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第15回定例セミナー「ポートフォリオ評価を軸にした教員の養成と教師教育者の養成ー京都大学・石井英真准教授と語るこれからの教師教育ー」を開催しました

公開日:2019年02月07日 カテゴリー:開催報告

[定例セミナーNo.15 集合写真]

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、「カリキュラム研究ユニット・教師教育クラスタ」に関連して、2019年1月28日(月)に第15回定例セミナー「ポートフォリオ評価を軸にした教員の養成と教師教育者の養成ー京都大学・石井英真准教授と語るこれからの教師教育ー」を開催しました。

本セミナーでは、京都大学の石井英真先生をお招きし、ポートフォリオ評価を軸にこれからの教師教育をいかに展望することができるのか、様々な立場から教師教育に関わる参加者のみなさんとともに議論しました。

 

講演「ポートフォリオ評価を軸にした教員の養成と教師教育者の養成ー京都大学・石井英真准教授と語るこれからの教師教育ー」

主催
・広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」
共催
・2018年度科学研究費補助金(挑戦的研究(萌芽))「総合大学における汎用ポートフォリオ評価システムの開発による教職カリキュラムの改善」(研究代表者:間瀬茂夫)
>2018年度科学研究費補助金(基盤研究(B))「グローバルに教職高度化を促進する教師教育者養成研修モデルの開発」(研究代表者:丸山恭司)


>まず、本セミナーは吉田先生と間瀬先生による趣旨説明と広島大学の教員養成カリキュラムに関する説明から始まりました。

吉田先生より、このセミナーに至るまでの経緯の説明がありました。
このセミナーを開催するに至る経緯は,吉田先生をはじめ広大の教員が「教職実践演習の評価をどのように行うか」「教職課程を担当する教師教育者の養成をどのように行えばよいか」を考える際に,石井先生が関わった『教職実践演習ワークブック』http://www.minervashobo.co.jp/book/b109941.html に出会ったとことによるとのこと。それから何度も京都大学を訪問するなかで,本日のセミナーの構想に至ったそうです。
続いて,間瀬先生による広島大学の教員免許ポートフォリオ・システムの作成・運用についての説明がありました。
広島大学では、教職実践演習の評価にあたって、8つの規準からなる「広大スタンダード」を設定しています(https://home.hiroshima-u.ac.jp/eport/?page_id=40)。このスタンダードにもとづいて、各授業の成果物をウェブ上に逐次アップロードしていき、教職実践演習では「学びの履歴」として活用する。また、ポートフォリオをもとに教員がスタンダードに沿って学生の到達度を評価することで、学び足りないものについての補充・再検討を促します。さらに、卒業時にはこのポートフォリオにアップロードされた膨大なデータの中から、自分が最も評価してほしいと思う評価材を選択した「抽出ポートフォリオ」を作成し、提出してもらうというシステムになっています。このような取り組みを通して、広大が目指す教員養成の目標を達成できるように努力しているそうです。

 

>本日のメイン,石井先生による一連の見学・協議をふまえてのお話です。石井先生はこの多忙を極めるプログラムの中のわずかな時間を使って,本日の総括に当たるコメントを含むスライドを何枚も作成してくださっていました。なんと、当初予定していたスライドではなく,当日作成したスライドを中心に語ってくださいました。以下に、石井先生のお話の概要を写真とともにお伝えいたします。

広島大学の教員養成カリキュラムについて
本日見学・議論した広大の取り組みは,全て「観の自己形成」をゴールとする教員養成カリキュラムになっていた。教員養成において「観」の形成を支援することで合意が出来ている点は評価できる。ただ,重要なのはその先。単にスタンダードの項目を達成・評価しているだけではなく,その先にある教師として必要な能力のヴィジョンを示すこと。ただ大学の設定したスタンダードに従ってそれに到達したかを評価する「スタンプラリー」に陥るのではなく,教師としての実力を形成するためのカリキュラムの体系化や教員養成の規準(資質・能力)の重みづけをしていくこと。ポートフォリオは作って終わりではなく,省察のためのもの,経験を振り返るもの。学びの物語を再構成すること。このようにとらえることが、教師の実践記録の文化を再評価することにもつながるのではないか。
「教師の実践記録の文化を再評価する」という趣旨につい
私は教師の実践記録こそ、日本が世界に誇る教師文化だと考えている。教師の実践記録とは、ただの事実の記録ではなく、その教師にとっての教育実践上の重要な場面や気付きを、後日振り返って再構成して記述したナラティブな「読み物」。実践記録を残し、書くために振り返り、他者に開示して共有・議論し、そしてまた実践記録を更新していく行為が、教師の「観」の形成や実践現場からの理論構築を促してきた。かつての教育関係書籍のコーナーには、このような教師の実践記録をふまえた優れた授業理論・教育理論が、現場教師から提案された書籍が数多く並んでいた
教員養成時代のポートフォリオというのは、学生をこのような教師の実践記録へと接続するためのツールとして位置づけられるべきではないか。
広島大学の教職課程担当教員養成プログラム(通称:教職P)の取り組みについて
(教職Pの取り組みの詳細については、https://home.hiroshima-u.ac.jp/kyo2/Ed.Dprogram/ をご覧ください。)
大学院生が自身の教育学研究と並行する形で,授業力を育成することで大学教員の力量を高める,有志で共同研究をまとめて学会で発表する,ということを要求する教職Pのカリキュラムは,教師教育者として,大学教員として必要な出口が想定されていて,優れた養成システムだと思う。その一方で考えなければいけないのは,このカリキュラムの前提となっている「教職課程の担当者である=教師教育者である」という理解がそれでよいのかということ。大学の教職課程を担当したら教師教育者になれるというのは,単純すぎはしないだろうか。私は研究者キャリアの教師教育者が目指すべき方向性は「実践的研究者」であると考えている。研究するとはどういうことなのか。研究は現場を「くぐる」ことで何を現場に還元できるのかを改めて考える必要がある。大学の教師教育者は,単に教職課程で授業をするというだけでなく,研究対象である初等中等教育の実践を研究し,そこから学ぶという姿勢が必要。自身の研究を現場との実践の関係で問い直す姿勢。教育学の概念を「現実を読み解く眼鏡」としてとらえ直していく取り組みが,(理論と実践の「融合」ではなく)理論と実践を「往還」する教師教育者の育成につながる。

 

広島大学の取り組みとそれに対する石井先生のご講話に対する個々の意見を集約するために、グループディスカッションが行われました。その後、参加者から鋭い質問や意見が投げかけられました。

 

会場からあがった質問や意見に対し、石井先生、間瀬先生、草原先生、丸山先生から回答がありました。その内容には、システム的なことに加え、先生方の想いも込められていました。

教師教育はもちろん、教師教育者教育に対する注目が集まっている今、様々な立場から教師教育に関わっている参加者の方々とこのトピックに関する議論ができたこのセミナーが、様々な場所における教師教育および教師教育者教育の発展につながることを期待しています。


[EVRIレターNo.42] *クリックするとPDFが開きます

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