【2022.03.19】研究拠点創成フォーラムNo.35 授業研究を研究する(12)「韓国の授業研究・授業批評の研究者から学ぶ―Hyugkyu Lee(이혁규)先生―」を開催しました
Ⅰ.開催報告
広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、教師教育・授業研究ユニットの活動の一環として、2022年3月19日(土)に、第35回研究拠点創成フォーラム「授業研究を研究する(12)「韓国の授業研究・授業批評の研究者から学ぶ―Hyugkyu Lee(이혁규)先生―」」を開催しました。研究者、大学院生、学校教員を中心に24名の皆様にご参加いただきました。
「授業研究を軸に教師教育を改革する」シリーズは、日本の授業研究と世界のLesson Studyとの交差点を探りながら、授業研究に基づく教師教育について研究できる国際共同研究プラットフォームの構築を目指す企画です。その契機となるのが、 Kim, J., Yoshida, N., Iwata, S., Kawaguchi, H. (Eds.). (2021). Lesson Study-based Teacher Education: The Potential of the Japanese Approach in Global Settings. New York, NY: Routledgeの出版です。さらに、同書刊行に合わせてこれまで計7回のセミナーを、2020年度教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援を受けて開催してきました。2021年度も引き続き教育学部共同研究プロジェクト(研究代表者:金鍾成)の支援を得て、日本の授業研究と世界のLesson Studyとの相互作用の解明に取り組んでいます。
シリーズ第12回となる本セミナーでは、韓国の授業批評の成立とその展開に関して報告が行われました。
はじめに、川口広美先生(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。日本の授業研究を相対化し、洗練するための鏡として韓国の授業批評を用いることで、①日本の授業研究と韓国の授業批評が互いに学び合えるか、また②両者をつなぐ教育的ネットワークをどのように構築できるか、これらを考える本セミナーの目的が参加者全体で確認されました。
続いて、 Hyugkyu Lee(이혁규)先生 (清州教育大学、韓国)から「新しい研究方法と実践としての授業批評」と題して発表が行われました。まず、韓国で授業批評が誕生した理由についての説明がありました。韓国の授業奨学(教育庁による教員研修、もしくは教員評価)における要素還元的な文化、すなわち授業を細切れの要素(学習目標を提示したか、導入は子どもの興味を引いているかなど)に分け、各要素が達成されているかどうかをチェックリストで判断する文化のアンチテーゼとして、チェックリストに代表される授業の「科学性」と教師と子どもの出会いによって具現される授業の「芸術性」を両立させる授業批評が登場したと語られました。その後、授業批評は、「教師と子どもがともに構成していく授業現象を一つの分析テキストとし、授業活動の科学性と芸術性、授業参加者の意図と進行、教科と社会的脈略などを総合的に考慮しながら授業を記述し、分析、解釈、評価する批判的で創造的な創作」であると説明され、どのように授業を全体として見るか、また科学性と芸術性をいかに両立させるかなどの手続きも紹介されました。最後に授業批評の意義として、①授業を公開する文化的風土づくり、②授業において会話ができる風土づくり、➂授業を見る目の涵養、④授業実践を言語化する能力の向上、⑤優秀な授業事例の普及、などがあげられました。
以上の発表を受けて、金鍾成先生(広島大学)からは、教師教育と比較教育の観点からの質問がありました。まず教師教育の視点から、教師を「研究者」として見なしている他の教師教育論に比べて、授業批評論は教師をどのような存在として捉えているかについて質問しました。また比較教育の観点から、韓国の授業批評は授業研究の文化が広まっている日本にどのような意味を持つかという質問が提示されました。これらの質問に対して、 Hyugkyu Lee先生は、教員志望学生、現職教師、教育研究者の誰でも授業批評を行う存在になりえると説明。批評家としての教師は、授業を見る「鑑識眼」を持って授業を創造的に「解釈」することが求められる点で、それは「研究者」としての教師と重なる部分もあるが、力点が異なると答えました。また、日本の授業研究に対する韓国の授業批評の示唆として、より広い「実践共同体」を想定できること、すなわち、韓国の授業批評は、批評文を書く共同体、また批評文を読み合い、新たな議論が生み出される共同体の可能性を提案しているのではないかと答えました。
また、質疑応答では、「授業批評の主体を教育者に限定しないことで、教育に対する社会からの批判があるかもしれない」といった意見や、「芸術性を重視する授業批評を実践することで、韓国の教育現場はどのように変わったか」といった質問が出されました。これに対して授業批評を社会に広げることは積極的には意図されていないものの、批評文を読んだ市民団体から「批評された授業」の良さに関するコメントが寄せられた事例が紹介されました。また、韓国における授業批評の全般的なインパクトは、一般化はできないものの、 Hyugkyu Lee先生と授業批評の研究者らの成果から、教師の自己効能感の向上、自分では気づかなかった見方への驚きとその楽しさなどが報告されていると説明されました。
今回のセミナーを踏まえ、EVRIは以下のような政策提言を構想しています。
①教師と教師の授業を評価する授業研究ではなく、授業の意味を発掘する、また授業の監視機関を互いに高め合える授業研究の在り方を模索する必要があります。
②教育に関わる多様なステークホルダーが、授業について批評し合うネットワークづくり(雑誌、単行本、授業研究・授業批評大会など)を構築し、授業研究・授業批評の実践共同体を構築する必要があります。
今後もEVRIでは,教師教育・授業研究ユニットを中心に,授業研究を軸に教師教育を変革するための方略を検討してまいります。是非,EVRIのセミナーシリーズに幅広いご関心をお寄せいただき,今後とも研究・実践をご一緒させていただければ幸いです。
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