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日本税理士連合会は,2013年度から,将来の租税教育を担う教員の養成を目的として,大学における教育・研究活動の費用を助成する「教員養成大学寄附講座」を開設しています。このたび,当該の寄付講座が広島大学でも開設されることとなり,EVRIの川口広美准教授が講座を担当することとなりました。ここでは,広島大学の教師志望学生向けに行われる寄附講座について紹介します。
【講座担当の川口准教授より】
「税」は,健全な社会生活を保障する上で基盤となるものであり,不可欠なものです。また,教材として「税」を用いることで,よりリアルに政府と市民の関係性を検討できる可能性もあります。その一方で,「税」は子どもたちにとって実感を持ちにくい抽象的な概念であり,扱いにくく感じることもまた事実です。「税」の授業を通して,子どもと共に今後の社会のあり方を主体的に構想できる社会科授業はどのようなものかーを探究していきたいと思います。
・2023年度から2025年度にかけて,川口広美准教授が担当する中等社会系教科の教員養成科目「社会系(公民)教科指導法」を,日本税理士連合会の寄付講座として実施する。2023年度の寄付講座は,第2ターム(6月8日から8月3日)に実施される。
・授業は対面を基本として広島大学教育学部にて実施し,必要に応じてオンラインを併用する。メインプラットフォームとしてMicrosoft Teamsを活用する。
・プロジェクトや授業の運営には,川口准教授に加えて,小野創太(EVRI教育研究推進員),岡井美咲希(人間社会科学研究科M2),後藤伊吹(人間社会科学研究科M1)が従事する。
・7月5日(水),7月12日(水),7月19日(水)は,税理士会からのゲストと一緒に授業を展開します。
・教育学部A棟409、社会認識教育学図書室に租税教育に関する教材研究ができる書籍が配架されました!学生の皆さん、ご活用ください。こちらから書籍名等をご確認いただけます。
2023年6月5日(月),租税教育を担う教員養成助成金目録贈呈式が挙行されました。
6月14日(水)から開始される,川口広美准教授が担当する中等社会系教科の教員養成科目「社会系(公民)教科指導法」において,租税教育を担う教員の養成プロジェクトが実施されます。実施に当たり,目録の贈呈と関係者各位からご挨拶をいただきました。
日本税理士会連合会,神津信一会長からは,これまで税理士会が租税教育に取り組んできた経緯,社会貢献活動としての租税教育の実施内容などをお話しいただき,税理士と現職教員の連携の意義について言及いただきました。
中国税理士会,海老澤孝公会長からは,中国・四国地方の現職教員との対話を踏まえた,地域に根差した熱心な実践の取り組みについてお話しいただきました。
それぞれのご挨拶では,本学の租税教育を担う教員養成について,大きなご期待を示されていました。
松見法男学部長は,社会における租税の在り方を大学生として考えること,そしてそれが今後社会人,教員として社会に参画する上で非常に重要であることを述べていらっしゃいました。
プログラム担当者の草原和博教授,川口広美准教授からは,教員養成課程学生が,租税教育が納税者教育から主権者教育へ転換すること,社会科教育において,外部人材として税理士と連携することの意義を共有することが重要であることをお話しいただきました。加えて,大学教員,税理士,大学院生など,様々な主体が関わる教師教育を展開していくことへの抱負が述べられました。
いよいよ来週から講義が始まります。よりよい租税教育について考えることを通して,これまで以上に多様な人々と連携しながら良い市民性教育について探求する可能性を感じました。
第1回・第2回の講義が始まりました。
今年度の「社会系(公民)教科指導法」は,受講者64名となりました。
講義の導入部では,教員や受講者の簡単な自己紹介が行われました。加えて,本講義の目標や「租税教育を担う教員養成プロジェクト」との関わり,評価方法や講義の進め方について川口広美准教授から説明がなされました。
