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【2021.06.10】第80回定例オンラインセミナー「授業研究を軸に教師教育を変革する(7)-ドイツにおける授業研究と教師教育-」を開催しました

公開日:2021年06月29日 カテゴリー:開催報告

.開催報告

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,教師教育・授業研究ユニットの活動の一環として,2021年6月10日(木)に,第80回定例オンラインセミナー「授業研究を軸に教師教育を変革する(7)―ドイツにおける授業研究と教師教育」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に73名の皆様にご参加いただきました。

「授業研究を軸に教師教育を変革する」シリーズは,日本の授業研究と世界のLesson Studyとの交差点を探りながら,授業研究に基づく教師教育について研究できる国際共同研究プラットフォームの構築を目指す企画です。その契機として,2019-2020年の研究成果をKim, J., Yoshida, N., Iwata, S., Kawaguchi, H. (Eds.). (2021). Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese Approach in Global Settings. New York, NY: Routledgeにまとめて出版しました。さらに,同書刊行に合わせてこれまで計6回のセミナーを,2020年度教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援も受けて開催してきました。

シリーズ第7回となる本セミナーでは,ドイツでは授業研究がどのように展開され,また教師教育においてどのような注目がなされているのか,前掲書に所収された論考(Ch.10: Lesson Study in German-Speaking Countries between Classroom Research and Teacher Education)を踏まえ,「ドイツの授業研究と教師教育」の実際について報告が行われました。

はじめに,司会の金鍾成先生川口広美先生岩田昌太郎先生吉田成章先生(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。日本の授業研究がLesson Studyとして世界的に展開される一方,ドイツでは教育学研究としての質的・再構成的な授業研究が展開しているということについて,セミナーの参加者全体で確認されました。

次に,Maria Hallitzky先生,Emi Kinoshitaさん,Christian Herfterさん,Karla Spendrinさん,Mamadou Mbayeさん(ライプツィヒ大学一般教授学研究室)から「ドイツにおける授業研究と教師教育」と題して発表が行われました。発表では,前掲書第9章の構成に従い,ドイツにおける授業研究の4類型を基に,「授業開発と結びついた授業研究―対話による相互の実践観察」の具体例が詳しく報告されました。ドイツでは,授業に開発的に取り組む教授学研究の一環としての授業研究が1970年代からなされています。実践開発の軸から科学研究の軸の間に4つの類型を設定した場合,ライプツィヒ大学一般教授学研究室の取組は第3類型(=学問的研究として授業研究を実施しながら,教師の専門性向上にも貢献しようとする類型)に位置づけられるとの説明がありました。また,2000年以降には,オーストリアでもLesson Studyの研究書が刊行されていることから,ドイツ語圏におけるLesson Study研究・実践の漸次的発展が見られることも報告されました。さらに,ドイツ語の授業を対象として行われた広島大学教育方法学研究室との共同研究の成果も報告されました。すなわち,授業の実証的な記述・解釈と教師の専門性向上と教育実践の開発・改善との間の緊張関係が,教育実践の改善の希求と教育学研究の探究という二つのお互いに求め合いながらも隔絶してきたという経緯が,日本の七夕伝説にも重ねながら問題提起されました。

以上の発表を受けて,指定討論者のサルカール・アラニ・モハメッド・レザ先生(名古屋大学)からは,各国で展開される授業研究に優劣をつけるのではなく,「他者の“鏡”を通して,初めて見える解釈」を大事にして,授業研究の成果を相互・互換的に交流・共有していくことの重要性が指摘されました。これは,授業研究の国際比較共同研究の第一人者として,世界授業研究学会(World Association of Lesson Studies: WALS)を介して,世界的なLesson Study研究・実践の裾野を広げるべく活躍をしているアラニ先生ならではの指摘といえるでしょう。他国の授業を自国の授業より優れたものとして「優れた教育モデルを受容する」思考ではなく,それぞれの授業や学校の背景にある制度や文化,そして授業研究を成立させる機制を考えることの重要性が提起されました。

ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,視聴者の方から「ライプツィヒ大学と広島大学の共同研究プロジェクトではどのようなことをしたのか」や,「ドイツにおける教師教育の成果や課題は何か」といった質問が出されました。また,議論を踏まえたアラニ先生からのさらなるコメントを基に,小松真理子さんによる通訳を介して活発な意見交換がなされました。さらに,Lesson Study-based Teacher Educationの編者でもある司会の金・吉田・岩田・川口各先生は,教育学と教科教育学の見方の共通点と相違点,国際的な視野から授業だけではなく授業研究を比較考察することの重要性,そして研究者であり教師教育者でもある立場から授業研究に関わることの視点の共通性と相違性が,ライプツィヒ大学一般教授学研究室の研究報告およびアラニ先生の指定討論から浮かび上がってきたと述べました。


今回のセミナーを踏まえ,EVRIは以下のような政策提言を構想します。

 

①教育実践の背景にある制度・文化の教育学的意義と課題の学術的検証の必要性

ある国の教育を「モデル」として受容する,あるいは他国へ発信することの文化性と政治性を学術的に反省する必要性がある,という提言です。ある調査で,ある国のある教育(方法・内容)の優位性が指摘されたとしても,その教育方法・内容が国際標準化する必要性も必然性もありません。むしろ,その教育の内容と方法の学術的検証を踏まえて,それぞれの制度・文化を背景に営まれる教育実践(授業実践)の教育学的意義と限界を学術的に記述することの重要性を提言いたします。

 

②教育実践の改善に資する教育学研究の重要性

教育実践の改善と教育学研究としての学術性の水準確保を,矛盾あるいは乖離するものとして捉えるのではなく,「その相互の緊張関係のもとで,相互を補完するために,相互を具体的に検証していくこと」を提言いたします。Lesson Studyや授業研究と行った営みは,教育実践の改善(授業の改善や教員の専門的資質・能力の向上)によってのみ,その意義が担保されるものではありません。国際・国内ジャーナルに掲載される教育学研究論文あるいは学術書の刊行としてのみその教育学的意義が担保されるものでもありません。授業研究を軸に教師教育を変革する営みは,その実践性と学術性の両面から相互に検証され,補完される緊張関係にあるものであることが,本セミナーシリーズで確認されてきました。教育政策立案と教育学研究,そして教育実践とを乖離したものとして捉えるのではなく,より高次に一体的な教育学的営みとして記述していくことが,研究にも,実践にも求められると考えます。

 


今後もEVRIでは教師教育・授業研究ユニットを中心に,授業研究を軸に教師教育を変革するための方略について引き続き検討してまいります。この取り組みは,「教師教育者のためのセルフスタディ」シリーズや「ポスト・コロナの学校教育」シリーズとも連動します。是非,EVRIのセミナーシリーズに幅広いご関心をお寄せいただき,今後とも研究・実践をご一緒させていただければ幸いです。

 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。

 


教育学研究科HPにも掲載されています


*第80回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

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