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趣旨

日本税理士連合会は,2013年度から,将来の租税教育を担う教員の養成を目的として,大学における教育・研究活動の費用を助成する「教員養成大学寄附講座」を開設しています。2023年度より当該の寄付講座が広島大学でも開設されることとなり,EVRIの川口広美准教授が講座を担当しました(2023年度の様子はこちら)。2024年度も,本講座は川口准教授が引き続き担当します。ここでは,広島大学の教師志望学生向けに行われる寄附講座について紹介します。

【講座担当の川口准教授より】

「税」は,健全な社会生活を保障する上で基盤となるものであり,不可欠なものです。また,教材として「税」を用いることで,よりリアルに政府と市民の関係性を検討できる可能性もあります。その一方で,「税」は子どもたちにとって実感を持ちにくい抽象的な概念であり,扱いにくく感じることもまた事実です。「税」の授業を通して,子どもと共に今後の社会のあり方を主体的に構想できる社会科授業はどのようなものかーを探究していきたいと思います。

 

実施方法

・2023年度から2025年度にかけて,川口広美准教授が担当する中等社会系教科の教員養成科目「社会系(公民)教科指導法」を,日本税理士連合会の寄付講座として実施する。2024年度の寄付講座は,第2ターム(6月6日から8月1日)に実施される。

・授業は対面を基本として広島大学教育学部にて実施し,必要に応じてオンラインを併用する。メインプラットフォームとしてMicrosoft Teamsを活用する。

・プロジェクトや授業の運営には,川口准教授に加えて,田中崚斗(人間社会科学研究科D2),後藤伊吹(人間社会科学研究科M2)が従事する。

 

実施計画

 

備考

・7月3日(水),7月10日(水),7月17日(水)は,税理士会からのゲストと一緒に授業を展開します。

・教育学部A棟409、社会認識教育学図書室に租税教育に関する教材研究ができる書籍が配架されました!学生の皆さん、ご活用ください。こちらから書籍名等をご確認いただけます。

 

開催報告

第1回・第2回:2024年6月12日(水)

第1回・第2回の講義が始まりました。
今年度の「社会系(公民)教科指導法」は,受講者63名となりました。

第1回は,大きく2つの活動が行われました。第1は,本講義の目標や「租税教育を担う教員養成プロジェクト」との関わり,講義の進め方について川口広美准教授から説明がなされました。具体的には,「自分がもつ公民科授業に対するイメージを再構築し,公民科授業を作ったり,現状の授業を分析し改善したりできる資質・能力の獲得」を講義の目標とすることや,「学生同士のディスカッション」を中心とした講義展開にすることなどの説明がなされました。第2は,「ディスカッションとは何か」という問いについて,学生の被教育体験や学中研究の知見を参考にしながら考える活動が行われました。ここでは,まず「これまでの経験を踏まえて,「①ディスカッションとは,どのようなことだと思うか」「②「社会科授業にディスカッションが必要だ」という意見に,あなたは,どのような感想を持つか,その理由は何か?」を考えることから始めました。ここでは,①の回答として「意見を共有し合って新しい視点を見つけたり持っていた意見を深めたりする話合いのこと」「複数の人がお互いの意見をぶつけ合い、しのぎを削り、全体として最もよい意見を作り出すための手段」といった意見が,一方②の回答として,14名の学生から「賛成」,42名の学生から「どちらかというと賛成」,6名の学生から「どちらかと言えば賛成ではない」,1名の学生から「賛成ではない」といった意見がありました。このような学生の意見を全体で共有することで,「ディスカッションとは何か」を考える雰囲気が作られました。この活動のあと6つのケース(「①隣の人と対話させる学習」「②討論させる学習」「③哲学対話させる学習」「④合意形成させる学習」「いろんな意見について言い合う学習」「⑥議論させるモ一人の子どもが論破してしまう学習」)を見て,どの学習をディスカッションとするのか否かを話し合わせました。そこでは,学生がもつ「ディスカッション」についての考えの交流があり,学生たちは,自分のディスカッションの定義を再構築していきました。ここで第1回の講義は終わりました。

 

