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広域交流型オンライン社会科地域学習の取組みを報告します【米づくりの盛んな地域】(2022.07.13)

公開日:2022年07月15日 カテゴリー:開催報告
ポンチ絵(20210528版)KKのサムネイル

 

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)(プロジェクトリーダー:草原和博教授)は,東広島市教育委員会と連携して,市内複数の小学校をオンラインで結んだ広域交流型オンライン社会科地域学習を実施します。子どもの一人一端末と学校のICT機器を活用しながら,また地域からの中継を交えて,対話的・双方向的に学びます。さらに,この学びを広島大学の教員と大学院生がコーディネートします。なお,授業の参考コンテンツとして,EVRIが東広島市立図書館の依頼を受けて開発した「東広島市地域学習用デジタルコンテンツ(通称「のん太の学び場」)」を活用します。(「のん太の学び場」の作成についてはコチラ

本年度も毎月1回2時間,テーマを決めて授業を行います。この企画が実現することで,小規模校と大規模校の子どもが,年間を通して,各地域のようすを比較したり,交流したりしながら学びを深めることができます。

目 的
広島大学教育ヴィジョン研究センターが開発した「のん太の学び場」(東広島市地域学習用デジタルコンテンツ)と東広島市教育委員会作成の小学校社会科副読本を効果的に連携させた広域交流型オンライン社会科地域学習の実施を通して 児童の主体的 対話的で深い学びを創造する。

実施内容
〇 「市内の小学校」と「学習対象となる地域等」と「広島大学」がオンラインでつながり遠隔授業を行う。
〇 遠隔授業の全体進行は、大学の担当者が行う。各教室での指導は、各学級の担任等が行う。
〇 遠隔授業では、児童が自分のタブレットから参加できる機会を設ける。
〇 参加校に技術的なサポート要員(大学院生等)を派遣し、授業準備、授業支援、後片付け等を行う。
1年間の計画案


社会科教科書にのせたい東広島市の農家とは!!(2022年7月13日)

7月13日 :「社会科教科書にのせたい東広島市の農家とは!!」
  • 授業実施者:草原和博
  • 授業補助者:各小学校での授業担当教員
  • ファーム・おだでのインタビュー:川本吉太郎,藤井冴佳
  • 豊栄町の渡辺さんへのインタビュー: 國重和海,正出七瀬
  • 学校技術支援担当:大岡慎治,近藤郁実,田中崚斗,玉井慎也,近沢菜々子,永田誠弥,八木謙樹
  • 事務局機器担当①(広島大学ほか):大坂遊,草原聡美,高須明根
  • 事務局機器担当②(下黒瀬小学校):小田原瞭雅,両角遼平,吉田純太郎

2022年7月13日,東広島市内小学校7校12学級(寺西,原,吉川,高美が丘,下黒瀬,豊栄,木谷)の5年生(290名)が参加し,「米づくりの盛んな地域」をテーマとするオンライン授業を実施しました。今回の授業では,教科書に載っている日本の米どころ(=新潟県南魚沼市)と,東広島市の2種類の農家(=大規模な販売農家・小規模な自給的農家)を比較し,日本の農業の特色や課題を捉える発展的な学習が目指されました。

導入部では,まず教科書に登場した南魚沼市の農家の米づくりを,①水の得方,②水田の広さと形,③機械や肥料の使い方,④働いている人の数,⑤品種,収穫した米のゆくえ,⑥ねがいや苦労,という6つの視点で再整理しながら復習していきました。各学級からの発表を通して,教科書に登場した農家の特性(①魚野川の水を利用,②20haほどで区画整理,③機械化・肥料を使用,④家族で毎日耕作,⑤全国へコシヒカリを販売,⑥もっとお米を食べてほしい)を確認します。
次に参加している児童にオンラインアンケートを行い,東広島市の農家に対する子どもたちの素朴な印象を明らかにしました。「(教科書に出てくる南魚沼市の)三輪さんのような農家は,東広島市にもたくさんいるか」という問いに対し,「はい(たくさんいる)」が70%,「いいえ」が16%,「わからない」が14%となりました。授業者はこの結果から「本当にいるのかな?いないのかな?」と子どもたちに問いかけながら,事前に実施したアンケートの結果も共有します。「東広島市は,南魚沼市と同じぐらい米づくりがさかんだと思いますか」という問いに対し51%の子どもたちが「そう思わない」と答えたことを受けて,「東広島はやっぱり南魚沼に敵わないのかな?」と畳みかけました。これらのやり取りから,本時の学習課題である「東広島には,教科書に出てくる三輪さんのような米づくり農家はいるだろうか?」が導かれました。

