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【2024.12.02】定例セミナー講演会No.171「Racial diversity in the teaching profession in England: What makes minority ethnic teachers stay in teaching, or leave? なぜ、マイノリティ教師は教師を続けるのか?やめるのか?:イングランドにおける教師の人種的多様性」を開催しました。

公開日:2025年01月07日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

 

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2024年12月2日(月)に、定例セミナー講演会No.171「Racial diversity in the teaching profession in England: What makes minority ethnic teachers stay in teaching, or leave? なぜ、マイノリティ教師は教師を続けるのか?やめるのか?:イングランドにおける教師の人種的多様性」を開催しました。大学院生や研究者を中心に65名の皆様にご参加いただきました。

はじめに、川口広美准教授(広島大学)と菊地かおり氏(筑波大学)は、セミナーの趣旨として以下の3点をあげました。

・イングランドにおけるエスニックマイノリティの教師や教育実習生が経験する人種差別と教職キャリアへの影響を検討すること。
・教育実習生が直面する人種的マイクロアグレッション(可視化されにくい差別)の事例を分析すること。
・包摂的な学校環境を築くための具体的な戦略を提案すること。

イングランドでは、生徒の多様性に比べ教師の多様性が低いという現状があります。2018年にイングランド教育省が発表した「教育職における多様性に関する声明」では、教師の多様性が教育の質や生徒の成長に与える重要性が示されました。しかし、エスニックマイノリティの教師は依然として離職率が高く、特に昇進の面で構造的な障壁に直面しています。この現状は、生徒と教師の人種構成の不均衡をさらに助長し、教育現場における公平性の実現を阻む要因となっています。

 

 

次に、登壇者であるAntonina Tereschenco氏(Brunel University)は、イングランドにおけるエスニックマイノリティの教師が経験する差別や無意識の偏見について報告しました。具体例として以下のような事例が挙げられました:

昇進の制約:アフリカ系教師が「副校長までは昇進できても、それ以上のポストには進めない」と述べるように、管理職への道が閉ざされているという構造的な問題。
文化的背景の強調:ブルガリア出身の教師が「Miss Bulgaria」と繰り返し呼ばれ、自身のアイデンティティが過剰に意識されることで不快感を抱いた事例。

これらの事例から、意図的な差別だけでなく、日常的な無意識の偏見が教職者の疎外感やキャリア停滞の要因となるということが説明されました。
報告においては、こうした問題を解決するためにも、学校全体で多様性や公平性について積極的に議論し、無意識の偏見を認識する文化を育てることが重要であることが提案されました。また、教師の昇進や配置において透明性を高め、エスニックマイノリティの教師がリーダーシップを発揮できるように支援することが重要であること。さらに、職場内での孤立感を減らすための包括的な環境作りや、マイクロアグレッションに対応する研修の導入も効果的であることが挙げられていました。これらの取り組みを通じて、エスニックマイノリティの教師が安心して働ける職場環境を整備し、教育の質を向上させることが重要であると結論づけられていました。

 

 

次に、北山夕華氏(大阪大学)から、Tereschenco氏のプレゼンテーションを受けて、日本の文脈や状況を共有した上での日本への示唆は何かという点について提案がなされました。1991年に公務員採用における国籍要件は撤廃されましたが、多くの自治体では、外国人教師が昇進のない職位に限定されて採用されています。2012年には公立学校で257名の外国籍の教師が常勤として働いていたとのデータがありますが、この制限のために限定的な働きしかできない可能性が考えられます。さらに、公立学校の教員は「日本人」であるという暗黙の前提が、外国人教師やエスニックマイノリティの教師を「例外的な特別な存在」または「異質な存在」としてラベリングする要因となりうることなどが指摘されています。そのため、今回の発表を受けて、日本においても「ロールモデルとしての教師」の重要性や学校現場や教員養成の意識改革、支援の充実と共に、学校文化に内在する知識の植民地主義からの脱却などの必要性が論じられました。

 

 

Q&Aセッションでは、イングランドでの支援政策や日本との比較に関する質問が飛び交いました。「日本でもマイノリティ教師へのマイクロアグレッションの調査が必要」といった意見や、アジア系であることが差別や偏見にどのように影響するかについての日英比較など、具体的かつ実践的な議論が展開されました。

最後に、川口准教授と菊地氏は、日本においても教師の多様性について本格的に議論を進める必要性を強調しました。教師の多様性を促進する政策や実践は、多様化する教室の中で、生徒一人ひとりの成長を支えるための重要な基盤となる可能性があると結論づけられました。

 

文責(川口広美

 


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


教育学研究科HPにも掲載されています(準備中)


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