第2回も,大きく2つの活動が行われました。第1は,「ディスカッションすると何が良いのか」を考える活動です。ここでは,海外の研究の成果を参考にしながら,「知識の共同構築が,ディスカッションの良さ」であるという説明がなされました。具体的には,①絶対的な知識が存在するわけではなく,人によって見方や考え方が異なること,②ディスカッションを行うことで,知識や概念,価値などについての多様な考えを共有し,検討することで,その考えが洗練されていくこと,③以上の理由から,ディスカッションを行う良さがあることの説明がなされました。第2は,「なぜ今,学習としてディスカッションを行わなければならないのか」を考える活動です。ここでは,海外の研究成果の背景にある社会的・政治的状況の説明と,日本の状況を踏まえた「学習としてディスカッションを行う必要性」についての話し合いが行われました。まず,海外の研究成果の背景にある社会的・政治的状況の説明としては,グローバル化が進展し,国内に新しい価値観や考えが入り込み,その価値観や考えの賛否を巡って,二極化・分断が生じている世界や日本の状況が紹介されました。そして,このような状況だからこそ,「学習としてディスカッションを行う必要性」があることの説明もなされました。一方で,学校現場の声として「知識や教養が無いとディスカッションなんてできない」「発表者が偏ってしまって一部の生徒だけが評価される」「受験のための暗記を優先させたい」「授業がおわらない」などの意見も示されました。以上のような学術的要請と現場の声を踏まえて「なぜ今,学習としてディスカッションを行わなければならないのか」について学生に話し合わせました。ここでは「価値観の多様化や民主政治の重要性を身を持って体験するためには、ディスカッションが大きな意味を持つため。授業(座学)で習う知識と、ディスカッション(実践)のバランスのとれた状態が大切である。」という意見や「議論の重要性というものはよく理解したが、授業で行うには議題の背景、基礎知識が豊富でないと議論が深まらず、それには時間も要するため、時間を削ってまでするものではないと感じたから」という意見が共有され,学生は更に「学習としてディスカッションを行う必要性」について考えるようになりました。ここで第2回の講義は終わりました。
「租税」においても社会で意見が分かれることがあります。例えば,ふるさと納税や所得税をめぐる対立です。そのため,学生が今後教師となって「租税」を教える際に,ディスカッションを用いた学習が必要になります。今後,学生が,現代社会における「租税」の問題についてディスカッションする授業を開発・実践できるようになることを望みます。


(文責:田中崚斗

第3回・第4回:2024年6月19日(水)

第3回の講義では,大きく2つの活動が行われました。第1は,本講義名にも入っている「公民とは何か」を考える活動が行われました。ここでは,まず,公民科の目標として「公民としての資質・能力の育成」が学習指導要領で明記されているが,「そもそも公民とは,何か」を考えることから始めました。本講義以外の講義を受ける中でも公民的資質という言葉に数多く触れてきた学生たちですが,公民について考えるのは,この講義が初めてです。そのため,学生たちが公民について考えることができるように,教材として映画『シザーハンズ(Edward Scissorhands)』のワンシーン(町に降りてきたばかりで社会のルールが分かっていない人造人間の主人公に,その人造人間と共に暮らす家族たちが社会のルールを教えるシーン)を視聴します。そこでは,父が「目の前に,お金が落ちていたとき,どうするべきか」を人造人間に尋ね,心優しい人造人間が「愛する人や家族にプレゼントを買う」を返答します。その回答を聞いた家族たちは,「その思いが悪いわけではないが,社会では警察に届けなくてはならない,それがルールだ」と教えます。このワンシーンを通して,必ずしも「いい人=いい公民」とはいえないこと,ある社会を生きるためには必要な資質があり,「そうした社会の中で生きていける人=公民」であることを理解させました。第2は,この公民の定義から,「今の社会や10年後の社会で必要な公民としての資質とは何か」を考える活動が行われました。ここでは,まず学校教育が始まった近代から現代までで,必要とされてきた公民としての資質の説明がなされました。この説明を通して,社会の変化によって,求められる公民としての資質が変わってくることを理解させました。次に,10年後の社会を予測してもらい,そこで必要とされる公民としての資質を考えてもらいました。そこでは,AIを使える能力や使おうとする意思,国際化に対応できる能力などが学生から出てきました。このような学生からの回答を受け,川口広美准教授から,「①公民を育成する社会科(公民的分野)の教師は,子どもたちが生きる社会や学校後に直面する社会を見極め,必要となる公民としての資質を設定し,その資質獲得のために授業を開発・実践できる必要があること」「②必要な公民としての資質を考える際に,社会科や公民科でこそ育成できる資質は何なのかを見極める必要があること」が共有されました。ここで,第3回の講義は終わりました。

