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日本税理士連合会は,2013年度から,将来の租税教育を担う教員の養成を目的として,大学における教育・研究活動の費用を助成する「教員養成大学寄附講座」を開設しています。2023年度より当該の寄付講座が広島大学でも開設されることとなり,EVRIの川口広美准教授が講座を担当しました(2023年度の様子はこちら, 2024年度の様子はこちら) 。2025年度も,本講座は川口准教授が引き続き担当します。ここでは,広島大学の教師志望学生向けに行われる寄附講座について紹介します。
【講座担当の川口准教授より】
「税」は,健全な社会生活を保障する上で基盤となるものであり,不可欠なものです。また,教材として「税」を用いることで,よりリアルに政府と市民の関係性を検討できる可能性もあります。その一方で,「税」は子どもたちにとって実感を持ちにくい抽象的な概念であり,扱いにくく感じることもまた事実です。「税」の授業を通して,子どもと共に今後の社会のあり方を主体的に構想できる社会科授業はどのようなものかーを探究していきたいと思います。
・2023年度から2025年度にかけて,川口広美准教授が担当する中等社会系教科の教員養成科目「社会系(公民)教科指導法」を,日本税理士連合会の寄付講座として実施する。2025年度の寄付講座は,第2ターム(6月6日から8月1日)に実施される。
・授業は対面を基本として広島大学教育学部にて実施し,必要に応じてオンラインを併用する。メインプラットフォームとしてMicrosoft Teamsを活用する。
・プロジェクトや授業の運営には,川口准教授に加えて,田中崚斗(人間社会科学研究科D3)が従事する。
・6月25日(水), 7月9日(水), 7月16日(水), 7月30日(水)は, 税理士会からのゲストと一緒に授業を展開します。
・教育学部A棟409、社会認識教育学図書室に租税教育に関する教材研究ができる書籍が配架されました!学生の皆さん、ご活用ください。こちらから書籍名等をご確認いただけます。
第1回・第2回の講義が始まりました。
今年度の「社会系(公民)教科指導法」は,受講者56名となりました。
第1回は,大きく3つの活動が行われました。第1は,本講義の目標や「租税教育を担う教員養成プロジェクト」との関わり,講義の進め方について川口広美准教授から説明がなされました。具体的には,「自分がもつ公民科授業に対するイメージを再構築し,公民科授業を作ったり,現状の授業を分析し改善したりできる資質・能力の獲得」を講義の目標とすることや,「学生同士のディスカッション」を中心とした講義展開にすることなどの説明がなされました。
第2は,講義名にも入っている「公民とは何か」を考える活動が行われました。ここでは,まず,学習指導要領で公民科の目標として明記されている「公民としての資質・能力の育成」について考える前に,「そもそも公民とは,公民としての資質・能力とは何か」という根本的な問いを考えることから始めました。公民とは何かを考えるにあたり,映画『シザーハンズ(Edward Scissorhands)』のワンシーン(町に降りてきたばかりで社会のルールが分かっていない人造人間の主人公に,その人造人間と共に暮らす家族たちが社会のルールを教えるシーン)を視聴し,必ずしも「いい人=いい公民」とは言えず,「社会の中で生きる人=公民」であることを理解させました。このような公民の定義を確認した後,「10~20年後の社会で必要な公民としての資質・能力とは何か」を考える活動が行われました。学生の回答からは,多言語を話せる能力,情報リテラシーなどが出てきました。
第3に,学生からの回答を受けて,川口広美准教授から,「公民を育成する社会科(公民的分野)の教師は,現代や未来の社会で生きる腕上で欠かせない資質・能力を設定し,その資質獲得のために授業を開発・実践できる必要があること」が共有されました。ここで,第1回の講義は終わりました。
第2回も,大きく2つの活動が行われました。
第1は,「公民科に対する高校生の認識」を理解する活動です。具体的には,公民科に対する高校生の認識に関する調査結果から①公民科に対しては好きや嫌いといった感情もなく,印象が薄いこと,②多くの高校生は,学校卒業後の生活において,公民科での学びが活かせないと思ってはいないことの説明がなされました。
第2は,「公教育としての公民科の役割とその限界」を考える活動です。ここでは,ロールプレイングを通して考えてもらいました。具体的には,投票率の低い社会やフェイクニュースで溢れる社会において,この課題の責任を学校教育の公民科に求めるべきか,公民科に責任を求めるのは間違っているのかを議論するロールプレイングを経験し,その後に学校教育における「公民科」と他教科の比較,教科教育と教科ではない教育との比較,学校教育と社会教育の比較を通して,公民科の役割とその限界」を考えてもらいました。ここで第2回の講義は終わりました。
