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Research「教師教育者」研究クラスタ


よい教育ができるよい教師を育てるよい教師教育者をいかに養成するか

ー ❝研究と教育のできる教師教育者の養成・研修モデルを世界に発信する ー

記事公開日:2019年4月16日
記事更新日:2019年4月30日

 

世界のめまぐるしい発展に伴い、「教育の質」が問われていることは言うまでもない。そのため、カリキュラム開発や教育環境の発展はもちろんのこと、特に近年は「教師の質」の向上にも目が向けられている。しかし、日本は教育の先端を走る立場として、次の課題にも目を向けている。それは、「教師教育者の質」の向上である。

先生の先生」と言うとわかりやすいだろう。つまり、先生を教える(育てる)先生とは、アカデミックな言葉では「教師教育者(Teacher Educator)」と表現されている。では、教師教育者とは一体誰のことを指しているだろうか…。広義には教育委員会の指導主事や学校現場の管理職、同僚教師など、教師の成長に影響を与える立場の人も含まれるという。しかし、一番に思い浮かぶのは、大学の先生ではないだろうか。そこで本クラスタで着目したいのが、教師のたまごである学生を教師へと育てる大学の先生、とりわけ教員養成担当者とその養成である。

本クラスタのリーダー:丸山恭司先生(以下、敬称略)は、広島大学大学院教育学研究科教育学講座の教授であり、広島大学副学長(国際交流担当)も務めている。また、長年教育学や教育哲学を軸に研究に取り組んできた。では、これまでの長いキャリアを経て、なぜ今教師教育者の養成や国際協力に取り組んでいるのだろうか。そこで今回は、「教育の専門家」研究ユニット、「教師教育者」クラスタの代表を務める丸山から、本ユニットの研究の最前線と、取り組みに対する想いや今後の展望を語って頂いた。

 

教師教育者クラスタリーダーの丸山恭司先生

 

 

なぜ教師教育者養成について考えるのか

丸山は現在、基盤研究(B)「グローバルに教職高度化を促進する教師教育者養成研修モデルの開発」に取り組んでいる。では、これまで教育学や教育哲学の分野で研究に邁進してきた丸山だが、なぜ教師教育者養成へ、さらには国際協力へと力を注ぐようになったのか。その契機ついて、以下のように語った。

0)アメリカの大学教員養成プログラムとの出会い
丸山の教師教育者養成への関心は、アメリカの大学教員養成プログラムと出会ったことが始まりであった。丸山は、フロリダ州立大学(米国)でPh.Dを取得している。そこで、日本の教師教育者養成とは全く違う、米国の教師教育者養成システムを目の当たりにしたのである。

米国の大学院では、大学教員に求められる力として“研究能力に加えて、教育とマネジメントに関わる大学教員養成プログラム(Preparing Future Faculty Program; PFFプログラム)が実施されている。このPFFプログラムでは、大学院生がいかなる大学にも就職できるような準備ができていることが目指されていた。このプログラムに対し、特にTA制度に衝撃を受けたという。というのも、米国のTA制度は日本のそれとは大きく違い、TAが実際に教壇に立ったり、研究室を持ったりと、かなり自立的であり、効果的なものであったという。この時から、丸山は「日本のTA制度を変えたい」と思うようになったのである。

1Ph.dEd.D型教師教育への需要の高まり
そもそも、これまでの日本の博士課程教育では、教育学研究者の養成(「Ph.D型」の博士課程教育)に偏っていた。しかし、米国だけでなく、世界では教師教育者の養成・研修システムの確立が求められてきた。そこで、日本でも徐々に関心が向くようになり、ようやく平成25年度中教審答申にて初めて教職過程担当教員の養成の必要性が指摘されるようになった。そして、「Ph.D型」に加え、教師教育者の養成を目指す「Ed.D型」の博士課程教育に対する需要が高まってきたのである。

そこで、丸山の所属する広島大学大学院教育学研究科教育学習科学専攻では、同答申に先駆けて、平成19年9月から平成22年3月に、「Ed.D 型大学院プログラムの開発と実践〜教職課程担当教員の組織的養成〜」(平成19年度文部科学省大学院教育改革支援プログラム)に取り組んだ。同プログラムは、将来、教職課程を担当する大学教員、すなわち「先生の先生」 を組織的に養成しようとするものであった。なお、同プログラムは平成22年度から「教職課程担当教員養成プログラム」(教職P)として実施されている(詳細は下記を参照)。丸山はこれらプログラムに中心となって取り組んできており、その成果をさらに発展させることに期待が寄せられた。

(2)教育立国としての日本の国際的役割への期待
加えて、教育立国としての日本には、国際的な貢献が求められている。

日本の教育は、戦後の速やかな復興と経済的成長をもたらした要因として、国際的に学びの対象とされてきた。そのため、日本には国際社会に対して成果を還元する責務があると認識されてきた。そして、世界的に教師教育の高度化が進む中、日本には途上国からそれ応じた支援が求められてきているのである。

