ちなど,気候条件に加えた「人間の力」が農業に影響を与えていることを学びました。
これらの展開を受け,各学級で3地域の農業の違いについて,教室担任が内容を確かめた後,再度,本時の目標である「とれる作物は,気温で決まるのか?」についてアンケート(Googleフォーム)を行いました。結果は,「はい(気温で決まる)」と答えた児童は授業の導入時の約90%から約65%に減少し,「いいえ(気温では決まらない)」と答えた児童が約30%に増加しました。回答の理由を児童に尋ねたところ,「自然の力」だけでなく,「人間の力」も大切であることが発表され,本時を「とれる作物を決めるのは,自然の力だけでなく,人間の力もありそうだ」とまとめにつなげることができました。
2時間を通して,特徴の異なる3地域を取り上げ,子どもたちの思考のずれ(疑問:「なぜ徳之島では米がとれないのか」「なぜ東広島市ではリンゴやバナナがとれるのか」「なぜ北海道ではジャガイモがとれないのか」)を取り上げることで,探究の意欲を継続することができました。また,その疑問の解決を,各教室や地域からのオンライン中継により,この2時間の中で実施できたことも意義があると思います。さらに,想定されるであろう疑問に対して,当該地域である花徳小学校(徳之島),別保小学校(釧路),豊栄小学校(東広島)では事前学習が行われ,本時の授業だけにとどまらない継続した学習となっていたことにも,大きな意義を感じました。
教員による事後協議会では,参加した教員から,教科書の世界だけでなく,さまざまな地域とつながることで得られるリアルな地域認識が子供たちにとって貴重な経験になることや,参加した教員自らも,教材の作り方や授業展開の方法について学びになることが発言されました。
今後も,オンラインを活用し,さまざまな学校,地域がつながることを生かした授業づくりに努めてまいります。
本授業は,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築」採択事業「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」とも連動しています。同事業の詳細については,バナーをクリックするか,こちらからご覧ください。
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