【2023.3.11】定例オンラインセミナー講演会No.133【インクルーシブ理数教育の勘どころ】「数学の誤りと支援と指導と他」を開催しました。
I.開催報告
広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2023年3月11日(土)に,定例オンラインセミナー講演会No.133【インクルーシブ理数教育の勘どころ】「数学の誤りと支援と指導と他」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に25名の皆様にご参加いただきました。
「インクルーシブ理数教育の勘どころ」シリーズでは,理数領域の学びにくさに焦点を当てて「すべての人のための理数教育」を考えるための要点(勘どころ)を取り出していくことをねらいとします。
シリーズ第1回となる本セミナーでは,「誤り分析」に注目して算数・数学の学びにくさがどこにあるのかを理解し、「支援と指導のための要点(勘どころ)」に関して報告が行われました。
はじめに,司会の影山和也准教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。数学の学びにくさについて、立場が違えば捉え方や対処の仕方も違うが、その違いの背景を捉えていこうとする試みであることがセミナーの参加者全体で確認されました。
次に,影山准教授から「インクル理数教育の動向」と題して2つの話題提供が行われました。一つは誤りについての数学教育研究の経緯、もう一つは数学に関わる多角的な概念分析についてです。
子供はしばしば、教える側の意図しない仕方で振る舞いますが、その結果誤答になったとき、数学教育研究では「子供はバグ(bug)を持っている」という言い方をすることがあります。これは人をコンピュータとみなしたときの言い方になっています。これに対して、認知発達論の側からすれば「子供は成長の途中過程にある」という言い方にもなり得ます。このように、どのパラダイム(=支配的な見方)かによって誤りの捉え方が違ってきます。
関連して、子供の状態を考えに入れた概念分析もなされます。教室や教科書では、厳格で標準的な数学のみが扱われがちですが、実際はその数学に対して子供は子供なりのイメージを抱いています。このように、数学的概念の分析を多角的にしないでは、多様である子供を「誤りか否か」という杓子定規に当てはめてしまう危険があるでしょう。
続いて,山田充氏(特別支援教育士スーパーバイザー)から「誤り分析」を中心として、特別支援領域からの話題提供が行われました。主なトピックは、算数障害と誤り分析、算数に関わる認知そして算数のできない子供の実態でした。知的遅れが認められないにも関わらず算数ができない子供がいるという事実が、このような一連の取り組みの発端です。たとえば、数の概念では、数詞・数字・対応は重要な要素ですが、それぞれの理解ができるためには、聴覚・視覚・目と手の協応が必要です。学ぶ側の認知特性(処理の仕方、ワーキングメモリなど)は、数学の学びにおいて暗黙にされてきたところがあります。つまり、人によって認知の仕方、思考のパターン、思考の道筋が違うため、学びの仕方や成果も違うということです。こうした認知的背景を踏まえて、計算を中心としていくつかの子供の事例をもとにして、誤り分析の説明がされました。
以上の話題提供を踏まえて,オンラインインタビューが行われました。ここでは2人の話題提供者のやりとりによって、算数・数学の誤り分析の方法と意義を理解しつつ、今回のセミナーのねらいでもある支援と指導の要点(勘どころ)を考えることにつなげることが意図されていました。主な質問事項は、数の概念と認知の関係、誤り分析から支援につなげるときの基本的考え方、支援と指導の関係でした。ケースバイケースによって支援の仕方は変わりますが、子供の弱いところを支援してできるようにしていくアプローチ(ボトムアップ的)と、子供の弱いところとは別の観点から支援していくアプローチ(トップダウン的)は代表的ですが、これらは誤り分析によって得られるデータをもとにした科学的取り組みであるという共通点があります。そして、個々の子供への特別な支援について、クラスにいる数学を学びにくい子供に対して、教え方の工夫をして授業で実践すれば、他の子供にとっても学びやすいだろうというユニバーサル・デザインの思想が指導の一般化にあたるとして、支援と指導の関係の理解を深めることができました。
文責(影山和也)
Ⅱ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
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*第133回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。
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