 

 

第4回も,大きく2つの活動が行われました。第1は,「より良い公民科の授業とは何か」を考える活動です。まず,前提として,ゲートキーピングという概念を示すところから始まりました。ゲートキーピングとは,目的や目標に応じてカリキュラムや授業を調整する教師の主体的な営みを意味する概念です。この概念の説明を通して,教師が,学習指導要領や学校の環境,子どもの実態を踏まえ主体的に判断し授業構成する大切さが共有されました。次いで,租税を教える4つの異なる授業例について知り,どの授業が一番良いと思ったのか,その理由は何かを考えます。具体的には,まず,ティーチングフェローの田中崚斗が,書籍や論文から集めた4つの異なる授業例を紹介することから始まりました。4つの授業例としては,①税の必要性を理解し,納税意識を育もうとする授業,②税の役割や納税の重要性を理解するとともに,現状の税の使い道に対する意見を形成させる授業,③税制度現状の租税に関する議論を理解すると共に,自分たちの社会をより良くするための税制度のあり方についての意見を形成させる授業,④現在の税制度を公平・公正の観点から分析し,より公平な社会形成にむけた意見や行動案を案出させる授業,です。このような授業例を聞き,学生たちは「どの授業を一番良いと思ったのか,それは何故か」を考えていきます。学生からは,「納税の重要性や役割を理解できるため,②の授業が良いと思った」「自分たちが主体的に関わる授業となっているため,③の授業が良いと思った」などの意見が出てきました。このような学生からの回答を受け,川口広美准教授から,「①同じ授業を良いと思っていても,人によってその理由が異なること」「この判断基準を自覚しておくことの重要性」の共有がなされました。第2は,「より良い授業と思う自分の判断基準」についてメタ認知させる活動です。ここでは,先ほどの作った「どの授業を一番良いと思ったのか,それは何故か」に関する意見を各グループ内で交流させました。このような活動を通して,メンバーの判断基準が明確化されると共に,自分の判断基準もメタ認知できるようにしました。ここで第4回の講義は,終わりました。

 

 

「租税」に関する授業も十人十色だと思います。例えば,教科書に記載されている納税の義務を深く教える授業もあれば,租税に関する問題を事例として価値判断や意思決定に関する能力を育もうとする授業があるともいます。そのため,学生が今後教師となって「租税」を教えようとする際も,多様な授業が開発できると思います。そこで,今回の学びを踏まえて,ゲートキーパーなのだという自覚を持ち,学生自身の判断基準の妥当性を検討しながら,個性溢れる「租税」に関する授業を開発・実践できるようになることを望みます。

(文責:田中崚斗

第5回・第6回:2024年6月26日(水)

第5回の講義では,大きく2つの活動が行われました。第1は,なぜ教員養成段階で,自分が良いと思う「公民科授業」やその判断規準を見直したり,振り返ったりする必要があるのかを考える活動が行われました。ここでは,まず,川口広美准教授から「観察による徒弟制」の概念の説明がなされました。「観察による徒弟制」とは,「教職における社会化過程の一側面(太田,2017)」であり,児童や生徒として授業を受けた過程は,教員志望学生の理想とする授業や教師を設定してしまう機能があります。このような機能を自覚しておかない限り,教員養成での学びを受け入れなかったり,児童や学生だった時代の教え方や授業を,現代で再生産してしまったりする可能性があります。このような観察の徒弟制やそれが持つ機能を理解した学生は,自分が良いと思う「公民科授業」やその判断規準を見直したり,振り返ったりすることで,新たな学びを得ることができることを理解しました。第2は,公民科授業の良し悪しを判断する規準として「公民」の中にある2つの意味を理解する活動が行われました。ここでは,まず公民の中には,国家の成員としての義務や責任を果たそうとする国民という意味と,権利を行使し現存の社会を改善・変革していこうとする市民という意味があることの説明がなされました。このような公民に内在する2つの意味は,切り離して考えることはできません。ゆえに,公民科授業の目標として,どちらかに重点が置くべきなのかを,自分で考えていく必要があります。このような公民の意味を認識し,目標としてどちらの意味に重点を置くかを考えた学生は,自分が良いと思う「公民科授業」の一判断規準を自覚していきました。ここで,第5回の講義は終わりました。

