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2019年2月4日更新
本ページでは、呉地域オープンカレッジネットワーク会議より広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が受託した取組を紹介します。
「呉地域オープンカレッジネットワーク会議」は、呉地域の各高等教育機関が有する人材・情報・学生等のソフト資源及び土地・設備・施設などのハード資源を有効に活用し、地域との交流連携を通じて学術文化の振興・向上を図るとともに呉地域を一体化するまちづくりを進める事を目的として、設置された団体です。広島大学を含む、呉地域にゆかりのある大学・高等専門学校・大学校・行政機関など10の団体・機関が加盟しており、毎年度この会議の趣旨にかなうプロジェクトに助成する「地域活性化研究助成事業」を募集しています。
学習空間ユニット・知識創生クラスタのリーダーである影山和也准教授を代表とする数学教育専攻の学生・大学院生は、この会議が主催する平成29年度地域活性化研究助成事業に「「橋」をテーマとした呉地域版<おもしろ数学カレンダー>の作成」という企画を応募し、採用して頂きました。このページでは、採用されたプロジェクトの概要と成果を紹介するとともに、基盤となっている国際的な数学プロジェクトである「Math Bridge Project」の取り組みについても紹介します。
みなさんは「呉」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。大和ミュージアムや入船山記念館など、呉地域には近代日本の歴史を感じることのできる数多くの史跡や建築物、そしてミュージアムがありますが、「橋」をテーマに呉地域を歩いたことがある人は少ないのではないでしょうか。
呉の市街地は急峻な山と複数の河川、そして波の穏やかな入江に囲まれた土地にあり、古くから天然の良港として発展してきました。また、現在の呉市域は倉橋島や下蒲刈島・上蒲刈島などの瀬戸内海の島を含んでおり、その雄大な多島美を見るために年間を通じて数多くの観光客やサイクリストたちが訪れる自然豊かな地域でもあります。
そして呉地域には、これらの地域や島々をつなぐ数多くの橋がかけられています。安芸灘に架かる7つの橋やアーチが美しい音戸大橋などの壮大な橋はもちろん、市街地にも左右対称で規則正しい造形の二河橋など、地形や景観にあわせた特徴的で魅力的な橋のある風景を楽しむことができます。
地域の活性化にはさまざまな手段がありますが、私たち「おもしろ数学カレンダー」作成プロジェクトチームは、地域の景観の一部であり、また人や物の流通を支える橋に着目しました。また、住民の方々が日常的に触れることのできるカレンダーという媒体を通して、地域のことを新たな視点で知ることもまた地域活性化に貢献できると考えました。
このプロジェクトには、代表である影山准教授を含めて、数学教育専攻の学生・大学院生合計10名で取り組みました。
「呉地域にとって文化遺産として重要と思われるもの」「造形が特徴的であると思われるもの」「周囲の道との関わりが興味深いもの」といった視点を設定しながら、実際に呉地域を散策しながらメンバーによって橋を選定していきました。その後、これらの橋のデザインの背景にはどのような算数・数学のエッセンスが含まれていそうだろうか…と問いながら、問題づくりとその解説、そしてカレンダーのデザインを進めていきました。
私たちが構想したカレンダーには、単なる橋の資料集という意味合いだけではなく、学校で身に付けるような算数・数学の目で橋の造形や機能を捉えようとするという特徴を持たせています。<橋+数学+カレンダー>という組合せは他には見られない斬新なデザインであり、このような構成によって、呉地域に対する児童・生徒の理解も促すことができると考えました。
こうして完成したのが「呉地域の算数・数学橋」カレンダーです。
カレンダーは月めくり方式となっており、橋の画像付きのカレンダー部分(③)と数学問題の部分(④)とがひと月分としてセットになっています。カレンダーを上下に見開くと橋の画像と数学問題とが上下にならぶ形になり、魅力的な橋の風景と橋にまつわる数学問題とを同時に楽しむことができます。
事業の目的上、それぞれの橋ができるまでの歴史的経緯や文化的価値に触れることはしませんでしたが、従来の観光用の資料集や文化資産伝承のための文書とはまた異なった趣をもつ仕上がりになったと思います。
一例として、5月の事例として取り上げている「真光寺橋」をご紹介しましょう(③)。真光寺橋は呉地域にある100メートルをこえる木造橋として、昔から地元の方々に親しまれている橋です。観光地として注目されている橋ではありませんが、強度を上げるための構造的な理由から側面に等間隔に配置されたいくつもの三角形は、訪れた人の印象に残ることでしょう。
