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【2019.6.4】第20回定例セミナー「アイスランドの教師教育とセルフスタディ」を開催しました

公開日:2019年06月20日 カテゴリー:開催報告

[第20回定例セミナー:集合写真]

 

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、教育の専門家ユニットの教育学研究者クラスタと教師教育者クラスタに関連し、2019年6月4日(火)にアイスランド大学のHafdís Guðjónsdóttir教授と西田めぐみ先生(博士課程後期院生)、Edda Óskarsdóttir先生(European Agency for Special Needs and Inclusive Education・研究員)をお招きし、第20回定例セミナー「アイスランドの教師教育とセルフスタディ」を開催しました。

まず、草原先生による挨拶と先生方の紹介から始まり、本セミナーに向けて『J-ロックランに学ぶ教師教育とセルフスタディ』の読書会を開催し、セルフスタディについての理解を深めてきたことについても説明されました。そして、各先生より自己紹介があり、ビデオ参加となったハフディス先生については西田先生よりご紹介いただきました。

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ハフディス先生はもともと小学校の教員として,30年間算数教育に携わられていた。その後米国オレゴン大学で博士号取得。もともとアクションリサーチをされていた。AERA(アメリカ教育学会)の一部門であるS-STEP(セルフスタディ研究・実践を行うグループ)の元代表で,セルフスタディ研究の第一人者です。
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そして、3名によるご講演が始まりました。

 

講演: Hafdís Guðjónsdóttir教授(ビデオプレゼンテーション)

「教育実践のセルフスタディの方法論を通した私の教育実践の展開と転換」
ーDeveloping and Transforming my Teacher Education Practice through the Methodology of Self-Study of Educational Practiceー


ハフディス先生には、教師教育者として成長するためにどのようにセルフスタディの方法論を使ったか、ご自身の経験を交えてお話いただきました。もともと自己の実践について常にリフレクションをされていたというハフディス先生。27年もの間、アイスランドの小学校教員として勤められていた時は、アクションリサーチを通してご自身の実践を分析されていたそうです。そして、大学教員となった時に、自身の実践の開発や改善に役立つ方法論としてのセルフスタディに取り組み始めたそうです。

セルフスタディを通してご自身の実践が大きく変化したという経験を踏まえ、セルフスタディを実践する際に大切なことについてご説明いただきました。
①セルフスタディは方法論であり、手法ではないということーセルフスタディは知識を得るための手段ではなく,研究者が理解を深めるために取るスタンスだということ
②研究方法論としてのセルフスタディは、実践者が自らの実践を批判的に見つめるための枠組みであることを理解すること
③クリティカルフレンドを見つけること
④自分の実践の中での理論を示すことーこれは『walk the talk』と呼ばれ、単に教えることや学ぶことに関する理論を説明する教師教育者ではなく、対話することで自分自身の教えることに関する実践自体も発展すること

そして、「セルフスタディの実践者たちは、対話を通じて教育の世界で自分の立ち位置を見つけ,自分の実践について理解を深め、新しい知識を生み出す。自分たちの実践経験について議論を重ねることで、この方法論を高度な研究レベルにまで引き上げることができ、新しい学びから自分たちの実践知を発展させていくことができる」と述べられました。

質疑応答では、エッダ先生と西田先生に可能な範囲でお答えいただきました。主に、セルフスタディ実践・研究の課題やアクションリサーチからセルフスタディへ移行した理由、セルフスタディに関する言葉の訳し方について質問がありました。

講演: Edda Óskarsdóttir先生

「インクルーシブ実践に向けて:セルフスタディ」
ーToward Inclusive Practice:a self-studyー


続いて、義務教育段階での特別支援教育の教員として働かれていたエッダ先生より、セルフスタディを始めた経緯とその成果についてお話しいただきました。

エッダ先生は、特別支援教育の教員として働いて15年が経った時、自己の実践が十分にインクルーシブなものだと思い込んでいる事に気づき、もっと平等で公正な支援が必要だと感じられたそうです。そこで、「学校をもっとインクルーシブな環境にするために、学校の何を、どのようなプロセスで変革していかなければいけないのか」、そして、「子どもたちがインクルーシブな環境で学びを深めていくことをどうすればさらに支援できるか」ということについて示唆を得るために,セルフスタディを始められたそうです。
そして、文献研究や同僚や教員へのインタビューを通して自己の実践を振り返る(第1ステップ)、それを生かして支援システムを変える(第2ステップ)、最後に自己の実践についてクリティカルフレンドと振り返る(第3ステップ)、という3段階の分けたリサーチを行い、自分なりのインクルーシブ教育のモデルを作成されたそうです。

