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【2023.7.11】定例オンラインセミナー講演会No.140「イギリスにおける社会正義志向の教師教育の動き―Anti-Racism Frameworkを中心に―」を開催しました。

公開日:2023年08月01日 カテゴリー:開催報告

I.開催報告

 

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2023年7月11日(火)に、第140回定例オンラインセミナー「イギリスにおける社会正義志向の教師教育の動き―Anti-Racism Frameworkを中心に―」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に70名の皆様にご参加いただきました。

はじめに、司会の川口広美准教授(広島大学)・菊地かおり氏(筑波大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。多文化の進展に伴い、子どもの教育格差が問題視されている中、学校教育や教師が変化に対応することが求められています。こうした現状に対して、教員志望学生は学ぶニーズがあるにも関わらず、日本の教員養成課程が十分に対応できていない状況にあります。多様性は人種・民族・ジェンダー・宗教など多岐に及び、また対応の仕方も様々であり、社会的に論争を招くところでもあります。こうした課題に対して、イギリスでAnti-racism Framework for Initial teacher education/training(教師教育のための反人種主義フレームワーク)を作成したVini Lander氏(Leeds Beckett University)をお招きして、作成の背景や作成プロセス、内容構成について話しいただくことで、今後の日本の教師教育のあり方について検討したいという点が、セミナーの参加者全体で確認されました。

 

次に、 Lander氏から作成されたフレームワークについて発表が行われました。大きく分けると、①フレームワーク作成の背景 ②フレームワークの作成プロセス ③フレームワークの内容、についてお話がありました。
Lander氏は、フレームワーク作成の背景として、言語的・民族的多様性は増加しており、5年間で60000件を超える人種差別的事件が起こっているのにも関わらず、教育政策的には「脱人種化(de-racialization)」が進んでおり、教員の人種バランスも良くないという現状があることを説明しました。こうした状況に対して、教員組合や大学・学校ベースの教師教育機関の協力を得て、プロジェクトが開始されることになります。フレームワークを作るにあたっては、世界的な文献レビューと共に、関係者の質問紙調査が行われました。
世界的な文献レビューによって、アメリカに比べてイギリスの研究では人種主義への言及がほとんどないこと、また短期的・投げ込み的な実践が多いこと、一部の教師教育者の実践に偏っていることなどがあげられました。
質問紙調査においては、反人種主義の教員養成の重要性の認識が広がっていることや、実践が行われていることも明らかにした上で、時間数やリソースの課題、スタッフの多くが白人であったりして多様性に乏しい現状にあることで、人種主義を教えることにためらいがあることが明らかになったことが説明されました。こうした課題に対して、教員養成課程における「希望と可能性の余地(pockets of hope and possibility)」として、フレームワークが書かれたとされていました。昨年度、フレームワークは発表されたばかりですが、カリキュラム、教育実習、採用・選抜、といった多岐にわたるポイントについて言及されており、そこでの考えるポイントや参考文献などをあげることで、教員養成課程でどのように展開されるかを示していきたいと述べられていました。

 

以上の発表を受けて、佐藤仁氏(福岡大学)からは、まず「「アンチレイシストであるためには、 絶えず自らを客観視し、つねに自分に批判的な目を向け、定期的に自己点検をしなければならない」(イブラム・ X ・ケンディ 2021:p.35)が引用された後に、日本の教員養成改革の特徴として、異質性を前提とした付加的アプローチ(既存の構造に加えて行う)であることや組織や構造的批判が弱い点などを問題点として提示され、それとの比較で、組織レベルと授業レベルを往還しながら、構造的な差別に立ち向かうことを促進するフレームワークの特徴が語られました。そして、今後の展開として政策面にどのようにアプローチするか、という質問をされました。これに対して、Lander先生からはこのフレームワークを直接働きかけるという訳ではなく、今回はまずやってみたいと思う教師教育者の草の根的な活動の支援のために立ち上げたという意図について再度説明がありました。

また、ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では、多くの質問が寄せられました「イングランドで教師や教師教育者になる人はどのような人か」、「反人種主義を行わないといけないという意識はどの程度教師(あるいは教員志望学生)にあるのか」、「イギリス人らしさという価値をどのように扱う」といった質問のほかに、「このフレームワークによってより白人と非白人といった対立を生むのではないか」といった意見も出されました。Lander先生からは、こうした質問に対しても丁寧な応答があり、白人/非白人の構図については、こうした指摘はあるけれども、数十年に及ぶ研究成果の蓄積の中で人種的不公平について明らかにされており、こうした人種についてみないこと(=color blindness)も人種差別につながることであり、こうした構造的な問題について取り組むことが反人種主義なのであるという解説がなされ、参加者全体でフレームワークのよって立つ基盤への理解が深まりました。

最後に、川口准教授・菊地氏から、構造的な社会的不正義に教員養成・教師教育でどのように立ち向かうのかについてはまだ議論が始まったばかりであること。そして、今後日本において、どのように教員養成を考えていくかを、参加者の皆さんと考えていきたいとまとめて、本セミナーは終了しました。

今回のセミナーを踏まえ、EVRIは以下のような政策提言を構想します。

①多様性に応じる教師教育に関しての日本の試みについて、文脈に即して調べ、関係者のニーズや課題を明らかにすることが重要である

②多様性に応じる教師教育を実現するためには、単発的な試みや一部の人に依存することから脱却し、長期的な視点から幅広いフレームワークを構想することが重要である。

 

文責(川口広美)


 

Ⅱ.アンケートにご協力ください

多くの皆様にご参加いただきまして,誠にありがとうございました
ご参加の方は,事後アンケート(アンケートはこちらをクリックしてください)への回答にご協力ください。


*第140回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。
No.140のサムネイル

教育学研究科HPにも掲載されています


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