第1回では,「『公民科』とはどのような教科か?」という問いを通して、受講者がこれまでの経験で構築されてきたイメージを確認し合いました。受講者,そして子どもたちが持つ「公民科」に対するイメージとは何かについて考え,受講者同士が見解を交わし合いました。「受験科目として重視されない」や「堅苦しい」,「抽象的」といった意見が多く出されながらも,それらのイメージを教師として変革していくことの重要性について,川口准教授と受講者が共有しました。
第2回では,公民科で概念を学ぶ意義について考えを深めました。受講者は,「なぜ公民科で概念を学習するのか」という問いを地歴科との比較から探究していました。「人口問題」に関する単元を比較することを通して、公民科は地歴科に比べて,事実を収集する学びではなく,抽象度の高い概念が多く取り上げられること,また,特に現代の社会的課題の解決に向けて概念を学ぶことが求められることを確認しました。次回以降で,公民科ではなぜ未来志向の概念を多く扱うのかについて考えを深めていきます。
「租税」も抽象度が高く,「租税」という事実をただ受容するだけの学びでは,租税が現代社会においてどのような意味を持つのか,租税をめぐる社会的な問題とは何かを分析・解決することはできません。今後,受講者が生徒が現代社会における租税の意義を概念的に学習できる授業を作っていけることを望みます。
(文責:小野創太)
第3回では,まず,前回の講義の振り返りを丁寧に行いました。「事実」と「概念」の区別について,より深く受講者が理解していくことを目的としました。ここでは,「機会の平等」と「結果の平等」の概念から,クォータ制をめぐる論争を分析しました。
受講者の「概念」に対する理解が深まった後,「政府の経済活動」を教える際に,どのような具体的な事実を用いるかを考えるアクティビティを行いました。「政府の経済活動」は,税金(租税)によって収入を得て,社会保障や公共事業などの支出を行う営みです。受講生からは「生徒にとって身近なもの」・「今後の学習の繋がり」などの観点から「消防」・「教科書」・「道路」といった事例が出されました。教師として,「政府の経済活動」をイメージするための適切な事例を選ぶ活動を行うことで,「概念そのものを教えることができないため,事実との往還が重要である」という認識が深まっていきました。
第4回では,そもそも公民科の目標とは何か,公民科が育成を目指す公民的資質とは何かについて確認しました。公民科は,人格的に「良い人間」を育てる科目ではなく,ある社会(コミュニティ,共同体,集団)の一員としての人間に求められる資質や能力を育成することに目的があります。ただし,公民的資質は,公民科のみで育てられるわけではありません。そのため,時代状況や他教科・他科目との関係,家庭教育との関係の中で相対的に役割が作られていることを確認しました。これまでの講義を踏まえると,生徒が概念を活用することで,社会問題の分析や解決を行っていくことが,現在の公民科において育成が目指される公民的資質として考えられます。
ただし,目指すべき公民的資質が何かについては,時代によっても変化し,子どもや社会に対する実践者の問題意識や周辺環境によって異なります。それを前提にして,「税」・「政府の経済活動」に関する授業の目標・内容・方法が異なる4つの授業のうち,受講者がどれを「良い」と考えるのかを言語化しました。自らの教育観を振り返る良い機会となり,各受講者の「良い」公民科授業の判断基準を可視化していました。
今回の講義では,概念を社会的事象・問題に適用すること,受講者自身が公民的資質とは何かを考え,「良い」公民科授業の在り方を考察することが行われました。本日の講義が今後の受講者による授業開発に向けた視座となることを願っています。
(文責:小野創太)
第5回では,まず,なぜ周りの他の受講者と自らの「公民科」授業観を協議・批評していくのかについて考えました。ここでは,「観察による徒弟制」という概念に着目しました。この概念は,小学校から高校にかけての長期的な被教育経験によって,受講者が思い描く教師や教育像が形作られ,強い影響を与えるという考え方です。関連する論文(太田拓紀, 2017)の一部を分担して読み,「観察による徒弟制」が「被教育経験を再生産するのみになってしまう」,「自分の生徒時代を想定してしまい,当時の自分と似た生徒しか授業で想定することができない」,「自らの教育観や教師観が固定されてしまう」といった問題が生じることを受講者自身が言語化しました。
