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広域交流型オンライン社会科地域学習の取組みを報告します【未来を作り出す工場生産】(2022.10.19)

公開日:2022年10月28日 カテゴリー:開催報告
ポンチ絵(20210528版)KKのサムネイル

 

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)(プロジェクトリーダー:草原和博教授)は,東広島市教育委員会と連携して,市内複数の小学校をオンラインで結んだ広域交流型オンライン社会科地域学習を実施します。子どもの一人一端末と学校のICT機器を活用しながら,また地域からの中継を交えて,対話的・双方向的に学びます。さらに,この学びを広島大学の教員と大学院生がコーディネートします。なお,授業の参考コンテンツとして,EVRIが東広島市立図書館の依頼を受けて開発した「東広島市地域学習用デジタルコンテンツ(通称「のん太の学び場」)」を活用します。(「のん太の学び場」の作成についてはコチラ

本年度も毎月1回2時間,テーマを決めて授業を行います。この企画が実現することで,小規模校と大規模校の子どもが,年間を通して,各地域のようすを比較したり,交流したりしながら学びを深めることができます。

目 的
広島大学教育ヴィジョン研究センターが開発した「のん太の学び場」(東広島市地域学習用デジタルコンテンツ)と東広島市教育委員会作成の小学校社会科副読本を効果的に連携させた広域交流型オンライン社会科地域学習の実施を通して 児童の主体的 対話的で深い学びを創造する。

実施内容
〇 「市内の小学校」と「学習対象となる地域等」と「広島大学」がオンラインでつながり遠隔授業を行う。
〇 遠隔授業の全体進行は、大学の担当者が行う。各教室での指導は、各学級の担任等が行う。
〇 遠隔授業では、児童が自分のタブレットから参加できる機会を設ける。
〇 参加校に技術的なサポート要員(大学院生等)を派遣し、授業準備、授業支援、後片付け等を行う。
1年間の計画案


海からはなれた東広島市に自動車工場はできるだろうか??(2022年10月19日)

10月19日 :「海からはなれた東広島市に自動車工場はできるだろうか??」
  • 授業実施者:草原和博
  • 授業補助者:各小学校での授業担当教員
  • マツダからの中継:大岡慎治,藤井冴佳, 両角遼平
  • 学校技術支援担当:小田原瞭雅,神田颯, 國重和海,佐藤莉沙,田中崚斗,近沢菜々子,永田誠弥,藤原瑞希,森俊輔,森本敬仁
  • 事務局機器担当①(広島大学):大坂遊,草原聡美,八木謙樹
  • 事務局機器担当②(龍王小学校):川本吉太郎,正出七瀬,山下弘洋,吉田純太郎

2022年10月19日,東広島市内小学校4校11学級(寺西,原,高美が丘,龍王)の5年生(341名)が参加し,「未来を作り出す工業生産」をテーマとするオンライン授業を実施しました。今回の授業では,自動車工場の立地と,部品・完成品の輸送に注目しながら,「海からはなれた東広島市に自動車工場はできるだろうか??」という問いをめぐって,児童らが活発な議論を行いました。

導入部では,自動車工場の立地に関する一般的な傾向性を協働して確認しました。「地元の自動車会社:マツダの自動車は,どんなところで作っているのか」の問いの下,広島市と山口県防府市の2つの航空写真から,現在のマツダの自動車工場立地の特徴を見つけさせます。児童らは,写真をじっくりと見比べながら「海の近くに工場があること」「近くに高速道路などの高速道路が整備されていること」に気付きました。これらの発見を踏まえて,1時限目のめあてを「自動車工場は,なぜ海の近くにあるの?」に設定しました。児童らは,この問いに対して次々に予想を立てました。例えば,「海外への輸出に船を使うからではないか」「もし工場が山の中にあると,運搬にたくさんお金がかかるからではないか」などの仮説が提示されました。