私たちはこの橋の三角形を題材にして「数」を視点にして問題づくりを行いました(④)。限られた情報から推論して対象の個数を導くことは、算数・数学では頻繁に行われている学習活動です。この問題では、三角形に2色と5色の色づけをして、橋の側面に埋め込まれている「繰り返しパターン」を視覚的に浮かび上がらせ、あわせて「公倍数」の概念を利用して三角形の個数を導くことを求めています。他にも「形」や「つながり」を視点にして、橋の位置や形状、とびしま海道のような諸島のつながりに意識を向けさせる問題づくりを進めていき、最終的に画像や図、文字、グラフなどからなる算数・数学カレンダーができあがりました。
※大変不幸なことに、2018年7月に呉地域を襲った豪雨災害によって、この真光寺橋は橋脚ごと流されてしまいました。この豪雨災害では真光寺橋だけでなく、多くの建築物が被害を受け、尊い人命が失われました。被災した皆様にお見舞い申し上げるとともに、呉地域の一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。
最終的に、このカレンダーを本事業の成果物として、呉地域に住まう方々にお届けし、活用して頂きたいと考えています。
具体的な送付先と活用例として、(1)呉地域のすべての公立小学校・中学校への送付、(2)呉市役所内にある観光振興関連の課内設置、(3)呉地域にある観光関連の施設への設置を考えています。
カレンダーの末尾には、実際の反響を知るために、編集後記とともに代表の影山准教授の連絡先(メールアドレス)を記載しています。具体的な効果の検証はこの成果物への感想や評価を待つことになりますが、特に児童・生徒が日々の学校生活のなかで、このカレンダーを積極的に活用して頂き、橋と算数・数学を視点として呉地域を捉えてほしいと考えています。
もちろん、呉地域に限らず、幅広い地域の方々に様々な用途で積極的に活用して頂きたいと考えています。カレンダーの内容は、以下のページから閲覧することができますし、こちらからダウンロードして頂くこともできます。
[pdf-embedder url=”http://evri.hiroshima-u.ac.jp/wp-content/uploads/2019/03/c53c5a041d191a8e88ba60a81a11337a.pdf” title=”呉地域おもしろ数学カレンダー完成版”]紙媒体での提供を希望される方は、スライド内にある連絡先か、このページの下部にある教育ヴィジョン研究センターの連絡先までお問い合わせください。
プロジェクトの成果がどのように発信され、また社会的に取り上げられているかを紹介していきます(随時更新)。
2018年4月27日(金)の中国新聞朝刊(26ページ)で本プロジェクトが照会されました。「中国新聞PLUS日経テレコン21」会員の方はログインして内容をご確認頂くことができます。また、広島大学の図書館のPCもしくは学内サーバーから広島大学図書館のデータベースページを経由して「中国新聞PLUS日経テレコン21」にアクセスすることで、どなたでも無料で記事を閲覧することができます。
プロジェクト代表者の影山は、ドイツ・ミュンスター大学が各国の数学教育関係者たちに呼びかけて実現した国際共同プロジェクトである、地域の橋と関連する数学問題とを集めてカレンダーの形で出版するという”Mathbridge Calendar”プロジェクトに協力しています。
この活動の一環として、影山准教授は2018年6月にサマーキャンプに参加し、開発した呉地域のカレンダーを発表しました。詳細は、下記の活動報告書をご覧ください(画像をクリックするとPDFが開きます)。
この度、ついにドイツのミュンスター大学が世界12カ国の大学に呼びかけて作成した、「橋」と「数学」がテーマのカレンダー(Mathbridges Calendar)が完成しました。このカレンダーは、プロジェクトメンバーの「世界の有名な橋とそれにちなんだ数学の問題をきっかけに、もっと皆さんに数学に興味を持ってもらいたい」という思いから生まれたもので、影山准教授もプロジェクトのメンバーとして協力しています。
カレンダーをめくると、ハーバー・ブリッジ(オーストラリア)、世界遺産であるパドレ・テンブレケ水道橋(メキシコ)など、さまざまな形や時代に造られた橋が登場。各ページにはその橋の構造や歴史など、さまざまなテーマによる数学の問題が出題されています。問題が解けなかったとしても、見ているだけで世界の橋巡りが楽しめるカレンダーとなっています。
そして、このカレンダーの一部として、今回開発した呉地域のカレンダープロジェクトの一部が採用されました。私たちのグループの成果として、7月に音戸大橋が取り上げられています。
こちらのページから活動の詳細をご覧頂けます。また、カレンダー全体のPDFデータもダウンロードすることができます。
活動をまとめたポスターです
私たちEVRIは、EVRIの掲げるミッションとヴィジョンを達成するために、共同事業、共同研究、受託研究および講演等をお引き受けいたします。
ご依頼やご質問は、EVRIの運営支援チームに遠慮なくお問い合わせください。連絡先は次のとおりです。
e-mail :evri-info@hiroshima-u.ac.jp
Tel & Fax: 082-424-5265
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