次に,この問題を乗り越えるために,自らの被教育経験や教育観を検証して,その偏りを自覚しておくことが重要であることが確認されました。このことを踏まえて,これまでの講義や他の受講者との対話を通して,現在持つ「公民科授業」の「偏り」について,受講者自らの考えをまとめる活動を行いました。
第6回では,公民科授業を分析する視点として「社会化」と「対抗社会化」の概念を学習しました。「社会化」とは,個人が所属している社会集団の価値・規範や,生活・文化・政治・経済等の知識や技能,様式を形成していく過程のことを指します。一方で,「対抗社会化」とは,その社会化にできるだけブレーキをかけながら社会化を行っていく意図的・意識的な試みのことをいいます。生徒が「社会化」されることは,個人が共同体で快適に生活していくために必要なものです。しかし,「社会化」のみを行う授業では,生徒に既存の社会秩序への順応ばかりを要請することになりかねません。共同体の構成員の不利益が生じた場合に,抗議や変更を行う主体として生徒を「対抗社会化」することが必要です。
受講者は,4人程度の班に分かれて,第3・4回で扱った4つの授業を,再び「社会化」・「対抗社会化」の側面で分析し直し,その後意見交流を行いました。同じ概念で分析しているのにも関わらず,各班の回答では,「対抗」の定義を巡って多様な解釈があり,それらが異なる授業への解釈として反映されていました。また,分析視点が変わることで解釈が変わることへの気づきを示していました。
今回の講義では,受講者は公民科授業に対してどのような教育観を持っているのか,その教育観は,様々な他の受講者とどのように同じなのか,もしくは異なるのかを対話を通して理解,メタ認知していきました。自らがどのように公民科授業の目標を捉え,授業を作ろうとしているのかを冷静に把握することは,租税の内容を始めとして,全ての公民科の内容を授業化していくために必要なことです。本講義での学びが,次回からの税理士の先生方のお話をどのように受講者が作る授業に反映できるのかを考えることにつなげられることを期待しています。
(文責:小野創太)
第7回では,「教材研究とは何か?」という問いを追求しました。「教材」とは何かについて受講者と確認した後,教師としての自分のために教材研究を行うことと,子どものために教材研究を行うことの何が異なるのかについて考えました。自分が教えたいことと子どもが学びたいと考えていることは違っています。双方が往還する形で,公民科授業でどのような教材を扱うかが決定されます。
その教材を教師が選択するための手がかりとなるのが,学習指導要領です。なぜなら,教師が教え,子どもが学ぶべきことが大綱的に記述されているからです。そこで,教師が学習指導要領を読み解き,どのような教材を授業で扱うべきかを考えることが重要となるのですが,そのための視点が必要となります。この視点は,大まかに述べると,「目標」・「内容」・「方法」の観点に大別できます。例えば,本プロジェクトにおける租税教育に引き付けると,1.どのような「目標」から,租税(税金)についての内容を扱うことをよしとしているのか?2.具体的にどのような「内容」こそを扱うべきだと考えているのか?3.「内容」をどのような「方法」をもって扱うことをよしとしているのか?という問いに具体化できます。受講者は,これらの問いから,学習指導要領ではどのように租税(税金)を授業で扱うべきであると規定しているのかを考えました。どのように公民科で租税を扱うかについて,受講者は未だ漠然としたイメージを持っているのではないかと思います。今後教材研究を行うための足掛かりとして,この学習活動を位置づけました。
第8回から第11回にかけては,実際に税理士の方にご講演いただき,川口准教授と税理士の先生との対談,講義内容についての受講者との議論が実施されていきます。
第8回では,中国税理士会福山支部の三好建弘さんに,「私たちと税金と社会の在り方」という題目でご講演いただきました。税がなぜ私たちの社会にとって重要なのかについて,人間の生き方や,これまで施行されてきた世界の税制の歴史を踏まえて,理念的ではなく,具体的に受講者と共有されていました。これまで歴史的に,公平な課税とは何かについて議論が深められてきましたが,実際にどのような税制が求められるのかについて,経済学的見地から考えを深めていきました。