「租税教育」においても学校教育の一教科教育における社会科の公民的分野・公民科だけで担うものではありません。例えば,TVやYouTubeを通した租税に関する教育,税理士さんといった外部講師を招いた特別授業。こういった教育・授業がある中で「公民科」はどのような教育・授業を実践していくべきなのか。今後も学生が考え続けていってくれることを望みます。
(文責:田中崚斗)
第3回の講義では、大きく分けて2つの活動を行いました。
1.「観察による徒弟制」の理解を深める活動
まず、「観察による徒弟制」という概念について深く掘り下げました。「観察による徒弟制」とは、太田(2017)が「教職における社会化過程の一側面」と定義しているように、教員志望の学生が、自身が児童・生徒として受けた授業や教師の姿を無意識のうちに理想として捉えてしまう機能のことです。この機能を自覚せずにいると、教員養成課程で学ぶ新しい知識や方法を受け入れにくくなったり、過去に受けた教育体験を現代の教育現場で無批判に再現してしまったりする可能性があります。
この「観察による徒弟制」を理解した学生たちは、自身が「良い」と考える公民科授業や、その判断基準を見つめ直し、振り返ることで、新たな学びを得られることを認識しました。
2.租税教育の授業事例検討と自己の社会科授業観のメタ認知する活動
次に、租税教育に関する4つの異なる授業例について学び、それぞれを比較検討する活動を行いました。ティーチングフェローの田中崚斗が、書籍や論文から収集した以下の4つの授業例を紹介しました。
学生たちはこれらの授業例を聞き、「どの授業が最も良いと思ったか、その理由は何か」を深く考察しました。学生からは、「納税の重要性や役割を理解できるため、②の授業が良いと思った」「子どもたちが主体的に関わる授業となっているため、③の授業が良いと思った」といった多様な意見が出されました。
この意見共有の後、「より良い租税の授業と考える自身の判断基準」についてメタ認知を促す活動を行いました。ここでは、先に述べた「最も良いと思った授業とその理由」に関する自身の意見を客観的に分析することで、各自が持つ「良い社会科授業観」を深く認識できるようにしました。以上で第3回の講義は終了いたしました。
第4回授業では、公民科授業の質を判断する新たな基準として、「社会化」と「対抗社会化」という概念を理解し、これらを実際の授業事例に当てはめて分析しました。
後藤(2022)によると、「社会化」とは、個人が社会集団の一員として価値観や規範、知識、技能などを身につけていく試みを指します。一方、「対抗社会化」とは、その社会化に対し意図的に問いかけ、批判的な視点から社会を捉え直そうとする試みです。
私たちは、第3回で扱った租税教育の4つの授業例を、「社会化」と「対抗社会化」という観点から詳細に分析しました。例えば、「現在の税制度を公平・公正の観点から分析し、より公平な社会形成に向けた意見や行動案を案出させる授業」は、「対抗社会化」を強く促す事例として挙げられます。このタイプの授業では、既存の社会の仕組みをただ理解するだけでなく、それを批判的に捉え、より良い社会を形成するための具体的な行動を考える視点を養うことができるからです。
この分析を通して、どのような授業が「社会化」を促し、どのような授業が「対抗社会化」を促すのか、その具体的な内容を深く理解することができました。
「租税」に関する授業も多様にあります。例えば,「税金を納めるべきだ」という価値や日本の税制度に関する知識を獲得させることを目標に設定する授業もあれば,日本の税制度の課題を認識させたりその改善策やあるべき姿を提案したりすることを目標に設定する授業もあります。そこで,自分自身の回答はどちらが強かったか。今回の学びを踏まえ,社会化させる公民科授業や対抗社会化させる公民科授業を開発・実践できるようになることを望みます。
(文責:田中崚斗)
第5回の授業では、大きく分けて2つの活動を行いました。
1.「教師の意思決定」に関する理解を深める活動
