【2022.02.19】研究拠点創成フォーラムNo.32 授業研究を研究する(10)「イギリスの授業研究の研究者から学ぶ―Wasyl Cajkler先生―」を開催しました
Ⅰ.開催報告
広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、教師教育・授業研究ユニットの活動の一環として、2022年2月19日(日)に、第32回研究拠点創成フォーラム「授業研究を研究する(10)「イギリスの授業研究の研究者から学ぶ―Wasyl Cajkler先生―」」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に41名の皆様にご参加いただきました。
「授業研究を軸に教師教育を改革する」シリーズは、日本の授業研究と世界のLesson Studyとの交差点を探りながら、授業研究に基づく教師教育について研究できる国際共同研究プラットフォームの構築を目指す企画です。その契機となるのが、 Kim、 J.、 Yoshida、 N.、 Iwata、 S.、 Kawaguchi、 H. (Eds.). (2021). Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese Approach in Global Settings. New York、 NY: Routledgeの出版でした。さらに、同書刊行に合わせてこれまで計9回のセミナーを、2020年度教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援を受けて開催してきました。2021年度も引き続き教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援を得て、日本の授業研究と世界のLesson Studyとの相互作用の解明に取り組んでいます。
シリーズ第10回~12回では、海外の授業研究者をお招きし、講演と対話の場を設けることで国際的ネットワークの強化を図りたいと考えています。セミナーでは、授業研究の文化が十分にない状況下に授業研究を導入するためにはどのようなアプローチが必要かを検討します。さらに、講演を踏まえて、普段は可視化されにくい日本の教師教育における授業研究の文化とそれを支えている要素を探ってゆくことにしました。第10回セミナーでは、イングランドにおける授業研究の状況と将来に向けた展望に関して報告が行われました。
はじめに、金鍾成(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。先に述べた10~12回のセミナーの目的が共有されました。特に、10回セミナーではDr. Wasyl Cajklerをお招きし、執筆・編集を担当された書籍”Lesson Study in Initial Teacher Education” (Emerald Group Publishers、 2019年)の第15章the Future of Lesson Study in Initial Teacher Education(初期教師教育における授業研究の未来)をテクストにして、イングランドの授業研究の理解を深めることがセミナーの参加者全体で確認されました。
続いて、Dr. Wasyl Cajkler(University of Leicester、イギリス)から「教員養成におけるレッスン・スタディの将来」と題して発表が行われました。
前提として、イングランドでは教員養成におけるLesson Studyが国全体で行われているわけではありません。通常は小規模(例:ペアやグループによる授業研究、外部人材のいない授業研究)で行われています。しかし、授業研究に対する注目は高まっており、様々な国のLesson Studyが報告されていることを受けて、ヨーロッパ三カ国(ノルウェイ、スペイン、イングランド)の授業研究を共有し、今後の授業研究をサポートするために、本書を出版したという経緯が説明されました。
さらに、同書第15章の目的は、(1)Lesson Studyを教員養成の中で根付かせ、拡大させる方法、ならびに(2)専門家や生徒の学習を拡張させる研究の今後の展開を検討することにあったと説明を受けました。従来、イングランドを含む三カ国は、授業研究に関心を持つ教師教育者が小規模にLesson Studyを展開してきており、それを周りを巻き込んだ組織レベルへ発展させることが難しい状況があります。この課題を打破するためには、(1)ヴィジョン(Lesson Studyの目標と効果)の共有、(2)管理職によるLesson Studyの効果の理解、(3)周囲の教師との協力関係の構築が不可欠であるとの話がありました。
以上の発表を受けて、川口広美(広島大学)から以下3点の質問が示されました。①イングランドでは伝統的に教員養成においてどのような講義方法が採られてきたのか、② Lesson Studyに出会ったときの状況とは?Lesson Studyにどんな魅力を感じたのか?③教科や学校段階ごとに授業研究の仕方は異なるのか?です。
これらの問いに対してDr. Wasyl Cajklerは以下のように回答しました。イングランドでは、従来Action researchに代表されるInquiry-Baseの実践者研究アプローチが採用されており、実習前に学生が問いを設定し、その問いに多様なアプローチで解決させようとしてきたこと。しかし、そこでは実習先のメンターや大学の教師教育者が評価し、実習生は評価される、という立場性が固定化していたこと。これに対して、上司から紹介されて知ったLesson Studyは、共に授業に向かう仲間として関係を構築できる点で、また「教えること(teaching)」ではなく「生徒の学び(learning)」に注目する点に魅力を感じたこと。さらに、イングランドでは、学校種や教科は問わず概ね同じような問いに基づいて授業研究が展開していること、などです。
質疑応答では、「授業研究で問われるLearningとは誰の何の学びなのか」、「(Lesson Studyの良さを)どのように周囲に説得していったか?」といった質問や、「組織レベルや地域レベルだけでなく国家レベルでの関わりも必要ではないか」といった意見も出されました。授業研究は誰のものであり、どのような学びを促進するのか、に関するコンセンサスを作ることの必要性、ならびに大学などの1組織を超えて国家レベルで取り組むことの難しさや重要性などについて参加者全体で理解が深まりました。
最後に、セミナーを企画・運営する吉田成章(広島大学)からは、イングランドではLesson Studyを通して「授業とは何か?」「教育とは何か?」といった哲学的な問いを深められている点に感銘したとのコメントがありました。岩田昌太郎(広島大学)からは、Lesson Studyに関するデータベースが作成・活用されている点について感想が示されました。さらに、お二人からは共に全員で日本・イギリスの授業を見合い、授業の見方の違いを体感したいという将来の協働の可能性が示されました。これを受けて、Dr. Wasyl Cajklerからは、Lesson Studyを知ったことで、授業をみとるという行為の奥深さや、みとる視点を共有する重要性を感じたというエピソードの紹介がありました。また、今後、国を超えた協働の重要性についてもお話をいただきました。
今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想してします。
① 授業研究を進めていくためには、単にHow-to的な要素の伝達だけではなく、授業をみとるとはどういうことか、
教師とは何か、といった哲学的な問いを深め、一定のコンセンサスを構築することが重要です。
② 思想・哲学を背景にした授業研究だからこそ、上から教え込むトップダウン的なアプローチは適しません。組織や国
レベルで授業研究を進めるためには、個人の試みを丁寧に検討し、その矛盾や課題の分析・省察を積み重ねるボトム
アップ的なアプローチが重要です
今後もEVRIでは、教師教育・授業研究ユニットを中心に,授業研究を軸に教師教育を変革するための方略を検討してまいります。是非、EVRIのセミナーシリーズに幅広いご関心をお寄せいただき、今後とも研究・実践をご一緒させていただければ幸いです。
Ⅱ.アンケートにご協力ください
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