最後に、セルフスタディを通したご自身の変化についてご説明いただきました。特に、インクルーシブ教育や社会への影響について理解が深まったこと、自分の考えや行動を考え直すきっかけとなったことを成果として挙げられていました。

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(エッダ先生:セルフスタディ実践をした感想)私自身は研究を始める段階で十分インクルーシブだと思っていたが、自分のデータを見ている時に、自分はそんなにインクルーシブではなかったことに気づいた。なので私のデータを見ることで、自分は医療的な障害に目を向けていることに気づいた。自分自身はインクルーシブな実践をしていたと信じていたので、受け止めることは大変だった。この研究を通じて自分の特別支援コーディネーターとしての立場を見つめ直すこととなった。どのように実践するかにも気を遣うようになったし、そこで自分の信念と実践との差にも気づいた。とても自身を成長させてくれる研究だった。
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質疑応答では、エッダ先生が行われたセルフスタディ実践における具体的な研究方法についての質問がありました。

講演: 西田めぐみ先生

「アイスランドのヒャットラステナプラン幼稚園でのセルフスタディ:逆説から育まれるインクルージョンと移民教師の挑戦」
ーChallenging the Paradox: My Self-Study as an Immigrant Educator at Hjallastefnan in Icelandー


最後に、アイスランドの幼稚園に勤務されている西田先生よりご自身のセルフスタディ実践についてご説明いただきました。

色々な出来事を経て、アイスランドの幼稚園で働くこととなった西田先生。そこは、男女で完全に分けて全く別の教育を行うことで、逆説的にインクルーシブにたどり着くことを目指すという発想の教育を行っている幼稚園であり、その教育方針には非常に驚かれたそうです。その幼稚園で、ある大雪の日に子どもたちをうまくコントロールできないという経験をし、ハフディス先生に相談したところ「それなら、セルフスタディを始めないとね」と言われたことがきっかけで、セルフスタディを始められたそうです。
西田先生は、その日から『ふりかえり日記(Reflective teaching journal)』を書き、自分の置かれた状況の中で、今の自分ができることを探してもがき、できる限りの選択肢を実行していかれたそうです。そして、信頼できる仲間(クリティカルフレンド)と話すことで、「Hybrid Educator」という新しいアイデンティティを見出すことができたそうです。これは、アイスランドの教育を理解し実践しつつ、自分自身の日本人らしさを強みにするということであり、自分のできることなのだと気づいたそうです。

そして、西田先生が理解するセルフスタディという方法論についてご説明いただきました。
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自分のことを棚から下ろし(対象化し)、失敗のみならず経験にも目を向け、信頼できる仲間とともに、教師として人間としての自らの学びに気づき、謙虚な自信を持って成長し続けていくための研究方法論である…と理解している。実践と実践のリフレクションが、また新たな知識を生み出していく。そのようなダイナミズムを持った研究。
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最後に、セルフスタディを通して西田先生ご自身がハイブリッドな立場から気づいたこととして、「男女別がインクルージョンである」という教育のあり方を,自分なりの視点で(まだはっきりつかめていないところもあるが)追求できるようになったこと、そして、新しいアイデンティティを自覚し,自信を持つことができたこと、新しい仲間たちと出会うことができたを挙げられました。

質疑応答では、セルフスタディ実践をする際の倫理的配慮やクリティカルフレンドの見つけ方、『ふりかえり日記』の書き方などについて質問がありました。

 

最後に、草原先生より本セミナーのまとめのご挨拶がありました。
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「自己の実践について客観的に分析するためには、なにか日誌やジャーナルを書く。それを信頼できる友人とパブリッシュしていく。それがセルフスタディの方法だということ。西田先生が言うように,今からすぐ始めることができるし,それがセルフスタディを理解する一番の方法。ぜひ皆さんでセルフスタディをはじめてほしい。」
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読書会に続き、本セミナーでは実際にセルフスタディ実践を行なっている先生方から直接お話しを聞くことができ、より深く、より具体的にセルフスタディについて理解することができたのではないでしょうか。本セミナーが、皆様にとってセルフスタディを始めるきっかけとなることを期待します。


今後ともEVRIは、関連するユニット・クラスタの発展に取り組んで行きます。

*詳細はレターをご覧ください。
【EVRIレターNo.53】

EVRI Letter no.53.pptx(mac)のサムネイル


教育学研究科HPにも掲載されています。


*第20回定例セミナーの告知ポスターはコチラです。

20190604のサムネイル
告知HP:http://evri.hiroshima-u.ac.jp/4671

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