ここでは,まず自分が考える中学校社会科公民的分野で行うべき租税の授業とその理由をメタ認知することから始めました。第3回の講義で扱った「税の必要性を理解し,納税意識を育む授業」「税の役割や納税の重要性を理解するとともに,現状の税の使い道に対する意見を形成させる授業」「現在の租税に関する議論を理解し,自分たちの社会をより良くするための税制度のあり方について意見を形成させる授業」「現在の税制度を公平・公正の観点から分析し,より公平な社会形成に向けた意見や行動案を案出させる授業」を示し,中学校社会科の公民的分野で実践すべき授業は何かを考えてもらいました。そこでは「受験対策をするために,「税の必要性を理解し,納税意識を育む授業」を実践すべき」という意見や「義務教育の最終段階だから」「税の役割や納税の重要性を理解するとともに,現状の税の使い道に対する意見を形成させる授業」をすべき」という意見が出てきました。そのあと,教師の意思決定には3つのレベルがあることが川口広美准教授から教授されました。3つのレベルとは,「テーマ「を」教える授業をするのか,テーマ「で」教える授業をするのかを決めるレベル」「どのようなトピック(内容・事例)を扱うかを決めるレベル」「どのような方法で教えるのかを決めるレベル」です。こうしたによって学生は教師が重層的な意思決定をしていることを認識できました。
2.「教師のための教材研究と子どものための教材研究」に関する理解を深める活動
ここでは,まず教材研究には2つの意味があることが川口広美准教授から教授されました。第1の意味は「教師のための教材研究」であり,「どんな内容を教えることが求められているのか」「その内容には,どのような学術的な議論がなされているのか」など教える内容の魅力や良さを教師自身が認識するための教材研究です。第2の意味は「子どものための教材研究」であり,「「教師のための教材研究」で得た認識を,子どもに伝えるためには何が必要か」「どのように伝えることができるか」など,子どもである児童・生徒に教育内容を獲得させる方法を探すための教材研究です。次に,この2つの教材研究を視点として,前の活動で扱った3つの教師の意思決定レベルを学生に分析させてもらいました。そこでは,学生が「テーマ「を」教える授業をするのか,テーマ「で」教える授業をするのかを決めるレベル」を「教師のための教材研究」として位置づけ,「どのような方法で教えるのかを決めるレベル」を「子どものための教材研究」として位置づけていました。一方で「どんな内容・事例を扱うかを決めるレベル」は「教師のための教材研究」として位置づけるのか「子どものための教材研究」として位置づけるのかが議論になっていました。以上で第3回の講義は終了いたしました。
第6回の授業では,2つの活動を行いました。
1.「税理士やその仕事」の理解を深める活動
ここでは,まずYouTubeを通して,税理士の仕事の概要を理解してもらいました。具体的には,税理士のなり方,税理士と公認会計士の違い,税理士の仕事内容などを説明してもらいました。次に,税理士の三好建弘先生に自己紹介も兼ねて、税理士になったきっかけや魅力などを教えていただきました。そこでは、祖父の影響で税理士になろうと思ったといった経緯,都市部と地域によって異なる税理士の役割や仕事の違い,税理士の仕事を規定する税法の存在などを教示頂きました。
2.「税金やその役割」の理解を深める活動
ここでは,税理士の三好建弘先生に以下4点について講演していただきました。1点目は,税の必要性についてです。これまでの研究成果を踏まえ,「運が人生を作用してしまうこと」「そんな人生を生きる上で保障があると生きやすいこと」「その保障の役割として税があること」等を教授頂きました。2点目は,税の歴史についてです。これまでの世界史や日本史を租税の観点から分析し,「支配者階級の生活のための仕組みとしての税から,社会共通の費用をまかなうための仕組みとしての税に変わっていたこと」を教授いただきました。3点目は,現在の租税の仕組みについてです。そこでは,「現在の税制」は公平な課税を実現するために,水平的公平(同じ状態にある人(例:同じ所得額な人)は同じ税負担になるという考え)と垂直的公平(税を納める能力の違い(例:所得の違い)によって税負担が異なるという考え)に基づく様々な税が設定されていることを確認しました。4点目は,日本の税制の問題点とルール作りの必要性・主体性についてです。ここでは,租税教育の目的が「税金を通じて社会の在り方とかかわり方への意識を育てる」ことであり,学生に「税金の運用は自分たちが決めるべきであり」「問題があれば声を上げる必要性」が三好建弘先生から教授頂きました。
「租税」に関する授業を実践しようとすれば,税の重要性を教える授業となったり,税を事例に社会を批判的に捉える授業となったりします。そういった授業を作る際に,教師の教材研究は欠かせません。今回の学びや三好先生の講演を踏まえて,より良い授業づくりに向けた教材研究を学生が実践できるようになることを望みます。
(文責:田中崚斗)
第7・8回の授業はTFの田中崚斗さんを中心に展開しました。
第7回の授業では,大きく分けて2つの活動を行いました。
1.公民的分野の教科書の見開き1ページを使って「租税」の授業をつくる活動
