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【2024.11.19】名古屋大学教育学部附属中学校のみなさまより平和教育に関するインタビューをお受けしました。

公開日:2024年12月12日 カテゴリー:お知らせ

 

 

2024年11月19日(火)に、名古屋大学教育学部附属中学校3年生8名が総合的な学習の時間の一環で広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)を訪問されました。平和教育に関するインタビューに、当センターより川口隆行教授が応じました。以下ではQ&Aのかたちでインタビュー内容をまとめ、当日の様子をお伝えします。

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(以下、Q:名古屋大学教育学部附属中学校3年生のみなさん、A:川口教授)

Q:国際協力の実現のために子どもたちに向けてどのような教育をしていくべきか。ものの見方について「偏っていない教育」とはどのようなものか。

A:偏った教育をしないと言っていたが、置かれた条件によって立場や経験が異なってくる。そのため、偏った人々が集まることを前提にして、まず人々のものの見方がどのように偏っているのか確かめる必要があるのではないか。例えば、ファシズムは今となっては非常に偏ったものとして捉えられるが、なぜ人々は当時熱狂的に支持したのかを分析することが求められる。そのため、自分の価値観を問い直すことから始めなければならないと考える。

Q:写真やデータだけでは伝わらない過去の戦争体験者にとっての戦争の悲惨さをどのようにして伝えることができると考えているか。

A:第二次世界大戦を経験した人々がこの世からいなくなる時代において、ひとまず、戦争経験者の話を聞いておくことが重要である。証言や文学、映像などの記録を残すプロジェクトを行なっているが、それらをどう読んでいくのか、見ていくのかといった姿勢や方法についても問われてくる。さらに、他者の声をどう拾うか、氾濫する情報とどう向き合うかということも大事になってくる。ロシア-ウクライナの関係、イスラエル-パレスチナの関係を例にとってみれば、両者の関係を「知っていること」にとどまらず、「自分の問題として世界で起こっていること」と捉えるためにどのようなことができるのかについて教育を通して考えてもらうことができるのではないか。

Q:平和教育の一環として芸術を活用することについてどう考えたらよいのか。

A:感情や情感を文学や芸術には乗せやすい。この可能性は良い方にも悪い方にも開かれている。作品に対する共感や愛情が大切である一方で、全員が同じような反応をするわけではない。教育において文学や芸術を活用するためには、対象と知的に距離をとって語れるようにすることが必要である。自分たちの活用しているメディアにおいて、何を可視化させて何を不可視かさせているのかに目を向けることが求められる。

 

Q:危険な研究や戦争を行おうとしている国家を止めるには国民にどんな教育が必要か。

A:なにをもって「危険」とするのかは非常に難しい。まずは自分が正しいと思っていること、幸せをもたらすものだと思っていることが最悪な結果をもたらすかもしれないということから考え始める必要がある。私たちにできることは、曖昧な境目がいつか悪い方へ転化していくかもしれない可能性があることに気を付けること。「こうすれば幸せになる」とする綺麗な物語に乗せられることなく、疑いの目を持つことが求められるのではないか。人々に夢を持たせるようなものに対して批判的に考える必要があるのではないか。

Q:すべての人のための教育を実現するという理念に照らした際に、平和教育にはどのような役割が求められるのか。

A:戦争状態や飢餓、貧困などの極限の状態において何かを教える、学ぶということは困難である。平和教育とは、「戦争状態や飢餓、貧困などの極限の状態」が生じないようにするという意味で、我々が生きていく基盤を作っていく、または基盤を成立させるものであると考える。

 

 

Q:これからの平和教育を通して得られる未来とは。

A:究極のかたちとしては、すべての人々が共存・共栄していくあり方を考えることにつながる。多少の喧嘩はあったとしても、誰かが迫害されたり傷づけられたりしない世界とは何なのか、どうしたら実現できるのかについて平和教育を通して考えることができる。

Q:どういう場面で平和について考えていくきっかけを作っていくべきか。

A:例えば、今日のインタビューが刺激になったのであれば、これを通じてきっかけを掴んだ、ということを周りに語ってみる。その語りがすぐに共感されることはないかもしれないけれど、語ること自体に意味がある。人にはそれぞれその語りが受け付けられるタイミングがあるからだ。だからこそ、即効性はないかもしれないことを前提に、あなたの語りが熟するのを待つことも大切ではないか。

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このように当日は、平和教育に関連した全体主義に対するものの見方や考え方、平和教育で使用されるメディア、平和教育の目的とその波及など、非常に普遍的かつ重要なテーマについて議論されていました。今後もEVRIでは、平和教育に関わる情報交換、国内外の研究者と共同研究を推進するための題材提供を行ってまいります。2020年度より「ヒロシマの平和教育者(ヒロシマにゆかりのある地で平和教育に携わってきた教育者)」への聞き取りを行った「平和教育者アーカイブ」特別ページは以下のバナーをクリックするとご覧いただけます。

(文責:川口隆行

 

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