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【2023.3.11】定例オンラインセミナー講演会No. 132「教師の専門職スタンダードはどうあるべきかー米国ワシントン州の事例検討を通してー」を開催しました。

公開日:2023年03月13日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2023年3月11日(土)に,定例オンラインセミナー講演会No.132「教師の専門職スタンダードはどうあるべきかー米国ワシントン州の事例検討を通してー」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に78名の皆様にご参加いただきました。

はじめに,司会の川口広美准教授(広島大学)より,セミナー参加者に対して「教師のスタンダードについての印象」が問われました。これまで研究では,他律的な活用を前提としてきた日本の状況に対する問題意識があり,今後の方向性として,教師が教師スタンダードを自律的に活用することの可能性と重要性が確認されました。その際に,自律的・他律的に用いられているという点でアメリカに注目することなどがセミナーの参加者全体で確認されました。

 

続いて,教師の専門職スタンダードに関する三つの発表が行われました。
まず,藤村祐子氏(滋賀大学)と佐藤仁氏(福岡大学)から「米国の教師の専門職基準の動向&ワシントン州の位置づけ」と題して発表が行われました。
前提として,専門職基準は「専門性のアピール」や「職能成長の指針」としての意味がある一方で,専門職基準を作っただけで機能するわけではなく,どう策定・活用するかが重要であるという説明がありました。米国では,教育の専門家で構成される独立した組織で、自律的に専門職基準を作成することにより、教師の専門職的自律性の担保が期待されていること,とりわけ今回のワシントン州は,専門職基準策定委員会が独立した組織となっており,自律的に専門職基準を作っている点で重要であることが明確になりました。
初めの発表に続いて,次に藤村氏と佐藤氏から「文化的能力スタンダードの策定・活用過程」と題して発表が行われました。
ワシントン州は独自の専門職基準を策定していますが,中でも生徒の文化的多様性に対応することを重視した文化的能力スタンダードは他の州ではほとんど見られない独自のものです。その策定・活用場面を検討していく過程では,中立性と専門性を担保するための策定プロセスの工夫があることが述べられました。また,策定されたスタンダードを実装化するために,教師教育制度への組み込みと教員養成の多様性に配慮するための工夫があることが明らかになりました。

 

最後に,川口准教授,朝倉雅史氏(筑波大学),岩田昌太郎准教授(広島大学),堀田諭氏(埼玉学園大学)から「教科スタンダードの策定・活用過程」と題して発表が行われました。
ワシントン州は,各教科などの領域ごとに習得すべき知識とスキルのリストを「エンドースメント・コンピテンシー」として設定しています。本発表では,体育科・社会科の事例を元に,策定過程を検討しました。アメリカでは,前提として教職団体や教科団体が出している教科教師の全米基準があります。ワシントン州では、そうした全米基準がどのようにローカライズするかに注目して検討を行いました。その中で,地域の事情に合わせてローカライズする度合いが高い教科(例:社会科)と低い教科(例:体育科)があり,その背景には教科をめぐる地域の状況(例:教員不足)が反映されていることを明らかにしました。

 

以上の発表を受けて,指定討論者の北田佳子氏(埼玉大学)からは,本発表の意義として,①教師の専門職基準の意義の明確化,②文化的能力スタンダードの検討をめぐって教師のミッションを再考できたこと,③教科スタンダードの検討をめぐって学校教育での多様な学びの可能性へ示唆できたことがあったと示されました。また発表者に対して,「多様なスタンダードをどのように実際に教師の専門性開発へつなげているのか」「従来の(他律性を強めるための)スタンダード・アカウンタビリティ政策をどのように乗り越えているのか」といった点について投げかけられ,質疑応答を通して今後の研究課題がより明確化されました。
また,ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「教師スタンダードは評価するための基準としてだけではなく,教員養成カリキュラムを作る際の視点にもなっていると思うが,それについてどう考えるか」,「ワシントン大学の多文化教育研究との関係性は何か」,「スタンダードと市場との関係性をどのように捉えているか?(結局スタンダードが質を担保しているのではなく,市場が担保しているのでは?)」など多くの質問が寄せられました。これに対して,確かに評価指標ではなく,カリキュラムに対しての視点としても用いられているが,その前提として大学では,各教員養成機関へのカリキュラム編成の裁量がとても大きいこと,また,市場,即ち大学ランキングとの関係が強いことは言うまでもなく,今後多様な大学を調べることで,スタンダードの影響について慎重に考えるべきであるといった点について,参加者全体で理解を深めました。

 

ここまでの議論を受けて,研究代表者の藤村氏が参加へのお礼とともに,今後,本研究内容および成果を日本へ適用していくことを目指して,米国の文脈をより慎重に検討していくといった今後の展望を提案して,本セミナーは終了しました。

今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想します。

  1. 日本で教師の専門職スタンダードの意義の再検討の必要性です。「教職コアカリキュラム」「教員育成指標」などを通して,教師スタンダードが日本でも見られるようになりました。ですが,本セミナーで見られたような教職の自律性といった視点は見られにくいのではないでしょうか。今後はスタンダードの中身の議論だけではなく,そもそも何のためのスタンダードであるのかを検討する必要があります。
  2. スタンダードの策定のみに注目することの問題性です。今回の発表では,スタンダードは作成したら機能するものではないことが見えてきました。そのため、作って終わりではなく、常に見直し続け,アップデートするプロセスを組み込むこと,教師教育の実践にいかに適用するかが実装化においては重要です。

 

文責(川口広美・岩田昌太郎)

 


 

Ⅱ.発表資料のご共有

複数の参加者の方から、セミナー当日の発表資料を共有していただきたいとのご要望をいただきました。
共有可能なデータを下記リンク(Googleドライブのフォルダ)に格納しております。どうぞご確認ください。

当日資料はコチラから(https://drive.google.com/drive/folders/15wVuEoOrf5R4GveYEz6FtB35XgvqHWhH


 

Ⅲ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


広島大学教育学部HPにも掲載されています


*第132回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

 

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