ここでは,まず,なぜ教科書を用いた授業づくりを学ぶ必要があるのかを確認することからはじめました。具体的には,TFの田中崚斗さんが「教師の授業を開発・実践する際に多様な事柄(例えば子どもの実態,社会や国の状況,指導要領等を踏まえ意思決定していること」「その調整のためには学習指導要領の意図やねらいを理解しておく必要があること」「その意図やねらいを反映した教材である教科書を用いて授業を作ることで,学習指導要領の意図やねらいを理解することもできること」を教授しました。次に,教科書を用いた授業づくりを行いました。その後,田中さんから説明された教科書を用いた授業づくりのステップにそって個人で公民的分野の教科書の見開き1ページを使った「租税」の授業をつくりました。最後に,同じ教科書を使った者同士で授業を批判・検討し合い,作った授業をブラッシュアップさせていきました。
2.公民的分野の教科書の見開き1ページでは,どんな資質や能力をいかに育もうとしているかの理解を深める活動
ここでは,つくった授業を「育もうとしている資質・能力」「その資質・能力の育成方法」の観点で分析することから始め,その後,分析結果をグループや全体に共有しました。そこでは,「自分が作った授業では「「税金に対する基本的な知識」を獲得できるように,「資料を読み取らせたり,教師が説明したりする方法」が用いられている」という意見や「「現在の税制度を批判的に考察」できたり「資料が読解」できたりするように,「グループワーク」が用いられている」という意見が見られました。その後,田中さんから「同じ教科書を使って授業を作ったのに,なぜ「育もうとしている資質・能力」「その資質・能力の育成方法」が違うのか?」「指導要領に基づいている教科書なのに,出版社の違いによって「育もうとしている資質・能力」「その資質・能力の育成方法」が違うのはなぜか?」との問いが投げかけられました。学生は考えを巡らせ「立場や生まれ育った環境の違いが影響しているのではないか」「教科書会社の意図やねらいが違うからではないか」等の回答をしました。この回答を踏まえて,田中さんからは「学生自身も無意識のうちに多様な事柄(例えば子どもの実態,社会や国の状況,指導要領等)を踏まえ意思決定し,授業を開発・実践していたから,同じ教科書を使って授業を作ったのに,「育もうとしている資質・能力」や「その資質・能力の育成方法」が異なったこと」「学習指導要領も解釈の可能性に開かれているため,出版社の違いによって「育もうとしている資質・能力」「その資質・能力の育成方法」が異なっていること」が説明されました。以上で第7回の講義は終了いたしました。
第8回の授業では,2つの活動を行いました。
1.学習指導要領の意図やねらいに関する理解を深める活動
ここでは,まず学習指導要領解説の目次を分析し,その構造を理解する活動から始めました。具体的には,「学習指導要領解説には,「総説・社会科の目標及び内容,指導計画の作成と内容の取り扱いからなる解説」と「付録にある指導要領の本文」があること」「解説に当たる「総説・社会科の目標及び内容,指導計画の作成と内容の取り扱いには,それぞれ「前学習指導要領からの変化の経緯や留意点」「社会科の目標,内容,方法に関する具体や留意点」「指導計画を作成する際の特定の子どもへの配慮や学習活動の工夫など」が書かれていること」「本文は,社会科の目標,各分野(地理・歴史・公民)の目標・内容・内容の取り扱い,指導計画の作成と内容の取り扱いから構成されていること」を見つけていきました。次に,学習指導要領を分析し,意図やねらいに関して理解を深めていきました。具体的にはジグソー法を用いて,学習指導要領を「社会科全体の目標」「公民的分野全体の目標」「租税を扱う授業で育むことが期待されている資質・能力」「その資質・能力を育むための内容の取り扱いや学習活動の工夫」の観点で分析しました。そして,その分析結果をグループ全体に共有し,学習指導要領の意図やねらいに関して理解を深めていきました。
2.学習指導要領の意図やねらいを踏まえた上で,作った授業をブラッシュアップする活動
ここでは,前の活動で理解を深めた学習指導要領の意図やねらいに加え,内容の取り扱いや指導計画の工夫を踏まえて,第7回でつくった授業をブラッシュアップさせる活動が行われました。そこでは,まず学習指導要領の意図やねらいに加え,内容の取り扱いや指導計画の工夫を踏まえたときの自分たちがつくった授業の課題を見つけることから始めました。グループ活動の中では「現代社会の見方・考え方を働かせられていない」や「多面的・多角的な考察をさせることができていない」という意見が出ていました。次に,その課題を乗り越えるために自分たちがつくった授業をブラッシュアップしました。グループ活動の中では,「現代社会の見方・考え方を働かせられるようなテーマに変えよう,活動を取り入れよう」といった意見がでていました。
