【2024.12.13】定例オンラインセミナー講演会No.170「広島大学リテラシー共同研究プロジェクト公開ミーティング・第1回 読解力の困難さを起点としたリテラシー研究の連携可能性」を開催しました。
I.開催報告
広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2024年12月13日(金)に,定例オンラインセミナー講演会No.170「広島大学リテラシー共同研究プロジェクト公開ミーティング・第1回 読解力の困難さを起点としたリテラシー研究の連携可能性」を開催しました。大学教員や大学院生を中心に, 34名の皆様にご参加いただきました。
はじめに,司会の間瀬茂夫教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは,リテラシー研究の連携可能性, すなわち, 児童生徒のことばの学習と教育に携わる研究者がどのように連携することができるのか, について探究してゆくという趣旨が確認されました。
次に,中井悠加氏(島根県立大学)より,本セミナーの問題設定が説明されました。読解に困難をもつ学習者の読解力をどのように捉え、診断し、支援するかという問題設定が行われたうえで、次の点について課題が提示されました。
・読解力を捉える枠組み
・中高生の読解力の困難の背景
・日本の読解力アセスメントの現状と課題
・英語圏の取り組み
そして、課題解決への方向性として、評価方法の改善と介入支援プログラムの開発、とりわけ中等教育段階でのアセスメント・介入指導開発の必要性が指摘されました。
続いて,3名の登壇者によって,中・高生の読解力の困難さについて、共同研究による取り組みの報告が行われました。
まず, 古賀洋一氏(島根県立大学)から「小学校高学年から中学校にかけての説明的文章教材の難易度の文責」と題して研究報告がなされました。それは我が国において中学生・高校生の読解力を評価するに際し、その前提となる文章(説明的文章)の難易度に関して、客観的な指標に基づいた分析が十分行われていないという課題の把握から、小学校高学年から中学校の国語教科書に掲載された説明的文章教材の難易度について、語彙、文の統語、文間の結束性の観点から、総合的に分析を行った結果について報告するものでした。
次に, 間瀬教授から「国語科教材を基盤とした読解力診断テストの結果と課題」と題して研究報告がなされました。それは、国語科で学習の対象とする文章のうち説明的文章の読解において、困難をかかえる生徒が困難の原因を診断し、読解の授業における学習及び指導の改善に役立てるために、高校生に対して行った二つの読解力調査の結果を報告するものでした。調査の結果は、次のことを示唆するものでした。
・高1・高2とも、文章の難易度が低いと困難層と非困難層との間で、読解力の差は顕れないが、文章の難易度が高いと両者の差が有意に顕れる傾向にある。
・高2においては、文章の難易度が低くても、読解力の差が顕れる項目がある。
・文の理解力は、文章の難易にかかわらず、語彙、段落の理解力と相関があり、読解力全体を規定する可能性がある。
・一方で、語彙や段落の理解力が、全体を補っているタイプの学習者も存在する。
次に, 登城千加氏(島根県教育センター)から「高等学校における読解力向上のための介入指導の試み」と題して研究報告がなされました。それは、米国での先行研究を参考に、次の8段階からなる読解方略の介入指導を構想し、公立高校の1・2年生の読解に困難のある生徒9名に対し実施した結果を報告するものでした。
ステップ1:介入指導の目的、今後の計画、方略の活用の仕方、評価の仕方の説明
ステップ2:プレテストの実施
ステップ3:方略の具体的な説明(モデル化)
ステップ4:方略の活用状況を測る診断的評価の実施
ステップ5:方略の活用練習 (方略の活用練習→フィードバック→模範解答配付→方略の活用練習)
ステップ6:基準点に達するまでステップ5を繰り返す
ステップ7:ポストテストの実施
ステップ8:授業以外の場面で方略を活用する練習(汎化)
続いて,2名の登壇者によって,上記3名の報告について指定討論が行われました。
まず, 川合紀宗教授(広島大学)により特別支援教育研究の観点から発表に対し、次のことを主旨とするコメントがなされました。
・日本における読解困難の評価方法を改善するため、米国のアプローチを取り入れながらも、特に日本の教育制度や文化的背景に適した評価基準やツールの開発が求められる。そのため、米国のアプローチを参考に、日本の学校現場でそれをどのように適応・発展させていくかを具体的に考える必要がある。
・日本においても「アカデミック言語能力」の概念をもっと広め、学習が高度化し、多岐に渡る読解困難のある学習者に対する支援が充実することが期待される。さらに、評価の結果を基にした教育プログラムの充実が求められる。
・高校国語科における介入指導の充実は、読解困難のある生徒の学習支援において重要な意味を持つ。これをより効果的にするために、適切な評価尺度によるさらなるデータ収集や根拠に基づく支援体制の確立が求められる。
次に, 藤木大介准教授(広島大学)により心理学の観点から発表に対して、次のことを主旨とする問いかけのコメントがなされました。
・文章の難易度とは何か。文字数ではないか。
・なぜ読解の困難さを解決するための方略が要約方略なのか。
以上の発表を受けて, プロジェクトメンバーおよび参加者によるディスカッションが行われました。その中で、学習者の読解の困難さとその解決のための指導や研究について、次のような質疑応答や問題提起が行われた。
・読み手がどう文章の難しさを感じているか。
・テキストや文章の側については言語的パラメーターを設定しやすいが、それが人の頭や心の中に入ったときにどうなるかをとらえるのが難しい。
・高校で現代文を教えているが、個別指導の実施の難しさ、無気力・無関心の問題がある。
・アセスメントにおいては、選択式か記述式かの解答の仕方で結果が異なる。
・語彙や文の統語、段落の設問の種類ごとに、解答の傾向があるか。個人による傾向があるのではないか。
・語彙の問題は、漢字の習得の問題としてもとらえる必要がある。
・小学校の英語教育においては、言語的な構造は単純でも困難が生じている。「難しさ」という問題の複雑さを感じる。
・個人的な経験として、文章を読めても書けないということがあったるなど、得意不得意がある。空間的に示されるとわかるなど、個人による違いへの対応が火筒用ではないか。
・読解力の困難さという問題を考えた場合、学校での文法の学習は、現在の国語科が採用している学校文法とは異なる指導が必要になる。それは、日本語教育における文法の学習が参考になる。
最後に, 司会の間瀬教授より、本セミナーのまとめと今後の公開ミーティングの計画の確認が行われました。
文責(間瀬茂夫)
Ⅱ.アンケートにご協力ください
多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
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教育学研究科HPにも掲載されています(準備中)
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