三好さんからは,今の制度を理解するだけではなく,自身が税制に関与していく存在となっていくことが学生に求められていくと述べられていました。三好さんご自身が主権者として社会のルールや運営方法に携わっていく重要性を強調されていました。受動的に税金を納めるのではなく,社会を運営するための「会費」としての税であることを意識し,どのような国にしたいのかを見据えた税制を目指すことの重要性をお話しされていました。
川口准教授からの「教師に何を期待するか?」という問いかけに対して,三好さんは税を学ぶこと,税について考えることの楽しさ,面白さを生徒と分かち合うことであると答えられていました。今後,受講者が生徒に寄り添い,租税について考えていく授業づくりを行っていくことを期待しています。
(文責:小野創太)
第9回・第10回は,株式会社合同総研GO & DO篠原税理士法人の奥順夫さんにご講演いただきました。講演は,川口准教授・受講者と積極的に対話がなされ,講演が進んでいきました。
第9回では,法的に租税の仕組みがどのように規定されているのか,また,されるべきなのかについて考えました。例えば,社会保障の機能強化・機能維持のために社会保障財源の確保,財政健全化を推し進めることが,日本には求められています。そのために,使途が制限された目的税として消費税が用いられています。消費税は間接税とされていますが,国民が社会保障を充実させることを目的として「直接」納めるものとして考えられているのではないか,と受講者から疑問が提示されました。この点について,奥さんは,消費税を負担する者は確かに消費者ではあるけれども,申告・納税する者は事業者であることから間接税であることを説明されました。しかし,社会保障のために消費者から税を預かっているという意識が事業者に希薄となる傾向があることが課題となっており,持続可能な社会保障を行っていくことの難しさをお話しいただきました。
第10回では,所得税・法人税・消費税の課税目的・方法について概観していきました。ここでは,例えば,所得税における累進課税方式について,奥さんからご説明がありました。負担能力の大きい人により大きな負担をしてもらうという「垂直的公平」の考え方から,納税者がその支払能力に応じて納税すべきであるという「応能負担の原則」が導き出されることから,この方式が日本では採用されています。受講者からは,4000万円以上の所得を持つ人の控除額が少なく,税率も45%課されることから,「垂直的公平」の考え方に即したとしても,負担が多すぎるのではないかという疑問が提示されました。この点に関して,奥さんは,高額納税者と言われる人の負担が大きいのは間違いないとお話しされました。そのため,日本において,高額納税者がタックス・ヘイブン(課税が完全に免除されたり,著しく軽減されたりしている国や地域,つまり租税回避地のこと)を求めるという問題は深刻化しており,今後の法人税制について更なる検討が必要であると述べられました。その中で,「垂直的公平」の考え方を税制として実現していくことが求められることを,奥さんと受講者で共有していきました。
最後に,川口准教授から,受講者にどのように公民科授業を実施してほしいかについて,奥さんに問いかけがなされました。
税金は社会にとって不可欠ではあるが,様々な政策によって,使われ方も様々になっていくとお話しされます。その使われ方が正しいかどうかは終わってみないと分からない現状があります。この政策自体の見通しを立てていくことが重要になります。これらを前提として,奥さんは,生徒に租税政策を吟味・批判させることができる授業を作っていくことを受講者に望まれていました。
加えて,奥さんは,大学生の受講者は,将来の教員の卵でもあり,一人一人が社会に生きる市民でもあるため,それぞれが租税について深く考え,政治に参画していくことが重要であると述べられていました。私たち自身が一市民として生きていく自覚が求められています。
(文責:小野創太)