前回は税理士の三好先生の講演を通して「税金」に関する理解を深めました。そして今回は,その知識とこれまでの講義で獲得した授業づくりの知識を活用して,実際に授業を作るスキルを獲得できるようにする講義です。このように「税に関する知識」と「授業づくりに関する知識」を統合して,学生がより良い「税を扱う公民的分野の授業」が開発・実践できるようになることを望みます。
(文責:田中崚斗)
第9回の授業では,大きく分けて4つの活動を行いました。
1. 「税理士やその仕事」の理解を深める活動
ここでは,税理士の奥順夫先生に自己紹介も兼ねて,税理士になったきっかけや魅力などを教えていただきました。そこでは,大学生の時に日商簿記を受験した経験や研究室のOBとの交流経験から税理士になろうと思った経緯,企業の経営者と交流し経営や税金対策について決めていくといった税理士の仕事やそのやりがいなどを説明頂きました。
2. 「租税法の基本原則」についての理解を深める活動
ここでは,奥順夫先生による「租税法における3つの基本原則」について説明がありました。「租税は,3つの原則,すなわち①租税法律主義,②租税公平主義,③自主財政主義に基づいていること」を説明して頂きました。①租税法律主義とは,「法律の根拠に基づくことなしに,国家は租税を賦課・徴収してはならず,国民は納税の義務を負わされることはない」という考えです。そして,②租税公平主義とは,「税の負担は国民の間に担税力(税金を負担できる能力)に即して公平に配分されなければならず,各種の税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならない」という考えです。③自主財政主義とは,「地方公共団体は,憲法上の自治権の一環として課税権をもち,自主的にその財源を調達することができる」という考えです。次に,グループで「なぜ,このような原則を立てているか」を考える活動が行われました。グループ活動の中では「特定の人だけが税の恩恵を受けないためではないか」などの意見が出てきました。これらの意見を聞いた奥順夫先生は,「これらの原則を立てる理由には,公平な社会の実現という考えがある」という説明をなされました。
3. 「日本の租税の構造を見極める視点」についての理解を深める活動
次に「日本の租税の構造を見極める視点」に関する説明を聞きました。まずは,日本の税金には50種類あることを説明して頂きました。次に,この50種類を分類する視点として,①税の対象で分類する視点,②税金を徴収する主体で分類する視点,③税の対象の規模で分類する視点,④担税力との関係性で分類する視点を教示頂きました。①税の対象で分類する視点としては,⑴所得税や法人税等が位置づく所得課税,⑵相続税・贈与税や印紙税等が位置づく資産課税,⑶消費税や酒税が位置づく所得課税という分類を教えて頂きました。次に②税金を徴収する主体で分類する視点としては,国が賦課・徴収する国税,地方公共団体が賦課・徴収する地方税という分類を教えて頂きました。そして③税の対象の規模で分類する視点としては,⑴法律や条約で税率が決まる関税,⑵関税とは異なる内国税という分類を教えて頂きました。最後に④担税力との関係性で分類する視点としては,⑴所得や財産などの担税力を対象として課される直接税,⑵消費や取引などの担税力を対象として課される間接税という分類を教えて頂きました。
4.「日本の租税の構造」についての理解を深める活動
続いて「日本の国家における税収と歳出」に関する詳細な説明を聞きました。具体的には,「国の歳入において所得税・法人税・消費税の税収は各20%程度に当たること」や「国歳出において,社会保障に30%程度当てられ地方交付税交付金に訳20%程度当てられていること」を教えて頂きました。こうした説明を聞き,学生は,公平な社会の実現に向けた税収と税の使い方に関する現状の理解を深めることができました。
以上で第9回の講義は終了いたしました。
第10回の授業では,大きく分けて4つの活動を行いました。
1.「所得税」に関する理解を深める活動
最初に,所得税とは何かを確認しました。奥先生からは,所得税とは,「個人に課税される税金であり担税力の源泉を,所得,消費及び資産とした区分した場合に所得に対して課される税金」という説明がありました。次に,所得税の課税方法に関する説明を聞きました。具体的には「所得金額を合計して所得課税額が決まる総合課税」という方法と,「ほかの所得と分離して所得課税額が決まる分離課税」という方法があることを学びました。さらに,所得税の計算方法と所得控除の種類に関する説明を聞きました。具体的には,「収入金額-(必要経費+損失)=所得金額,所得金額-所得控除=課税所得,課税所得×税率=所得税額」といった計算方法や,所得控除の種類として,「雑損控除」「医療費控除」「寄付金控除」といった所得控除の種類があること,さらに,寄付金控除の一つであるふるさと納税の仕組みを学びました。
