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【2025.01.24】定例セミナー講演会No.173「広島大学リテラシー共同研究プロジェクト公開ミーティング 第2回リテラシー研究の連携可能性─心理学の観点から」を開催しました。

公開日:2025年03月12日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告


広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2025年1月24日(金)に,定例オンラインセミナー講演会No.173「広島大学リテラシー共同研究プロジェクト公開ミーティング・第2回リテラシー研究の連携可能性─心理学の観点から─」を開催しました。研究者や大学院生を中心に15名ほどの皆様にご参加いただきました。

はじめに,間瀬茂夫教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨として,ことばの学習と教育の問題を広く「リテラシー」ととらえたうえで、発達的な困難さを持つ学習者の読解力の向上という問題に第一の焦点を当て、各領域の研究者がどのようにこの問題にアプローチすることができるかについて,今回は、心理学の観点から議論を行うということが確認されました。

次に, 2名の登壇者による話題提供がなされました。

まず, 藤木大介准教授(広島大学)より, 「文章を対話型にすることは即断を助長するか」と題した発表がなされました。概要は、次の通りです。
近年,小学校の教科書や,大学入学共通テスト等,様々な媒体において,複数の登場人物が対話する形式で記述されている文章が用いられている。会話体であるため一見とっつきやすいが,同等の内容の通常の形式の文章と比べ,読み手の理解度は振るわない傾向がある(例えば,藤木ら,2022)。こういった主観的にポジティブな評価と客観的にネガティブなパフォーマンスの関係は,対話型という文章形式が拙速な(自動的な)読み方から必要に応じた慎重な(制御的,意識的な)読み方への切り替えを抑制してしまうことに原因がある可能性がある。二重過程理論(dual process theory;cf. Evans, 2008)に基づくと,無意識で迅速,自動的なプロセスを担うシステム1から意識的で低速,熟慮的なプロセスを担うシステム2への切り替えが抑制されているためであると説明される。そこで,システム1の働きが表れやすい文章の形式を対話型に改めることでよりその傾向が強まるかを検討した。
研究1-1では,確率判断を求める文章(いわゆるリンダ問題;Tversky & Kahneman, 1983)を対話型に直した場合,ヒューリスティック(必ずしもうまくいくとは限らないが,多くの場合素早く課題解決に至れるやり方)を用いた反応が増えるか検討した。その結果,対話型にすることによってヒューリスティック使用後の制御が効かなくなるということは示されなかった。研究1-2では,損失が出ることにフレーミングすることでリスキーな判断が増える文章(いわゆるアジア病問題;Tversky & Kahneman, 1981)を対話型に直した場合,よりリスキーになるかを検討した。その結果,予測とは異なるが,フレーミングにかかわらず対話型テキストではリスキーな判断が増えることが示された。このように,研究1-1では対話型にすることの効果は認められず,研究2-2では認められた。2つの材料で異なる結果が得られたため,対話型にすることでシステム2の働きが抑制されるのかをさらに検討するため,それぞれの文章のバリエーションを用いた実験を加えた。
研究2-1では,大数の法則に基づいて確率的な判断をしなければならない文章(Tversky & Kahneman, 1974)を対話型に直した場合,誤りが増加するか検討した。その結果,対話型にすることで大数の法則を無視した誤りが増える傾向が認められた。研究2-2では,同じ差額であるが元の金額に対する相対的な大きさが異なる場合に,その差額を得るためにコストを払うか判断させる文章(Kahneman & Tversky, 1984を改変したもの)を対話型に直した場合,コストを払う率に差が生じるかを検討した。その結果,差は生じなかった。以上の4つの研究から,文章が対話型になることによってシステム2への切り替えが抑制されるとは明確には言えないが,少なくとも慎重な読みに資することはなさそうだと言える。

次に, 奥村安寿子准教授(広島大学)より,「文字の読みと音読流暢性の発達・評価:リテラシーの基本の基」と題した発表がなされました。概要は、次の通りです。
リテラシーの獲得と使用には多くの場合,文字を読む力が不可欠である。文字の歴史は,約5500年前に遡るが,長らく一部のヒトのみが使用するものであり,学校教育等により一般に普及したのは最近100年程度にすぎない。そのため,ヒトの感覚および神経システムに,文字に特化した領域や機能は存在しないとされており,既存の機能の応用や統合によって文字を読んでいるのが現状である(Dehaene, 2009)。また,そのようにして文字を読むためには,まず音声言語を確立し,それを土台としながら文字の学習を進めていく必要がある。この過程が非常に複雑かつ長期間(約10年)に及ぶため,読みの習得と使用に困難を抱えるヒトも一定数おり,発達性ディスレクシアはその代表例である。

発表者らの研究グループでは,就学前年の幼児から中学生について読み習得過程の縦断調査を行っている。就学前年の段階では,音韻意識とひらがな清音の1文字読みの関連を調べ,音声言語を文字と結びつける過程を検討した。音韻意識とは,音声単語の構成要素(音節,モーラ,音素)を分解,認識,操作する力と定義され,分解)単語を言いながらモーラの数だけ手をたたく),抽出(単語の語頭・語尾・語中のモーラ音を言う)等の課題によって評価できる。ひらがなの1文字読みは,清音45文字をランダム順に配置した表を提示し,何文字読めるかを調べた。その結果,単語からモーラを抽出する力が,1文字読みの完成(清音45文字をほぼ/全て読める)と関連することが示された(奥村・北・北村他,2021)。音韻意識と読みの関連は,アルファベット言語圏を中心として膨大な研究の蓄積があるが,音韻および表記体系が異なる日本語のひらがなにおいても,同様であることが示唆された。

次に,小学校1−2年生ではひらがな音読の流暢性(すらすらと読めることと)を評価し,就学前年のひらがな1文字読みとの対応を見た。ひらがな音読は,標準化された音読検査を用い,単音・有意味語・無意味語・単文の音読所要時間が,学年基準値を一定以上超過した対象児を音読困難と判定した。結果として,就学前年にひらがな清音の1文字読みが完成していない,すなわち読めない文字が一定以上あった児は,小学校1年生で音読困難に該当する確率が高く,縦断的な予測的中率は80%以上であった(Okumura, Kita, Kitamura, et al., 2022)。このことから,文字を読むことの発達と困難は,就学前から連続的に生じていることが示唆された。

以上の研究結果から,リテラシーの習得においては文章理解や読解よりも前に音韻意識,文字の読み,音読流暢性など多くのステップがあり,早期の発達状況が,その後のリテラシー習得を予測することが示された。これらの研究成果をもとに発達目標を定め,就学前教育に取り入れ,困難リスク児の同定・支援を進めることが,読解を含むリテラシー困難の予防につながると考えられる。

 

 

以上の二人の報告を受けて, 間瀬教授をファシリテーターとしたディスカッションが行われました。最後に, 間瀬教授より, 本セミナーのまとめと今後の公開ミーティングの予告がなされました。

 

文責(間瀬茂夫

 


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第173回定例セミナーのポスターはコチラです。

 


教育学研究科HPにも掲載されています(準備中)


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