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【2021.03.02】第71回定例オンラインセミナー「授業研究を軸に教師教育を変革する(6)異職種協働の視点からみた授業研究を軸にした教師教育の展望」を開催しました

公開日:2021年03月08日 カテゴリー:開催報告

.開催報告

 

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年3月2日(火)、教育学部の共同研究プロジェクト推進経費「「授業研究」に基づく教師教育に関する国際共同研究プラットフォーム開発研究(1)」(研究代表者:金鍾成)の成果公表として、第71回定例オンラインセミナー「授業研究を軸に教師教育を変革する(6)異職種協働の視点からみた授業研究を軸にした教師教育の展望 」を開催しました。司会は、金鍾成川口広美が行い、参加者は40名でした。

本セミナーは、“Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese approach in global setting”(Kim, Yoshida, Iwata, & Kawaguchi, 2021)の第3章・第12章の筆者たちを話題提供者に迎え、教えと学びに関わる様々なステイクホルダーが参画する授業研究の展開とその意義をテーマに設定されたセミナーです。金と川口から本セミナーの趣旨説明がなされたのち、話題提供者である6名と指定討論者であるキャサリン・ルイス(Catherin Lewis)氏(ミルズ大学)の紹介がなされ、「レッスン・スタディーの研究動向と多様なステイホルダーへの着目」と題した話題提供がなされました。

まず松田充氏と宮本勇一氏は、Lesson Studyに関わる891本の研究論文の分析から、2000年代はアジア・北米が中心であったLesson Studyの研究動向が次第に欧州へと移行し、数学分野におけるLesson Studyだけではなく教師の専門性向上(professional development)や特定のTheoryに関わる研究の増加が見られることを指摘しました。

続けて熊井将太氏(山口大学)と杉田浩崇氏は、授業研究を軸とした教員養成・教師教育においても多様なステークホルダーが関与していることを指摘するとともに、それぞれのステークホルダーにも多様な役割があることを示しました。またさらに、教育行政関係者や教科書執筆者、さらには保護者や子どもといったステークホルダーの存在にも目を向けることで、授業研究を軸とした教師教育のあり方の今後を検討していく必要性を提起しました。

異職種協働による授業研究の実践事例として、福田敦志氏(大阪教育大学)は養護教諭と学級担任の協働による実践の取組を紹介し、それぞれの専門的な立場から指導方針を合意していく実践プロセスの重要性を指摘しました。とりわけ、「気がついたら、誰かと一緒に何かをしている」経験をいかに子どもの周りにつくりだしていくか、またその仕掛けが他の子どもたちとの関わりという集団形成にいかにつながっていくのかを実践の経緯と共に報告しました。二つ目の事例として吉田成章氏は、広島県三次市の吉舎学区(日彰館高等学校・吉舎中学校・吉舎小学校・吉舎小学校)における小中高合同授業研究会を取り上げ、地域住民・地域行政関係者・報道関係者・保護者・子ども・教師・大学研究者らが協働で授業研究に取り組むことで、地域創造につながっていく実践の意義を提起しました。この合同授業研究会では、地域キャラクターを子どもたちが発案し、2020年度にはそのキャラクターが製品化され、地域の活性化と異世代交流による社会創造につながっていっている点が強調されました。

6名からの話題提供に続いてルイス氏は、小松真理子氏の通訳のもと、長い日本滞在経験を背景に北米から世界のLesson Studyをリードする立場から指定討論を行いました。Lesson Studyの研究動向に関しては、20年以上の世界的な関心の高まりの中で、アジアでその研究関心が顕著に増加していることに触れ、自身の北米での授業研究の事例も紹介していただきました。北米でも保護者が授業研究に参与することはあるが、top-downだけにならないbottom-upの仕組みをいかに仕掛けていくのかという世界的に共通の実践課題を挙げ、教師が自立して授業を改善し、教員自身が研究という営みに参与することの意義を改めて指摘しました。また、賞金を付与するような授業研究コンクールが「授業研究」という営みのよさを消し去ってしまうのではないかという強い危惧のもと、授業研究は次の五つを目標として生起してきた営みであることを提起しました。すなわち、知識(Knowledge)、ビジョン(Vision)・信念(Beliefs)・姿勢(Attitudes)、実践(Practice)、人間関係(Human Relationships)、エージェンシー(Agency)、という五つであり、教師というエージェンシーがいかに様々なエージェンシーであるステークホルダーと授業研究をつくりだしていけるのかという開かれた問いの重要性を指摘しました。

ルイス氏の指定討論を受けて、実践家との協働の中で果たす研究者の役割について、教育学研究としての授業研究について、自身の教員養成・教師教育における授業研究への関わりについて話題提供者から応答がなされました。福田氏は「実践家との協働の中で果たす研究者の役割」について、目の前の子どもたちに実践家とともに責任を持つ研究者のスタンスをとりながら、教育方法学研究者として実践研究に取り組んでいることを強調しました。宮本と松田は「教育学研究としての授業研究」について、実践家自身が実践研究を書くということの意味と教師が授業研究という研究的営みのエージェンシーであるということの意味を重視しながら、教育学研究としての授業研究のあり方を研究方法論の検討とともに明確にしていく必要性を指摘しました。熊井と杉田は「自身の教員養成・教師教育における授業研究への関わり」について、熊井は「当たり前」を問い直す契機としての教員養成・教師教育における授業研究という営みの意義を強調し、杉田は自治・協働へと教師・子ども自身がたどり着くような自律した主体の形成に向けた授業研究の意義を強調しました。吉田は、吉舎学区での取組の中でも、「この取組に何の意味があるのか」と問い直す抵抗主体としての教師のスタンスを重視し、様々な価値観や生き方が許容される「場」としての授業研究の模索の意義を指摘しました。

参加者であった佐藤雄一郎氏(大阪教育大学)から提起された、多様なステークホルダーという存在に目を向けるための教師教育・学校づくりのあり方についての質問から、「授業」という営みそれ自体の捉え直し、そして「授業研究」という営みそれ自体の捉え直し、さらには「実践研究」という営みそれ自体の捉え直しの重要性が議論され、ルイス氏からもあらためて、授業研究に参加するということがどのような意味があるのかを今一度立ち止まって検討することの意義と課題が指摘されました。

「授業研究を軸に教師教育を変革する」シリーズの最後に位置づく本セミナーによって、「授業」と「授業研究」の問い直しから「教師教育」を絶えず問い直していく研究・実践の蓄積と、国際的な研究・実践ネットワークの重要性が改めて確認されました。EVRIでは「教師教育・授業研究」ユニットを中心に、今後も「授業研究を軸に教師教育を改革する」ためのプラットフォームの形成と研究・実践の交流・蓄積に取り組んで参ります。本セミナーおよび本シリーズにご関心を持ち本報告を読んでくださっているみなさんとともに、EVRIは多様なステークホルダーを含めた「すべてのひとのための」授業研究と教師教育の「知」と「知」をつくる営みに取り組んで参りたいと思います。


教育学研究科HPにも掲載されています


Ⅱ.発表資料

提案資料:「レッスン・スタディーの研究動向と多様なステークホルダーへの着目」(吉田成章・福田敦志・熊井将太・杉田浩崇・松田充・宮本勇一)

コメント:Lesson Study-based Teacher Education Comments (C. Lewis)

 

Ⅲ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました
ご参加の方は、事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。

 


*第71回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

セミナーNo.71のサムネイル

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