第11回では,中国税理士会広島北支部の野邑吉樹さんにご講義いただきました。今回は,主に野邑さんご自身が高校で行っている授業内容を基本として進んでいきました。形式として,通常高校でも行われているように,問いを投げかけ,その問いについて学生が答え,回答した学生が他の回答者を指名する形式で進められていきました。
例えば,最初に「税金を多く支払いたいですか?」という問いに対し,通常の高校生は,「できれば支払いたくない」と答えるとお話しされていました。野邑さんは,そのような回答に対し,税金を多く支払うか否かは,その国の文化が大きな影響を与えると述べられていました。例えば,高額所得者に応分の負担を求めるべきである,または社会保障を充実させるために税金を支払うべきであると考えられている場合は,それらに見合った税制が構築されることが望ましいということです。日本における租税文化はどのようなものなのかを見極め,その文化に無理なく根差した政策が施行される必要があります。
次に,給与明細に着目し,得た給与に対して,どのような種類の税金がかかってくるかを考えました。所得税だけでなく,健康保険や厚生年金など,様々なものがあります。「払うのは,仕方がない側面がある」との学生の意見に対しては,企業が負担する社会保険料の事例を提示し,企業も負担感を感じているとお話しされていました。累進課税は,税の公平性の観点が反映されていますが,それをただ厳格に採用して,高額納税者が果たして日本に住むという選択をするのかといった問題が生じてきます。野邑さんは,公平な税制とは何かについては,正しい答えがあるわけではないが,学生それぞれが考えていくことが求められると最後に述べられていました。
第8回から第11回にかけての税理士の先生方からの講義を終え,第12回では,「外部人材」を活用した公民科授業のあり方を構想しました。現在の学習指導要領では,社会に開かれた教育課程として,学校外の人材と連携した教育が求められています。税理士の方々と連携した租税教育の授業もその中の1つです。講義では,まず,学校外の組織や人材との連携について,何が良いと思ったのか,また,課題だと感じたのかについて整理しました。例えば,良い点について,「普段学校で得られることのない専門的な視点が獲得できる」・「学校で学ぶ教科書的な知識と社会的な意味や意義との乖離を埋め合わせることができる」・「普段会う機会が無い大人と出会い,自らのキャリアについて考えることができる」などが挙げられていました。
これらを踏まえ,多様な意義がある一方で,外部人材である教える大人とそれを学ぶ子どもといった関係性が固定化される危険性や学校文化やカリキュラムによって,連携する難しさが変わってくることなども挙げられていました。最後に,こうした課題を乗り越えながら,学校外の組織や人材との連携をどのように行うべきかについて,一連の研究(井上,2021;古野,2022)を参照しながら検討しました。
今回は,野邑さんご自身が学生との対話を通して講義を進めることの重要性を強調されていました。そのご姿勢を含めて,外部人材が一方的ではなく,協働的に関わることについて考えさせられました。
(文責:小野創太)
第13回では,まず,「『公民科授業』がなぜ必要か」という問いを考えることから始めました。例えば,オンライン動画サイトでは,公民科が扱うような現代社会に関するトピックに対して分かりやすく教えることを目的とした動画が数多くアップされています。なぜそれのみではよくないのでしょうか。受講者からは,「動画では,一方的に情報を伝えるため,受け手の考えが深まりにくい。授業では,生徒同士の話し合いや教師からの問いかけを通して深めることができる。」,「動画では,作成者の興味関心のある話題だけに焦点化してしまう。公民科では,公民的資質から,自分の意見を持つべきだと考えられる事柄を多面的・多角的に考えることができる。」「自分の考え方と似た人の意見ばかりではなく,多様な人の意見を聞くことができる。」といったコメントが出ており,公教育として公民科授業を行うことの意義を再確認することができました。その中で,教師が専門家として授業をデザインすることの重要性が指摘されました。