続く展開部は,この課題に答えていくために,2つのパートで構成されました。
第一は,1時間目の農家の見学パートです。2つの農家へのインタビュー動画を視聴することにより,各農家の実態や性格を観察します。視聴の際には,導入部で示した6つの視点を意識させることで,自然条件,生産・分配・消費,労働,持続可能性といった社会科ならではの切り口で農家を捉えさせようとしました。
最初に視聴したのは,河内町のファーム・おだです。100haを超える耕地を有する大規模な販売農家(組合)です。広大な土地を管理するために,耕作の機械化,作業の組織化・データ管理化,作物の多角化,販売の広域化・インターネット化が行われていることがインタビューで示されました。これらの情報をもとに,「ファームおだは,南魚沼の農家と似ているか」というアンケートが行われ,57%の子どもたちが「やや似ている」と答えました。子どもたちからは,「他の作物を育てているからやや似ている」,「水の得方が違うから似ていない」といった理由も示されました。南魚沼市との比較を通じて,ファーム・おだの特徴が徐々に浮かび上がってきました。
次に視聴した農家は,豊栄町の渡辺さんです。先祖代々受け継ぐ0.5haの土地を,家族で管理している自給的な農家として取り上げました。機械の老朽化,他の仕事との兼業,収支上の赤字といった課題目白押しの中で,農業を続けていくことの苦労と意義が語られました。これらの情報をもとに,再度,南魚沼の農家と比較するアンケートが行われました。ファーム・おだの調査結果とは対照的に,「似ていない」と回答した児童が56%と過半数に達しました。インタビューそしてアンケートに対する回答傾向から,子どもたちはファーム・おだ,渡辺さんの対照性に気づき始めました。

第二は,2時間目前半の「販売農家」「自給的農家」の概念化パートです。まず,6つの視点×3つの農家(三輪さん,ファーム・おだ,渡辺さん)=18セルから成るワークシートに,各農家の特徴を記入させました。そして,この表を縦・横に眺めながら,各農家の特色を一言で表現させました。例えば,「ファーム・おだは広い土地で作った米を全国に販売する農家」,「渡辺さんは家族完結型の農家」のように,それぞれの農家の特徴と違いがキャッチフレーズ風に表現され,「販売農家」「自給的農家」の意味が子どもたちなりのことばで概念化されていきました。

第三は,2時間目後半の教科書に載せるべき農家を選択するパートです。まず「日本全体では販売農家と自給的農家のどちらが多いか」という問いを与え,統計資料(平均農地面積,農家別割合の年次推移)の読み取りからこれに応えさせます。読解を通して,子どもたちは,南魚沼の農家が決して「普通ではない(=一般的ではない)」ことを認識します。それを受けて,南魚沼の農家の代わりに「社会科教科書にのせたい東広島の農家」を選ぼう!という新たな学習課題が合意されました。
ファーム・おだと渡辺さん,どちらを載せたいかというアンケートを行ったのですが,子どもの65%が「両方とも載せたい」と答えました。その理由として,「比較できるから両方載せたい」「両方載せることで,それぞれの良さや苦労が伝わる」といった意見が示されました。これらの発言から,農業のバリエーションだけでなく,全国の子どもに日本の米づくりの実態として何を伝えるべきかという視点も意識されていたことがうかがえます。

終結部は,2時間の授業のまとめです。社会科教科書執筆者もされている本学の木村博一教授から,子どもの提案に対してフィードバックが行われました。木村教授は,子どもたちの主張に賛意を示しつつも,教科書の掲載量には限りがあることを指摘しました。その上で,デジタル教科書やタブレット端末の普及に伴って,子どもたちのアイデアが実現する可能性が高まっているとし,子どもたちに具体的な提案に期待を寄せました。

本プロジェクトでは,はじめて小学校5年生を対象に実施しました。一般に5年生の社会科は全国規模で産業を学びます。しかし今回は,教科書に掲載された南魚沼市の農家と東広島市の農家を比較することで,さらに東広島市の2つの農家を比較することで,日本の農業の実態や課題により深く迫ることができました。地域の課題に向き合いつつ,深く洗練された概念的見方を育てる高学年社会科(産業学習)の遠隔授業を提案・実装できた点に,本実践の意義が認められます。

2022年7月期第1時間目 ▶︎YouTubeはこちらをクリック
2022年7月期第2時間目 ▶︎YouTubeはこちらをクリック

 

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