広島大学は、これまでその責務を果たすべく積極的に途上国支援を行ってきた。例えば、ドミニカ共和国に対しては、教育改善の協力要請に応えるべく、サント・ドミンゴ自治大学に新設された教育科学部への“授業研究”を中心としたサポートを行ってきた。また、カンボジア王国からは、教員に学士号を付与するための新たな課程・方法の開発への支援が求められた。そこで、教師教育者の養成・研修モデルの開発に携わってきた。丸山は、教師教育者である大学教員の授業力の向上を目指し、両プロジェクトに中心となって尽力してきた。なお、これら研究の詳細は、平成27年挑戦的萌芽研究「途上国における教師教育者養成・研修モデルの開発のための基礎的・予備的研究」にまとめられている。

しかしながら、国際協力支援に関しては、活動期間の終了とともに日本人支援者が撤退した後、現地の活動が途絶えてしまうことはしばしば問題となってきた。そこで、自律的で継続的な教育改善活動のサポートが求められてきた。このような経緯を経た上で、「途上国の教師教育レベルを自律的持続的に向上させていくために、我々はどう国際貢献としての還元ができるか」という課題意識を持つようになったことが、この科研へとつながっている。

 

 

教職Pへの取り組みを通して見出した教師教育者養成の意義とは?!

各国で求められている教師教育の高度化を促進し、国際貢献を果たすために、丸山は次のような課題の解明に取り組んできたという。それは、「学校の教師に必要とされる知識・資質・能力をどのように教職課程で教えていくのか」、「これを可能とするために教育学の諸見識は教職課程にどのように落とし込まれるべきなのか」、「それらは大学の授業においてどのように教えられうるのか」、「そうした知識や技術を教職課程担当教員はどのように習得できるのか」…。米国のPFFプログラムを体感した丸山は、これら課題の中でも、特に整備が求められているにも関わらず、十分な対応がなされてこなかった“教師教育者の養成研修”に着目し、いち早く取り組んできた。

丸山の所属する広島大学大学院教育学研究科教育学習科学専攻では、平成19年9月から平成22年3月にかけて、「Ed.D 型大学院プログラムの開発と実践~教職課程担当教員の組織的養成~」(平成19年度文部科学省大学院教育改革支援プログラム)に取り組んだ。同プログラムは、将来、教職課程を担当する大学教員、すなわち「先生の先生」を組織的に養成しようとするものであった。

なお、同プログラムは平成22年度から「教職課程担当教員養成プログラム」(教職P)として実施されている。教職Pは、教育学研究者の養成(「Ph.D型」の博士課程教育)と教師教育者の養成(「Ed.D型」の博士課程教育)を目指す、TA制度を利用した教育実習プログラムであり、大学の授業研究である。その有用性が評価され、現在もこのプログラムは継続して実施されている。このように、教師教育者の養成を大学基盤で行うことで、学術的根拠を持ってその成果を発信することができたのである。丸山は中心となってその開発と実践に取り組んできた。

 

 

 

グローバルに通用する教師教育者の養成研修モデルを開発する

では、世界に発信できるような教師教育者の養成研修モデルとはいかなるものか。丸山はそんな課題にチームを作って臨むこととなり、基盤研究(B)「グローバルに教職高度化を促進する教師教育者養成研修モデルの開発」に取り組み始めたのである。この時、アクティブラーニングの手法として世界的に注目されている“ケースメソッド”と、学校現場や外国への普及効果が見込まれる“授業研究”を取り入れた教師教育者の養成研修方法に着目することとしたのである。

 

Step1:教職課程を研究する
広島大学教職課程担当教員養成プログラム(教職P)運営メンバーを研究力者として組織し、教育学研究者らとともに、教職課程研究を行ないっている。特に、教師教育者養成を大学院で行う際にはTA経験が重要とされてきた。そこで、協定大学であるフロリダ州立大学(米国)とは、TA交流や研究協力を通して、モデル開発の参考にした。さらに、丸山が広島大学のTAサポートデスクの運営委員長も務めていることから、EVRI教師教育者クラスタはTAサポートデスクの活動を支援しつつ共同でモデル開発を進めている。

 

Step2:専門職の養成・研修のためのケースメソッドを開発する
学校ケースメソッド教育研究会およびケースメソッド教育研究所と協力し、専門職養成の方法として普及しているケースメソッド(=事例教材をもとにして行うディスカッション型授業」の総称、ケースメソッド教育研究所HP参照)を取り入れたプログラム開発に着手している。さらに、平成26年10月には、実際に教員養成の手法としてケースメソッドを普及させているミネソタ大学(米国)との研究会を開催し、世界に通用する教職課程の授業法ならびに教職課程担当教員の養成研修の方法としてケースメソッドの開発に取り組んでいる。

 

Step3:授業研究を中心とした教師教育者養成研修プログラムを開発
丸山がこれまで取り組んできたプロジェクトをつなぐもの、“授業研究”である。というのも、教職Pもドミニカ共和国への支援活動もそのプログラムの中核は“授業研究”であった。そこで、東ヨーロッパおよび中央アジア諸国に対する“授業研究”の教育国際協力の実績を持つライプツィヒ大学と連携し、授業研究を中心とした教師教育養成研修プログラムの開発に取り組んでいる。