2.「法人税」に関する理解を深める活動
次に,法人税の定義を確認しました。奥先生は,所得税の定義を「法人(株式会社・有限会社・協同組合など)がえた所得に課税される税金」「法人税は原則として黒字法人のみが支払い,赤字法人には課税されない」と説明されました。その後,法人税の税率に関して説明がありました。具体的には「昭和50年代と比べると,今は法人税の税率が半分になっていること」「中小企業や普通法人,公益法人といった違いによって税率も異なること」等を学びました。続いて,法人税の計算方法に関する説明を聞きました。具体的には,「収益-費用=課税所得」という基本的な計算方法などを学びました。
3.「消費税」に関する理解を深める活動
ここでは,消費税の導入から現在に至るまでの消費税率の変遷に関しての説明がありました。次に,諸外国の消費税に関する税率の違いだけでなく,国内外における消費税率と社会保障との関係性の実情を踏まえ,今後も消費税のあり方について考えていかなければならないことを学びました。続いて,消費税の負担に関する説明を聞きました。具体的には,負担者である消費者と税の申告・納付者である事業者が変わるため,間接税に位置づくこと等を学びました。
4.「税金」に関する学びを授業化する活動
ここでは,これまでの奥先生の講話を踏まえ,教師として何を教えるべきかを考えました。具体的には,川口広美准教授が「奥先生の講演内容は複雑かもしれないが,すべて重要である。ただし,全てを授業化できるわけでない」ということを述べ,「その上で,教師として何を授業で扱うか扱わないのかを意思決定しなくてはいけないこと」を説明しました。その後,教師として「奥先生の講話内容のどのような内容を授業で扱うか,それはなぜか」を考える活動を行いました。そこで学生達は,「消費税率と社会福祉の関係性における問題点」や「税金の構造を捉える視点」をあげていました。
本講義は,税理士の奥先生の講演を通して「税金」に関する理解を深めました。奥先生が講演中に教示してくださったように,「公平な社会の実現」をめざしていながらも,現在の税制は完璧な制度ではなく,私たち一人一人が,その問題点と改善方法を考えていく必要があります。今回教えて頂いた「税金」に関する知識を活用し,学生が「公平な社会」を実現できるより良い「税を扱う公民的分野の授業」を開発・実践できるようになることを望みます。
(文責:田中崚斗)
第11回の授業では,大きく分けて3つの活動を行いました。
1. 「税理士やその仕事」の理解を深める活動
ここでは,税理士の野邑吉樹夫先生に自己紹介も兼ねて,税理士になったきっかけや魅力などを教えていただきました。税務署に20年以上勤務された経験を活かして、現在は税理士として活躍されているといったキャリアの歩みや、税理士という仕事のやりがいについて、わかりやすく説明して頂きました。
2. 「租税教室」の実践についての理解を深める活動
ここでは,まず,野邑先生が「租税教室で留意している事項」について説明がありました。そこでは、「一方的に話をするのではなく,生徒さんも巻き込んでみんなで意見を言い合うスタイルで授業していること」「生徒さんに答えて良かったと気持ちになっていただくことを意識して実践していること」を大切にしているとの説明がありました。その上で,学生が生徒役になり、野邑先生による「租税に関する授業」を体験する活動が行われました。野邑先生は「税金は必要か?」「税金を多く払いたいか?」「誰が多く税金を支払えば良いと思うか?」「消費税率は何パーセントが良いか?」「税金のない日本をどのように思うのか?」という質問を投げかけ,学生が生徒役として問いに答えていきました。その中で,税金の役割や税金を納める主体,税制度の現状と課題について考えていきました。
3. 「租税教室」の実践における構成についての理解を深める活動
最後に,野邑先生の授業について分析する活動が行われました。まず学生が授業を思い出しながら,授業実践された高校の状況や投げ込み授業であるという条件を意識して「どのような内容をどのような方法で教えていたのか」「どのような教材や働きかけの工夫があったか」「その内容・方法・教材・働きかけの背景には何があるか」を分析していきました。次に,グループに分かれ,個人の分析結果を共有していきました。最後に,野邑先生に租税や授業の工夫について質問し,「投げ込み授業でやることの難しさ」や「その難しさを乗り越える工夫」について理解していきました。
