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【2025.02.22】定例オンラインセミナー講演会No.174「2025日韓社会科教師交流会―集合的記憶, 博物館, そして歴史教育―」を開催しました。

公開日:2025年03月12日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は, 2025年2月22日(土)に, 定例オンラインセミナー講演会No.174「2025日韓社会科教師交流会―集合的記憶, 博物館, そして歴史教育―」を開催しました。研究者や大学院生, 学校教員を中心に, 37名の皆様にご参加いただきました。

はじめに, 司会の金鍾成准教授(広島大学)より, 本セミナーの趣旨が説明されました。博物館がコミュニティの集合的記憶を(再)生産する機関であることが説明され, 博物館とは異なる学校の歴史教育の意義や学校の歴史教育における博物館の活用方法などを考察する必要性が共有されました。

 

 

次に, 平井美津子氏(大阪府公立中学校)より, 「大阪コリアンタウン歴史資料館から集合的記憶を探る―コリアンタウンそのものが博物館―」と題した発表が行われました。平井先生の故郷である大阪市生野区猪飼野は日本最大の朝鮮人居住地区として知られています。なぜ生野区に多くの朝鮮人が住むことになったのか, 日本でどのような生活を送ってきたのか, 現在の「多文化共生の街」としての生野区はいかにして形成されたのかについてご講演いただきました。平井先生ご自身の経験や1920年代以降の日朝関係史も踏まえ, 現在のコリアンタウンへの好意的なまなざしは「消費的」だと平井先生は提起されました。「今の文化を知るだけでなく, 過去に日本と朝鮮半島にどのような歴史があったかを知ること。それがよりあなたたちが大好きな韓国を知ることになります」という平井先生が生徒に語り掛ける言葉に象徴されるように, 今後, コリアンタウンや大阪コリアンタウン歴史資料館が「日本と朝鮮半島の学生たちが歴史を学びあう場」になる可能性を秘めていることが示唆されました。

 

 

次に, チュ・ホンゼさん(済州大学・学部生)より, 「済州4・3平和記念館に再現された集団的記憶」と題した発表が行われました。韓国・済州島にて1948年4月3日に発生した武装蜂起に端を発する「済州4・3事件」は韓国社会において困難な歴史として記憶されています。この「困難さ」の背景には, どのような政治的立場から事件を捉えるかで事件のもつ意味が変化するという点があります。大韓民国だけの単独政府樹立に反対する共産主義者が起こした「暴動」なのか, 冷戦前夜に民族統一をめざして大韓民国だけの単独政府樹立に抗議した人びとによる「抗争」なのか, あるいは罪なき多くの済州島民が命を落とした「受難の歴史」なのか, 韓国社会でも統一見解は今でも合意されていません。本発表ではこうした背景をもとに設立された済州4・3平和記念館を取り上げ, 子どもに済州4・3事件を論争的に教える歴史授業が提案されました。具体的には博物館に展示された, 文字が彫られていない石碑に「4・3は○○である」と彫るなら〇〇に何を入れるかを議論する歴史学習です。集合的記憶をめぐる論争を論争的に子どもと議論する授業の例について, 韓国での事例をもとに示唆を得る発表となりました。

 

 

次に, 玄紀雲さん(広島大学・学部生), 山口良起さん(広島大学・学部生), 酒井統和さん(広島大学・院生), 野呂航平さん(広島大学・院生)より, 「沖縄平和記念資料館, アイヌ民族博物館, ウトロ平和記念館に再現された集合的記憶」と題した発表が行われました。広島大学教育学部開講科目「平和情報発信演習Ⅱ」を受講した4名は, 「日本において「マイノリティ」は「マジョリティ」との関係の中で, どのように記憶を伝えているのか」という問いのもと, 沖縄平和祈念資料館・アイヌ民族博物館・ウトロ平和祈念館を見学しました。本発表ではそれぞれの博物館での発見と歴史教育への示唆を発表しました。具体的には「誰の視点から歴史が語られているか」「語りの特徴はどのようなものか」というテーマに答える形で, 3つの博物館での見学の成果を報告しました。そこから導き出されたのが「独立がない」(オキナワ), 「文字と国家がない」(アイヌ民族), 「法による保護がない」(在日コリアン)という伝承に関する「難しさ」を抱えながらも, 多様な「戦略」によって自らの記憶を伝承しようとするマイノリティの姿でした。こうした博物館での発見から, 権力勾配に由来する集団の記憶の「伝わりやすさ・伝わりにくさ」を認識したうえで, マイノリティの語りを知り, そこから自分なりの向き合い方を考える歴史教育の在り方について提言しました。

 

 

以上の発表を踏まえ, 金准教授をファシリテーターとして質疑応答が行われました。「韓国の歴史教科書で4・3事件はどれくらい扱われているか」, 「北海道では, アイヌ民族の歴史は学校の歴史授業で重要な位置を占めているのか」といった日韓それぞれの視点から発表内容へ質問が投げかけられました。また, 「マイノリティの記憶が継承され, 忘れられないために必要なことは何だと思うか」や「日本の大学に設置された博物館でマイノリティについての博物館はどれだけあるか」といった発表内容から発展した問いも参加者から提起されました。

次に, 「学校歴史教育は博物館とどのような関係を持つべきか?」に関する対話が行われました。日韓での意見交流のために, アプリケーション「ペタリ」を用いた紙上討論形式で対話が行われました。参加者からは, 例えば, 「歴史博物館を子どもがリアルと触れ合う場に, しかし展示を批判的に捉えるためのサポートを学校歴史教育が担うべき」という意見や「韓国の学校教育では近年, 歴史教育と社会科教育を分離する傾向にあり, 私も博物館教育は歴史教育の一部だと考えていたが, それが狭い認識だったと気づかされた」という感想が共有されました。

最後に, 発表者および指定討論者がこれまでの講演と質疑応答をまとめるかたちで, セミナーが幕を閉じました。

文責(大岡慎治・金鍾成


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


教育学研究科HPにも掲載されています(準備中)


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