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広域交流型オンライン学習の取組を報告します【中2社会・歴史的な見方・考え方】

公開日:2024年07月18日 カテゴリー:開催報告

7月9日:「歴史的な見方・考え方とは何か,それをどのように働かせることができるか」


  • 授業実施者:川口広美,草原和博
  • 授業補助者:各中学校での授業担当教員
  • 市役所からの中継:牧はるか,田中崚斗
  • 学校技術支援担当者(東広島市内中学校):後藤伊吹,山本健人,三井成宗,露口幸将,和田尚士,近藤郁実
  • 事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,川本吉太郎
  • 事務局機器担当②(志和中学校):宇ノ木啓太,神田颯,酒井涼太,𠮷田純太郎

2024年7月9日,東広島市内中学校3校4学級(志和中学校,福富中学校,豊栄中学校)の2年生(73名)とスペシャルサポートルームの生徒(6名),西条フレンドスペースの生徒(3名)が参加して,「歴史的な見方・考え方」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「歴史的な見方・考え方とは何か,それをどのように働かせることができるか」と題して,歴史学者が働かせている見方・考え方を習得し,活用できることを目指しました。授業全体の進行を川口広美准教授が,解説を草原和博教授が務めました。

 

本時は,年表「東広島市のあゆみ」の中から重要だと思う出来事を選び,発表するところから始めました。例えば,福富中の生徒は「私たちが住んでいる福富町が東広島市に合併したので,2005年の『黒瀬町・福富張・豊栄町・河内町・安芸津町の合併』が重要です」と発表しました。続いて,年表「東広島市のあゆみ」には載っていないけど重要だと思う出来事を発表しました。例えば,志和中の生徒は「これから小・中一貫校を作るときのお手本になるので,2022年の『志和に小・中一貫校ができた』は重要です」,豊栄中の生徒は「オオサンショウウオは特別天然記念物で保護活動が行われているので,2011年の『豊栄町の椋梨川でオオサンショウウオの発見』が重要です」など,年表にはない出来事の価値を訴えました。ここで東広島市にとって重要な出来事についてアンケートを行いました。アンケートの結果,「東広島市のあゆみ」に載っていた「西条町・八本松町・高屋町・志和町の合併」や「山陽自動車道(志和IC~広島)開通」,「黒瀬町・福富張・豊栄町・河内町・安芸津町の合併」など,自分たちの地域にとって関わりのある出来事を重要だと考えていることがわかりました。

さらに,実際に授業観察に来ていた市民3名に,①4町(西条,八本松,高屋,志和)が合併して東広島市が誕生した1974年と,②5町(豊栄,福富,黒瀬,河内,安芸津)が加わって新しい東広島市が誕生した2005年,どちらが大事かと尋ねると,意見が割れました。「市の出発」を重視する市民は1974年説をとり,「現在の市の形」を重視する人は2005年説をとるなど,歴史の意義づけ方には違いがあることが浮き彫りになりました。川口准教授は,重要だと思う出来事は学級や立場ごとに違ったこと,年表には載っていないけど重要だと思う出来事もあること,年表「東広島市のあゆみ」も何かを伝えようとして重要な出来事を選んで載せている可能性を指摘しました。ここで,今日のめあて「歴史的見方・考え方を使って,歴史のメッセージを読み解き・作ろう」が示されました。

 

授業は大きく分けて2つのパートで展開されました。

授業の前半部では,年表「東広島市のあゆみ」に込められたメッセージの読み解きを目指しました。まず「自分たちが重要だと思う出来事が,なぜ「東広島市のあゆみ」には載っていないことがあるのか」,その理由が問われました。生徒からは「各町にとっては重要でも,市全体にとっては重要ではないからではないか」「過去には多くの出来事があり,選ばないとキリがないからではないか」などの仮説が出ました。そこで市役所と中継をつないで,「東広島市のあゆみ」を作った担当者に,作成の意図を尋ねることにしました。担当者からは「1974年を年表の始まりとしているのは,東広島市の市制が施行された年だから」「とくに広島大学の移転と広島中央テクノポリス指定,インフラ整備などの出来事は,東広島市の産業が発展するうえで重要な出来事だった」「紙面にも限りがあるので,市にとってのターニングポイントを優先して選んだ」などの回答を得ました。

