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セルフスタディセミナーシリーズの成果の一部が国際学術誌に掲載されました

公開日:2022年11月26日 カテゴリー:お知らせ

 

このたび,EVRIの大坂遊教育研究推進員らが執筆した学術論文が,国際学術雑誌である『Studying Teacher Education』誌に掲載されました。論文の掲載情報は下記のとおりです。

この論文は,大坂と旭川大学の齋藤眞宏教授,広島大学の渡邉巧准教授の3名が取り組んだセルフスタディ研究プロジェクトの成果を形にしたものです。論文で扱われているセルフスタディの取り組みは,2020年度から2021年度にかけてEVRIで行われたオンラインセミナーシリーズ「教師教育者のためのセルフスタディー研究の歴史・思想から実際までー」の第1回で発表された内容がベースとなっています。

セミナーの開催報告はこちら

 

以下では,論文の概要や掲載に至るまでの道のりについて,3名から寄せられたメッセージを紹介します。

EVRIは今後も,日本における教師や教師教育者のセルフスタディ研究の拠点として,セルフスタディコミュニティの構築に貢献してまいります。


論文の概要

2019年から続けてきたセルフスタディを通して,私たち(齋藤,大坂,渡邉)は自身の直面する教師教育上の課題や葛藤を開示・省察しあってきました。その中で,「私たち高等教育機関の教師教育者は,『主体的であれ』などと言って,教師志望学生たちに無意識的に主体性を発揮することを押し付けてはいないか?それは自己矛盾してしまっているのではないか?」「そもそも,日本の教育実践・研究の領域で用いられてきた『主体性』『主体的』という用語や用法を,日本の教師教育者はいかに認識し,内在化しているのだろうか?」といった研究上の問いが生まれました。

本研究は,セルフスタディの手法を通してこれらの問いを探究したものです。私たちは,2週間ごとにオンラインで自分たちの実践について議論し,会話記録を含む様々なデータを収集・分析しました。その結果,このセルフスタディ研究を通して,私たち教師教育者は,(1)自分たちの教育経験に基づいて「主体性」の意味を定義していたこと,(2)それが自分たちの教育経験に基づいていることを意識せずに,自分なりの「主体性」を学生に提案していたこと,の2点を発見しました。

セルフスタディを通して,私たち教師教育者は,自身が無意識に内面化している主体性を学生に押し付けていないか,自問自答する必要性が確認されました。本研究の最後には,教師が主体的にプロフェッショナリズムを発揮できるよう支援するために,「学生が主体性を発揮できる学習環境を整え,過度の介入をせずに観察すること」といった教師教育者が取るべき4つの具体的行動を提言しています。

 

掲載に至るまで

3名は,これまでセルフスタディを英語の学術論文として執筆した経験がなかったため,執筆と査読のプロセスは手探りで進められました。セルフスタディ研究の論文には明確な「型」が存在しないため,『Studying Teacher Education』誌に掲載されている論文をはじめ,多くの論文を参照しながら,研究関心が近い論文の構成を参照しつつ執筆する作業が進められました。

教育学研究の領域において,セルフスタディという研究方法論への理解が十分に進んでいないことも,論文投稿の壁になりました。3名は『Studying Teacher Education』誌に掲載されるまでに,別の高等教育研究に関する論文誌への投稿にもチャレンジしましたが,方法論の不備などを指摘され掲載には至りませんでした。セルフスタディの論文を掲載してもらうにはセルフスタディの国際ジャーナルに投稿するしかないと考え,『Studying Teacher Education』誌にチャレンジしなおしたことが,結果的に成果につながりました。

日本の教員養成・教師教育に固有の文脈をどのように説明するのかという点でも苦労しました。査読のプロセスでは,論文の主要なテーマである「主体性」とはどのような概念なのか,繰り返し問われました。修正作業では,私たち自身の「主体性」についての理解を言語化するだけでなく,古くからある種のジャーゴンとして用いられてきたこの言葉が時代や文脈によってどのように意味を付与されてきたのかを整理する必要に迫られました。結果的に,日本の教員養成・教師教育の学術・実践の文脈と国際的な文脈を架橋する説明ができ,論文の水準を高めることができたと考えています。

 

EVRIやセルフスタディセミナーの存在

セルフスタディセミナーシリーズは,当時EVRIセンター長であった草原教授の後押しがあって実現したものです。3名のセルフスタディを3名で完結させずに,(セルフスタディの本来の目的である)教師教育コミュニティの発展につなげることの重要性を主張され,セミナーのシリーズ化を提案し,企画に協力して頂きました。結果的に,5回にわたるセミナーを通してセルフスタディ実践の蓄積が集まり,教師教育者の専門性やセルフスタディの研究方法論についての理解が深まりました。継続的にセミナーに参加してくださった方の中には,ご自身でセルフスタディを実践されるようになった方も現れるなど,着実にセルフスタディコミュニティの拡がりを感じています。

現在私たちは,教師教育者がセルフスタディを実践する方略について論じる書籍の刊行に向けた準備を進めています。そこには,今回掲載された論文の内容の他にも,セルフスタディセミナーシリーズで登壇・参加していただいた方々の実践事例も多く掲載される予定です。今後もEVRIでセルフスタディのセミナーを開催する機会があることを願っています。

なお,2022年12月3日(土)と4日(日)に香川大学で開催されている中国四国教育学会第74回大会にて,本研究の成果をふまえたセルフスタディに関するラウンドテーブルが開催されます。日時は2022年12月4日(日)13:30~15:30です。オンラインでの参加はできませんが,非会員の方も参加可能ですので,もし足を運ぶことができる方がおられましたら,どうぞお気軽にお立ち寄りください。

詳細は,下記の学会HPをご確認ください。

https://cssse.hiroshima-u.ac.jp/html/meeting.html

(文責:大坂遊)

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