その上で,「どのように公民科授業をデザインするか」が次の課題となりました。まず,育成したい市民像を想定し,その視点からどのように授業目標・問い(MQ:メイン・クエスチョン)を設定できるかを考えました。例えば,「国民を育成する」という視点に立てば,ルールの意義を理解すること,「市民を育成する」という視点に立てば,ルール自体の妥当性を考えることを目標とし,問いを立てることができます。目標を立てることで,評価も可能になっていきます。
次に,用意した授業案(板書案と授業の流れ)において,「目標」・「評価基準」・「MQ」・「MA(メイン・アンサー)」がどの部分に該当するのかについて分析しました。さらに,「授業案の展開における,MQに回答するためのSQ(サブ・クエスチョン)とSQに答えるSA(サブ・アンサー)はどれなのかについて分析しよう」という学習課題から,授業案の構造がどのようになっているのかを分析しました。
第14回では,受講者の分析結果を,MQ-MA,SQ-SAの形で1つの表にまとめました。このことにより,授業目標をどのようなMQに答えることによって評価しようとしているのかが明らかになり,問いを構造化した授業案に書き変えることができました。これによって,授業を「デザインする」ことの意味を理解することができました。
次に,受講者が,自分自身の考える授業の目標,評価基準,MQ,MAを実際に設定する活動を行いました。多くの受講者にとって,初めての活動だったということもあり,行った分析に比べて,試行錯誤を重ねていました。他の学生と助け合いながら,回答を作っていたことが印象的でした。
受講者の回答には,川口准教授と小野でフィードバックを行いました。「目標とMQ・MAが関連している」「MAに到達するための見方・考え方が分かりやすい」「MAが具体的で,目標に到達するためのプロセスが想像できる」「50分の授業を想定した際,実現可能性が期待できる」といった点を今後意識すべきだいうことが共有されました。
今回は,講義での租税についての内容が,目標・MQ・MAづくりに非常に活きていたように感じます。最終回である第15回の講義では,第8回で講義された三好建弘さんがご来学されます。受講者がこれまでの学びの成果をうまく表現できる場になることを願います。
(文責:小野創太)
本日の第15回講義が,社会系(公民)教科指導法の最終講義となります。
第14回講義終了後に,受講者自らが,授業の「目標」・「評価規準」・「MQ(メイン・クエスチョン)」・「MA(メイン・アンサー)」を設定し,授業での学習の流れを作成する課題を設けました。
本日は,その課題に対する回答として優れていたものを紹介し,なぜそれらが優れていたのかについて,川口准教授から説明がなされました。主にMQを具体化すること,目標と評価規準,MQとMAを対応させる必要性について言及されました。
この川口准教授からのフィードバックの後,受講者は,「目標」・「評価規準」・「MQ」・「MA」を作成し直しました。指摘されたものに則って作成できているかについて,自分自身で評価を行うのに加えて,他の受講者からも評価してもらう形で,講義での活動が進んでいきました。この活動は各班に分かれて行われましたが,受講者それぞれの問題関心から,様々な評価がなされていました。
講義の最後では,中国税理士会福山支部の三好建弘さんから,受講者へのコメントをいただきました。三好さんは,「本講義での受講者の租税への知識,考えの深さを知り,感動しています。皆さんの知識や考えを踏まえて,税制を批判的に読み解く授業を実践してほしいです。絶対的に正しい制度はないのだから,他者からの批判に開かれていなければなりません。日本は民主主義国家であり,皆さんも制度を変える力があります。」とお話しされました。
これで,全ての講義が終了しました。受講者は,いかに公民科授業において,租税というテーマを扱うかについて考えてきました。全15回の講義の中で,ご参加いただいた税理士の方々が,授業づくりに向けて不可欠な内容をレクチャーしていただいたことで,非常に効果的に授業プランを作成することができていたと思います。今後も,長きに渡ってコラボレーションできることを心から願っています。
(文責:小野創太)
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