以上で第11回の講義は終了いたしました。
第12回の授業では,大きく分けて2つの活動を行いました。
1.「租税」に関する教材研究の成果を整理する活動
ここでは,これまでの三好先生,奥先生,野邑先生の講義内容を整理する活動を行いました。まず,グループに分かれ3名の先生方の講演内容を,租税の制度に関する知識(制度のしくみ・歴史・仕組みの理解)、生活で直面する租税に関する知識(身近な税、消費税など生活との接点)、社会制度に適応するための態度・能力(制度を理解し利用・参加する力)、社会制度を変革するための態度・能力(よりよい制度づくりに関わる力)の観点で整理していきました。この活動の中で学生は,三好先生の講話における「税制度の変遷」に関する内容を「租税の制度に関する知識」に,奥先生の講話における「公平な社会の実現に向けた税収と税の使い方」に関する内容を「社会制度を変革するための態度・能力」に,野邑先生の講話における「税金の役割や税金を納める主体」に関する内容を「社会制度に適応するための態度・能力」に位置づけて整理していました。このように、講義で得た知見を分類することで、知識の質の違いや、目標の違いなどがあることについて理解を深めていきました。
2.「租税」に関する授業づくりにおける自分のゲートキーピングを言語化する活動
続いて、先ほどの活動で整理した内容を,「中学校社会科公民的分野の授業で絶対に教えるべき」「中学校社会科公民的分野の授業で,できれば教えるべき」「中学校社会科公民的分野の授業では教えなくてもよい」の3観点で分析し直し,学生自身の授業づくりに向けた意思決定(=ゲートキーピング)を可視化していきました。この活動の中で,まず学生は,「社会教育や学校教育の中のその他の教育と比較して社会科でこそ教えることができる内容は何か」,「中学生という子どもの実態や現代社会の情勢はどうなっているか」「指導要領では何が求められているか?」等に関する学生自身の考えを明確にしていきました。そして,この明確にした考えを踏まえ,「公民的分野における「租税」に関する授業で行いたい授業はどんな授業か」「なぜ行うべきなのか」を言語化していきました。
以上で第12回の講義は終了いたしました。
租税に関する理解を深めるための税理士の先生方の講演は,この講義が最後になります。この講義以降,学生は,「租税」に関する知識と公民的分野の授業づくりに関する知識を統合し,実際に「租税」に関する授業を開発していきます。税理士会の先生方がご教示してくださった税に関する知識や,「租税教室」における構成・教材・働きかけの工夫,税理士という専門家を参画する授業の意義を踏まえながら,学生は,魅力あふれる「租税」に関する授業を開発してくれると思います。
(文責:田中崚斗)
第13回の授業では,学生が「租税を教える社会科授業」を開発できるように,大きく分けて2つの活動を行いました。
1. 指導案の作り方に関する理解を深める活動
ここでは,指導案の作り方やその背景にある教育観等に関する理解を深める活動を行いました。具体的には,まず指導案における多様な表現方法を分析しました。ここでは3つの指導案を分析し,(1)教師の発問と子どもの応答のラリーで表現する方法,(2)子どもの学習活動と教師の指導上の留意点で表現する方法,(3)教師の教育内容と子どもの学習内容・方法で表現する方法を確認しました。次に,この3つの表現方法の背景にある教育観の違いを分析しました。ここでは,3つの指導案における教育観を推察した後,川口広美准教授が「(1)教師の発問に答えることで子どもが目標達成できるようにする教育観」「(2)目標達成にむけ子どもが活動を行い,教師が支援するという教育観」「(3)教師の講義や説明によって子どもが目標達成できるようにする教育観」があることを説明しました。この活動・説明によって,学生は指導案の作り方に関する理解を深めていきました。
2. 発問と応答で授業を作る方法に関する理解を深める活動
ここでは,第14・15回の講義で「教師の発問と子どもの応答のラリーで授業を作ること」を確認し,「教師の発問と子どもの応答のラリーで授業を作る方法」を獲得できるような活動を行いました。具体的には,開発する「租税を教える社会科授業」の軸となる「目標・評価規準・メインクエスチョン(MQ)・メインアンサー(MA)」を考えました。この活動の中で学生は「日本の税制度や理念を理解することができる」や「日本の税制度の課題を認識した上で,「公平」観点から税制度のあり方を表現できる」といった目標を立て,その目標と一貫性のある評価規準・MQ・MAを考えていました。
以上で第13回の講義は終了いたしました。
