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【2024.02.24】定例オンラインセミナー講演会No.157「複数教科の教員免許を取得することの意味を考える」を開催しました。

公開日:2024年03月11日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2024年2月24日(土)に,定例オンラインセミナー講演会No.157「複数教科の教員免許を取得することの意味を考える」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に52名の皆様にご参加いただきました。

はじめに,吉田純太郎さん(広島大学大学院・院生/日本学術振興会特別研究員)が,本セミナーの趣旨を説明しました。文部科学省が2018年10月に発信した「免許外教科担任の許可等に関する指針」をもとに,日本の教員免許状制度の現状と課題を確認しました。そのうえで,いわゆる相当免許状主義が揺らぎつつある今日,同指針にて提示された複数教科の教員免許の取得について,教科教育学の立場から検討を行うことの必要性を提起しました。  

続いて,嶋田亘佑さん(広島大学大学院・院生)・武島千明さん(広島大学大学院・院生)・吉田純太郎さんが,複数教科の教員免許取得に関する研究の成果を報告しました。本研究は,複数教科の教員免許を取得した4名の若手教員を対象にインタビュー調査を実施した質的研究です。特に,かれらが教科に関してどのような信念を持ち合わせているのかを明らかにすることを目的としています。 

具体的には,①X大学の教育学部中等社会科コースで社会科×外国語科の免許を取得したA氏,②Y大学の理学部理学コースで理科×数学科の免許を取得したB氏,③X大学の教育学部中等社会科コースで社会科×音楽科の免許を取得したC氏(学部2年次に文学部から教育学部へ転籍),④Z大学の教育学部中等社会科コースで音楽科×国語科の免許を取得したD氏の4名を対象に,教科教育に関する自身の考えや大学で学んだ授業について聞き取りを行いました。得られた語りをKJ法にて整理することで,かれらの信念に迫っています。 

調査・分析の結果,4名の信念は,以下のように看取されました。
A氏〉
祖父や両親が複数教科の教員免許を持っていたこと,中高時代の留学で英語に苦労しなかったこと,英語は所詮ツールに過ぎないと考えていたことを踏まえて,社会科×外国語科の免許を取得した。「知識」が豊富な教師をすごいと感じるため,大学では,担当教員が膨大な文章を延々と解説する法律学の授業が印象に残っている。教科教育ではやはり「知識」を大切にしたい。さらに「知識」は各教科の専門家たる教師が分業的に教えると効率的であると考えている。 

B氏〉
理科教師になるか,数学科教師になるか迷って,両方の免許が取れるY大学理学部に進学した。大学での授業を受けるなかで,理科=実験が楽しい,数学=計算ばかりで教えるのに飽きるかもしれないと感じ,理科教師になることを決意した。教科教育(特に理科教育)では日常生活のなかで通用する「考え方」を育みたい。社会ではあまり役に立たない元素記号や化学反応式よりも,仮説を立てる→検証する→考察するといった思考法ができるようになることが大事であると考えている。 

C氏〉
生物が専門にも関わらず高い指導力を発揮していた吹奏楽部の顧問の姿を見て,社会科×音楽科の免許をとることにした。音楽は適度に嗜みたいが,指導力向上のためには音楽科コースの授業を履修したい。そのように考えて,文学部から教育学部へと転籍した。教科教育では「教養」を養わせたい。さらに「教養」は各教科の専門家たる教師が分業的に教え,それら学びを子どもが内的に融合させることで深まっていると考えている。 

D氏〉
コンクール至上主義に意を唱える吹奏楽部顧問の影響を受けて音楽科教師を志した。しかし,進学したZ大学では,カリキュラム上,複数の教員免許を取らねばならなかった。好きだった国語科で免許取得することにしたが,自分のテキスト解釈の妥当性に不安を感じていた。そのような中で,自分の読み書きを褒めてくれた文学・書道の授業が印象に残っている。同様に,教科教育では学習者の「感性」を尊重しつつ,それを発揮できるような場を提供したい。しかし,それは音楽科でも国語科でも為しうる営みである。各教科の目標・内容・方法の重なりを意識しつつも,一方では各教科の本質を踏まえた指導を展開したいと考えている。

このように,4名の若手教師らの信念は多様でした。ここからは,①複数教科の免許を取得したからといって,文部科学省の「免許外教科担任の許可等に関する指針」に示されているような「教科横断的な視点」を必ずしも身につけるとは限らないということ,②複数教科の免許取得によって,主免許の教科に関する信念形成がおろそかになるとは限らないことが示唆されました。つまり,複数教科の教員免許取得を,単なる教員不足の解消のための手段ではなく,教師教育の新しい方略として再定位する可能性が浮かび上がりました。  

 

以上の研究報告を受けて,詫間千晴先生(岡山大学)と大坂遊先生(周南公立大学)による指定討論が行われました。
詫間先生からは,教科の比較の観点から,①複数教科の免許を取得する場合,一方の教科を比較対象としても良いのか,②自己との対話だけではなく,他者と対話する機会を設ける必要があるのではないかとのコメントを頂きました。大坂先生からは,教員養成のカリキュラムの観点から,①複数教科の免許取得を目指すことで,教師志望学生の専門性は本当に高まっていると言えるのか,②4名の若手教師にとって,複数教科の免許取得を目指すことは,信念の見直し・再構築を迫る重要な契機となっているのかとのコメントを頂きました。 


そのほかフロアからも,単一教科の取得者と複数教科の取得者で信念に違いはあるのか,信念形成の成否は学習者ではなく制度(大学の卒業要件や教職課程カリキュラム)にかかっているのではないか等のご指摘を頂戴しました。
 これまでなかなか十分な検討が行われていなかった複数教科の教員免許取得について,白熱した議論を行うことができたことは,本セミナーの大きな成果です。引き続き,教科間の垣根を越えて,教育現場を取り巻く諸課題に教科教育学全体で対峙する必要性を確認することができました。

今後ともEVRIでは,様々な領域・教科を専門とする教員・大学院生が協働的に研究を遂行し,今日の教育的・社会的な課題に応える教育のヴィジョンを構想・提案・発信してまいります。

                         文責(嶋田亘佑・武島千明・吉田純太郎


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第157回定例セミナーのポスターはコチラです。

教育学研究科HPにも掲載されています


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