 

 

第6回も,大きく2つの活動が行われました。第1は,公民科授業の良し悪しを判断する規準として「社会化」「対抗社会化」を理解する活動が行われました。ここでは,まず公民科教育だけでなく,社会科教育の機能として「社会化」と「対抗社会化」があることの説明がなされました。「社会化」とは,個人が所属している社会集団の価値・規範や,生活・文化・政治・経済等の知識や技能,様式を形成していく試み(後藤,2022)であり,「対抗社会化」とは,社会化にできるだけブレーキをかけながら社会化を行っていく意図的・意識的な試み(後藤,2022)」であります。次に,このような2つの機能を第5回の講義の「公民の中の2つの意味」と関連づける活動が行われました。即ち,国家の成員としての義務や責任を獲得させるには社会化させるように社会科授業を展開していく必要性があり,権利を行使し現存の社会を改善・変革していこうとさせるには,対抗社会化させるように社会科授業を展開していく必要性があることを学生は理解していきます。第2は,第4回の講義であつかった4つの授業例(①税の必要性を理解し,納税意識を育もうとする授業,②税の役割や納税の重要性を理解するとともに,現状の税の使い道に対する意見を形成させる授業,③税制度現状の租税に関する議論を理解すると共に,自分たちの社会をより良くするための税制度のあり方についての意見を形成させる授業,④現在の税制度を公平・公正の観点から分析し,より公平な社会形成にむけた意見や行動案を案出させる授業)を「社会化」「対抗社会化」の観点で分析する活動が行われました。このような観点で分析していく活動を通して,「社会化」させる社会科授業,「対抗社会化」させる社会科授業の具体を理解していきました。ここで第6回の講義は,終わりました。

 

 

「租税」に関する授業も多様な目標があると思います。例えば,「税金を納めるべきだ」という価値や日本の税制度に関する知識を獲得させることを授業目標に設定することもあれば,日本の税制度の課題を認識させたりその改善策やあるべき姿を提案したりすることを授業目標に設定することもあると思います。そこで,今回の学びを踏まえ,社会化させる公民科授業や対抗社会化させる公民科授業を開発・実践できるようになることを望みます。

引用文献
・太田拓紀(2017)「「観察による徒弟制」と教員養成における実践の問題」『滋賀大学教育学部附属教育実践総合センター紀要』25, pp.93-99.
・後藤賢次郎(2022)「社会化・対抗社会化」棚橋健治・木村博一編『社会科重要用語事典』明治図書,p.62.

 

(文責田中崚斗

第7回・第8回:2024年7月3日(水)