次に,年表「東広島市のあゆみ」に(載っていないけど)新たに付け加えるべき出来事を考えました。市の担当者からは「2022年の道の駅西条のん太の酒蔵完成」や「2023年の東広島・安芸バイパスの開通」などの意見が出されました。ここで生徒に新たに付け加えるべき出来事についてアンケートを取ったところ,生徒からは「2022年の志和小・中学校の合併」「2020年の新型コロナウイルス」などの意見が出ました。ここで草原教授は,なぜ歴史が1つには決まらないのかを解説しました。「『過去』は過去におきたこと全部。しかし『歴史』は過去の中から残すに値するものとして選ばれ,語られたこと。過去のどのような出来事を選んで,それをどのように結びつけて,どのような歴史として物語るかは,立場によって異なります」と述べました。

さらに,市役所の担当者に,年表に繰り返し登場する「道路」の整備や「スポーツ大会」がなぜ重要なのかを教えてもらいました。担当者からは,「道路ができると企業が誘致され,企業が増えると人口や税収が増え,人口や税収が増えると町が活性化する」「スポーツ大会が開催されると,全国から人が集まり,有名になって,観光客も来て,また道路もできて,企業が増える」,このような歴史のつながりや出来事の価値を教えていただきました。これらのお話を踏まえ,草原教授に,年表に隠されたメッセージを読み解く際の,歴史的な見方・考え方の使い方を整理いただきました。

  • 比較…過去のどこに注目するのか。私たち一人ひとりの過去を見るときの視点(の違い)。
  • 現在とのつながり…過去の何こそが重要か。現代から見た過去の出来事の意義づけ。
  • 相互の関連…なぜその出来事が起きたのか,どういう影響を与えたのか。因果のつながり。

 

授業の後半部では,年表「東広島市のあゆみ」を各学級で作り直すことを目指しました。大きくは3段階で年表をつくることにしました。まず過去を見る視点を決めることです。志和中と豊栄中は東広島市の「交通」に注目し,福富中は東広島市の「イベント」に注目することになりました。次に,現代から見て重要だと思う出来事を選んで,カードに書き込みました。例えば,「交通」に関しては,「山陽新幹線東広島駅開業(1988年)」「志和ほたる交通開通(2024年)」などが,「イベント」に関しては,「国民体育大会ひろしま開催(1996年)」「第1回アクアフェスタ開催(2000年)」などが選択されました。最後に選ばれた出来事を黒板に貼り付け,つなぎ合わせるとともに,それらを発展と衰退の視点から折れ線グラフ状に表していきました。例えば,同じ「交通」でも,志和中では「『志和IC開通』に始まり『ブールバール開通』や『芸陽バスの志和便減少』などを取り上げ,(志和の立場からすると)始めこそは発展していったが,後に衰退していく」という年表を作りました。一方で豊栄中は「『山陽新幹線東広島駅開業』に始まり『ブールバール全線開通』や『JR寺家駅開業』などを取り上げ,豊栄にとってあまり関係のないブールバール開通こそ評価が低いものの,全体を通しては連続的に発展していく」という年表を完成させました。同じ「交通」の歴史に注目しても,出来事の意義づけや評価の視点,歴史の出発点が異なることが,分かりました。

 

終結部では,本時のまとめとして,草原教授と川口准教授が,「私たちは,歴史的見方・考え方を上手に使うことで,歴史の作られ方を分析することができる」「江戸時代の教科書を読むときも,なぜこの出来事(三大改革や五街道,百姓一揆や打ちこわし)が取り上げられているのか」「逆に江戸時代の何が取り上げられていないか」「歴史の書き手は,どういう点を発展として,どういう点を衰退として描いているかを読み解いてほしい」とのコメントが示されました。

 

このように本授業は,歴史的な見方・考え方を用いることで,「歴史」は他者が作ったものであり,私たちも独自に作ることができることが実感できた2時間となりました。東広島市の歴史年表を各学級で作成し学級間で比較することで,歴史の構築性と多様性が可視化された点が印象的でした。

今回の授業では,それぞれの地域・町が大事にする「歴史」に出会ったり,市役所の担当者が大事にする「歴史」に触れたり,各学級が大事だと思う「歴史」を比較し合うなど,広域交流型オンライン学習の強みを引き出した実践となりました。引き続きNICEプロジェクトは,「歴史をいかに語るか」を含む公共的な課題を,教室を越えて対話する社会科授業を提案してまいります。

 

バナーをクリックするか,こちらから過去の記録をご覧いただくことができます。

本授業は,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築」採択事業「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」とも連動しています。同事業の詳細については,バナーをクリックするか,こちらからご覧いただくことができます。

 

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