第14回の授業では,これまでの講義の学びを踏まえて実際に「発問と応答で展開される「租税を教える社会科授業」を作る活動を行いました。具体的には,まず第14回の講義で作った「目標・評価規準・MQ・MA」をグループで相互に検討しました。ここでは,グループメンバーによる相互検討により,一貫性のある目標・評価規準・MQ・MAを作っていきました。次に,このグループ活動の机間指導をしていた川口広美准教授と田中崚斗さんが作った目標・評価規準・MQ・MAを改善するための視点や留意点を説明しました。ここでは「「税制度について理解する」「税制度のあり方を考察できる」といった抽象的な目標や「税制度はどうなっているだろう?」「税制度はどうあるべきだろう?」といった抽象的なMQを具体的な目標やMQに改善できる余地があること」「「どうすべきか?」や「どうあるべきか?」といった価値や規範に関する問いをMQに設定する場合は,MAは答えてほしい回答を設定するのではなく,どのような理由から主張してほしいかを考えて設定したほうがいいこと」といった説明をしました。最後に,学生自身が作った「目標・評価規準・MQ・MA」を踏まえ,授業の導入・展開・終結を作る活動を行いました。ここでは,川口広美准教授が「自分の発問にどのような回答をしてほしいかではなく,中学生ならどのような回答をするかを考えて授業を作る必要があること」を説明し,この説明を意識して,「租税を教える社会科授業」を作っていました。
以上で第14回の講義は終了いたしました。
この講義の中で,受講者は,税理士会の先生方がご教示してくださった税に関する知識を活用しながら,授業を開発していました。引き続き,これまでの学びを十分に活用してほしいと思います。
(文責:田中崚斗)
第15回の授業では,学生がより良い「租税を教える社会科授業」を開発・修正できるように,大きく分けて2つの活動を行いました。
1. 自分が作った指導案に基づき実践してみる活動
ここでは,第13・14回の講義で作成した指導案に基づき,模擬授業を実践してみる活動を行いました。具体的には,ペアになって教師役と生徒役に分かれ自分の授業を実践しました。そしてこの活動を通して,自分の指導案における授業の流れや発問の構造などの課題を発見していきました。この活動の中で,「自分が設定した問いでは,自分が予想した子どもの回答が引き出せない」「自分が作った問いの流れでは,子どもが答えられない」など多様な課題を発見しました。
2. 作った指導案の課題と改善策を考える活動
ここでは,TAの田中さんとペアの学生からのフィードバックを受け,第13・14回の講義で作成した指導案の課題とその改善策を考える活動を行いました。まずは,TAの田中さんが指導案を改善する以下,4つのポイントをフィードバックしました。
1.授業で用いるタームや概念を絞り込むこと
(例:MQ「現在の税制度は公平か?」ではなく「所得税と消費税で税金が集められる制度は公平と言えるか?」というMQにする)
2.MQに答える切実性を持たせるためにSQを用いること
(例:唐突にMQ「現在の税制度は公平か?」を聞くのではなく,税制度の概要やこの制度に関する賛否に触れてから,MQ「現在の税制度は公平か?」を聞く流れにする)
3.希望ではなく,仮説に基づいて授業展開を考えること
(例:SQに対するSAは「こんなこと答えてほしい」ではなく「子どもならこう答えるだろう」という回答を書き,その回答を踏まえたSQを設定すること)
4.「細かな流れ」を意識して授業をつくること
(例:「現在,税金はどのような集められ方をしているか?」→「現在の税制度は公平か?」ではなく,「現在,税金はどのような集められ方をしているか?」→「どのような使われ方をしているか?」→「(今の税制度に対する賛否の意見が書かれた資料を渡して),今の税制度にはどんな意見がなされているか?」→「賛成の人はどう思っているか?」→「反対の人はどう思っているか?」→「現在の税制度は公平か?」のように授業を作る)
次に,ペアで行った模擬授業を踏まえ,ペアの相手の授業に対する改善のポイントを相互にフィードバックしました。この活動では,「授業の事例が抽象的で考えにくい」や「発問が唐突で答えに困る」といったフィードバックがなされていました。
以上で第15回の講義は終了いたしました。
これで,全ての講義が終了しました。全15回の講義の中で,税理士の方々の講演を通して,学生は「税金」という教材研究が難しい内容を理解することができ,学生達はより良い「租税を教える社会科授業」プランを作成することができていたと思います。今後も,この学びを参考にしながら教員になっても独創性の溢れる授業を作っていってほしいと思います。
(文責:田中崚斗)
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