第7回講義では、大きく2つの活動が行われました。第1は、「教材研究とは何か」を考える活動です。ここでは、まず、川口広美准教授から4つの題材が示され、どれか1つ「教えない」としたら何を教えないかを選ぶ活動がから始まりました。4つの題材はそれぞれ、①安全保障、②公共性、③メディアと政治参加、④為替相場の変動、です。学生からは、「安全保障は工夫次第で日本史・世界史などにおいて代替することが可能だと考えたから、①を選んだ」「公共性は社会生活を過ごす中で自然に身につくから、②を選んだ」「為替相場については生きていく上で重要度が一番低いと思ったから、④を選んだ」などの意見が出てきました。また、「③を教える際の具体的な教材として、今日どのようなものが考えられるか」という川口広美准教授の発問に、学生からは「東京都知事選」や「アメリカ大統領選」などの意見が出てきました。これらを通して、学生の「教材観」を引き出しつつ、正解はないけれど一定の水準が確保されなければならない教材研究の難しさと、教材が時勢によって変化するという、公民ならではの教材研究の難しさについて学生に理解させました。次に、教材研究には、「自分(=教師)のための教材研究」と「子どものための教材研究」があることを示しました。そして、それぞれの目的を資料の読解を通して、「自分(=教師)のための教材研究」は、教師が教材について「教えたいこと」「語りたいこと」を自己のうちに作り出していく作業であり、「子どものための教材研究」は、教えたいことをどう分からせるかという作業であることを理解させました。第2は、学習指導要領と学習指導要領解説、教科書を分析する活動です。ここでは、まず、学習指導要領が法的拘束力を持っていることを確認しました。そして、学習指導要領と学習指導要領解説の構成を確認し、学生自身に学習指導要領において租税教育について示された部分とこれに該当する学習指導要領の解説部分を見つけさせ、照らし合わせることによって、学習指導要領と学習指導要領解説のそれぞれの役割とその見方を理解させました。次に、教科書の見開き1枚について、MQ(メインクエスチョン)の位置や図表と本文の関係性を分析しました。このことをとして、教材研究における教科書の見方を理解させました。ここで第7回の講義は終わりました。

 

 

第8回講義では、中国税理士会・福山支部の三好建弘先生に「私たちと税金と社会の在り方」について講義をしていただきました。講義は大きく3つのパートから行われました。3つのパートはそれぞれ、「税金って何」、「税金の歴史」、「現在の税制」、です。まず、「税金って何」では、人の経済的な成功は運に左右され、失敗を防ぐにはできるだけ不運を除外すること。また、生命は使わなくなった器官を無くすように進化することから、生命とは省エネ化や効率化を目指すものであることを確認しました。そして、初期の税金も、一部の支配層が楽をして暮らすために生活を支えるものとして誕生したことを理解させました。次に、「税金の歴史」では、古代文明と日本の弥生時代から現代にいたるまでの税制を確認しました。古代文明と税の関係からは、「国家が税をつくったのではなく、税が国家をつくった」という学説を紹介しました。そして、税は江戸時代までは「抵抗させない」をテーマとする支配階級の生活のための仕組みであり、明治時代からは「公平な課税」をテーマとする社会共通の費用を賄うための仕組みとなってことを確認しました。そして、「現在の税制」では、公平な課税を実現するために、水平的公平と垂直的公平に基づく様々な税が設定されていることを確認しました。最後に、三好建弘先生にとっての租税教育とは、「税金の知識を伝える」のではなく、「税金を通じて社会の在り方とかかわり方への意識を育てる」ことだとして、学生に「税金の運用は私たちが決められる」こと、そして、「おかしいと思ったときには声を上げてほしい」というメッセージを伝えました。学生は、三好建弘先生の講義を聞き「税」への知識を深めつつ、三好建弘先生が、税金について教える際にどのような工夫をしているのかを分析しました。学生からは、「具体例を用いて教えて下さったこと」「用語を解説していくだけでなく理念まで踏み込んでいること」などの回答が出てきました。このような学生からの回答を受け、川口広美准教授から自身の3つの分析が提示されました。3つの分析は、①「歴史的に語る」、②「抽象と具体の往復」、③「メッセージ」、です。これらを通して、学生は自身の分析を振り返り、分析の視点についても学びました。ここで第8回の講義は、終わりました。

 

 

本講義を通して、学生は「自分(=教師)のための教材研究」と「子どものための教材研究」を実践しました。「教材」となり得る題材は世の中に溢れていますが、こうした視点をもって「研究」してこそ、それらは「教材」となるのだと思います。今回の学びを踏まえ、視点をもった意識的な教材研究を行い、育てたい子ども像の実現に寄与することができる公民科授業を開発・実践できるようになることを望みます。

(文責:後藤伊吹)

第9回・第10回:2024年7月10日(水)