続く展開部は,2つのパートで展開していきました。
第1パートでは,マツダの物流担当者へのインタビューを通じて,自分たちの立てた仮説を検証することを目指します。具体的には,①自動車工場から完成車はどのように運び出されるか,②自動車工場に部品はどのように運び込まれるのか,を確かめることで,臨海部立地の有利さを探究していきました。例えば,国内工場での生産約97万台のうち,およそ82%は海外向けであること。輸出には一度に5000台が載る自動車専用の運搬船が使われていること。逆に工場には,1日に2000台ものトラックが部品を運び込んでいること,その大半は広島県や山口県の関連工場から届いていることなどが,担当者から説明されました。時にはタブレットを用いたクイズも織り交ぜつつ,自動車の生産と流通のしくみを学ぶことができました。児童からは「船は一度にたくさんの車が運べて効率的だ!」「山の中に自動車工場があると港まで運ぶのが大変だ!」といった声があがり,「海岸の近くに工場を置くと,海(船)を使って自動車や部品を運ぶのにも,陸(トラック・鉄道)を使って自動車や部品を運ぶにも便利」というまとめが導かれました。
第2パートでは,他の自動車会社の立地を調べることで,臨海立地型の自動車工場という概念を批判的に吟味することを目指します。そこで本パートは,「(本当に)自動車工場は,海の近くでないといけないのか?」というアンケートからスタートしました。児童らはタブレットを介してこの問いに答えました。その結果は,「絶対にそうだ」が約24%,「そうだ」が約34%,「そうでない」が約17%,「絶対にそうでない」が約25%で,例えば「そうでない」理由として,「自動車工場には広い土地が必要だから」「運搬にはトラックが使えるから港以外でもできるのではないか」などの見解が示されました。この結果を踏まえ,更なるめあてとして,「(本当に)自動車工場は,海の近くでないといけないのか?」が設定されました。そして,実際に海から離れた内陸部に作られた自動車工場として2つの例を調べました。1つは,トヨタの元町工場(愛知県)です。海からは遠く離れているものの,キャリアカー(=車両運搬用トラック)を使って完成品を運び出していることを確認しました。もう1つは,フォルクスワーゲンのドレスデン工場(ドイツ)です。児童らは,工場から「CarGoTram」と記された電車が出てくる様子を視聴しました。電車で部品を運ぶことで,事故や渋滞を防ぎつつ,環境を汚さない輸送が行われていることを確かめました。

以上の学習を踏まえて,終結部では「海からはなれた東広島市に,しょうらい自動車工場はできるだろうか?」の最終課題に取り組みました。東広島市の地勢図と交通図,そして自動車関連工場の分布図などを手がかりに,東広島市は自動車づくりに向いているか,向いていないかを判断します。正答はありません。児童らの結論とその理由づけは,Zoomのブレイクアウト機能を用いて交流しました。今回は11学級が参加したので,5つのブレイクアウトルームを設定し,学級間で相互に発表していきました。
各ルームからは,以下のような主な意見が報告されました。
・海の近くの安芸津には広い土地がないから,自動車工場を作るのは難しいのではないか。
・平らな土地が少ないから,自動車工場を作るのは難しいのではないか。
・広い土地も働き手もいるから,自動車工場は作れるのではないか。
・市内には関連工場がたくさんあるから,自動車工場は作れるのではないか。
・市内には鉄道も高速道路も海もあるから。自動車工場は作れるのではないか。

最後に,各ルームの活動と発表に対して専門家からコメントをいただきました。広島大学の人文地理学者・由井義通教授は,東広島市は交通の条件がよいが,自動車工場建設に必要な安い土地に乏しいこと,近年の自動車工場は働き手の賃金に左右されやすく,どんどん賃金の安い地方や外国に移っていること,日本のようにやや賃金が高いところでは,(ポルシェがやっているように)高級車をつくる工場に徹すれば東広島市にできる可能性も高まること,などの見通しが示しました。

5年生対象の取り組みとしては,今回が2回目となりました(初回は本年7月)。好奇心旺盛な5年生であることも幸いして,①概念の構築とその再構築をはかる学習と,②概念を不確定な未来予測に活かす学習に取り組むことができました。保護者が自動車の関連企業に働いている児童は一定数おり,授業は当事者性のある学びとして展開していました。また,初めてブレイクアウト機能を使うことで,初対面の児童が教室を越境して直接対話する学習空間を生み出すことができました。EVRIでは,引き続き広域性を活かした社会科らしい授業を開発,提案してまいります。

 

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