[ドミニカ共和国での活動の様子]

*本クラスタに所属する桑山尚司先生(国語文化教育学講座)と岩田昌太郎先生(健康スポーツ科学講座)も派遣されています

 

Step4:途上国における教師教育者養成研修プログラムを開発・実践・評価する
そして、国内で開発したモデルをもって、その適応と検証をドミニカ共和国とカンボジアで試行する。さらに、同じく教師教育者養成をミッションとする北京師範大学、ソウル国立大学に外部評価を受け、このモデルプログラムの成果を発信しようとしている。

[ソウル大学と北京師範大学との研究交流に関するEVRI・HUGLIレター]

 

これら4つのステップと、下記図のような構造でこの科研は進められている。また、この科研のプロジェクトと本クラスタのメンバーである桑山先生や岩田先生で協力して、「教師教育者の養成」という課題に取り組んでいる。

[研究組織の全体像]

 

丸山らは、教育学研究者クラスタの活動と連携して、研究者養成と教員養成の双方を担う世界各地の大学を調査した成果を報告書にまとめている(草原和博ほか『教育ヴィジョン研究センターの企画・運営戦略に関する研究(3)』「広島大学大学院教育学研究科共同研究プロジェクト報告書」第17巻,2019年,67-76)。調査の中には、教師教育者の養成システムに言及したものも多く含まれているので、こちらもぜひ参照していただきたい。

 

平成29年度・30年度はモデル開発とフィールドの基盤構築および試行

この研究は、丸山のこれまでの研究成果(平成27年挑戦的萌芽研究「途上国における教師教育者養成・研修モデルの開発のための基礎的・予備的研究」)と既存の組織(「教職課程担当教員養成プログラム(教職P))を利用し、発展させるものである。研究組織としては、研究代表者・分担者のほか、「広島大学教職課程担当教員養成プログラム運営メンバー」や「広島大学教科教育学担当教員」、他の研究機関、そして教員養成を担う先進国および途上国の大学教員などの「外部協力者」で構成されている。そこで、EVRIがこれら組織と連携し、これまでに行ってきた取り組みを紹介しよう。

 

【具体的な取組1】カンボジアへの教員養成大学基盤構築プロジェクトの支援

EVRIは、本科研と連携しカンボジアにおけるJICA技術協力プロジェクト「教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト」に協力している。詳細は関連レターおよびHPを参照されたい。この活動を通してフィールドを広げ、教師教育者養成研修のモデルプログラムの試行を試みている。

 

【具体的な取組2】講演会や学会を通した授業研究の海外発信に関する研究

2017年11月29日に第3回定例セミナーとして特別講演会を開催した。Prof. Dr. Andreas Gruschka先生(元フランクフルト大学)をお招きし,教授学と授業研究,そして教師教育との関係性についてご講演いただいた。一般教授学の立場から授業の記録と解釈に取り組むGruschka先生の研究アプローチの特質と日本の授業研究・教師教育の特徴も浮かび上がる会となった。

【広報用レター EVRI Letter No.09】
(ポスターをクリックするとPDFが開きます)

2018年11月28日(水)には、研究拠点創成フォーラ ム(9)「授業記録に基づく授業の解釈ー授業分析の研究方法論を問うー:ライプツィヒ大学における授業分析方法論」を開催した。本フォーラムでは、MariaHallitzky教授らライプツィヒ大学教育科学部・一般教授学研究室の先生方をお招きし、ライプツィヒ大学一般教授学研究室における授業分析方法論をご提示いただいた。特に、第11学年ドイツ語「メアリー・ステュアート」の授業記録を質的研究法を用いてワークショップ形式で解釈していくことで、同研究室の授業分析では、研究のための問題設定は行いつつも、なるだけフリーな視点から教授=学習過程を解釈していくことに重点を置いた授業分析方法論をとっていることが明確となった。

 

 

 

 

 

今後の展望:教師教育者養成のという切り口から世界の教育の質を上げたい

「もっと力をつけて、国際レベルでも国内でも重要な機関でありたい」。丸山はインタビューの最後にこう言っていた。“機関”とは、広島大学のことである。この発言から、組織として教師教育者養成研修プログラムと教育国際協力に取り組む必要性と社会からの期待の高さを実感していることが伺える。さらに、同じミッション=“研究者の養成と教師教育者の養成”を掲げている国内外の大学との研究ネットワークを広げていき、学生をも巻きこむことで、グローバルな教師教育の高度化の発展に貢献したいという野望を抱いている。

 

「ネットワークを広げた時、我々はどう社会貢献できるか…考えています」

 

つまり、丸山が取り組む課題=“グローバルな教師教育の高度化を促進する教師教育者養成研修モデルの開発”は、決して個々の研究者や実践家で成し遂げることのできるものではないということである。同じ目標を持った国内外の学生、教師教育者、研究者、組織間の連携があってこそ、グローバルに通用する成果を発信することができるという。EVRIの教師教育者クラスタとの連携を切り口に、世界の教師教育者養成と日本の教師教育者養成の発展をのぞんでいる。