第9・10回の講義では,株式会社合同総研 GO&DO篠原税理士法人の奥順夫先生に「税理士とはどんな仕事か」「租税は,どのような構造になっているか」「租税法には,どんな基本原則があるか」について講義をしていただきました。本講義では川口准教授・受講者と積極的に対話がなされ,講演が進んでいきました。
第9回講義は大きく3つの活動が行われました。第1は,「税理士の仕事」について理解する活動が行われました。ここでは,奥順夫先生と川口広美准教授による「税理士の仕事」や「働きがい」・「仕事に関するエピソード」についての対話を聞きます。この対話を聞き,学生は「税理士は,確定申告等の代理,税務書類の作成,税金に関する相談以外にも,社会貢献などを行い,租税に関する知識の獲得や納税に関する意識の向上に努めている」ことを理解しました。第2は,租税法の基本原則」について理解する活動が行われました。ここでは,まず奥順夫先生による「租税法における3つの基本原則」の説明を聞きます。この説明を聞き,学生は「租税法は,①租税法律主義の原則(法律の根拠に基づくことなしに,国家は租税を賦課・徴収してはならず,国民は納税の義務を負わされることはないという考え)②租税公平主義(税の負担は国民の間に担税力(税金を負担できる能力)に即して公平に配分されなければならず,各種の税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならないという考え)③自主財政主義(地方公共団体は,憲法上の自治権の一環として課税権をもち,自主的にその財源を調達することができるという考え)があること」を理解しました。次に,グループで「なぜ,このような原則を立てないといけないのか」を考える活動が行われました。グループ活動の中では「特定の人だけが税の恩恵を受けないためではないか」「民主主義だからではないか」などの意見が出てきました。これらの意見を聞いた奥順夫先生は,「これらの原則を立てる背景として,公平な社会とするという考えがある」という説明がなされました。このような説明を聞いた後,学生から,「自主財政主義の原則は,むしろ都市と地方の格差拡大に寄与してしまうのではないか」という質問が出ました。このような質問に対して,奥順夫先生は,「この原則だけではもちろん可能性があり,そのために他の原則がある」という回答をなされました。第3は,「日本の租税の構造」について理解する活動が行われました。ここでは,まず奥順夫先生から「①日本には約50種類の租税があること」「税を賦課・徴収する主体として国や地方があること」「課税方法として直接税と間接税があること」などの説明がなされました。次に,奥順夫先生と川口広美准教授・受講生が対話しながら,「国税における直接税と間接税の割合」「一般会計税収の推移」について理解していきました。ここで,第9回の講義は終わりました。

第10回では,大きく4つの活動が行われました。第1は,「所得税の課税目的・方法」について理解する活動が行われました。ここでは,奥順夫先生から「所得税では垂直的公平(担税力の大きい人に,より大きな負担をしてもらう)の考えを背景に,累進課税制度がとられている」等の説明がなされました。ほかにも「ふるさと納税」のメカニズムやその問題点などをわかりやすく説明してくださりました。第2は,「法人税の課税目的・方法」について理解する活動が行われました。ここでは,奥順夫先生から「法人税では黒字法人のみが支払い,赤字法人には課税されない原則で徴収されている」等の説明がなされました。ほかにも,法人税の税収の推移を,各時代の出来事(リーマンショックなど)と関連付けながらわかりやすく説明してくださりました。第3は,「消費税の課税目的・方法」について理解する活動が行われました。ここでは,奥順夫先生から「所得税では逆進性(所得の多寡にかかわらず消費税は同じ割合であり,相対的に所得の少ない者の負担が大きくなる)という考え方を原則に徴収されている」等の説明がなされました。それぞれの税に対する説明を聞き,学生からは,「黒字法人が少ないという説明があったが,ほとんどの会社は赤字だということか?」という質問がありました。この質問に対して奥順夫先生は,「会社が赤字なのではなく,会社の利益と支出を調整し,課税されないようにしている会社が多い」「そしてそのような調整の相談や提案をするのも,税理士の仕事である」という回答をなされました。ここで第10回の講義は,終わりました。

受講者は,税を納める市民である一方で,税を納める市民を育てる将来の教員でもあります。そのため,今回の講義から,市民の義務や社会の仕組みを学ぶだけでなく,それらをいかに子どもに教えることができるのかを学んでくれたと思います。

(文責:田中崚斗

 

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